1998年3月3日(火)

 去年の4月22日にBerkeleyに来てから、僕は日本で引き受けてきた仕事ばかりやってきたので、学問的な面からみると、あまり留学ならではというに値することをやっていない。そんなこんなしているうちに、もう滞在期間は10ヶ月を越え、残りは6ヶ月。自分が悪いんだけど、これはとってもむなしい。そうは言ってもさっさと原稿が書けるほどの才能も知識もないので、だいぶストレスがたまってきていた。
 それでも何とか、昨日、原稿をひとつ出したので、残りは論文集の直しだけ(まだしこしことやっているのです)。それも9割方は終わっているし、あんまり粘ってもどうせ切りはないから、そろそろケリをつけようと思っている。と言うわけで、これで日本から引きずってきた仕事はめでたく全部終わるのです。明日からは、日本語と格闘するのはもうこの読書日記だけ。いや、日本語の本も読みますが、なるべく減らすつもりですし、ノート以外に日本語を書く必要はかなり減ります。

 僭越ながら留学(在外研究)を考えている方にアドバイスしたいこと。(1)日本から仕事をもってこないこと。すでに大学に勤めている人だと、在外研究中にこもって日本語の本を書くという人が多いみたいだけど、僕は別にそういうつもりではなかったので、ちょっと後悔してます。とは言え、せっかくご依頼のあった原稿をお断りするなどということは、私のような駆け出しにはとてもできないので仕方なかったんですけど。。。(2)というわけで、やっぱり若いとき、要するに学生の身分で留学することですね。まだ依頼原稿もない、授業中にあほな質問をしても別に恥じることのない、しかも外国語の吸収力の良い若いときに留学することをお勧めしますね。大学生の場合なら、卒業して何年か働いて、金を貯めて、留学で一気に使うというのがいいでしょう。僕がいま20歳だったら、躊躇なくそうするな(<完全オヤジモード)。いや、実は僕もいま、これから5年で金を貯めて、その後に留学して勉強し直そうかなと、かなりマジに考え始めているのです。
 なんか、あたりまえっぽいことばかり書いててスイマセン。睡眠時間の短い日々が続いて、まだ疲れているもので。。。明日(明後日?)からは、本来の読書日記に戻したいです。

 原稿を書き終えた直後は、出来映えに関してはたいてい打ちひしがれていて、なるべく思い出さないようにしてしまう。今回もそう、というか、そういう度合いがだんだん高まっている。小学生、中学生のころは、書いた文章を他人に見せたくてしようがなかった。ある程度不特定多数の目にふれる文章としては、小学生のころ音楽の友社から出ていた『ロクハン』という雑誌(覚えている人、いますか?)の読者欄に二度ほど投稿が載ったのを別にすると、大学2年生のとき、1984年にサークルの同人誌に「従軍慰安婦」についてのエッセイを書いて、あちこちに送ったのが最初だったと思う(実は高校時代にショート・ショートを書いて活字になったのだけど、それも別ね)。そのときは某大学のセンセイが、自分のゼミで僕の文章を教材にしてくれたりしたのだが、ネガティブな気持ちはまるでしなかった。修論も、最初の活字論文(「〈性的差異〉の現象学」『ソシオロゴス』第14号、1990年)も、他人が読んでくれるのが素直に嬉しかった。
 ところがここ2年ぐらい、そうですね、「愛せよ、産めよ、より高き種族のために――一夫一婦制と人種改良の政治学」「ジェンダー論になにができるか」(詳しくは自己紹介ページを参照してください)なんかになると、もう全然ダメ。書いている途中も、書いた後も、「あ〜あ、こんなんじゃダメだ。。。」という気分で、ほんとなら活字にしたくなかった。どうしてかわからんけど、そういう気持ちになってしまうのだ。今回の原稿もそう。たぶん今まででいちばん落ち込んでいる。というわけで、もう考えるのはよそう。

 んで、久しぶりにギターを抱えて、OASISナンバーを歌いまくった(右の写真がSFで買った愛用のギター。TakamineのEG-40Cってやつです)。Don't look back in angerとか、Stand by meとか。最初にLondonに行ったとき(というか、一回しかいったことはないんやけど、、、)、ちょうど彼らのLive foreverのシングルが出たばかりでチャートの1位になってて、僕はまだ彼らのことを知らなかったけど、試しのつもりでそれを買って、友人たちへのおみやげにしたことを思い出す。そんなに昔のことには感じられないのだけど、そのあいだにOASISは有数のビッグなバンドになって、すでに行き詰まりっぽささえちらほらしはじめている。駆け抜けてるよね。昔のファンのことなんか無視して、突っ走ってもらいたい。僕がアメリカに来た直後に、U2がポップ・マート・ツアーでオークランドに来たとき、オープニングがかれらだったんだけど、行きそびれてしまったのが返すがえすも残念だ。But, nobody knows the way it's gonna be.....(午後11時09分)
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