2001年10月

10月24日

 小島寛之『サイバー経済学』(集英社新書)は、少し前に出た(金子勝の理論経済学上のブレーンらしい)竹田茂夫『信用と信頼の経済学』(NHKブックス)と同じテーマを扱っているが、こっちのほうがずっと面白い。ベイズ統計学の考え方を軸に金融工学について簡単な啓蒙的解説を行い、それを踏まえて現代金融の基本問題に切り込んでいる。今年度ノーベル賞受賞対象となったアカロフらの「情報の非対称性」分析や、小野善康の貨幣経済論など、ミクロ的基礎付ケインズ経済学についての入門的解説(いわゆる「合成の誤謬」の一例として「みんなが最適ポートフォリオを組むとちっとも最適じゃなくなる」という指摘には目から鱗が落ちた)などの理論的部分も、また先物取引やデリバティブなど現実の金融経済についての説明も、面白くてためになる。
 数学エッセイストとして知られていた著者だが、市民講座で宇沢弘文の薫陶を受けて東大経済の院に入り、職業的経済学者として再スタートした。あとがきにある指導教官だった故石川経夫とのエピソードが泣かせる。
 それにしても、石川経夫については悪い話をまったく聞かない。「彼こそは東大経済学部の「良心」であり、彼の死後、東大経済からは「恥」の概念が消えてしまった」までと某スタッフは述懐していた。

 桝山寛『テレビゲーム文化論 インタラクティブ・メディアのゆくえ(講談社現代新書)は類書を抜く出来栄え。帯の惹句「テレビゲームはロボットである」で「やられた」と思ったが案の定極めて正しい本であった。細かいところに多々難はあるが、全体としては地道に基本を押さえた上で、単なる駄法螺ではない大きな展望を出している好著。ゲームについてきちんと考えたい人にも、トレンドについていくためきいたふうな口を利きたいだけの人にもお勧め。

 芹沢一也『〈法>から解放される権力 犯罪、狂気、貧困、そして大正デモクラシー(新曜社)は、フーコー権力論を日本近代史に適用した成果。こういう仕事は初めてではないが、比較的目配りもまとまりもよいので、お勉強になるよい本。ただし、大正期を「近代」から「現代」への転換期とみなしていろいろほじくる研究はこれまでもたくさんあり、それなりの成果も上がっているはずなんだが、そうした先行研究とのつながりが門外漢たる私にはいまいちよくわからない。「大正デモクラシー」に潜在するやばさ、それが昭和ファシズムへの準備をなしていた、という指摘自体はそんなに独創的なものではないし、逆に昭和期をそうやって矮小化すること自体への批判がたとえば米谷匡史「戦時期日本の社会思想」(『思想』97年10月号)とか、あるいは前に紹介した坂野潤治『日本政治「失敗」の研究』(光芒社)によって提起されていたのでは、とかいろいろ考える。

10月2日(4日修正)

 とりいそぎ紹介。鈴村興太郎・後藤玲子『アマルティア・セン 経済学と倫理学(実教出版)はこれ以上はないという著者(鈴村はセンと並ぶ社会的選択理論の第一人者であり、後藤はロールズを中心とする正義論研究者)によるセン理論の概説書。センによる驚異的に簡明なアロウの不可能性定理の証明の紹介もある。長らく産業政策論に力を注いでいた鈴村が本格的に社会的選択理論に戻ってきたことも朗報である。
 山内志朗『ぎりぎり合格への論文マニュアル』(平凡社新書)は掛け値なしの名著、ゼミ生には全員買わせる。これさえあれば他の「論文・レポートの書き方」本はもういらない。

2001年9月

9月17日

 今回の事件について考えるための基礎固めとして。現代世界におけるテロリズムとは何か、を考えるための必読書として加藤朗『現代戦争論』(中公新書)を。来るべき武力衝突の性質を見極めるためには中村好寿『軍事革命(RMA)』(中公新書))を。 

インタラクティヴ読書ノート・別館

インタラクティヴ読書ノート・本館

ホームページへ戻る