「能楽」と一言聞くと何を感じるだろう。日本を代表する伝統芸能、堅苦しくて重苦しい、難しくて格式が高い、決まりや作法が多い・・・。まあそんなところかもしれない。しかし、今その「能楽」は新しい道を歩んでいる。 桜木町駅から徒歩15分。紅葉坂をのぼり、右手の路地に入る。今まで車が通っていたとは思えない静けさを感じる。銀杏の木々が立ち並び、落ち葉を楽しみながら歩いていくと、掃部山(かもんやま)公園が見える。その公園の一隅に横浜能楽堂がある。 横浜能楽堂の本舞台は明治8年、東京・根岸の旧加賀藩主・前田斉泰邸に建築された。後に東京・染井の松平頼寿邸に移築され、昭和40年まで「染井の能舞台」と呼ばれ親しまれてきた。解体された部材が横浜市に寄贈され、平成8年に横浜能楽堂として蘇った。 「敷居の低い能楽堂」。これが横浜能楽堂のテーマである。「能とは基本的に楽しむものです。各個人の見方があり、幅広く見て欲しい。古典芸能といった高級なイメージが頭にあるだろうけど、能とは感性で見るものなのです。見るからといってわざわざ勉強して、一生懸命理解しようとする必要はないのです」と管理係長の中村さんは言われた。 なるほどと思う。見たままをその人個人で楽しんでもらえればいい、花を楽しむように能もそれと変わらないという事である。そのためにこの横浜能楽堂は、毎回趣向を凝らしている。 誰もが楽しんでもらうには、お客のニーズに合わせる「しかけ」が必要である。例えば、開演時間を変えてみる。午後2時位から開演すると年配の方が多い能楽堂も、年齢層がガラリと変わる。 子育てに追われる主婦を対象にし、午前中に行われる「ブランチ能」では会場の半数以上は主婦で埋まる。サラリーマンやOLなど、平日の会社帰りに時間帯をあわせて開演する「イブニング能」には学生も来るという。中には小・中学生を対象にしたイベントもある。老いも若きも関係ない。色々な楽しみがある。 障害のある人たちにも能を楽しんで欲しいことからうまれた「バリアフリー能」がある。障害を持つ人が見るためのハンデをなくすことで楽しんでもらおうという企画である。車椅子用のトイレやエレベーターはもちろんこと、視覚障害者には携帯用イヤホンで出演者の容姿や動きを音声で説明したり、凹凸のついた舞台の平面図を配り点字の解説をいれたりもした。 障害者1人につき、介助者1人を無料にするなど、健常者と共に楽しんでほしいという能楽堂の姿勢は、満員の会場の4割が健常者という結果にあらわれている。 入場料も2500円位からである。高くはない値段だ。能楽堂の座席は正面、中正面、脇正面、2階がある。座席全体はゆったりとしており、何より舞台の屋根を支える柱が他と比べると細身で、どの位置に座っても見えやすいようにと、配置されている。 ここでのんびりと能楽にひたってみるのも悪くないかもしれない。 学生編集委員(白金通信2000年12月号)
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