営団地下鉄日比谷線の広尾駅1番出口を出てすぐ左にある道を曲がると、映画の一コマのようにカフェで柔らかい日差しを浴びながらおしゃべりを楽しむ外国人の姿が目に入ってくる。ドイツ大使館、フランス大使館、チェコ大使館といった各国の大使館が林立している国際色にとんだ土地柄もあり、飛び交う言葉はさまざまだ。右手には利用客の約7割が外国人というスーパーもあり、店の外に置かれている商品を見ただけでも外国の街角にいるようである。交通量の多い道路を挟むと、一転してシイやケヤキの大樹の枝振りも見事な有栖川宮記念公園が現れる。2万坪を越える貴重な都会のオアシスだ。起伏に富んだ園内には、造詣を凝らした小さな滝や渓流がある。周囲が400メートルほどの池では水鳥が羽根を休め、金沢兼六園のコトジ燈篭を真似た物もあり、日本古来の庭園の美しさを堪能できる。木陰の散策を楽しみながら傾斜地の階段を上ると、広場があり、その一角には、昔この地に住んでいた有栖川宮熾仁(たるひと)親王の騎乗姿の銅像が建っている。熾仁親王は皇女和宮の許婚であったが、幕末の皇武合体の思想により引き裂かれ、(皇女和宮は徳川家茂と政略結婚)皮肉にも戊辰戦争で官軍を率いて和宮のいる江戸城を目指すことになった人物だ。大正2年に高松宮家が用地を継ぎ、児童の自然教育と東京市民の健康のために一部を開放した。後に東京市へ寄贈され、今日に至っている。 今では赤や青の色鮮やかなブランコやジャングルジムで、日本人だけでなく、外国人の小さな子供たちが両親やベビーシッター、愛犬と一緒に元気に遊びまわる姿を見ることができ、悲しい歴史は影を潜めている。さらに奥へ進むと、白い五階建ての建物が目に入ってくる。都立中央図書館だ。個人貸し出しを一切していないこの図書館は、160万冊の豊富な蔵書を誇っている。16歳以上の利用に限られているので、館内も静かである。視聴覚障害者サービス室には録音・点訳図書もあり、韓国・朝鮮語図書も1万冊を越え、特別文庫室には江戸から明治にかけての和書や書簡、錦絵などが24万点ほど収められており、その充実ぶりからは国内の公立図書館で最大規模であることを実感させる。何か調べたい時にレファレンス担当の方に聞くと、「こういう出版物もあったのか」と驚くほど多方面からの資料を提示してくださり、考えの幅が広がり、とてもありがたい。利用者への閲覧サービスや調査研究の援助を行っている図書館ということもあり、様々なアンケート報告や調査研究資料がたくさんある。コピーサービスや食堂もあるので、高校生や受験生を始め、様々な年齢層の方が研究に没頭している姿を垣間見ることができる。春には梅や桜の花がきれいに咲き誇るので、気分転換をかねて、一度訪れてみてはいかがでしょうか。学生編集委員(白金通信2002年3月号)