目黒駅西口を出て権之助坂を下り、大鳥神社を過ぎると、左に見えてくるピンク色の建物が目黒寄生虫館である。外観は何の変哲もない普通のビルなのだが、中身は世界でたった1 つの寄生虫専門の研究機関と博物館である。標本数は45000点、文献・図書数は56000点にものぼり、1・2階を展示室として常時一般に公開している。ホルマリンづけの標本や写真は勿論のこと、日本の寄生虫分布が一目で分かるパネルから寄生虫に寄生されない日々の心得まで、とにかくここにくれば寄生虫のことは何でも分かりそうだ。中でも一番目を引くのは、全長8.8メートルのサナダムシの標本である。この紐のようなものが人体の中から出てきたというのだから、全く驚きである。勿論寄生虫に関する本も自由に閲覧することができる。11月29日まで特別展示「ミンククジラの寄生虫」を開催。水槽に浸かった一抱えもあるクジラの巨大な胃袋にびっしりと寄生しているアニサキスは迫力満点である。目黒寄生虫館は1953年、寄生虫の研究と啓蒙活動のために、医学博士の亀谷了氏によって設立された。開館当時の日本はまだ衛生状態が悪く、寄生虫に寄生されている人もたくさんいたという。始めは説明も研究員達の手書きだったそうだ。館長の亀谷俊也氏(当時)によれば、人間を宿主とする寄生虫に寄生されてもそれほど危険はないが、本来は別の生き物に寄生すべきものが人体に入ってしまった場合には激しい腹痛などが起こるという。私たちに説明をしてくださっていると、周りに人だかりができて、さまざまな質問が飛び交い、来館者が強い関心を持っていることが分かった。新聞や雑誌で紹介された上に入場無料ということもあって、来館者は圧倒的に怖いもの見たさでやってくる若者のカップルが多い。ホルマリンづけの標本を前に「うっわあ」「何これ、気持ちワル」などと口々に言っているのだが、表情は意外と真剣。熱心に解説を読んでいたりする。亀谷氏は、最初はデートスポットとして館を紹介されることにあまり良い気持ちがしなかったというが、今では来館の目的は何であれ知識を得て帰っていくのだから、とプラスに考えているようだ。学生編集委員(白金通信1998年10月号)