2002年4月

4月25日

 石原英樹・金井雅之『進化的意思決定』(朝倉書店)進化ゲーム理論研究会最初の成果、と言ってよいか? 若手数理社会学者による、格好の進化ゲーム理論のテキスト。経済学・ゲーム理論プロパー外の、数理的な理論展開になれていない読者にとっては、かゆいところに手がとどく構成。と言っても、数学を使わない、わけではない。伝統的なゲーム理論の基礎知識も、ないよりはあった方がいい。要するに、普通のゲーム理論の研究者があまりこだわらないところ、初歩的かつ原理的な疑問に丁寧に答えているのだ。「合理性」と「進化」の概念を明確に定義して区別したり、伝統的ゲーム理論を「先読み型ゲーム理論」と名づけて進化ゲーム理論との区別を明快にしたり、といった細かい仕事を評価したい。
 ところで、かつて著者の片割れ石原君に「『進化的意思決定』なんて言葉あるの?」と聞いたら、「いやーないでしょう」とのお答えでした。ハイ。

 小田中直樹『経済学史講義ノート』。これだけじゃ使えませんね。リーディング・リストをつけよう。あと、暇な人がいたら図を作ってgifかjpgで送っていただけませんか。(図については、小田中君には期待してません。原図が見つかって、誰かにスキャナを借りられたら別ですが。)

4月23日

 ジョルジョ・アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの アルシーヴと証人(上村忠男・広石正和訳、月曜社)を今ごろ読む。やばい。また自己批判のネタが。

4月19日

 矢作俊彦『あ・じゃ・ぱ!~』を近頃やけにブックオフでみるなと思ったら、版元を某佐藤亜紀と喧嘩したS社から、なぜかあいかたを藤原カムイに換えて『気分はもう戦争2』連載中の、いまや到底少年誌ではない某少年誌出版元に変更して新装版が出ていたのである。
 しかし、福田和也があとがきかいとるにもかかわらず、福田が『作家の値うち』でご要望だったはずの「註」がついとらん。その理由はその筋によるとただ単に関係者の怠慢のせいだそうな(あえて「関係者」とは誰かは言うまい)。
 それにしても読み始めるととまりません。福田和也えらい。じゃなくて。偽戦後史、ことに分断国家日本を描いた小説は皆無ではないが、言うに足るものは少ない。結局のところ本書の他に読むに耐えるのは佐藤亜紀『戦争の法』(某S社、絶版)くらいだろうが、こちらはどちらかというと小品だしなあ。

 アイリス・マードック『野ばら』(サンリオ、絶版)を戸塚駅前の古本屋で拾う。マードックって今単行本・文庫では手に入らない(古本では結構どうにかなるが)。どういうこっちゃ。この間は『集英社版世界の文学 パヴェーゼ』を区役所の交換コーナーで文字通り拾いました。文学に親しんでます。しかし今思うと『集英社版世界の文学』はいいですね。『ギャラリー世界の文学』に引き継がれてない作品も結構あるのだ。あと中公の『新集世界の文学』も変なものが多くていいのだ。

 守中高明『シスター・アンティゴネーの暦のない墓』(思潮社)より。

 将棋面貴巳『反「暴君」の思想史』(平凡社新書)、ヨーロッパの暴君放伐論と日本の諫言の思想を比較し、後者の限界を指摘する。なかなか面白い。が、暴君放伐論の基本文献の邦訳って最近何か出てなかったっけ? 

4月18日

 タブッキ『ダマセーノ』より。

 思わず知らず笑いがもれる。と同時に粛然とする。

 喜多村和之『大学は生まれ変われるか』(中公新書)で紹介されていたホセ・オルテガ・イ・ガセット『大学の使命』(井上正訳、玉川大学出版部)を読み、頭を抱える。『大衆の反逆』はこれとあわせて読まないと読み間違える。必読の教養論である。

 『事典 哲学の木』だが、柏端達也「スーパービーニエンス」(ふつう「附随性」とか「随伴性」と訳される)の項目がこゆくておすすめ。

4月12日

 新学期すでに始まっています。ゼミ教科書品切れです。早く増刷してください。

 アントニオ・タブッキ『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』(草皆伸子訳、白水社)、『ペレイラ』よりも腑に落ちるというか、ケルゼンの弟子だったという弁護士のキャラが立っている。
 ベルナノスは読みかけです。すいません。


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