2013年夏、わたしたちの研究について(院生座談会)
教授:今日は大学院生5人に集まってもらいました。それぞれ何を専門に研究しているのかについて話し合ってもらいたいと思います。では、自由にどなたからでも話して下さい。
院生A:私はフランスの20世紀の詩人、ルネ・シャールという詩人について研究しています。学部のときから研究しているのですが、文学史の教科書にも一行くらいしか名前が出てこない詩人なので、日本ではまだあまり知られていません。シャールを研究している人は少ないのですが、他大学に2人いるので、3人でたまに研究会のような感じで集まっています。
教授:Aさんはもうすぐ留学してフランスでシャールの研究を続けるのですね。
A:はい、指導教授はシャールについての本を書いている人です。
院生B:私は卒業論文のときから19世紀の作曲家ベルリオーズについて研究しています。ベルリオーズのオペラについて研究しており、オペラ一般について広く学ばなければならないので、最近はオペラ研究会というものにも行ってドイツやイタリア、もちろんフランスのオペラも、研究者たちの発表を聞いたりして勉強しています。
教授:Bさんはオペラといっても音楽だけではなく、テクスト自体の研究もしているのですね。ベルリオーズですからフランス語がかなり重要ですね。
B : 音楽学だけではなく自伝や書簡など、いろいろと研究しています。
教授:すると音楽を専門にしている人とは少し違ったアプローチになりますね。
A:Bさんは、日常的によくオペラを観に行くのですか?
B:生で見ることは少なくて、DVDが中心です。
教授:フランス文学科共同研究室に、オペラのDVDやビデオがたくさんあるので、借りるといいですね。
院生C:僕は学部の4年生のときからメルロ=ポンティという20世紀の哲学者について勉強しています。メルロ=ポンティという人は二次大戦後にサルトルやボーヴォワールと一緒に雑誌を立ち上げたりして、それから互いに影響を及ぼしあっていましたが、サルトルが小説や戯曲なんかを書いたり、実際に行動をした人であるのに対して、すこし固いというか研究肌の人で、そこが大変でもあり面白いところでもあります。
教授:明学の図書館にはメルロ=ポンティの本は大体揃っていますか?
C:はい、ほとんど揃っています。
教授:意外な本があったりしますね。雑誌の階なども面白いでしょう。
院生D:私はヌーヴォー・レアリスムの一員であったフランスのニキ・ド・サンファルという女性アーティストについて研究しています。ニキ・ド・サンファルは、「ナナ」という張りぼての彫刻シリーズが有名なのですが、私は、彼女の初期段階での射撃絵画からアッサンブラージュを経てナナの彫刻に至るまでの形態の変遷について研究しています。
教授:日本でヨーロッパ美術の研究をする場合、美術作品は世界に一つしかないので、オペラのようにDVDで観るというわけにもいきませんから、その点はどうしていますか?
D:現場第一主義というか、とにかく美術館に足を運ぶことを第一に考えています。やはりどこに飾られているかとかは重要ですし、また美術館というのはパブリックな空間なので、そういった意義とかも考えなくてはならないというのもあります。本で見ているのと実際に作品を目の前で見るのとは全然違うので、機会があるときは、なるべく足を運んで見に行くようにしています。
教授:博士課程生には、美術作品を観に行ったりする研究のための渡航支援の制度がありますから、それを利用してください。今年は3人も利用しますよ。ところで、芸術学科や美術専門の大学で勉強するのと、フランス文学専攻で勉強するのとで、違いといったものはありますか?メリット、デメリットとか。
D : やはりフランス文学専攻はフランスを中心に世界を把握するという視点が根本にあると思うので、美術史の正当な視点とは違うところから見ることで、新しい視野が開けるのではないかと思っています。
教授:正当な美術系の大学や学科は、現代美術に関してはアプローチ的に不自由なところがあるかもしれません。そういった点ではこちらのほうが勉強しやすいのではないでしょうか。
D : はい、明治学院のフランス文学専攻はかなり自由なアプローチが許されているので、好きなように研究させていただいてありがたいと思っています。
先生:美術関係の本もかなりありますね。
D : はい、明治学院には芸術学科があるおかげでもあると思うのですが、海外の個展の図録もかなり揃っているので、研究の際に資料に困ることはあまりありません。
教授:私もスペインのプラド美術館で開かれたある個展の英語カタログを探していたときに、フランスではスペイン語版しか手に入らず、パリの国立図書館にも英語版はなかったのですが、困りながら帰ってきたら明学の図書館に英語版があったということがありました。うれしかったですね。
D : 展覧会カタログ図録についてですが、ポンピドゥー・センターなどで開かれる大きな展覧会だと英語版もあるのですが、フランス語版しか出ていないものも多くあるので、フランス語が読めることでだいぶ有利に研究が進められるようになりました。
院生E:私もDさんと一緒で美術を研究しています。ジェームズ・アンソールという19世紀末から20世紀にかけて活躍したベルギーの画家です。やはり明学の美術書の蔵書は充実していて、図版もフランス語版、英語版ともにたくさんあるので、そういった資料の点では本当に便利です。また明学のフランス文学専攻では幅広い研究ができて、アカデミックな美術研究をする大学や芸術学科とは異なったアプローチ方法が許されているので、自由に研究することができて、充実した研究生活を送っています。
教授:DさんとEさんは二人とも美術を専門にしていますけれど、お互いに議論したりすることはありますか?
E:はい、よく話しているし、他の院生たちとも一緒に美術館に行って、意見をぶつけ合ったりしています。
教授:最近は何の展覧会に行きましたか?
D : いろんな美術展に行きました。デザイン「あ」展とか、横浜トリエンナーレ、大エルミタージュ美術館展などです。近いうちに横浜美術館で開かれているプーシキン美術館展をみんなで行こうという計画もあります。
教授:個展よりも美術館展のほうが多いようですね。美術館展だと作品も幅広く出展されているので、趣味や専門が違う人たちみんなで観に行けるからでしょうか。
D : 一人で見るよりもみんなで見たほうが、人の意見を聞いて、自分では考えなかったことなどに気づくことができるので面白いですね。
教授:この前の授業でプルーストをみんなで読みましたけれど、文学作品において絵画や音楽がどのように表現されているかといったことは、自分で論文を書く際にもとても参考になると思います。そういう意味でも、フランス文学専攻ならではの美術研究・音楽研究ができそうですね。
A:そういえば、このまえ学会に参加しました。学会で他の方の発表を聞いたりするのは非常に勉強になります。どのように発表するのか、どのようにレジュメを作っているのかということも参考になりますし、また同じ作家を研究していても人それぞれ着眼点が異なっているのでそういったところも非常に興味深いです。発表を聞くだけでなく、自分で質問をしたりすることもできるので、勉強になりました。機会があればぜひ聞きに行くといいと思います。
C:僕は9月の下旬に、メルロ=ポンティ・サークルというのがあって、その集まりがあるので、ぜひ参加したいと思っています。
教授:ぜひ行ってみてください。メルロ=ポンティを研究している若い人は多いのですか。
C : 現象学をやっている人はいますが、メルロ=ポンティを専門にしている人は少ないです。
A : みなさん、論文の検索の仕方は知っていますか。自分の専門のテーマの論文を探すと、自分とは違った視点で書かれているものを見つけられたりして、おもしろいと思いますよ。
教授:みなさんは、大学の図書館をちゃんと有効に活用していますか。図書館の「マイ・ライブラリー」は、とても便利ですよ。たとえば、読みたい本が他の大学にある場合、貸し出しを希望すると数日で届きます。どこの大学とこちらで指定をしなくても、図書館の方がとても迅速に手続きをしてくれます。私もこの前申し込んだら、読みたかった本が2~3日で手元に届いたので、早さにびっくりしました。雑誌なども、読みたい号の読みたいページを指定すると、そのページだけコピーして送ってくれます。わざわざその本がある大学に行かなくても、わずか数日で手に入るのです。それから、マイ・ライブラリーで、とてもたくさんの資料や事典類を読むこともできます。ぜひ有効活用をしてください。
教授 : 専門の話にもどりましょうか。現在、みなさんの先輩でフランスに留学している人は3人います。Fさんはプルーストについて博士論文をパリで準備しており、Gさんはボルドーでミシェル・フーコーの研究、Hさんはリモージュで19世紀の新聞小説について研究しています。それから、今日来ていない博士課程の人で、サミュエル・ベケットの演劇について研究しているひともいます。今日は、修士論文の中間発表会がありますが、今年はアラゴン、マティス、ゾラ、ジッド、フロベールなどの修論が出そうです。じつに多彩ですね。さて、そろそろ座談会を終わりにしたいと思いますが、専門研究にかんして他に何かありませんか。
A : 授業中に発表するときに、先生方が、院生自身の研究に近づけて発表させてくださるので、授業中に自分の研究への意見などが他の人や先生方から聞けて、助かっています。
D : 先生方が、私たち院生のことを把握し、気にかけてくださっているので、ありがたいです。いろいろと声を掛けてくださり、非常に研究しやすい環境にあると実感しています。
教授:教員と院生の距離がこんなに近い大学院は他にないと思います。ですから、どんどん教員を利用してください。(笑)
C:先生も多彩ですね。
教授:教員同士もとても仲がいいので、だから、院生たちとも気さくに仲良くできるのだと思います。院生同士がこんなに仲がいい大学もめずらしいですね。院生部屋で、みんなでお菓子を食べたりしていますね(笑)
A:8大学互換制度のおかげで他大学の授業が受けられるので、今年は他大学の院生が4人も授業に来てくれて、刺激になってよかったと思います。
教授:他大学の院生にとっても、うちは居心地がいいようですね。飲み会にも来てくれたりしますし。
A:他大学の人が来て驚くのは、私たちの院生部屋がとても楽しいことです。明治学院の院生はいいなあ、と言われたりします。
教授:めぐまれた環境なのですから、しっかり研究に励んでくださいね(笑)。では、これで今年の座談会を終わりにしましょう。ありがとうございました。
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