私たち、明治学院大学・国際平和研究所は、武力を含めた直接的暴力や構造的暴力のない平和な社会の創造に貢献する研究・教育活動を行っている機関です。 研究・教育活動を通じ、平和という価値の積極的な実現に関心を寄せる団体として、 2000年の9・11事件をきっかけとして実施された米国・英国による2001年3月 のアフガニスタン空爆およびイラクへの武力攻撃によって、地域の人々の生命・ 財産に対する甚大な被害のみならず、人権・開発・環境分野の基本的ニーズに対する権利を著しく蹂躙し、人間の安全保障を脅かす事態が生じていることを、強く 憂慮しています。

積極的な平和主義を標榜する憲法をもつ日本は、武力以外の紛争解決に対する政治力・外交力を最大限に発揮すべきであり、武力行使の当事国に協力するとみなされる行動は積極的に慎むべきです。私たちは、かねてからイラクに対する自衛隊派遣の早期撤退を求めてきましたが、大量破壊兵器の保有という武力攻撃の大義が米国自身によって否定され、イラク国内において米軍の「対テロ戦争」に対する反感・抵抗運動が未曾有の規模に達し、混迷と不安定化の度合いが深まるに及び、こうした事態を引き起こしている米国に協力する自衛隊派遣を撤退すべき理由はさらに高まっています。

法的に見ても、自衛隊派遣の法的根拠となっているイラク復興支援特措法は、政府に隊員に対する安全配慮の義務を政府に課しています。しかし、派遣地域であるサマワは、他国の軍隊による安全確保が必要となるほどに治安が悪化し、派遣の違法性に対する疑いが一層強まっています。こうした事態のなかで、小泉首相は11月の国会答弁で、同法の定める「非戦闘地域」につき、「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域である」とする論理を展開し、自衛隊の派遣期間を2005年12月まで1年間延長する方針を固めました。

自衛隊は、憲法と国際法がぎりぎりのところで許容する極限的状況をのみ想定して、法的に存在を許されている武装組織です。その公権の行使にあたっては、厳格な文民統制のもと、自ずから慎重に慎重を期すことが求められます。ところが、現在の政府の態度は、とてもそうした認識の上に立っているとは思われず、あまりに軽々しく、法的手続きさえ軽視するものであり、私たちに強い危惧をいだかせるものです。

軍事力を国民監視のもとに置くことは、戦前を再現させないための歴史の教訓です。ところが現在サマワに特派員をおいている日本のマスメディアは、一つもありません。そして、こうした報道機関の姿勢以上に、私たちは、根拠法に違反してまで危険な地域に自衛隊員を派遣し、さらに日本人を戦争被害者の憎しみの対象に連ねてしまっている事態こそ、国民の生命・財産の保護という政府の本来の義務を忘れたものとして、厳しく批判しなくてはなりません。

「人道復興支援」を待っている人たちがイラクにはたくさんいます。戦争に荷担してしまった日本は、この人々のため国際社会と共に最善を尽くす義務があります。戦火に傷ついた子どもたちの病院をファルージャに建設するというNGOの案も既に報じられました。日本として、中・長期的な視野を持ってできる代案は多くあります。

しかし、現地の人々の期待にこたえられない「任務」に税金を無駄づかいし、いつあるともわからない攻撃の危険に国民の身をさらさせ、しかも世界の平和と安全を危うくする違法な戦争への荷担という誤った政策判断を前提としている現在の自衛隊派遣は、とても許せるものではありません。

以上の理由から、私たちは、12月14日の派遣期間の終了によって自衛隊を撤退させることを強く求めます。

2004年12月10日

平和研有志
勝俣誠、上條直美、佐藤アヤ子、高原孝生、竹尾茂樹、中山弘正、原後雄太、松崎美和子、吉原功(あいうえお順)