各コースの研究理念

「大学院文学研究科フランス文学専攻」は、2つのコースをふくみます。

「テクスト性研究コース」
「モデルニテ研究コース」

ちらも従来にない呼称をもったコースですが、そのことがまさに、この新設の大学院の斬新な方針を示しているといえるでしょう。文部省に提出した公式の文書「大学院文学研究科フランス文学専攻設置趣旨」のなかから、「目的および定義」の項を引用してみます。

目的

本学フランス文学科は、もともと狭義の文学のみならずフランス語圏文化の諸領域、あるいはフランスを発信源として世界にひろがる映画、音楽、絵画などの諸芸術・思想等の研究を積極的にカリキュラムに組み込む、特色ある学科として存在しつづけてきた。
その特質を生かして、本専攻は、従来の作家研究・作品研究を主とするフランス文学専攻の枠を踏み出し、今日のグローバル化し複合化する世界の文化的変容を視野に入れて、それに見合う新しい観点と方法により、他領域の研究とも連動しうるような斬新かつ創造的な研究教育をおこなう。

本専攻の目指すところは、従来の大学院のような専門研究者の育成ばかりではない。「設置理由」に示した現代世界の基本的な状況に鑑み、上記のような本学科の特色を十分に生かした教育によって、高度な教養と見識を備え、広く文化的領域で活躍できる人材を養成することも、その重要な目的である。具体的には、一国、一言語、一文化という旧来の文学研究の枠にとらわれず、ヨーロッパ文化の中核を担ったフランス文化をそれ自体複合的なものとしてとらえ、より広範な文化研究の場面に通じうるような形態での研究をおこなっていく。
これは他大学での類似学科にない本学独自の方針であり、それを明示しまたより効果的に実施するために、下記の2コースを設置する。

テクスト性研究コース

フランス語圏の文学テクストを主な対象として扱うが、専門的な作品研究はいうに及ばず、文学テクストをとりまく諸環境、他の表現領域(絵画、写真、音楽、映画等)との関連、さらにはテクスト生成のプロセスなどを扱い、草稿研究、言語学的研究、比較横断的研究などをとりいれ、文学テクストに内的・外的に関わるさまざまな問題系を多様な角度から研究する。それにより、人間の文化的営みの中軸である言語表現の本質を、フランス語圏文学にとどまらない、普遍的課題として研究することを目的とする。なお、「テクスト性」とは、一般的にはなじみのない言葉だが、テクストそのものを限定的に指すのではなく、テクスト形成のありかた、様態、その作用等を含めて「テクストであること」の全体を意味する。

モデルニテ研究コース

フランス語圏の文化の基礎研究を土台に、芸術・思想の現代的(20世紀的)展開を主な対象とし、現代芸術や現代思想の諸領域を扱う。この場合「現代」とは、基本的に第一次大戦以降の世界である。フランスはこの時期に20世紀芸術の動向に大きな影響を与えたシュルレアリスムを生み出し、思想面では実存主義や構造主義、さらにはポスト構造主義の潮流をつくり、構造人類学、精神分析または科学思想などで、現代世界の思想動向をつねに先導してきた。その芸術や思想は、「現代」と呼びうる時代の知的地平を画している。「モデルニテ研究」はこのような知的・芸術的展開の様相を研究し、世界に共有される「現代性」の何かを明らかにすることを目指す。

別の言い方をすると、「テクスト性研究コース」のほうは、フランス語圏の言語・文学を対象としながらも、これまでおこなわれていたような、歴史的実証的な研究手法に限定せずに、文字を媒体とする表現メディアの特性と、その現代的な可能性について検討していくことになります。当然、具体的な作家・作品・資料の解読という作業が要求されるのですが、同時に、今世紀後半のさまざまな「テクスト理論」――たとえば、ロラン・バルトやジャック・デリダなど――を検討することになります。文字を書き、そして読むという営みが人間にとっていかなる意味をもつのかを考え、テクストという記憶装置の特性を、他の表現メディア(声や身振り、写真や絵画、あるいはヴィデオやコンピューター)と比較しながら、人類史における文字文化の射程を考察していくのが、このコースの目的です。その作業はおそらく、サイエンス・テクノロジーによってリアルタイムで世界が結ばれていく現代において、貴重な批判的視座をもたらしてくれるはずです。

他方、「モデルニテ研究コース」のほうは、まさに現代と現代の特性そのものを対象としています。第一次世界大戦後になって、世界の文化は言語・国家やジャンルの別を超え、拡大と融合によってかつてない変容をとげてきました。ダダやシュルレアリスムの急進的な運動にはじまり、フランスをひとつの核としてひろまったこの20世紀的な変容の過程と結果の特性を、ここでは「モデルニテ(現代性)」という言葉でとらえ、いわゆるフランス文学の枠にとらわれず、世界の芸術と思想の諸領域にわたって研究してゆこうとするものです。

つまり、より端的な言葉で2つのコースの基本的な特徴を要約すれば、「テクスト性研究コース」とは、フランス語で書かれた資料を現代的な方法によって研究しつつ、文字文化の衰退が語られるような時代において、「テクスト」という表現媒体がいかなる意味をもちうるのか考える場であり、「モデルニテ研究コース」とは、国や言語やジャンルの別を超えた広い視野と尖鋭な問題意識のもとに、現代とその特性をラディカルに研究する場である、ということになるでしょう。


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