2002年12月

12月30日

 雑事に追われる師走。原稿に追われる師走。後回し気味の採点がつらい。

 松井彰彦『慣習と規範の経済学』(東洋経済新報社)[bk-1amazon]は『経セミ』連載時よりずいぶんと硬派の印象の専門書になって刊行された。第1部は繰り返しゲームを主に産業組織の話題を使って論じ、第2部は進化ゲーム、第3部は新分野の帰納ゲームを解説する。『ミク戦』を読んでないとつらいだろう。

 ロナルド・ドゥウォーキン『平等とは何か』(木鐸社)[bk-1amazon]は意外なほど早く邦訳。もっとも中味(功利主義的「厚生の平等」を批判し「仮説的保険市場」のアイディアをもとに「資源の平等」論を展開する)は20年来知られよく議論されてきたもので、もっと早く(原著が)刊行されていてもよかった。
 「平等」については『地図と磁石』の仕事を通じて自分なりの理路が少し見えてきたところでもある。「保険をつうじた平等」のアイディアはドゥウォーキンも、つい先頃物故したロールズなどもつかっていたが、たぶん保険と平等は直結しない。では何が……? その先はいずれ。

 奥平康弘・宮台真司『憲法対論』(平凡社新書)[bk-1amazon]、直球勝負で、こういう本をもっと読みたいな、と思う。しかし実は結構予備知識のいる本かも。

2002年11月

11月26日

 Robert Nozick, Invariances: The Structure of the Objective World, Harvard U.P.[amazon]を折に触れてめくっている。前書きに執刀してくれた医師たちへの感謝の言葉が連ねられている。彼らがいたからこそ、ノージックはこの本を出版するまで生きていられたらしい。
 ノージックという人はここにもあるとおり、 "I didn't want to spend my life writing 'The Son of Anarchy, State, and Utopia.'"と語ったそうで、事実「論敵」ロールズが生涯をchildren of 'A Theory of Justice'に費やしてしまいそうなのと対照的に、好きなことを書いて生涯を終えたようだ。そして我々も、彼のそういう面をもっと評価すべきであろう。
 この遺著にせよ、あるいはその前編ともいうべき大著『考えることを考える』(青土社)[bk-1amazon上amazon下]にせよ、ノージックの作業の基本線は時節はずれの妄想的なまでに壮大な体系構築にこそあって、それに比べれば『アナーキー・国家・ユートピア』(木鐸社)[bk-1amazon]などはあくまでも傍流の仕事と見た方がよいかもしれない。Invariances にせよ『考えることを考える』にせよ、存在論・形而上学から認識論、心の哲学・行為論、そして倫理学、と古典的な(19世紀あたりまでの?)哲学の主題をすべて包括して、ひとつのトータルな世界観を打ち出した仕事であり、昨今では他にあまり類例を見ないものである。このような本を臆面もなく書いてしまうところにこそ、まさにノージックという人の奇矯で愛すべき個性がもっとも強く伺われるのではないか――などと考えつつ、Invariances で触れられていたリー・スモーリン『宇宙は自ら進化した ダーウィンから量子重力理論へ(NHK出版)[bk-1amazon]なども買ってしまったのである。

11月25日

 『地図と磁石 第6回』。そろそろマクロ談義を終わらせたい。

 最近はダン・スペルベル公式ページを愛読。いっとることのほとんどが正しいような気がする(ことにミーム論への突っ込み)。やはり関連性理論だのグライス哲学だのをやらないかんのか。

 『SIGHT』の原稿を仕上げる。こちらの5冊、内訳は

戸田山和久『哲学教科書シリーズ 知識の哲学』(産業図書)[bk1amazon
デイヴィッド・チャーマーズ『意識する心 脳と精神の根本理論を求めて(白楊社)[bk1amazon
野口旭・田中秀臣『構造改革論の誤解』(東洋経済新報社)[bk1amazon
玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在(中央公論新社)[bk1amazon
小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉 戦後日本のナショナリズムと公共性(新曜社)[bk1amazon

 山形の分と編集部の分はひみつ。みんな買って下さい。

 佐藤郁哉『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』(有斐閣)[bk1amazon]、いい教科書だと思います。

 念のため言うときますがね、イブン・ウェーバー『ハワーリジュの倫理と資本主義の精神』なんて本は今のところ何語でも書かれてませんからね。問い合わせは受け付けません。


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