地下鉄高輪台駅白金台口を出て4分ほど歩くと、畠山記念館がある。かつては薩摩藩島津家の屋敷であったこの地を、株式会社荏原製作所の創立者畠山一清氏が購入し、昭和39年に畠山記念館を設立した。館内は、日本趣味に造詣の深かった畠山氏が長年にわたって収集した古美術品が展示されており、茶道具の名品を軸に能面や能装束など国宝、重要文化財、重要美術品を含む一大コレクションが形づくられている。城をイメージさせるような白い壁と厚い木でできた門をくぐると、大きな木々に囲まれて石畳の小道が続いている。小道からは池や茶室が垣間見え、庭内は都会の喧騒から離れた静かな空間を作り出している。小道を進むと畠山記念館建物の入り口がある。畠山氏自身の設計による建物は、現代建築と書院造りの調和した建物で、近代的でありながらもどっしりとした古さを感じさせる外観である。建物そのものの観賞もぜひお勧めしたい。2階の展示室へ上がると、そこには大小いくつかのガラスケースがあり美術品が行儀よく並べられている。また四畳半の茶室が設けられており、流れる水の音を聞きながら落ち着いた雰囲気の中で観賞することができる。一過性のものではなくまた来たいと思ってほしいという思いから年四回の企画展示をしており、12月15日までは特別展示「茶碗ー一碗に込められた想いー」を開催。6点の重要文化財、4点の重要美術品を含む四七点の茶碗や掛け軸が展示されている。織田信長や千利休がかつて所有していたという茶碗も観賞することができる。茶道具の魅力は取り合わせの妙にあるという。お茶会において、茶碗や茶入れ、掛け軸などの組み合わせを楽しむと同時に、お迎えするお客様との出会いや人間関係を大切にしようという先人たちの想いがこめられた茶道具には、なんともいえない重みを感じた。時の権力者や天上人のみしか見られなかったもの、触れられなかったものを私たちは容易に観賞することができる。それは今に生きる者の特権ではないだろうか。拝観者は年に約二万人。展示するテーマによって多少異なるが、やはり中心は茶道をたしなむ人、陶磁器をつくる人であるとのこと。学生の数は少ないようだ。しかし、「学生時代はスポンジのようなもの、学部や学科にとらわれず、いろいろなものに目を向けて、いいものをどんどん吸収していってほしい」と学芸員の水田至摩子さんはおっしゃった。古美術品や茶道具と聞くと、敷居の高いイメージをもつ人が多いだろう。けれども一つ一つのものには日本人の歴史と深い関係があり、先人たちの持っていた価値観や人と人とのつながりを感じとることができる。現代の社会は新しいものに価値が置かれ、古いものにはあまり目が向けられなくなってきている。使い捨てのものが氾濫し、1つのものをじっくりと使い続けるということが少なくなった今だからこそ、一碗を通した人々の心の交流に触れるひとときが私たちには必要なのではないだろうか。学生編集委員(白金通信1999年12月号)
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/index.html