大都市東京に、時代を止めたオアシスが思いもよらない一角に存在する。それは、浜離宮恩賜庭園である。新橋駅から徒歩15分。朝日新聞社行きの都営バスでも行ける。入場者の年齢層も幅広く、万人問わず親しまれている。当初は、徳川将軍の別宅として造られた代表的な大名庭園回遊式潮入り築山泉水庭園だ。潮入の池と2つの鴨場を特色としてもつ。潮入の池とは、海水を導き湖の満ち干により池の趣を変えるもので、海辺の庭園で通常用いられていた様式だ。江戸に遷都されてからの幕府の絢爛ぶりが伺える。明治維新後、皇室の離宮となり、「浜離宮」と称される。1945年(昭20)11月に東京都に下賜され、翌年4月から一般に公開されるようになった。門を入ると樹齢300年の松がある。六代将軍家宣が大改修時に植えたと伝えられる都内では最大級の黒松。木の幹がずっしりと太く、力強い。巨大な松の木に圧倒されながら少し歩いていくと、花壇が目に入る。訪れたとき(3月)にはボタンが植えられていた。庭園では四季折々の花を楽しむことができ、春にはソメイヨシノ、オドリコソウ、サトザクラ、フジ、夏にはハナショウブ、アジサイ、サルスベリ、キキョウ、秋にはコスモス、ヒガンバナ、ミヤギノハギ、イロハモミジ、コギク、冬には、ウメ、ニホンスイセン、などが見られる。将軍の娯楽施設で使用されていた鴨場(新銭座鴨場と庚甲堂鴨場)の跡地などもある。鴨場とは、鴨猟をする場所で、1944年(昭19)まで使用されていた。情景は、湖に浮かぶ小さな森のようで、その周辺にはひっそり狩猟小屋が存在する。中に入ると、直径3cmの穴を見つけ、覗いてみると鴨は1羽もいない。バタバタと鳥の羽ばたく音に誘われ、歩いていくと中島の御茶屋を囲む一帯に出くわす。広大な池の中央にあるその御茶屋から眺める景色は実に美しく、季節を奏でることも趣深い。また、その御茶屋と岸とを結ぶ橋の造りも凝っていて、渡る試みに胸が弾む。中島の御茶屋を囲む潮入の池は、都内湯唯一海水の池である。先ほどの鴨はここにいたようだ。鴨の種類は、カルガモ、マガモ、ハシビロガモ、オナガガモなどがある。鴨たちが飛び立つ方向へ視線を向けると、所々で背の高いビルが見える。外観は、まるでNYのセントラルパークを彷彿させる佇まいである。雑然としたビルの群れに、慌しい現実を感じさせられる。一方で、人々が忘れかけてゆく時の流れ、スローをひっそりと知らしめている。再開発の進む現代都市は、時代を先へと見つづけている。しかし、郷愁の気持ちに駆られたら、足を運んでみてはどうだろうか。御茶屋で一服するひと時、抹茶と和菓子を堪能し、心を和ませる。沢山の深緑、飛び交う鳥、和を多角的に示唆させるような庭園の構成、時として青い空。まさに都会のオアシスである。学生編集委員(白金通信2003年6月号)