風薫る5月のよく晴れた日、私は白金校舎の隣りにある「八芳園」を訪れた。ここは江戸初期の「天下のご意見番」大久保彦左衛門の老居の地であった。86歳で没した彼の住居は、徳川幕府の屋敷規制もあり、その後の居住者にさまざまな変遷がみられる。明治に入ると渋沢喜作氏の住まいとなり、大正4年には財政界の巨峰、久原房之助氏が別荘としてこの地を手に入れた。以来、敷地を12,000坪に拡張すると共に、贅を尽くして庭園の整備を行った。こうして誕生したのが八芳園である。正門をくぐるとすぐに目に入るのが壺中庵で、久原氏の屋敷であった当時の面影をそのままに残す趣ある建物だ。そこは少し小高くなっていて、庭全体を見渡すことができる。ほかにも茶室や神社、チャペルなど、それぞれに味のある建物が点在している。池や滝、盆栽や仏塔などもあり、建物とあいまってさまざまな表情を形作っている。庭の表情を形成しているものでもう1つ忘れてはならないもの、それは自然である。5月は木々の若々しい緑と、つつじの鮮やかな花の色のコントラストが見事である。八芳園という名前は「四方八方どこを見ても美しい」ことに由来している。その名にふさわしく春は桜初夏にはつつじやさつき、秋は月と紅葉、冬は雪景色や渡り鳥と、四季折々にその美しさを表している。訪れる人のほとんどが結婚式場の利用者で、学生が気軽に利用できる場所として、本館ロビーにカフェがある。ここは外観がとてもユニークだ。ロビーとの仕切りはブビンガーという柱を使用し、カフェの中から見るとまるで自分が大きな鳥かごのなかにいるような錯覚をおこす。庭に面したオープンカフェなので、天気のいい日には日の光を浴びながらお茶をするのもよい。またライトアップされた庭を眺めながら、いつもと少し違った雰囲気での夕食もいいだろう。6月1日からはビアテラスになり、サークルやゼミの仲間と出掛けてみるのもお勧めだ。八芳園は、私たちに季節の移り変わりを、自然を通して目や肌で実感させてくれる場である。自然の変化やその醍醐味を楽しんでみてはどうだろうか。学生編集委員(白金通信2000年6月号)
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