本教材は、加賀山茂教授(名古屋大学大学院法学研究科)がそのホームページ「仮想法科大学院」上に掲載されているバックホー事件(最高裁平成12年6月27日判決)を材料とする「判例の読み方」を援用させて頂いて、法科大学院におけるリーガルメソッド及び民法の教材と教育方法の試みのモデルを提示するために作成されたものである。
<設例の趣旨>
1 設例の趣旨要旨
バックホー盗難事件(最高裁平成12年6月27日判決・原審名古屋高裁平成10年4月8日判決)を素材として盗品の返還請求に関する設例を作成し、問題解決に関連する条文(第192,193,194条)を探させ、事件への法の当てはめの推論をさせる。そして最終的には設例が第194条の立法時に予定していなかった場合、すなわち「法の欠缺」の場合に該当することに気づかせ、具体的妥当性を有する第194条の解釈・改正案を、反証推論を通じて創設させることを意図している。
2 詳細説明
1 バックホー盗難事件(最高裁平成12年6月27日判決)とは、簡単に事案を整理すると以下のようなものである。
Xは、バックホー(建設用機械の一種。土砂をすくい上げてトラック等に積み込む機械のこと。)を何者かに盗まれたところ、そのバックホーをYが中古機械販売業者から購入して使用していることがわかったので、Yに対してバックホーの返還と使用利益の返還を求めた。これに対して、YはXに対して代価の弁償を請求した(民法第194条)。Yは敗訴の場合の使用利益返還額の増大を回避するために訴訟の途中でバックホーをXに返還している。
この事件では、主として次のような点が問題とされた。すなわち、第1に、第194条が適用される場合に代価の弁償の提供があるまでは即時取得者Yに盗品であるバックホーの使用収益権があるのか、第2に、バックホーを返還しているのに即時取得者Yに代価弁償請求権が認められるのか、第3に主に理論的な問題として、即時取得(第192条)成立の場合所有権は被害者Xと即時取得者Yのどちらに帰属するか、の諸点である。
これらは、明文の規定から直ちに結論が導かれる問題ではない。その意味で「法の欠缺」の問題といえる。
2 本設例は、バックホー事件と類似してはいるが若干異なる仮想の事例をもとに、最高裁の判断及びその判断の理由を学生に実際に参照させて、その知識を与え、これを基礎として仮説を立て推論を行わせ、利益考量などを通じて反証させることを企図している。検討は具体的結論を図るためにはどのような立法が望ましいか(立法論)まで及ぶことが予定されている。
3 限界
なお、問答集はあくまで一義的な正解を学生に導かせることを想定していない。とりうる一つの考えの筋道を提供するにすぎない。つまり、学生の法創造的思考を刺激する一つの方法を示しているにすぎない。