pmjs 日本語版 15(2003.04.19)


* 時代小説

*訃報 ルネ・シーフェール Rene Sieffert (1923-2004)

*Epiphanius Wilson?

*くずし字ワークショップ(シカゴ大学)

*新会員紹介 (1)(2)

*若紫と光源氏 →源氏物語と歴史→虚構と歴史 →ポルノ源氏物語と解釈[など]

*シンポジウム「日本宗教史に於ける密教と密教的文化」

*能ワークショップ 2004

*日本語教師募集(ケンブリッジ大学)

*英日翻訳者募集

*AJLS 論文募集(「想像された風景・回顧された風景」)

*日中歴史、美術史シンポジウム(シカゴ大学)

*貴族日記データ・ベース

*古今集・新古今集の年について

もしオフリストで質問者に直接ご返事頂けるときは、それぞれのメールア ド レスに直接返信して 下さい。その他の返事ならびに質問などはwat...@...eijigakuin.ac.jpに送って下さ い。英訳します。

また日本語版ダイジェストの会員の皆様が、pmjsで紹介したい御著書、御論文などがございます時は遠慮無くワトソンまで詳細(タイトル、出版社、出版年、雑誌名など)をお知らせ下さい。編集の方でも時折自主的にpmjs footer (編集ノートのようなもの、普通英語版のメールの下に付いています)で紹介することもあります。footer(フッター)は日本語版でもそのうち始めようと思います。

メールの総数: 39通
期間:2004年3月2日 - 4月19日
リンクなどは最後にあります。



From: Michelle Li <.......@...nford.edu>

Subject: 時代小説

Date: 2004年3月2日 329:32:GMT-05:00

"The Snow Fox"という日本を題材にした小説があります。小野小町に刺激された(時代設定はずっと後らしいですがー戦国時代?)という書評を読んだ記憶があります。こういう小説の種もとは何なのか興味がありますし、こういった小説に注目が集まるのは、ちょっと羨ましいです。

Michelle Li

[編集注:小説"はSusan Fromberg Schaeffer著『The Snow Fox』です。]
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Subject: 訃報 ルネ・シーフェール Rene Sieffert (1923-2004)
From: Michael Watson <........@...eijigakuin.ac.jp
Date: 2004年3月3日 050:49:JST

Joly教授からルネ・シーフェール氏の死についてお報らせを頂いてから、フランスの新聞など気を付けて見るようにしておりました。2月26日付ルモンド紙に INALCOのフランソア・マセ(Francois Mace)氏が詳しいシーフェール氏の業績などを寄せています。
http://www.lemonde.fr/web/recherche_articleweb/1,13-0,36-354379,0.html

Michael Watson
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Subject: 時代小説
From: Rose Bundy <.......@...o.edu>
Date: 2004年3月3日 23:49:48:JST

「小町的な」女性を扱った小説に関するメールを削除してしまったのですが、偶然にもシカゴ大学の校友会誌でそれに関して書かれたものを見つけました。一人の武士と二人の女性という三角関係の話のようです。何を意味しているのかはどうであれ、追放された地で狐を飼い、それぞれの名前を狐に付けて、呼び合うという話です。著者は(覚えている限りでは)シカゴ大学の英語の客員教授だったと思います。

多分嫉妬心もあると思うのですが、学生が「メモワール オブ ゲイシャ」(邦訳『さゆり』アーサー・ゴールデン著  文藝春秋社1999)を読んで、多くを学んだと言ってきたり書いたりすると、うんざりさせれらます。

Rose Bundy
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Subject: Epiphanius Wilson?
From: Denise O'Brien <.....i...@...ple.edu>
Date: 2004年3月4日 034:25:JST

どなたかEpiphanius Wilsonについてご存じの方はいらっしゃいますでしょうか。この流麗な名前は昔の教父のそれから来ています。生没は1845-1916で、1900年ごろ、トルコ、ペルシャ、エジプト、アラブそして中国という広い範囲に及ぶ、東洋文学の注釈ないしは集成のようなものを出版しています。末松謙澄訳の『源氏物語』も日本文学(ニューヨーク1900年、ロンドン1902年)の中に加えられていますが、まだ見ていません。Wilsonの幅の広い趣味はフランスにまで及び、バルザックやフランスの大聖堂に関するものを出版しています。東洋に関するものは過去30年間、近いものでは2003年のもありますが、いくつか復刻出版されています。英語圏の読者にとっての日本文学の受容に、Wilsonの影響があったのかどうかを、探求してみたいと思っているところです。

Regards, Denise O'Brien

Denise O'Brien, Ph.D.
Department of Anthropology
Temple University
Philadelphia, PA 19122, USA
E-Mail: obri...@...ple.edu
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Subject: 歴史小説
From: David Pollack <.....l...@...l.rochester.edu>
Date: 2004年3月4日 332:58:JST

年配の会員の方はジェームズ・クラベル著『ショーグン」が大ベストセラーとなり、映画化もされたのを覚えていらっしゃることでしょう。(個人的にはトラナガ役の三船のあの絶妙な踊りが好きでしたけど)。[日本文学の専門家としては]苛立ちを覚えますし、それに他人が私たちの専門分野で金儲けをしているという悔しさがあるのはもっとなところですが… Henry Smith[コロンビア大]が『ラーニング・フローム・「ショーグン」』(『「ショーグン」から学ぶこと』、1975)を書きました。これは識者が、多くの「ショーグン」狂にきちんとした方向性を与える助けとなりましたけど、今度は勝元やさゆりに夢中になっている人々に 『ラーニング・フローム・「ラスト・サムライ」』や、『ラーニング・フローム・「メモワール・オブ・ゲイシャ」』が必要ですね。

David Pollack
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Subject: くずし字ワークショップ(シカゴ大学)
From: Phillip Brown <.....wn....@....edu>
Date: 2004年3月10日 959:05:JST

シカゴ大学のサマー・ワークショップはくずし字の読み方についてです。
編集:詳しくは英語版をご覧下さい。

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Subject:  新会員紹介
From: Michael Watson <........@...eijigakuin.ac.jp>
Date: 2004年3月16日 21:34:30:JST

以下の三人の新メンバーを紹介します。

Thomas Ekholm <.....mas.ekh...@...ental.gu.se>
所属:イェーテボリ大学(Gothenburg 、スウェーデン)博士課程。
研究分野:茶の湯と茶道、また日本に来た十六,七世紀の宣教師との関係について研究しています。茶の師匠と信長の弟、織田有楽斎に興味を持っています。
http://edo400.net/history/?PID=1310&CID=24

Itasaka Noriko 板坂 則子 <.....s...@...ho.ne.jp>
所属: 専修大学
研究分野:日本近世文学、つまり江戸期の文学と文化を研究しています。特に戯作(げさく)と呼ばれる後期小説を、曲亭馬琴を中心に研究しています。そして、江戸の文学や文化が、外国の文学や文化とどのように係わっているのか、その独自性は何かなどにも興味を持っています。
どうぞよろしく!

板坂ゼミのホームページ
http://www.isc.senshu-u.ac.jp/~thb0457/

Ajder Teodor <........@...oo.com>
所属:横浜国立大学
研究分野:認知科学、心理学、心理言語学、言語学、成文法、文法
2003から2006にかけて、メディア情報学科在籍。
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Subject: 若紫と光源氏
From: Michael Watson <........@...eijigakuin.ac.jp>
Date: 2004年3月26日 23:01:06:JST

リードオンリー(read only)会員のChris Kernからのメッセージを転送しておきます。彼は以前、源氏物語の漫画について書いていました。以下のメッセージの日本語訳は日本語版の掲示板(BBS)の方に掲載され、日本語版会員の新美哲彦さんが、それに返答を寄せています。掲示板のリンクは以下の通りです。IDは logs、パスワードは 2004.
http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/logs/bbs/ezml.cgi

以下BBSに載せられた、Chris Kernの質問。
From: Chris Kern <.....isker...@...mail.com>
Date: 24 March, 2004

江川達也の漫画「源氏物語」について以前書いた学部生です。また質問をさせて下さい。タイラー・サイデンスティッカー訳を読んだあと、江川の漫画をみてちょっと驚かされました。「若紫」で江川は源氏が紫を二条院に連れて来てすぐに性的関係を持ったように描いていますが、英訳を読んだ時はもっとずっと後だという印象を私はもっていたのです。
江川は男と女が「かたらふ」場面をすべて性的なものと解釈しているようです。とはいえ、江川はこの語にはもちろん単に会話しているという意味もある、と脚注で説明しています。とするとどこで見分けるのでしょうか。平安時代でも10歳は肉体関係を持つには若すぎると思うのですが。
付け加えますなら、江川は「桐壺」の巻で、常に父帝のそばにいた幼い源氏は父帝の後宮での夜の生活(藤壺との関係を含めて)をつぶさに見たと説明していますが、これはわたしには驚きです。いくらかなりともこれらの解釈に真実があるのでしょうか。

-Chris
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Subject: 若紫と光源氏
From: Lewis Cook <.......@...thlink.net>
Date: 2004年3月27日 353:38:JST

「若紫」における紫の年齢の問題は、私の英訳で読む源氏物語の授業の生徒も決まって質問してくる問題ですし、読者にとって興味の尽きない問題で、また、初期の写本で均衡を欠くほどの、この点における異同の存在を考えるなら、それは書写者にとっても、同じだったのだろうと思います。おもしろい問題を提起しようと作者は(わざわざ)努力しているかのように思われます。

新美先生のコメントをまだ読めないでいますがーマイケル、パスワード教えて下さいー私なんかより、新美先生のほうが的確な解答を寄せて下さっていると思います。

光源氏が発見したとき紫が十歳だというのが、一般です。これは光源氏が小柴垣の垣間見で、少女を発見し、自問する言葉に拠っています。光源氏は「十ばかり(に)やあらむと見えて」と推測する訳です。(「に」が入っている諸本もあり。引用は新大系巻1、157頁、脚注21)。

次に少女の年齢が取り沙汰されるのは、祖母が「かばかりになれば、いとかからぬ人もあるものを。故姫君は、十ばかりにて殿に後れたまひしほど、いみじうものは思ひ知りたまへりぞかし」という所です。新大系によれば、明融本その他の諸本には「十二」とあるようです。ともあれ、この比較から、紫は十(ないしは十二)歳よりは上だということでしょう。

三番目の年齢に関する記述ですが、僧都は、紫の母親の叔父として、信頼できる人物と描かれている訳ですが、紫の母親が十余年前に亡くなった、と光源氏に言っている所です。(大島本は「とうよねん」。新大系は明融本「十とせあまり」、尾州本「十年」、陽明本「十ねん」と注しています)。ということは、母親が出産時に亡くなったとしても、紫は光源氏が初めて見たときには十歳以上だった、ということになります。

光源氏が紫と新枕を交わすのは「葵」の巻で、これが処女喪失であることは明らかです。

L Cook
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Subject: Subject: 若紫と光源氏
From: Royall Tyler <.......@...aca-s.com>
Date: 2004年3月27日 551:35:JST

原典を読み間違えるというのは、この場合ありません。もし光源氏が江川氏の漫画において描かれているような行為を、明らかに行っているのならば、葵の死後の紫との新枕の場面は全く意味をなさないということになってしまいますし、紫の祖母と話した光源氏はとんでもない嘘つきということになってしまいます。

「かたらふ」の用例として、性的な示唆はここでは意味をなしません。(光源氏は紫を養育することなどを考えているわけです。「かたらふ」が性的な示唆を含むと解釈されるには、それなりの妥当な文脈がなければなりません)。ともあれ、「うち」という接頭語からも、この場面が性的なことを示唆していないのは明らかです。「うち」は動詞の意味を軽ろめ、普段使い風にします。「うちかたらふ」が性的な意味で使われることがあるのか疑問です。(新美さんが書いたことを読んでみたいです。どうもアクセスできないのです)。

Royall Tyler
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Subject: Subject: 若紫と光源氏
From: Royall Tyler <.......@...aca-s.com>
Date: 2004年3月26日 15:54:46:GMT-05:00

こういう[江川源氏など]はもう忘れましょう。当時の生活については我々には分からないことがたくさんありますが、 Chrisがこの漫画について言っていることは、この漫画家はあらゆる側面から、物語をポルノグラフィーにしようとしている、ということなのだと私は思いました。

Royall Tyler
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Subject:  若紫と光源氏
From: Aileen Gatten <.....t...@...ch.edu>
Date: 2004年3月27日 554:30:JST

まず、新美哲彦さんのBBSへの返事にアクセスできなかったので、以下重複するところがあったら、先にお許しを請うておきます。

もし、江川(漫画)が、二条院に着いてすぐ、光源氏と紫が性的な関係を始めたと描いているなら、よく知られたあの「葵」巻の新枕の場面、紫が、父とも思っていた男性から裏切られることによって、翌朝ひどく動揺しているという場面をどのように描いていくつもりなのかな、と思います。もし光源氏と性的交渉が四年間もあったのだったら、あの場面で、どうして紫があのように感じるのでしょうか。

九(ないし十)歳の紫は平安時代の標準で、性的関係を持ったり、結婚をするには若すぎると見なされたでしょうが、一方十世紀から十一世紀にかけての貴族の娘達は、紫が丁度「葵」の巻(紫十三,四でしょうか)でするように、十二,三で結婚しました。

ついでですが、「桐壺」に関する疑問です。現在、私たちが知り得る平安時代の文化において、何がもっとも真実に近いでしょうか、江川の解釈する「真実」を知るのは殆ど不可能です。平安時代において、プライバシーというのは上流階級においてさえ、今日ほど重要視されていなかったようです。従者は几帳一枚隔てて、主人とその夫人の就寝する側で寝たようです。よって、いろいろなことを耳に出来るわけですが、あまり誰も気にかけなかったようです。光源氏が幼少の頃、父帝が愛人と睦んでいる寝所をの覗き見してしまうということ、つまり今日、我々にとっては他人のプライベートな場面ですが、それを見てしまうということもあり得たでしょう。Chrisのいう「見ていた」というのはこういうことでしょうか。或いは、江川作品では帝が源氏に覗くよう誘った、と描かれているのでしょうか。そうすると、可能性はずっと低くなります。

「かたらふ」についてですが、英語にも同じような言葉があります。intercourse インターコース(交わり)は様々な種類の双方向的行為を指します。social intercourse は社交です。またこの語は会話も意味しますし、性的交渉も意味します。江川氏がすべてのintercourseを、性的な意味に取るとしたら、まったくつまらなくて、紫式部的ではないですね。

Aileen Gatten
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[編集:以下新美哲彦さんの日本語掲示板(BBS)への返答を転載しておきます。]

04/03/26(金)10:16:38 投稿者[新美哲彦]

【No.13】 タイトル[江川達也]
誰も書き込まないようですので。
まず、江川達也の『源氏物語』を読んでないことをお断りしておきます。その上で。

Chris Kernさんは江川達也の他の作品をお読みになったことがありますか。

うろ覚えで申し訳ないのですが、たとえば江川達也の「BE FREE」(これは映画やドラマにもなった「GTO」の先駆的な作品だと思います。ってか「GTO」を初めて読んだ時、「BE FREE」のパクリだと思いました。)や「東京大学物語」「ゴールデンボーイ(名前が違うかも)」などは、性的描写がスパイスになっている漫画です(性的描写が多い)。

そのような江川達也の特徴から言って、江川達也の『源氏物語』に性的描写が多いのは当たり前のことだろうと思います。

また、江川達也の『源氏物語』と原『源氏物語』(ちょっと変な言い方ですが)を比較して、違っているところをあげつらったり「真実」を探すのは、あまり生産的でないように感じました。
江川達也という作者が『源氏物語』をリライトしているのですから、違っていて当然だろうと思いますし、原『源氏物語』には原『源氏物語』の「真実」が、江川『源氏物語』には江川『源氏物語』の「真実」があろうと思います。

文学作品が時代によってさまざまに解釈されるのはご存じだろうと思います。『源氏物語』も中世、江戸、戦前、戦後などの時代や、立場によって、さまざまに解釈されてきました。

もしChris Kernさんが研究その他で江川『源氏物語』を取り上げるのであるならば、江川達也という作者を軸にして考察しても面白いと思いますし、『源氏物語』のさまざまな享受、あるいは再生成(語り直し)の歴史の上において考察するのも面白そうだ、などと勝手に思いました。

以下は個人的な思いですが。

『源氏物語』なども戦後、いろいろな現代語訳ができ、女の子に人気があったり、おばさんたちにあがめたてまつられていたりしますが、作成当時の読者が『源氏物語』を読んで性的イメージを喚起される部分は、今の多くの読者が感じる以上に相当あったんじゃないかな、なんて思うことがあるので、そういう意味でも江川『源氏物語』はちょっと面白いのかもしれません。

ちょっととりとめもない感想になりました。
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Subject: 若紫と光源氏
From: Royall Tyler <.......@...aca-s.com>
Date: 2004年3月27日 11:08:17:JST

この事に関してもう少し言わせて下さい。Chris Kernの興味は源氏物語そのものより、明らかに源氏漫画にあるようです(といって、これが悪いわけではありませんが)。原典との食い違いに気づいて、江川の原典解釈がまともなものだ、と当然のように見なしています。これは間違っています。江川の解釈はひどい読みちがいをしてるか、意図的な改編で、後者の可能性が高いです。江川はむろん原作を自由に変える権利はありますが、このポルノ化された漫画は、我々が講義で、あまり深く考えたりもせず、寛大な気分になって、源氏物語の漫画などを、源氏物語について描かれていると紹介するときには、注意が必要だという警鐘です。

ともあれ、漫画ファンはChris のように、外国語訳をした者が原典の解釈を間違えたか、或いは、読者である自分たちが誤解したのだろう、といった感想を抱くでしょう。 

> Somehow I had gotten the idea from the English translations that their sexual relationship
> did not start until later.
> 「若紫」で江川は源氏が紫を二条院に連れて来てすぐに性的関係を持ったように描いていますが、
> 英訳を読んだ時はもっとずっと後だという印象を私はもっていたのです。

このsomehow(何となく)という表現には、ゾッとさせられます。[編集注:上に引用したChris氏の質問の和訳ではこれは訳出されていません]。また、原典において、はっきりと否定されているわけではない部分を、江川のような漫画家は気の利いた見やすいポルノ源氏物語にしてしまうのです。
「若紫」で江川は源氏が紫を二条院に連れて来てすぐに性的関係を持ったように描いていますが、英訳を読んだ時はもっとずっと後だという印象を私はもっていたのです。

手短に言えば、漫画にはそれなりの価値や特徴がありますが、ある特定の漫画や、漫画の場面が、原典のまともな解釈をしているというのは大変間違った認識です。Caveat lector>
[編集注:ケヴィアット・レクトー→ラテン語 読者諸君、要注意]

Royall Tyler
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Subject: 若紫と光源氏
From: Michael Watson <........@...eijigakuin.ac.jp>
Date: 2004年3月27日 18:12:52:JST

日本語掲示板(BBS)のアクセス・パスワードなどを書き忘れました。お許し下さい。IDとパスワードは以下のとおり、いつものパスワードと同じです。
ID: logs
password: 2004

新美哲彦先生の返信の要点は、江川の漫画などを、源氏物語受容の一例として見るには興味深いが、漫画と源氏の原典とを比較して何が本当なのかを考究するのはそれほど建設的ではない、ということかと思われます。適切に要約できてるといいんですが。
http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/logs/bbs/ezml.cgi

Michael Watson
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Subject: 若紫と光源氏
From: Chris Kern <.....isker...@...mail.com>
Date: 2004年3月27日 17:46:40:JST

皆様、これまでの御返信ありがとうございます。

もう少し詳しくみてみましたところ、実は、光源氏と紫の関係の江川の描き方について、私が間違って読んでいたと思います。「若紫」の巻で江川は少し補足のページを書いています。その一枚で、光源氏は紫を得ることができて自分は何と幸運だったのだろうと思い、そして「しかし、まだ子供… 最後までいかないどころか… 感じるところまでいかん」と考えています。前の方の場面を見直してみましたが、漫画の描写には実は性的な行為は無くて、光源氏が裸身で紫の脇に横たわっているというだけに取れなくもありません。私が間違っていて、江川は実際は光源氏と紫の性的関係があったようには(まだ)描いていないようです。

[タイラー氏は以下のように書いていらっしゃいました。]
> Chris Kernの興味は源氏物語そのものより、明らかに源氏漫画にあるようです
> (といって、これが悪いわけではありませんが)
私が送った二通のメッセージが誤解を与えてしまうのではないかと、危惧しておりました。私の興味は源氏物語そのものにありますが、まだ古典日本語を読めませんので、英訳か現代日本語訳に限られています。サイデンスティッカー訳も読みましたし、タイラー先生の訳を(二回)読みました、そして少し違ったものにトライしてみたかったのです。

源氏物語が漫画化されたものを他に読んだことがなかったのですが、江川の漫画には本文が、江川の翻訳と解説と共に載っているので興味を持ちました。

> ともあれ、漫画ファンはChris のように、外国語訳をした者が原典の解釈を間違えたか、
> 或いは、読者である自分たちが 誤解したのだろう、といった感想を抱くでしょう。

もともとの質問の仕方が悪かったと思います。私は、もし、(誤解と言うよりも)間違いがあるなら、それは江川の方にあるのだろう、と推測したのです。

タイラー先生のもう一つの返信から、以下の部分にお答えしたいと思います。
> Chrisがこの漫画について言っていることは、この漫画家はあらゆる側面から、物語をポルノグラフィー
> にしようとしている、ということなのだと私は思いました。

この漫画化の興味深い点は学術的な装いを持つ一方でとてもスキャンダラスだということです。江川は学術的にきちんとすることに心血を注いでいるようなのです。(終わりに準備のために見た約20冊ほどの参考文献を挙げています)。また装束、建物、楽器などは私が目を通した他の参考図書などと比べても概ね正確なように思えます。前にも書きましたように、本文を全部載せており、また、部分的には本文をもっとわかりやすくする工夫をしています。和歌にあらわされた比喩などがもっとわかりやすく漫画化されていたりします。

とはいえ、スキャンダラスでなくてもいいようなに生々しい性描写があり、これで何を表現しようとしているのか、私には良くわかりません。そうでなければ、皆様に、チャンスがあれば手にとってご覧になることをお薦めするのですが、あまりに生々しいので、お薦めするには気後れがいたします。

-Chris
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Subject: 若紫と光源氏
From: Royall Tyler <.......@...aca-s.com>
Date: 2004年3月28日 750:43:JST

Chris Kernが江川漫画に対して、こんなふうに私の注意を向けさせてくれたことに感謝しています。私は源氏物語が愛欲の物語だという評価に関連したとんでもない話や、興味本位の話を(コンピュータのファイルに)集めています。そして、そういのを講義で使って楽しんでいます。が、Chrisの江川漫画についてのメールには、驚きました。源氏物語受容史においても、こんなふうにこれみよがしに徹底的に学術的であろうする、と同時に、これほどまでにポルノ的なものを押し出したものはかつてなかったでしょう。どういう影響があるでしょうか。売れているのでしょうか。どのような読者層を狙っているのでしょうか。おそらく男性読者なんでしょう。『あさきゆめみし』のようにいつかは英訳されるのでしょうか。(ところで、私は小泉吉宏の『大掴源氏物語ーまろ、ん』を本気で訳したかったんですけど、二つの大出版社が、長考の末、制作費が掛かりすぎるということで、企画を没にしました)。江川漫画をだれかが、超大作の成人映画にするのでしょうか。

若い才能ある研究者(Chris?)の方に、最近の源氏物語のポップ受容について研究して欲しい、とどんなにか思っていることでしょうか。これは驚くべき現象、あるいは現象の数々です。何が起こっているんでしょうか。どうして、何故。過去の源氏受容について研究する価値があるなら、また現在のポップ源氏受容も研究の価値があるでしょう。実際、才能ある若い研究者一人ではカバーしきれないことでしょう。とはいえ、源氏物語の前世紀などの受容も考察の価値があるでしょう。
Royall Tyler
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Subject: 若紫と光源氏
From: jenssej...@...mail.com
Date: 2004年3月28日 20:43:11:JST

このやりとりを読んでいまして、自分の考えも書いてみたくなりました。もっとも、特定の提案と言うよりは、物語の、この時あの時に起こったことに関する、このような議論そのもの、についての意見なのですが。

まず、Aileen Gattenのご意見に刺激されたのですが、源氏物語が一体「歴史的」史料なのかどうかーーーでも、基本的には虚構であり、それ自体の論理で構成され、歴史的なリアリティーに依るものではない、ということを議論してみたいと思います。

もちろん、平安京に酷似した都に舞台が設定され、当時の「社会」が念頭にあったことは間違いないことでしょう。が、小さな子供が典型的な平安時代の邸宅の中で何を見聞きすることができたかどうか、というような、テキストには存在しない事柄(extra-textual elements)や憶測を物語のなかに引き込んで読むことの意義が飲み込めません。

虚構の世界の状態を尊重し、厳密には、本文はそこに描かれていないことには責任はない、と言うべきでしょう。そうして、もし登場人物の誰か(例えば、登場人物の幼年時代の経験が、その後の行動の型に影響を与えたとか)の作り物の真理における、ある種の特徴などを説明したければ、本文の実際の用例を引いてそうする、というのが必須でしょう。源氏物語の本文や、その同時代の他の作品などから類推をするべきではないでしょう。そうしないと、論理にあわせてテキストを理解し、その読みは強制されたものとなってしまいます。

紫式部はくどくどと書きません。実際、光源氏の、その父帝の性的生活についての、知識については書かれてさえもいません。物語に語られた世界の外側に、歴史的、心理的に動機づけられたリアリティはありません。

源氏物語の都は物語の中にあり、どこか他のところにあるのではありません。平安時代の歴史は源氏物語の創作の背景について何かを教えてはくれますが、虚構の物語宇宙構造の説明に役立つものではありません。むろん歴史との一致をみることには価値があります。しかし文学世界は、基本的に閉ざされた領域なのです。我々が作者の時代の知識に身を固めても、その世界への道を完全には貫通できはしないのです。当時の知識を増やせば…、と思いがちですが、そうではないのです。

どこで一線を引くというのでしょうか。例えば、どの登場人物も「物の怪」や他の亡霊的な登場人物のようにその存在があやふやで、疑い深くはないでしょう。けれどもどのような霊的現象における存在よりも自然であるかのように、それらの存在が受け入れられるようです。

「物の怪」は平安時代に存在していた、とでもいうのでしょうか。はっきりしていることは、虚構における虚構を受け入れなければならない、ということです。物語の他の部分もそのように受け入れることによって、得るものは大きいと思われます。あとは、修辞法と文学技法を駆使してどのように作品世界が構築されていき、どのような結果がくるのかを見極めることです。

議論をあらぬ方向へ持って行ってしまったのでないことを願います。今、源氏物語に関して論文をまとめています。私の論点があまりにも当然すぎて、また断定をしすぎていましたら、お許し下さい。ただ、どうして、歴史と虚構にもっとはっきりとした境界がなく、このような議論において、それらが問題とならないか不思議なのです。

Jens Sejrup
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Subject: ポルノ源氏物語と解釈
From: Ingrid Parker <.....P...@....com>
Date: 2004年3月29日 141:10:JST

最近タイラー訳を読んでいまして、源氏物語漫画に関するやり取りをとても興味深く拝見しております。この場合源氏物語の中で何が起こったのかについては、解釈はかなり定着していると思いますが、Jens Sejrupのメールについて少しコメントをしたいと思います。確か、「文学世界は、基本的に閉ざされた領域なのです。我々が作者の時代の知識に身を固めても、その世界への道を完全には貫通できはしないのです」と書いていたと思いますが、これまで過去に文学研究をしてきたことのある者として、といっても英国文学なのですが、私は何であれともかくも答えや実態を与えてはくれる文芸理論(いくつかの異なった方法であっても)を取り入れなければならないものだと、思うに至っています。文芸理論は、流行りすたれがあって、それ以前のものを激しく否定します。歴史知識を持ち込んで作り物語を解釈することには懐疑的であるご意見は、適切で有意義だと心を打たれました。

とはいえ、私は今、一応書き手の側となって、そうすべきではないはずの源氏物語から、歴史的な細部を吸収しようとしている自分を見つけました。当時の狭隘な社会に生き、また、その世界のごく一部の読者に向けて書いていたていた女性として、源氏物語作者はそういった歴史的細部を大変意識しており、またそれらを物語に使用しないということはできなかったのではないかと思われます。そういった生活圏の中から物語というものが生まれたのでしょう。今、私は小説家として、設定や登場人物が話を動かすものだと気づきました。

I.J.Parker
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Subject: 若紫と光源氏
From: Lewis Cook <.......@...thlink.net>
Date: 2004年3月29日 634:44:JST

Royallのコメントに関してですが、江川は源氏物語受容の歴史において、前例のないことをやろうとしているように聞こえますが、源氏物語のポルノ化ということが無かったという訳ではないのです。東京のある古本屋で(別に頼んだわけでもないんですが)19世紀前半のものだったと思いますが、ケバケバしくアナライン染料で彩られた艶本源氏物語を見せられたことがあります。下手くそで露骨な絵でした。これは珍しいものではなかったのでしょう。ある種のサブ・ジャンル的なものの一つなのでしょう。伊勢物語においては、この比ではありません。Timon Screech(タイモン・スクリーチ)はその『春画 片手で読む江戸の絵』(高山宏 訳 講談社 1998年 )に伊勢物語に題材を採った春画を紹介しています。(索引がないので、源氏物語関連のものがあったか思い出せません)。ごく近年まで、さまざまなタブーの足枷があったのですから、源氏物語学者がこの近辺の受容史に目をむけなくても、驚くにはあたりません。とはいえ、資料はどこかに、ひっそりと存在しています。

Lewis Cook
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Subject: 若紫と光源氏
From: Thomas Howell <.....wel...@...thlink.net>
Date: 2004年3月29日 953:38:JST

一緒に調査を行った日本人の研究者の方が江戸時代の絵に描かれた源氏物語について話して下さったことがあります。残念ながら、場面はちょっと思い出せないのですが、それでは、光源氏と愛人の一人が独立して動かせる型になっているそうです。読者がページを揺すると、その型は、着物はもちろん着ているのですが、鳥の求愛のように動くそうです。[編集注:紙相撲?]

こういうのが現代まで引き継がれているという訳ではないですが、物語の性描写をもっと前面に押し出そうというのは漫画よりももっと古くからあったということですね。

もちろん、くだんの本を直接見たわけではなくて、伝聞ですけど。

Tom Howell
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Subject: 若紫と光源氏
From: Lewis Cook <.......@...thlink.net>
Date: 2004年3月29日 10:10:31:JST

Jens Sejrupのメールはじっくり考えたい質問で、充分に返答できる時間があれば、と思いますが。どなたか、他の会員の方がそうしてくれればと願いますけど、私にはそういう余裕はないので、いまのところやや性急な反論的質問で切り込ませて下さい。

> まず、Aileen Gattenのご意見に刺激されたのですが、源氏物語が一体「歴史的」史料なのかどうか
> ーーーでも、基本的には虚構であり、それ自体の論理で構成され、歴史的なリアリティーに依るもの
> ではない、ということを議論してみたいと思います。

重箱の隅をつつくつもりはないのですが、ある統一した「我々」というのは存在していないです。洋の東西を問わず、源氏物語に関しての評論や学術論文を発表してきた人々の中には、確かに多く(おそらく大多数がそうでしょうが、数は問題ではありません)の源氏学者が、単純にも或いは喜んで、歴史的事実と源氏物語の虚構世界とを一つのものとみなしていました。

明治後の日本における源氏研究の漠然とした二つの流れとして区別できるかもしれません。一つは物語の虚構性を重要視しない流れ、もう一方は虚構性を大事にする流れです。そうすると、前者は、こういった場合に引き合いに出される西洋文学の文芸批評を浚ってみるなら、あの有名な「マクベス夫人は何人の子供をもっていたのか」と題されたL.C. Knightの論で批判されている現実離れした文芸批評家達(Aileen Gattenはこの仲間ではないですが)と同じような妄想に陥っている、という貴殿の意見に賛成です。

> もちろん、平安京に酷似した都に舞台が設定され、当時の「社会」が念頭にあった
> ことは間違いないことでしょう。が、小さな子供が典型的な平安時代の邸宅の中で何
> を見聞きすることができたかどうか、というような、テキストには存在しない事柄
> (extra-textual elements)や憶測を物語のなかに引き込んで読むことの意義が飲み
> 込めません。[中略] どこで一線を引くというのでしょうか。

以上のすべては殆ど議論の余地がありません。光源氏は「本当に」全くあんなに美しかったか、本当はどんな姿形をしていたのか、などなど、だれも(といっても多くの例外と思える人々がいますけど)真剣にこんな質問を考えようとはしません。貴殿が情熱をもって、この問題にぶつかっているのはすばらしいと心から思いますし、どうぞ、本文をじっくり見ていくことは止めないで下さい。この物語を著したのが誰であれ、最初の一文から、ここにはきちんと証明された事実が記録されているという前提を、読者に信じ込ませているのです。明らかに、メタ・フィクションのポーズですが、貴殿が言うように源氏物語世界の領域は不可侵のものであるとしても、同時にこの貴殿の自信を挫いてしまうという側面もあるのです。(どこからの進入が不可能だというのでしょうか、テキストの外側でしょうか)
[ 編集注:デリダ「テキ ストの外には何もない」 Il n'y a pas de hors-texte]

> 例えば、どの登場人物も「物の怪」や他の亡霊的な登場人物のようにその存在
> があやふやで、疑い深くはないでしょう。けれどもどのような霊的現象における
> 存在よりも自然であるかのように、それらの存在が受け入れられるようです。

「物の怪」の存在は(また他の超現実的現象も)決定的な指標となっているのではないかと思います。読者が歴史と虚構の不分明な境界を喜んで受け入れるよう操作されるかどうか、です。そうして、この点にこそ貴殿のご意見に対して私は意義を唱えるものです。タイラーの厳密なまで忠実な翻訳を引用しますが、"Alas, what he Genji} had dismissed so far as malicious rumor put out about by the ignorant now proved to be patently true, and he saw with revulsion that such things really did happen." (p. 174、「あさましう、人のとかく言ふを、よからぬ者どもの言ひ出づることと聞きにくく思してのたまひ消つを、目に見す見す、世にはかかることこそはありけれと、うとましうなりぬ。」)。これは、光源氏が物の怪の存在を疑っているという明確な証左ではないでしょうか。同じ巻で後から六条御息所自身も同様な疑問を抱いているとわかるのですが。作者の企みを成功させるために、光源氏に疑いを抱かせたというのは明白ではないでしょうか。

> 「物の怪」は平安時代に存在していた、とでもいうのでしょうか。はっきりしている
> ことは、虚構における虚構を受け入れなければならない、ということです。物語の他の
> 部分もそのように受け入れることによって、得るものは大きいと思われます。あとは、
> 修辞法と文学技法を駆使してどのように作品世界が構築されていき、どのような結果
> がくるのかを見極めることです。
> 議論をあらぬ方向へ持って行ってしまったのでないことを願います。今、源氏物語に関
> して論文をまとめています。私の論点があまりにも当然すぎて、また断定をしすぎて
> いましたら、お許し下さい。ただ、どうして、歴史と虚構にもっとはっきりとした境界
> がなく、このような議論において、それらが問題とならないか不思議なのです。

謝罪する必要はないですよ、貴殿の論文についてもっと説明してくれることを願っています。もっと時間があれば、詳しく書くのですが、揺れ動いているこの[虚構と歴史との]判別は比較的近年の現象ではないかという印象を持っています。おそらく国学者の文学的ロマンティシズムの影響( an effect of Kokugakusha 'literary romanticism')かもしれません。14世紀ぐらいまで遡ると、源氏物語の注釈者は表現的(或いは本文的ー似非歴史的ではなく)前例で頭がいっぱいだったのがわかるでしょう。そうしたら貴殿のさまざまな問題は、良かれ悪しかれ、霧消してしまうでしょう。

L Cook.
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Subject: 源氏物語と歴史
From: Aileen Gatten <.....t...@...ch.edu>
Date: 2004年3月30日 036:28:JST

Jens Sejrupに間違った印象を与えたしまったようです。明らかに源氏物語は歴史ではなく、独自の美的世界を持つ文学作品です。これに関していくつか拙論があります。一方では、ある時代の社会において、ある人物によって書かれ、当然ながらその当時の社会を何らかの形で反映しています。紫式部はまっさらな状態で書いていたわけではありません。同じ価値観を持つ狭隘な世界の自分と似たような読者に向かって書いていたのです。

Chris Kernの質問はもっともらしさに関わっていました。すなわち、漫画における源氏物語をめぐるある種の事柄が、平安時代社会の中で意味をなしているのか、というものでした。私はその点について意見を述べたのです。彼にしろ私にしろ源氏物語を補説し再解釈し、書き直そうというつもりはないのです。

Aileen Gatten
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Subject: 若紫と光源氏
From: Michelle Li <.......@...nford.edu>
Date: 2004年3月30日 207:00:JST

Jensの意見に対してきちんと返答する時間があればと思いますが、そのような時間はないので、簡単に。Jensの意見は神経にさわるものでした、とはいえ、おそらくそれが、一種のニュー・クリティシズム論(もう「ニュー」ではないのですが)に聞こえたのです。もちろん虚構の世界が優先することに意義はありません。しかし歴史的知識(や他の、例えば宗教的知識)は文学の理解を高めるものだと思います。つまるところ、書き手は無空間に生きているのではありません。

妥協点というものが、きっとあると思います。事実、Aileen Gatten や他の源氏研究者の方々はその歴史知識を使うことには普通は慎重です。そのだれもが、源氏物語を歴史史料としては捉えていないと思います。アイバン・モリス氏は時々そんなふうに捉えているようには見受けられましたけれども。

Michelle Li
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Subject: 若紫と光源氏
From: Brendan Elliott <......@...u.edu>
Date: 2004年3月29日 344:06:JST

源氏物語の漫画化に関して少し質問がございます。卒論でだいたい13種類ぐらいのそういった漫画を比較しました。もっとも表面をなぞっただけという感じでございますが。

江川氏のものだけが、光源氏が父帝の寝所での性的行為を見聞する、と描いているわけではありません。寺館和子の『妖変源氏物語』(2001-2002年)の第一巻目では、光源氏は見ているだけではなく、さらにその光源氏を藤壺が見ている、と描かれています。桜澤麻伊『コミック源氏恋物語』(2000年)では几帳の外に伏していた幼い源氏が父帝と藤壺が一緒なのを聞き、目が覚めて震えて起きあがっていると描いています (Vol. 1, page 17-18) 。ただし、いずれもレディース・コミックにおける描かれ方です。光源氏と、それぞれ時々の一人の女性との関係に焦点をあて、様々な巻からいろいろな出来事や特別な関係などを組み合わせて漫画を構成しています。

私がしらべたところでは、漫画化においては、漫画家は何か心理的な、ロマンティックな深みを付け加えなければならないと感じて場面を創り出すようです。これは『あさきゆめみし』の常套的方法です(初発のほうで桐壺帝と更衣の出会いの場面などがそうです)。牧美也子のもの(1998-1990年)では、六条御息所との出会いが創りだされています。紙幅の関係上、明らかに、何かはカットしなければならないはずなのに、漫画家が新しく場面を創り出すというのがどうにも解せません。どのような場面が創りだされ、増幅されているかという徹底した調査で、何らかの傾向が見いだせればおもしろいのではないでしょうか。

Royall Tylerの現在の源氏物語のポップ受容に関する質問ですが、これを専門にしている日本人研究者の方を存じ上げています。立石和宏氏です。とても便利なウェッブ・サイトも運営していらっしゃいます。当該論点に関したもっとも充実したサイトだと思います。
http://homepage3.nifty.com/genji_db/

20以上の源氏漫画のリストが出ています。その他演劇、映画、テレビドラマ、本などなど。氏には2,3の御著書(日本語)もあるようです。管見に入った英語による唯一の論文は、Hirota Akiko's 'The Tale of Genji: From Heian Classic to Heisei Comic' (Journal of Popular Culture, 31.2 [Fall 1997], pp. 26-68)です。

『まろ、ん』は私の大好きな一冊です。Royall Tylerがこの英訳の出版を断念なさったというのを聞いてとても失望しております。

Brendan Elliott
Japanese Studies and Computer Science
4th Year Undergraduate, Case Western Reserve University
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Subject: ポルノ源氏
From: David Pollack <.....l...@...l.rochester.edu>
Date: 2004年3月31日 453:59:JST

Lewis Cookのメールに示唆されていましたように、江戸時代における源氏物語パロディは尽きるところしらないほどあります。また源氏に題材を採った春画にいたっても、しかりです。題名が掛詞になっている「艶絶:源氏物語」(福田和彦の『艶本:魅惑の浮世絵』kkベストセラーズ、1988年、 pp. 6-31)をご覧下さい。

福田は歌川国貞の『源氏歌留多」『源氏絵』『Shou-utsushi 相生源氏』や『花鳥余情 東源氏」などなどの露わな例を取り上げて論じています。国貞は1835年の柳亭種彦の『偽紫田舎源氏』の春画ではないもっと純粋な挿絵のほうが有名です。話題の江川の漫画はみていませんが、江戸時代の下世話な想像力が考えつかなかったことをやり遂げているかどうかは疑問です。

David Pollack
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Subject: シンポジウム「日本宗教史に於ける密教と密教的文化」
From: Bernhard Scheid <.....nhard.sch...@...w.ac.at>
Date: 2004年3月31日 18:49:38:JST

オーストリア科学学会、アジア文明歴史協会(The Institute for the Cultural and Intellectual History of Asia of the Austrian Academy of Sciences)はウィーンにて以下のようなシンポジウムを開催致しますので、ぜひご参加下さい。

The Culture of Secrecy in Japanese Religion (「日本宗教史に於ける密教と密教的文化」)

Date: May 18 - 21, 2004
Location: Austrian Academy of Sciences
Dr. Ignaz Seipel-Platz 2, 1010 Vienna, Austria

For further information:
http://www.oeaw.ac.at/ias/archiv/japan_symp2004.htm

List of participants (in alphabetical order):
William Bodiford (University of California, Los Angeles), Ronald
Davidson (Fairfield University, Conn.), Albert de Jong (Leiden
University), Lucia Dolce (SOAS), Bernard Faure (Stanford University),
Iyanaga Nobumi (Tokyo), Kadoya Atsushi (Tokyo), Susan B. Klein
(University of California, Irvine), Martin Lehnert (University of
Zurich), Kate Wildman Nakai (Sophia University, Tokyo), Fabio Rambelli
(Sapporo University), Bernhard Scheid (Vienna), Mark Teeuwen (Oslo
University), Ann Walthall (University of California, Irvine).
Bernhard Scheid

Institute for Asian Studies
Austrian Academy of Sciences
Strohgasse 45/2/4
A-1030 Vienna
Austria
Tel +43-1-515 81-6424
Fax +43-1-515 81-6427
Internet: http://www.oeaw.ac.at/ias/

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Subject: 若紫と光源氏
From: Royall Tyler <.......@...aca-s.com>
Date: 2004年3月31日 17:59:58:JST

江戸期の源氏ポルノグラフィー!そうでした! 取り上げて下さった皆さんありがとうごさいました。それこそ山のようにあることでしょう。漫画がまたそういう方向にあるのも頷けるというものです。避けがたい伝統なのですね。二条良基やその友人達は一体どんなものをそっと回覧したでしょうか。

Royall Tyler
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Subject: 歴史と虚構(Writers and vacuums)
From: Jens Sejrup <.....ssej...@...mail.com>
Date: 2004年4月1日 852:36:JST

私のコメントにご返信頂き感謝致します。そして、Lewis Cookには賛同せざる得ないようです。源氏物語における登場人物にとっては「物の怪」はある種懐疑的な存在のようです。このご指摘ありがとうございました。更に、I. J. Parker, Michelle I Li, Aileen Gattenのそれぞれの方々のご指摘、物語作者がその時代の何らかの影響を受けるという当然な点について、私がそうは思っていなかったという印象を与えてしまったということを知り驚愕しました。

源氏物語の虚構世界は平安時代のそれに近似し、紫式部は歴史上の「日本」が念頭にあったと明記したのですが。これは、文化、歴史、芸術など、限られた社会を生きた読者に親しみのあったものです。この場合、書き手は文化的、歴史的文脈から決別しているものではありません。そして虚構の世界は、その物語の受け手達(にできるだけ理解させるように)その属する「ほんとうの」世界の要素や構造に手を加えたものの具現化なのです。

しかしながら、これは、例えば、歴史上の宮廷と虚構の世界のそれとの相違を述べるには充分ではありません。私の言う「閉ざされた世界」とは、虚構の世界は人工的で、読者に現実的、歴史的な真実味を与えるために特別に構築されたものなのだということです。(実際 Lewis Cookのご指摘のように、デリダ的「テキストの外にはなにもない」という考えに触発されたものですが)。

しかし、何であれ、作者が構築した特殊な虚構の世界以外と接触するのは不可能なことです。だからテキストにない事柄による憶測を忌諱します。何でも起こりえます。全ての登場人物が青くそまったり、アイヌ語をしゃべりはじめたり。あるいは、すくなくともそれらを阻止するなにものもありません。著者の意図以外は。そしてその著者はというと、その虚構世界においては、歴史世界の事実からは隔絶しているのです。私は、単に虚構の世界における「ありそうなこと」に反発しただけです。

Jens Sejrup
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Subject: Noh Training Project 2004
From: Richard Emmert <........@....com>
Date: 2004年4月1日 16:55:15:JST

ペンシルバニア大学の夏期ワークショップのお知らせです。
編集注:詳しくは英語版また能ワークショップのホームページをご覧下さい。

http://www.bte.org/Programs/noh.htm

Thanks you,

Rick Emmert

Artistic Director, Theatre Nohgaku (www.theatrenohgaku.org)
Director, Noh Training Project (www.bte.org/Programs/noh.htm)
Professor of Asian Theater and Music, Musashino University
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Subject: 源氏ポルノに関して
From: Doris Croissant <.....der...@...mail.com>
Date: 2004年4月1日 514:17:JST

もう一点だけ、源氏漫画におけるポルノに関して。

源氏物語の性的側面の絵画化に関しては、[江戸期の]庶民による享受の結果としてではなく、それ以前中世において、宮廷社会のうちにすでにその兆候があったとみなせる証左があります。 

Karen Brockの "The Shogun's Painting Match"( Monumenta Nipponica 50:4 [1995], p. 469 ff., note 109) で論じられていますが、『看聞御記』1435年の記事に、父宮(伏見宮貞成)が17歳の後花園天皇のために、源氏絵巻の製作を命じた、とあります。その三年後の1438年、天皇が20歳となったとき、宮廷絵師(粟田口隆光)に新しい源氏絵を描くよう命じ、本文は父親と息が書写しました。これらの絵巻におけるは源氏物語の絵画化はポルノグラフィー的パロディのジャンル(「おそくずの絵」)に属すでしょうし、おそらく十二,三世紀ごろまでには宮廷絵師のレパートリーのひとつとなっていたのでしょう。

Doris Croissant
University of Heidelberg
Institute of Art History
East Asian Department
Seminarstr. 4
69117 Heidelberg
Fax:06221-543384
Tel:06221-542352
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Subject: 日本語教師募集(ケンブリッジ大学)
From: Richard Bowring <.......@...mes.cam.ac.uk>
Date: 2004年4月3日 252:35:JST

ケンブリッジ大学では日本語教師を募集しています。いまのところあまり重要な地位ではありませんが、将来性のあるポジションです。
http://www.oriental.cam.ac.uk/jobvacancies.html

Richard Bowring
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Subject: 新会員紹介(2)
From: Michael Watson <........@...eijigakuin.ac.jp>
Date: 2004年4月4日 23:11:56:JST

新メンバーを紹介致します。

Michael Bathgate <.....hg...@....edu>
所属 Religious Studies Department, Saint Xavier University

仏教説話、往生伝などににおける物語学。翻って迷信などの言説にも興味を持っています。博士論文に手を入れた、拙著はThe Fox's Craft in Japanese Religion and Folklore: Shapeshifters, Transformations and DuplicitiesをRoutledge社(2004)。

Umberto Bresciani <.....sc...@...d.net.tw>
所属 College of Foreign Languages, Fujen University, Taipei Xian, Taiwan
博士論文は中国文学
日本文化ととくに儒教関連に興味があります。現在は台北の大学でイタリア文学を教えています。

Louise Allison Cort <.....ise.c...@...a.si.edu>
所属 Freer and Sackler Galleries, Smithsonian Institution
フリーア美術館、アーサー・M・サックラー・ギャラリー 、スミソニアン協会
学芸員、工芸史家。古代ならびに中世の日本陶磁器に興味があります。

Carolina Negri <.....ne...@...na.it>
所属 Universita'degli studi di Napoli "l'Orientale" 講師。
平安物語、日記
現在『更級日記』を翻訳中。
著書: La principessa di Sumiyoshi, (Sumiyoshi monogatari), introduction and translation, Venezia, Marsilio, 2000; (『住吉物語』イタリア語訳)
- "Marriage in the Heian Period (794-1185). The Importance of Comparison with Literary Texts", Annali dell'Istituto Universitario Orientale, vol. 60-61 (2000-2001), Napoli, 2003, pp. 467-493
- "La vicenda di Tamakazura nel Genji monogatari", (The story of Tamakazura in the Genji monogatari) in Atti del XXVI Convegno di studi sul Giappone, (Torino, 26-28 settembre 2002) Venezia, Cartotecnica Veneziana Editrice, 2003, pp. 337-353;

Uehara Sakukazu (上原 作和) <.....01...@...ty.com>
所属 青山学院女子短期大学
研究分野:平安時代文学成立史。物語文学。古代音楽表現史。
著書論文:『光源氏物語の思想史的変貌 《琴》のゆくへ』有精堂, 1994

Yuchao Wu <.....ha...@...oo.com>
所属 マサチューセッツ大学アマースト校院生
平安、室町、散文ならびに韻文など。
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From: Roy RON <.......@...u-tokyo.ac.jp>
Subject: [pmjs] 英日翻訳者募集
Date: 2004年4月13日 210:32:GMT-04:00

ロン・ロイ
史料編纂所@東京大学です。
英日の翻訳者を探しています。史料編纂所二〇〇四年度の会議の発表の翻訳で、出版されます。内容としては、日本歴史、宗教、文学です。翻訳者は学術論文の日本語を扱えることが必要です。締め切り、報酬など詳しくは以下までご連絡を。

Roy RON, Ph.D.
Historiographical Institute,
The University of Tokyo
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Subject: AJLS 論文募集(「想像された風景・回顧された風景」)
From: Eiji Sekine <.....k...@...izon.net>
Date: 2004年4月16日 14:57:06:JST

学会発表募集です。詳しくは英語版または学会の日本語ページをご覧下さい。
http://depts.washington.edu/ajls04/japanese/submission.htm
http://depts.washington.edu/ajls04/japanese/contacts.htm

「Landscapes Imagined and Remembered: 想像された風景・回顧された風景」は日本文学を研究する研究者及び教育者により構成される国際的団体、Association for Japanese Literary Studiesの第十三回会議です。
2004年10月22日~24日
ワシントン州シアトル市
ワシントン大学。
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Subject: Chicago symposium
From: Hans Bjarne Thomsen <.....m...@...icago.edu>
Date: 2004年4月18日 148:57:JST

シカゴ近辺の方々また、興味がおありの方、日中歴史、美術史シンポジウムがシカゴ大学において4月23日ー24日に開催されます。
編集:詳細は英語版または
http://caea.uchicago.edu/News.htm

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Subject: 貴族日記データ・ベース
From: Jacqueline Stone <........@...nceton.EDU>
Date: 2004年4月20日 609:52:JST

皆様
十世紀後半から十三世紀にかけての貴族の日記で、電子化されたものがあるでしょうか。『玉葉』のCD-ROM版や、また史料編纂所や資料館が管理しているデータ・ベースは知っていますが、他にありますか。
ご教示よろしくお願い致します。

Jacqueline Stone
Princeton University


From: Asada Toru <.......@...ocha.ac.jp>

Subject: 古今集・新古今集の年について

Date: Tue, 20 Apr 2004 19:54:38 +0900

来る2005年は『古今和歌集』が作られてから1100年、『新古今和歌集』が作
られてから800年に当たります。「和歌文学会」ではこの年を「古今集・新古今集
の年」と名付けました。古典和歌の領域を代表する二つの勅撰和歌集を記念して、日
本各地で和歌に関する催しが開かれます。
詳細は今後和歌文学会のホームページ(http://wwwsoc.nii.ac.jp/waka/ 日本語の
み)に掲載されてゆく予定ですが、簡単にその内容を紹介します。

1、講演会・研究発表会
  和歌文学会の記念大会(10月=東京)、特別例会(6月=東京、12月=大
阪)において古今集・新古今集に関する講演・研究発表が特集されます。

2、美術館・博物館での展観
  徳川美術館(1月=名古屋)、五島美術館(10月~11月=東京)、国立歴史
民俗博物館(10月~11月=千葉)、京都国立博物館(12月=京都)ほかで、和
歌を書いた古い写本の展観が行われる予定です。いくつかの大学・研究機関でも関連
の資料展示が行われます。

そのほか記念出版なども企画されています。すでに出版されたものでは、風間書房
http://www.kazamashobo.co.jp)『古今和歌集研究集成』全三巻があります。20
05年にかけて、関連の単行本、雑誌特集号などがいくつか刊行されます。

以上です。よろしくお願いいたします。

浅田徹



英語の原文は以下のページにあります。

http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/logs/2004/2004.03.html
http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/logs/2004/2004.04.html

pmjs メールアドレス: p...@...eijigakuin.ac.jp (直接リスト全体へ)
pmjs 編集メールアドレス: wat...@...eijigakuin.ac.jp (編集を通してリストへ)
pmjs ホームページ(英語)http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/
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日本語版の過去ログ http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/jpn/index.html
pmjs 購読(休み、中止)http://www.meijigakuin.ac.jp/~watson/pmjs/kodoku.html