戸塚にお洒落な洋菓子のお店がある。駅西口から1分ほど、木製のかわいらしい看板が目を引く「カナール」を訪ねてみた。手前に洋菓子のショーケースが並び、奥がカフェになっている。午前10時前にもかかわらず、店の中には熱心にケーキを選んでいる人が何人かいるあたり、さすがはおいしいと噂の店だけある。常連客が多く、中には朝コーヒーを飲みながら家庭から仕事に頭を切り替え、夕方またコーヒーを味わいながら家庭へと切り替えて帰っていくという人もいるという。ケーキの種類は約60種。右側のケースには大きいケーキ20種が並び、左側には小さいケーキが並ぶ。なぜ2パターンのケーキがあるのだろう。不思議に思っていると、「もとは大きいケーキだけだったが、『美味しいけれど、食べきれないからもっと小さなケーキを』というお客様の要望で始めた」と店長の小池さんが教えてくれた。「大きいケーキにはアメリカ的で大味というマイナス・イメージがあるが、フランスとウィーン、それに日本の伝統的な菓子の良さを取り入れてケーキを作っている。大きさは、1つの表現であって、それがうちの個性」という。定番はインペリアル(570円)とチーズケーキ(340円)。インペリアルは、小池さん曰く「ショートケーキの親玉みたいなもの」。甘みを押さえた上品な味のクリームと苺がまるごとサンドされている。この苺をふんだんに使ったケーキは、やはり旬に食べるのがおいしい。ケーキの種類が多いだけに価格も幅広いが、平均270円から300円前後。常連客の中には端から制覇していく人もいる。他にも焼菓子やチョコレートなどが並ぶ。コーヒーは2、3年自然乾燥させて十分に枯らした豆を適度に倍煎し、ネルドリップで落とす。時間はかかるがその分味に深みが増す。カップもリチャードジノリを使うなど、こだわりが見られる。ブレンドは2種類、苦みが強いものとマイルドなものから好みで選べる。実際にいただいてみたが、滑らかな口当たりと後味がすっきりしているのが印象的だった。「豆の倍煎の状態と、ネルドリップで丁寧にいれること、そして落とす人の気持ちの三要素が合わさって美味しいコーヒーがはいる。だから1回1回味が違う。そこがまたおもしろい」と小池さん。漆喰を白く塗った壁とむくの木を使い、暖かい色合いを演出。クラシックが流れ、程よく照明の落とされた店内でお茶を飲みながらくつろいでいると、それだけで日常生活のゴタゴタを忘れられる。ゆったりとして落ち着いた雰囲気作りには、「お客様に心豊かになっていただければ」、という気持ちが込められている。小池さんは「カナールとは、フランス語であひるのこと。誰でも知っている、誰でも気軽に楽しめるという意味がある。戸塚という庶民的な町で普段着で気軽に入れる、しかも気持ちと提供するものは一流。そのまま都心に出ていっても恥ずかしくない店作りをしている」という。そこにこの店が戸塚の人々から愛され続ける理由を感じた。学生編集委員(白金通信1999年3月号)