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心を支え、家を探す。外国人労働者を取り巻く現実から学んだこと

2021.09.13

日本で働き、暮らす外国人の住まい探しをサポートする「NPO法人かながわ外国人すまいサポートセンター」(以下、「すまセン」)で活動する天野さん。中国語スタッフとして外国人の方の相談相手を務めています。活動の中で見えてきたのは、外国人労働者を取り巻くシビアな現実。「日本で暮らし始めて10年以上経つのに、日本語で自分の名前が言えない。このような方々に自分は何ができるかを常に考えている」と語る天野さんが大切にしている「心を支えること」とは。

天野 萌 経済学部 経済学科 4年中国で生まれ育ち、小学校4年生の頃から日本で暮らし始める。高校3年生の時に家計を支えるために将来起業することを考え、経済を学ぶために経済学部経済学科に入学。2018年(大学1年生)からインターン生として「すまセン」の活動に携わり、同年10月には「すまセン」の最年少スタッフに任命される。2020年のコロナ禍以降はアクセサリーを販売するオンラインショップをスタートし、商品卸から販売までを手がける。第1回ボランティア大賞 実践部門賞受賞。明治学院大学教育連携・ボランティア・サティフィケイト・プログラム 取得。好きな言葉は「人生の一番の失敗は挑戦しないこと」

私って何者?

「すまセン」の活動に参加したきっかけは、大学入学後すぐにボランティアセンターを通じて参加した1Day for Othersです。地域や企業、NPO・NGOなどに出かけて「1日ボランティア」や「1日社会貢献活動」を体験するプログラムで、肩肘張らずに気軽にボランティアできるところが魅力です。2018年5月に1Day for Othersの「あーすフェスタで多文化交流しよう!(主催・受入先:あーすフェスタかながわ実行委員会)」に参加しました。日本人と中国人の両親を持つ母と、中国人の父の元に生まれ育ちましたので、フォーラムのテーマに自然と関心を持ちました。

実は、大学に入って自己紹介をする時に、中国人であることを告げると「日本語がとても上手だね!」と周囲が少し驚く場面に遭遇することがありました。中学、高校は一貫校で、ずっと同じ友達、環境でしたのでこのような場面はなかったのですが、改めて思ったんです。「私って何者なんだろう?」。中国人だけど、今や日本語も母国語のようなもの。「自分はどこの国の人か」という疑問が生じるようになりました。そんな疑問を抱えての参加でしたが、フォーラムで在日コリアンやフィリピンの方など、外国にルーツを持つたくさんの方々と出会いました。自分や家族以外で外国にルーツを持つ方と接するのは初めてと言って良い経験で、当日は参加者の誘導などの準備を一緒にしました。自分と同じ境遇の方々が、今こうして同じ場所、時間で同じことをしている。そう考えると、自己紹介のことで悩んでいる自分が馬鹿らしく思えてきました。「みんな同じ地球人じゃないか」と。この経験から、自分と同じように日本で暮らす外国人について関心を持ち、「すまセン」の活動に参加しました。

まずは自分を理解してもらうこと

「言語は手段。一番大事なのは心だ。心があれば対応できる。言語ができなくても心配しなくていいよ」これは「すまセン」の理事長に初めて出会った時におっしゃっていたことです。この一言で、「すまセン」が多文化共生のために真摯に取り組む団体であることを確信しました。

まずは2018年7月下旬から8月下旬までインターン生として参加し、10月からは正式にスタッフになりました。「すまセン」の事務所は横浜市中区の関内にあります。私の役割は中国語の通訳や、公営住宅の申し込みに必要な記入の手伝い、入居前の説明会や必要書類の提出に同行することなどです。事務所には、中華街で働く中国人の方がたくさんいらっしゃいます。

日本に来て10年~15年経つのに、日本語で自分の名前が言えない方もいます。その方は中華街で中国人のコミュニティがあるから生活を送れていますが、中国語ばかり話すので、日本語がなかなか身につきません。身につけたいけど、身につけられない、といった方が正確かもしれません。そのような方々に安心して相談してもらえるために、私も同じ中国語で自己紹介をするところからスタートします。仕事のこと、家族のこと、趣味や好きな食べ物まで。とにかくさまざまなことです。
・日本の高校受験ってどんな仕組みになっているの?
・この料理作ってきたから、よかったら食べてみて!
相談者に両親と同年代の方々が多いせいか、仲良くなれた後はこのような話をすることもあります。「特に相談はないけど、あなたと話したいから来た」。ある方からこのように声をかけていただけたときは、本当に嬉しい気持ちになりました。

大切なのは「伝わるかどうか」

相談にいらっしゃった方の、ある書類の記入を手伝った時がありました。本人氏名の欄に名前を書き始めましたが、よく見るとその名前がご本人なのかどうかわからない。その方には「本人」という言葉の意味から説明する必要があったのです。ただ、説明するにしてもやさしく伝えることがとても大切。ここでいう「やさしく」とは、仕草や姿勢を指すものではありません。例えば「金融機関」という言葉。実際に相談を受ける場面では、「コンビニ、郵便局、銀行とかお金が払えるところ」などと言い換えて伝えます。自分では当たり前と捉えている言葉の意味も、相手に伝わらないことがあるのです。きれいな言葉で伝えるよりも、大事なのは「伝わるかどうか」。相手と自分の立場を交換して考えることで、自分のすべきことが見えてきます。

物件の斡旋をする際に、外国人の入居をお断りする物件に遭遇することがあるのですが、大家さんが外国人の印象をステレオタイプで判断していることが原因の一つとなっているケースがあります。例えば、ある国から来た人と話したとき、その人の印象がとても悪かった。気付いたらその国の印象も悪くなっていた。このようなことってありませんか? 自分の言いたいこと、相手の言いたいことが伝わらない、相手が伝えたいことが、意図しない形で伝わってしまった、など。この「伝わるかどうか」を大切にすることは、外国人労働者を取り巻く問題を考える上でもとても大切です。

ビジネスパーソンとしても、問題に向き合い続けたい

大学の多くの時間を多文化共生に関する勉強と「すまセン」の活動に注いできましたが、卒業後は不動産業界で働く予定です。今後、日本はさらに少子高齢化が進み、労働人口の減少に伴い、外国人労働者の増加が見込まれます。結果、日本を第二の故郷とする外国人も増加することから、家の購入などの住まい探しにおいて、ビジネスの観点からサポートできるようになりたいと考えています。そのため、今は宅地建物取引士の資格取得に向けて勉強する日々です。このように考えるようになれたのは、経済や経営における基本的思考を経済学部で学んだからです。1~2年生の時に学んだゲーム理論や囚人のジレンマが良い例です。消費者の心理的動向をパターン化して計算し、考察する過程から、物事を客観的に捉えることができるようになりました。学生生活もあと半年を切りましたが、ビジネスパーソンとして良いスタートが切れるように、大好きな白金キャンパスに1日でも多く通い、より学びを深めていきたいと思っています。

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