東急線・JR線の目黒駅を西口方面に降りて歩くこと5分、ドレメ通りという閑静な通りに杉野学園衣裳博物館は在る。この博物館は1957年に日本で初めての服飾博物館として開館した。戦後に洋裁を学びたいという人々の要望にこたえ「視覚の教育」という観点から建てられたそうだ。余談だが、博物館の入り口付近にある古びた塔は「徳川家由来の塔」で、高橋是清と息子の是賢氏の邸内で愛好していたものと言われている。来館者の中にはこの塔を目当てで訪れる人もいるそうだ。入場料200円(一般)を払い博物館の中に入る。展示物は1階から4階まであり、西洋歴史衣裳、民族衣装、日本衣裳、服飾関連資料と大きく4つに分かれている。ここの展示の仕方には特徴があり、四方から眺めることができる「島状展示」という手法を一部に用いている。これはとても好評で、洋服に詳しい来館者などはドレスの後ろなど普通の展示では見ることのできなかった部分を興味深く見て満足して帰るそうだ。まず展示内容のメインとなるのが西洋歴史衣裳コーナである。この展示物の多くは創設者の故杉野夫妻が欧米諸国を訪れたときに収集したものである。西洋の衣服は14 - 15世紀の物から再現されており、16世紀頃から始まるコルセットによるウエストが細身なシルエットから18世紀末には古代ギリシア風のシンプルなデザインに変わっていくといった流れが掴めるように工夫されている。そのほか日本にはじめて入って来た鹿鳴館スタイルと呼ばれるものや昭憲皇太后の着用されたワンピースドレスもある。民族衣裳コーナでは大使館から寄贈されたものなども含まれ、台湾先住民族タイヤル族、カンボジアの踊り子、アイヌなどの民族服があり、その地域独特の素材、刺繍などを見比べることができ面白い。日本衣裳コーナでは「十二単」、「束帯」などがある。なかでも「十二単」が着付けてある展示はとても珍しくこの博物館の見所の1つとなっている。服飾関連資料の中には扇、パラソル、珍しいところでは靴下などがある。19世紀のヨーロッパの靴下は今と違い伸縮性があまりなかったため足の形に合わせて編成され作られている。よく見ると細かく丁寧に細工が施してあり、外観には表れにくい細部にまで気を使っていた近代ヨーロッパの人々のファッションへのこだわりが感じられる。さて展示物だけでは飽き足りない人にはAV資料が用意されている。「フォルチュニイ展」、「江戸の結髪」、その服装に関するものなどが30タイトル近く揃っている。この博物館は平日と土曜の午前10時から午後4時という時間帯での開館のためか人でいっぱいになることは稀なので、ゆっくりと長椅子に腰掛けながら鑑賞することもできるだろう。また目黒駅付近にはこのほかにも目黒美術館、久米美術館をはじめとする多くの文化施設が点在している。これらを周遊して見て回ることも面白いだろう。学生編集委員(白金通信2001年7月号)
http://www.costumemuseum.jp/