恵比寿ガーデンプレイスというと、ショッピングや食事ができるオシャレなデートスポットというイメージがあるが、その中の一角に「東京都写真美術館」がある。買い物や映画を見るためにここによく来るが、美術館には入ったことがないという人も多くいるのではないだろうか。 この美術館は、日本で初めての写真と映像に関する総合的な専門美術館であり、展覧会を行う三つの展示室と写真・映像に関する専門図書館や多目的ホール、二つのアトリエを備えている。 地下一階にある映像展示室では「イメージという魔術」と題した展覧会を開催していた。中に入ると、薄暗く、ここが美術館であるということを忘れるくらい神秘的な雰囲気があった。 三階の常設展示室では「視線の回廊」と題した常設展が「仮想庭園」をキーワードに行われていた。ここに展示されているものは、海外のごつごつとした山々や、荒々しい海などの写真であり、西洋と東洋の風景に投影された意識や感性の差異や、風景にまつわる写真表現の変遷を見ることができる。 この美術館で注目されるところは、美術館を楽しく活気のある場所にするために、教育普及活動も専門性を生かして行なっているところである。「CG連続ワークショップ」と題して、コンピュータグラフィックスについての講演会やディスカッションを行うものや、写真の歴史をいろいろな角度から深く掘り下げていく「セミナーワークショップ」など、写真・映像に関して毎回違うテーマで行われている。 テーマは少々専門的であっても知識をもっていない一般人でも気軽に参加することができる内容となっている。土地柄のせいか20代から30代の参加者が多く、なかにはデザイナーや編集者といった人も参加している。ワークショップに参加したことをきっかけに、写真の専門学校に入学した人もいるという。 どの講座も反響は良く、2から3倍、人気のあるものは10倍もの倍率になる抽選で受講者を決めている。 中でも最も興味深いものが〈Self―自己探検隊がゆく〉という講座である。ひとつのテーマ「セルフ(自己)」に沿って、日常的な事柄を写真とは直接関係のない分野からのアプローチを行い、他者や社会との関わりを見詰め直そうとするのである。レクチャーとディスカッションで構成され、感じたり、考えたことをその場で写真や映像で表現することもある。ここでは一度就職して社会に出たものの、自己がわからなくなった人や自己を考える機会を求める人達が多く参加している。 いろいろな情報に流されて、個性がつぶされていく時代に、自己について真剣に考えて生きていく人はそんなに多くはいないだろう。ましてや社会に出てしまえば、そのようなことを考える暇もないくらいに忙しい生活が待ってもいるだろう。自己についてのディスカッションや表現ができるこのワークショップはそんな中でとても貴重な機会をあたえてくれると思える。 学生編集委員(白金通信1998年12月号)
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