芸術と深く関係するもの、それは時代である。芸術表現にはほとんどの場合時代が反映される。今日まで人々を魅了し続ける歴史のある芸術作品も、その作家が生きていた「現代」の中に生まれてきた。私たちが生きている「現代」がうみだす表現とはどんなものなのだろうか。この疑問にヒントを与えてくれるのが、江東区木場にある東京都現代美術館である。東京都現代美術館は現代の芸術表現を体系的に扱うことを目的として1995年に開館した。都立木場公園の中に位置するこの美術館は、まさしく時代を象徴するような外観を持ちながら、それでいて周囲から浮き立つこともなく存在感を放っている。この建物の特徴であるエントランスホールヘ一歩足を踏み入れると、予想していたよりも広い空間が目の前に現れ、その縦長の造りは回廊を思わせる。来館者はここから展示室ヘエスカレーターで移動する事になる。ここの特色は、上野の東京都美術館から引き継いだ作品を含む、約3600点を活用した常設展を見てみるとわかりやすい。収蔵品は油彩や版画、立体などさまざまな分野におよび、現代美術の広範囲ぶりをうかがわせている。常設展示替は年4回おこなわれるが、ポップアートの巨匠リキテンシユタインの「ヘア・リボンの少女」は、ほぼ常時見ることができる。企画展は年に5回から6回程行われている。最近では7月初めまで開催されていた荒木経惟展・草間彌生展に訪れた人も多いのではないだろうか。昨年からは「MOTアニュアル」と題する、現役若手作家を集めた年次展も開催しており、現代アーティストたちに活躍の場を提供している。美術館は、今や単なる作品観賞をする場所というだけでなく、美術情報の発信源として機能するようになってきている。東京都現代美術館も映像ギャラリーや美術図書室といった施設を備え、古いものから近い将来のものまで幅広い情報を手にすることができる。特に、美術図書室の蔵書は充実していて、美術図書約8万2千、雑誌のタイトル約3千と、眺めているだけで時間が過ぎてしまいそうなぐらいである。美術展を見る、図書室で本を眺める、映像を楽しむ、講座に参加して解説を聞く。美術館での時間の過ごし方は人それぞれであろう。よく、「現代美術はわからない」という声を耳にするが、現代美術に限らず作品に込められた意図は、極端に言えば作者にしかわからないものである。ただ単純に好きだとか嫌いだとか、心地よいとか不快だとか、そういう感情が起こることだけで、美術に触れる意味があるのではないか。現代美術は特に好き嫌いが分かれる分野である。それは逆に自分自身の再発見へとつながるという意味でもある。現代において鈍った自分自身の感覚を取り戻すには、同じ現代から生み出された表現が一番の刺激となってくれる。建物の外観からは想像しづらいが、意外にも居心地の良いこの美術館で肩の力を抜いた自分なりの時間を過ごしてみてはどうだろうか。学生編集委員(白金通信1999年8月号)
http://www.mot-art-museum.jp/