大学院・文学研究科 フランス文学専攻 主任・巖谷國士教授
修士課程一年 田中文 / 福住 遊
フランス文学科ができてから35年になりますが、これまで大学院をつくらないできました。ひとつには学部の学生諸君との交流を大切にしたかったからです。
でも最近は、大学院志望者かふえてきました。それで他大学の大学院に進んだ卒業生に会うと、ああ、ここの仏文科に大学院があったらよかったのに-、といいます(笑)。どうもこの仏文科ほど、教授との関係が密なところはないらしい。
そもそも外部の学生や社会人で、われわれの指導をうけたいという人も多い。社会状況が変化して、就職活動が早まったり、三年になって白金校舎へ来てもじっくり楽しめなかったりしているので、そろそろ大学院をつくるべきかな、と。それも2000年、20世紀最後の年がいいだろう、と(笑)。
もちろん、どうせつくるなら特別のものにしたい。従来のようなアカデミックな研究中心の大学院である必要はないだろう、とまず考えました。つまり、将来は研究者に限らず、ひろく文化にかかわる仕事につきたいと思っている人たちのためのものにしたい、と。
それに、なによりも現代性(モデルニテ)を拠点にした研究の場、ということです。この20世紀という時代の特徴のひとつは、いろんなものの境界がなくなってきたということですね。たとえばシュルレアリスム運動以来、フランスの文学や思想、芸術は国境を越えてひろがったばかりか、ジャンル間の境界をも越えて、連続性の時代に入ったわけで、それとともに、現代以前の文学の読みかえも進んできました。
そこで大学院そのものも、越境的な、現代的な、そして自由な場にしていこう、と。研究分野も文化のあらゆる領域にわたっていい。いろんな意味で境界や枠のない大学院にしよう、と思ったわけです。ニつのコースにわけていますが、モデルニテ(現代そのものの研究)と、テクスト性(現代的な文学史的作品の研究)-この二つは互いに連続しています。
それではじめて九人の院生を迎えて、僕らも今は楽しみながら、いろんな可能性を探っているという段階ですね。
田中 :
私はアンドレ・ブルトンとシュルレアリスムの文学や芸術をやりたくてモデルニテ・コースに入りましたか、想像していた以上によいです(笑)。
読む本もどんどんふえ、授業への取りくみ方も本格的になって、先生との関係も親密だし…。私は学部のときにやり残したことをしたくて入ったんですけど、それが今、ちゃんとできている感じです。
福住 :
僕はテクスト性コースですか、入ってみて、二つのコースの間の垣根がすごく低いなと感じました。中で両方の人のやっていることが、実はつながっているんだという気がして、面白くなってきました。
僕の研究テーマは、アウシュヴィッツをめぐる現代の文学ですから、モデルニテのほうが合うかもしれません。でも小説そのものを読むことが好きで、テクスト研究をやりたかった。収容所体験については、思想面で書かれたものが多いけれど、自分にしかできない新しいことはないか、と。どうせなら偉い人のあとをついていくのでなく、小説をテーマにして自分のものをつくりたい、と。
巖谷 :
その意気込みはいいですね。教授たちも、何のモデルもなしに始めたわけで、おそらくみんな勝手にやっているでしょう。
田中 :
かなり(笑)。すごい教授陣が、自由に好きなことをし、させてくれている感じです。
福住 :
院生のほうも、もちろん学部の時より勉強していますが、アカデミックでは全然なく、やはり好きなことをして遊んでいますね。
巖谷 :
院生用の自習室をプレゼントしましたが、雰囲気はどうですか?
田中 :
習室は談話室と化しているときもあるし、みんな本を読んでいて、沈黙が長いときもあります。お互いの人間関係に縛られることはなくて、今のところいい感じです。
図書館では何十冊もの本を長く借りられますし、6階や地下の書架で、原書に触れる機会が一気にひろがりました。とくに現代の文学・芸術関係の本が驚くほどそろっています。
福住 :
個室を使えるのがすごく嬉しいですね。一人前の研究者の気分(笑)。
巖谷 :
僕は図書館長でもあるので、6階その他にも許可を得ればだれでも入れるということを、学部の諸君に宣伝しておきます(笑)。
田中 :
学部のときにも、まわりを気にせず、もっと自由にやっていればよかった、と思います。とにかく仏文大学院は居心地がいいので、大勢の人に受験してほしい。
福住 :
さっき言われた意味で、枠にとれわれない人に来てほしいですね。
巖谷 :
試験のときは、いわゆる偏差値的な評価よりも、論文や面接重視です。研究者志望でなくてもいい(笑)。学外や他学科の人でも、卒業生や社会人でも、年齢を問わず大歓迎。
田中 :
すでに他大学の大学院生とか、外部の人も自由に参加してきていますね。先生のゼミなんか、人数が倍以上にふえている(笑)。
巌谷 :
さっき言い忘れたけど、この大学院を開かれた場にしようという構想もあったんです。その点も実現されはじめているようですね。
田中 :
外とつながっていることが、すごく刺激になります。過激なくらい(笑)。
福住 :
修士論文と、それ以後のことについては、これからゆっくり考えたいです(笑)。