目黒駅を出て徒歩3分、行人坂を下ると華麗な時間が流れる場所がある。その名は目黒雅叙園だ。社名の由来は中国の言葉「文雅叙情」−著名人が1日居ても飽きずに優雅に過ごせること−からきていると言う。学生にとっては「宴会場・結婚式場」というイメージが強く、近寄りがたい所かもしれないが、実際にはカフェや美術館も併設されており、豪華絢爛な館内を散策するだけでも10分に楽しむことができる。エントランスから歩いていくと長い回廊が続き、壁面・天井には秘蔵の彩色木彫板や絵画が飾られていて、日常とは切り離された「和の贅沢な空間」であることを実感できる。館内のいたるところにある日本絵画・漆・縲鈿細工などは、創業当時のものを10年前のリニューアル時に移築したもので、70年の歴史を持っている。木彫板は一枚の木板から造られたため、所々にひびがはいっていて、その歴史の深さがうかがわれる。さらに奥に進むとアトリウムガーデンにたどり着く。外には滝が流れ、アトリウム内は日本庭園が作られている。夜になると天井には天の川が現れるそうだ。雅叙園の歴史は、創業者である細川力蔵が1931年に現在の地に本格的な北京料理と日本料理の料亭を開いたことに始まる。当時の料亭は一部の特権階級の人達のみが利用する所であったが、タクシーでの送迎やメニューに価格を入れるなど当時では画期的なシステムを取り入れ、料亭の大衆化を目指した。中国料理のターンテーブルも中国からの輸入品ではなく、細川力蔵の発明によるものだと言う。これは全員が平等にセルフサービスで食事できるように、と考案された。「幅広い方々に優雅なひと時を過ごして欲しい」という経営方針が最も表れているのが、1階にある豪華なお手洗いである。壁面・天井には、宴会場と同じ雰囲気の花鳥画・美人画・漆工芸などが飾られ、居心地のよい空間が作り出されている。細川力蔵の「お手洗いは来園したお客様が宴席の最後にやっと1人になってくつろぐ場所なのだから、1日お大尽の夢が醒めないように」との配慮から、開業当時から凝った造りになっていたと言う。その想いを継承し、リニューアルの際にさらに改良して旧雅叙園のお手洗いを再現したそうだ。日本初の総合結婚式場ということもあって、ここの宴会場はどこもすばらしい。圧巻なのは、四階にある和室宴会場だ。壁・天井・柱にまで創業当時の貴重な美術工芸品が移築されている。宴会がないときは見学自由なので、ぜひ足を運んでもらいたい。また旧目黒雅叙園の風情をそのまま残した保存建築は年3回のみの限定公開となっている。昭和初期の風情がそのまま残っているので、当時の建築について学ぶには大変勉強になるにちがいない。非日常な空間を提供している場は数多くあるが、目黒雅叙園ほど、日本的な表現で最高の贅沢を感じさせる場は他にないだろう。創業者のこだわりが確実に現代に受け継がれているのがよくわかる。21世紀もこの貴重な空間を守りつづけて欲しいと心から願わずにはいられなかった。学生編集委員 (白金通信2001年2月号)
http://www.megurogajoen.co.jp/