自然には、人智を超えた「癒し」の力がそなわっているのをご存知だろうか。南北線「白金台駅」から3つ目、武蔵小山駅から徒歩10分、住宅街にある「林試の森公園」に一歩足を踏み入れると、そこには様々な種類の巨樹が茂っている。ここは、元は林業試験場であった。1900年6月、当時の農商務省林野整理局が、「目黒試験苗圃」と名付け、国内外の樹木の養成、風土の適否に関する試験などを行っていた。その後「林業試験場」に名称を変更し、営々として使用されていた。しかし、1978年に筑波に移転し、1989年から、その跡地を公園として開園している。公園内には、樹齢100年以上のケヤキや、クスノキなどの巨樹、杜仲茶で知られているトチュウなど60種の外国産樹木がある。また絶滅危惧種のハナガカシや紅葉の美しいアメリカトネリコなどの珍しい樹木も見られる。広場でスポーツをしている若者や、犬の散歩をしている人、夏にはジャブジャブ池で遊ぶ子どもなど、様々な人がこの公園を利用している。ボランティア組織の「友の会」では、隔月で樹木観察が行われている。誰でも参加できるため、遠方から来る人もいる。また年に2回程、森のコンサートが催され、広場が大勢の観客で埋まるという。今では、静かな公園内だが、明治時代にはキツネが沢山いたり、昭和初期には2匹の巨大な蛇が住みついていた。その蛇は、体長7メートルというからちょっと想像できない。「この場所は生きた文化財だから、公園にするのが一番よかったのかな」と管理員の藤野さんは言われた。都会の中の森を歩きながら、紅葉を楽しんでみてはどうだろうか。そして「林試の森公園」から徒歩3分のところに、チベット密教法界や砂曼荼羅などの貴重な美術品に出会える「安養院美術館」がある。館内に入ると、薄暗く、アジア風の音楽が聞こえてくる。北インドチベット仏教美術品を中心に、曼荼羅やタンカ、仏像などが並んでいる。それらの仏像の顔は、チベットやモンゴル、中国など地域によって異なり、各々の民族性が表れている。そもそも、河口慧海氏の「チベット旅行記」を臥龍山安養院の先代の住職、浦田道暢氏が読まれ、日本では研究の遅れているチベット仏教の誤解を解くため美術品を収集していったのがきっかけだという。密教は書物に書かず、口伝えで師匠から弟子に伝えられたので、しばしば誤解された解釈をされることがあった。美術品は、約40年前からチベットの僧から譲ってもらっていた物である。百種類程並んでいる仏像は、花の様な形のものや獣の顔をしているものなど独特な雰囲気を醸しだしている。これらの仏像の表現は、それぞれに深い意味を持っており、私達は、それらから独自の思想を感じることができ、また、私達に、人間の心の真理を語りかけているのではないだろうか。来館者は、意外にも20代の若者が多いという。確かに、ここでは日常を絶ちきって、不思議な空間を体験することができる。学生編集委員(白金通信2000年11月号)
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/outline003.html