しかしそれはさておき、やはりこの秋は誰が何と言おうとも塩川伸明『現存した社会主義 リヴァイアサンの素顔』(勁草書房)である。まだ半分も読んでいないが、20世紀社会主義論の決定版、必読の入門教科書として読み継がれることだろうことは断言できる。と言うか、社会主義体制の歴史的意味の考察を通じて20世紀そのものを総括する書物として、本書はたった1冊(とはいえ600頁を超える大冊だが)で東京大学社会科学研究所編『20世紀システム』全6巻(東京大学出版会)を軽く凌ぐ迫力を持っている。
塩川氏の高い見識については既にここでも簡単に紹介した。後知恵にすぎない「崩壊必然論」と「真の社会主義」の幻を追う「未練論」をともに断ち切り、「かつて確かに社会主義は圧倒的なリアリティをもってそこにあり、簡単に崩壊するとは誰も思っていなかった」という事実の重みから目を背けず、そして何より「その晩期においては社会主義の欠陥はその体制内においても明らかになっており、その克服の試みがなされていたのに、なぜ緩やかな改革ではなくカタストロフが起きてしまったのか」という問いを手放さない氏の議論は、実証史家としての確かな足腰と社会科学全般を見渡す広い視野に支えられ、その鋭さと説得力において他の追随を許さない。文章、構成とも平明でわかりやすく組み立てられていて、残る問題はお値段だけだが、この重厚さからすれば仕方がない、むしろリーズナブルとも言える。