場所紹介シリーズ新連載。第1回は「東京都近代文学博物館」の紹介だが、ここは何だか妙なところなのだ。京王井の頭線「駒場東大前」駅から、博物館に併設している駒場公園まで歩いて10分、道程の住宅もやたら豪奢である。だが博物館は、それらを見なれた目にも、森の中に突如として出現する御伽ばなしのお城のようだ。ドアが大きく取っ手が高く、天井には粋を凝らしたシャンデリア、案内の見取り図をみれば「サロン」などと書いてある。まったくの異空間に、私などため息が出た。気を取り直して、開催中の「漱石・『白樺』・近代俳句」展を見てみる。だがこの展示品の数々もなにやら不可解なのだ。 例えば「白樺」の展示品として、武者小路実篤の原稿や書簡が陳列されている。白樺派代表作家、武者小路−それはいい。だがその隣りにロダンの彫刻の写真があるのは何故だ。そのまた隣りにはビアズリーの絵が。「…突飛だ…」誰にこの関連性が楽しめるのだろう。「その方面に詳しい人にはたまらないんじゃあない?」と同行した編集者Rがいう。そうか。突飛に感じるのは私が詳しくないからか。そもそも読書は好んでも、日本史で習う程度の知識もない私などが来るべきところではなかったのか?などと思わないためかどうか知らないが、この博物館では展示に関する文学講座を開講している。展示品の突飛さに妙味を感じるもよし、これを機会に自分の知らない世界に足をふみ入れるのもよし。次回のテーマは「文学のある風景・東京 - 明治 - 」で(1998年)4月21日から。文学講座は(1998年)5月23日予定。学生編集委員(白金通信1998年4月号)