2002年6月

6月25日

 『地図と磁石』第4回がでてほどなく、青木昌彦『移りゆくこの十年 動かぬ視点』(日経ビジネス人文庫)、三輪芳朗『誰にも知られずに大経済オンチが治る』(ちくま新書)が出た。――悪い意味で予想通りの内容で、頭を抱える。

 原稿料の出るブックガイドをこのところ立て続けに書いているから、こちらの更新がおろそかになっているというわけではない。これはこれで大事な営業活動なのである。というわけで、昨日は某新書の編集さんと打ち合わせ。某老舗新書の読者層の平均年齢は60超とか笑うに笑えぬネタをいただく。こちらは何を間違えたのか「文化であることを拒絶され歴史をなさぬままに消えていく多くのゲームへの哀悼」などとしょーもない話をする。ちなみに私のハードディスクには、かつての無法時代にダウンロードしたSNESのROMが多数眠っている。(何のことかわからない人は読み飛ばしてください。わかる人は見逃してください。)

 ジョセフ・スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店)。ノーベル経済学賞受賞者にして元世界銀行副総裁シューレス・ジョー言いたい放題。ことにIMFはもう立つ瀬がありまへん。近年の途上国の経済危機の多くはむしろケインズ的なものという主張は、クルーグマンなどもしていたが、なかなか説得的である。「正しい反グローバリズム本」としてとりあえず読むべし。

 和智正喜『仮面ライダー ―誕生1971―』(講談社)が出た。去年がライダー30周年ということで、記念企画として村枝賢一『仮面ライダーSPIRITS』(講談社)が始まったのは記憶に新しいところだが、それに続くものととりあえずは考えてよかろう。
 ただし現代を舞台に、1号2号からスーパー1、ZX(どっちもしらねーよおりゃ)と総登場の『SPIRITS』とは対照的に、こちらは1970年代初頭の1号ライダー本郷猛に物語を絞り込んでいる。はっきり言えば、この世界にはおそらく永遠に2号以下のライダーたちが登場することはないだろう。
 コンセプトとしてはbk1のアオリに、また赤星政尚の解説にあるとおり「藤岡弘の不慮の事故によって佐々木剛がキャスティングされ2号ライダーが誕生、仮面ライダーは複数化を余儀なくされた。事故を起こさなかった可能性に基づいて書かれたオリジナル小説」というわけだ。
 実は本書にも2号ライダーになるはずだった一文字隼人らしき人物が登場するが、本書きりで退場してしまう。どういうことかというと、本書では本郷と一文字(?)の役割関係が、ちょうど原作版、というより石ノ森章太郎によるコミカライゼーションのそれを逆転した形になっているのだ。1号2号の同伴者であった普通人の滝和也を主人公に据え、出だしは好調だった『SPRITS』が、滝をうまく狂言回しに使えなくなった最近は少しくたびれてきているように見えることを思えば、これはなかなかいい工夫である。(それともただ単に俺がオヤジなだけか?)ライダー軍団総登場では、やはりどうしても物語は一貫性を保てないだろう。
 しかしそれ以上に注目すべきは中味である。ちょうど古典たる『水滸伝』を現代人にとって読むに耐えるものへと徹底的に脱構築している北方謙三『水滸伝』(集英社)と同じように、本書は大人になったライダー世代が、現代に生きる大人として、仮面ライダーという神話を解体再編する作業なのだ。いったい「悪の秘密結社」ショッカーとはなんだったのか、そして仮面ライダーの「正義」とはなんなのか、を改めてきちんと考え抜き、現代的なテーマとして再生している。物語はまだ入り口に差し掛かったばかりであるが、まずまずの切れ味を示している。
 なお「地獄大使」(の和智バージョン)のキャラ造型は見事の一語に尽きる。


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