2003年3月

3月25日

 最近「医局の悪を暴く!」マンガが大流行なので、ここはやはり基本に返って、キャラやその他ディテールの掘り下げで原作をしのぐ面白さと折り紙つきの『白い巨塔』テレビドラマ版(1978版)をビデオ屋から借りてきてみる。子供の頃本放送で見たときは、続編部分、つまり誤診裁判第二審のあたりしか見ていなかったのだ。しかし……。
 濃い。あまりに濃い。まず主役二人、田宮二郎(財前五郎)と太地喜和子(愛人のケイ子)が出てくるだけでもう泣きそうになる。田宮は最終回収録直後に鬱病から猟銃自殺、太地ももうこの世の人ではない。この太地に「ゴローちゃん(含み笑い)」とやられるとそれだけでもう背中がむずむずする。更に浪速大教授会に浪速医師会の面々の濃いこと濃いこと。曾我廼家明蝶(財前義父)、金子信雄(医師会会長)、渡辺文雄(医師会出身市会議員)、小沢栄太郎(鵜飼医学部長)、小松方正(野坂教授)に戸浦六宏(葉山教授)という、東映ヤクザ映画と時代劇の全盛期を思わせる豪華絢爛ぶり。医学部の良心大河内教授役加藤嘉にせよ、エセ紳士東教授の中村伸郎にせよあるいは東の母校の大物教授役の佐分利信にせよ、これまた大半が鬼籍に入ったこの全員がまさにはまり役。
 見るべし。

3月24日

 ここここを読んで以来気になっていた舞城王太郎、とりあえず『阿修羅ガール』(新潮社)[bk-1amazon]、『熊の場所』(講談社)[bk-1amazon]と読んでみる。
 いまのところまだ習作の域を出ないと思う。しかしいずれにせよ、小野正嗣はフェイクであり、舞城王太郎は本物であろう。彼はたしかな技術と、それを支える志を持っている。「熊の場所」に戻れば終わるわけではない、そのあとの話を、きちんと語ろうとしている。裏村上春樹、ポスト村上の本命たる彼の『羊をめぐる冒険』はいつ書かれるのか。それを待とう。
 なお、ここにある内田『国土論』評はきわめて的確。

 『キャラクター小説の作り方』を読み返していて、どうしていわゆるメタフィクション(を標榜するもの)の大半はつまらないのか、にふと思い至る。それはつまり(中略)ということなのだ。
 もしわれわれが、ガンダム小説なりエヴァ小説でありつつ同時にその域を超えた(しかし「超える」ってどういうこと?)傑作であるような作品を手にする日がきたならば、その時ようやくわれわれは、今日の日本における「メタフィクション」の可能性についていろいろ批評的理屈をこねてもよい局面に到達したことになるだろう。

3月18日

 One World: The Ethics of Globalization,の注をみていると、かなりたくさんのweb資料(国際機関の報告書とか、論文のプレプリントとか。以前紹介したGlobalization in Historical Perspectiveもあった)がリファーされていて、なんつうか、時代を感じさせる。

 森川嘉一郎氏からメールがきたので、リンクしておきます。

 米倉“ヒトラー”もとい“王様”誠一郎関連のネタを2ちゃんで漁っていた際、経営学スレでポジティヴな意味で注目株だったのに気づいた沼上幹の啓蒙書『組織戦略の考え方 企業経営の健全化のために(ちくま新書)[bk-1amazon]を読む。よくできた入門書です。「組織の基本は官僚制である」と言い切るところから出発し、なぜ『ザ・ゴール』[bk-1amazon]はよい本なのか、TOCとは何か、をわかりやすく解説し(「学校教育システムにおける「ボトルネック」は何なのか?」という問いかけは非常に刺激的)、組織デザインの基本とその限界を指摘した上で、組織の制度疲労、腐敗はどのようにしておきるか、それを防ぐにはどこに注意する必要があるか、を具体的に説明していく。

3月12日

 Peter Singer, One World: The Ethics of Globalization, Yale U.P.[amazon]はなかなかよい本である。シンガーというとどうしても動物解放とバイオの方で注目されがちだが、個人的には『実践の倫理』(昭和堂)[bk-1amazon]の旧版以来、むしろ貧富の格差論、開発援助論、そして新版以降はプラス難民論――かなり強い「援助の義務」を正当化する――に注目してきたので、2000年のテリー講義をもとにした本書は大変興味深かった。内容的には地球環境問題、貿易(WTO)、国連平和維持活動と人道的介入、人道援助と目配りよくバランスが取れている。惜しむらくは国際金融の話が欠けているところか。環境・ソーシャルダンピングに注目したWTO批判はよくある自由貿易批判とは完全に一線を画していて勉強になった。日本には類書がまだないだけに翻訳が待たれる。

 森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ(幻冬舎)[bk-1amazon]はきわめて優れた都市論、オタク論である。官による開発でも、「民間活力」でもなく、個人的な趣味が街の景観を一変させてきた秋葉原から見える問題系について、わかりやすくまとめてくれている。しかし狭義のオタクはなぜ、美少女とロボットに萌えるんだろうか。本書でもその手がかりはかなり出ているんだが、答えはまだ出ていないような気がする。
 ところで、韓国のオタク産業育成政策は今後いったいどうなるんだろうか。気になる。

 大塚英志『キャラクター小説の作り方』(講談社現代新書)[bk-1amazon]はある意味で東浩紀『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)への応答として読める。物語論、フィクション論として興味深く読んだ。「片隅の啓蒙」でネタにしようっと。


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