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学科主任近況報告

座談会

座談会 ~はじめに―自己紹介をかねて~


 

【福田】 それでは本日は、消費情報環境法学科第1期生が卒業生として白金法学会にちょうど入る年にあたるということで、学科4年間を振り返る座談会を開催したいと思います。今日の参加者は学科創設時の法学部長である現副学長の京藤先生、それと創設メンバー、創設時の専任教員である河村先生、菅野先生、鶴貝先生、そして学科創設当時に、教学事務アシスタントであった森山さんにお越しいただいております。司会は科創設時の教員である福田でございます。
 それではまず自己紹介ということで、一言ずついただけますか。京藤先生。

【京藤】 京藤です。消費情報環境法学科をつくったときには法学部長でした。今は、副学長として、法科大学院の立ち上げの準備をしています。

【福田】 それでは時計回りで、河村先生。

【河村】 私は2代目の学科主任の河村です。

【福田】 鶴貝先生。

【鶴貝】 学科基礎科目の情報処理関連科目を担当している鶴貝です。

【福田】 菅野先生。

【菅野】 学科科目の環境科学1、2を担当しています菅野です。

【福田】 私は司会ですが、科目としては民法総則と、それから債権法1または債権法2を年によって担当したことがございます。森山さんも自己紹介お願いできますか。

【森山】 創設当時から3年間、教学事務アシスタントとして勤務させていただきました森山と申します。

【福田】 多分大変なご苦労があったと思いますので、そういう話も後で聞けるかと思います。まず準備段階の話ということで、消費情報環境法学科がどうして設立されたのかというような話から、聞いてみます。やはり当時の法学部長であった京藤先生から、お話願えますでしょうか。

【京藤】 もうかなり記憶も薄れてきておりますので、正確なお話はできないかもしれませんが、記憶をたぐり寄せながら、たちあげの経緯についてお話ししてみます。私が法学部長になった当時、法学部が抱えていた最大の問題は、これは全国的にもそうであったのですが、二部問題でした。法学部には、一部と二部がありましたが、二部法律学科に入学を希望する者が、どの大学でも減ってきておりました。こういう状況下で、より質の高い法学教育を目指そうと考えるとき、二部を、将来的に、どんなふうに改組転換していったらよいのかということが、非常に大きな問題でした。
 この二部問題に就任直後に直面し、どのようにしたら、積極的な意味のある形で、打開していけるのだろうかと、真剣に考えてみました。一つは、二部の改組転換の一つの方法として、当時わりと流行だったと言えるかもしれませんが、二部法律学科を、一つの学科のなかで昼間主と夜間主の学生が自由に行き来できる昼夜開講制に改組転換できないだろうかと考えました。ただ、今の法律学科を昼夜開講制にするというだけでは、物足りないので、やはり、何か社会にアピールできるような斬新なコンセプトを持った新学科案を提示してできないだろうかと考えてみたというのが、最初の始まりだったかと思います。もちろん、学部長になる前にも、法学部内では新学科構想があり、それとコンセプトとしては重なっている部分があって、いきなり新学科ができあがったというわけではなく、長い法学部内の議論の延長線上に消費情報環境法学科構想ができあがったものです。
 具体的には、98年の4月から作業を始めて、98年の11月に、法学部内で議論を積み重ねて、消費情報環境法学科という新設学科案を、当時の大場学長に提示いたしました。これが非常によく練られた案だということで、学内の評判も上々でしたので、それに自信を得て、開設へと一気に向かって行きました。

【福田】 ということで、やはり二部の改組というのが、まず問題の発端にあって、その改組に当たって単なる法律学科の昼夜開講制というのではなく、社会に対して何か積極的な意味を持ち得るような学科を、構築しようということでできたのが、消費情報環境法学科であったということが確認されたわけです。それでは2代目の消費情報環境法学科の学科主任である河村先生に、創設当時のカリキュラムとか教員スタッフなどについて、概括的なことをお話しいただければと思います。

【河村】 カリキュラムについては、私がかかわった部分のことを、少しお話しさせていただきます。私自身は98年の4月にこの大学に赴任してきまして、それ以前は企業にいたわけですが、新しい学科を立ち上げるというお話がありまして、その中では少し現代的な法律問題を扱うというお話がありましたので、面白いなということもありまして参ったわけです。赴任してすぐ、新しい学科の立ち上げということになり、参加したわけですが、学科のカリキュラムを作る際の基本的な考え方がどうであったかということをお話したいと思います。
 実は消費情報環境法学科には3つの柱がありまして、1つは消費者法関連、それからもう1つは環境法関連。これらは学科の名前にそのまま残っています。もう1つは企業法関連というもので、これが学科の3本柱ということになっています。
 私自身は企業法務の出身ということで、企業法関連のところであれば貢献ができるのではないかということで、この3本柱を基にして、カリキュラムの構築に関わったわけです。その過程で出てきたのが、これはたまたま偶然だったのかどうか分かりませんけれど、ひょんなことで、パソコンを学生に持たせたら面白いのではないかということになりました。パソコンについては多少メーカーに在庫もあるだろう、安く買えるのではないかという期待感から、パソコンを各自に持たせるということになったわけです。それは面白いということで、皆さん飛びつかれたわけですが、結果的には今、学科の特色の一部となったわけです。
 それがこの3つの柱を共通に結び付ける情報処理も含めた情報関連科目ということになりました。結果的に学科のベース的な部分が、出来上がったということになります。非常に珍しい、特色のある学科が出来上がったということですね。その結果、一般教育部におられる先生方も一緒に参加していただくという形で、非常に面白い学科になったわけであります。

【福田】 そうですね。すなわち今までの文系、理系の枠組みから言えば、両方が、うまくいったかどうかはこれからの問題でしょうが、統合した学科だと言えなくはありませんね。それではその当時一緒に参加してくださった自然科学の先生のほうからお話を伺いましょう。一般教育部から新しい学科の創設に来ていただいたわけですが、その当時の一般教育部の状況というのは、どうだったでしょうか。話を聞かせてくれますでしょうか。菅野先生からお願いします。

【菅野】 はい。多少複雑なところがあるので、少し長くなるかもしれませんけれども。当時法学部で新学科を立ち上げるのとほぼ並行して、その新学科案が固まるより少し前の1998年7月に、一般教育部を廃止し、一般教育部の一部の人達が参加する言語系の学部をつくるという案が学内の了承を得ておりまして、それが進んでいたんです。この新学部案は結果的に実らず、翌年つまり消費情報環境法学科が認可された1999年の夏に一年延期になり、学科が発足する2000年春についに白紙撤回されてしまい、一般教育部廃止だけが残されました。でも、新学部案が進んでいるときに自然科学系の人たちは、その言語系の学部にはあまり参加できる立場ではないということもありまして、こちらのほうで、そういう文理融合型の学科をつくるというお話が同時並行で進んでいましたから、こちらに参加してはいかがというお誘いを受けたこともありまして、自然科学系の一部の人たちが、この学科へ参加しようというふうに決意をして加わるという状況になったわけです。

【福田】 そうですね。それで新しい統合の形が具体化されたのですが、鶴貝先生は情報処理の専門家として、この新しい学科に参加されるときの個人的な抱負なんていうのは、どうだったのでしょうか。

【鶴貝】 菅野先生が学科の開設時の状況をお話しされましたが、私は京藤先生が当時10人いたわれわれ自然系の教員に協力してほしいという要請のお話を持ってきたときのことを、よく覚えています。そのときには、自然系全体というよりは、河村先生がおっしゃったように情報処理を手伝ってほしいという意向で、できれば2人ぐらいというようなお話でした。そのときにわれわれは、専門教育だけではなく全学共通科目という科目を担当しており、消費で立ち上げる前から、情報処理関連の科目は他の学科の学生にも興味のあったので、2人と言われたときに、われわれ情報系の専任教員2人が移ることは、ちょっとできないのではないかと考えていたわけです。
 その後、2人ではなくできるだけ多くの自然系の教員が学科に参加できれば、情報関連の科目を手伝うことが可能ではないかという考えにいたりました。実際、われわれ6人が移ってきまして、情報処理だけじゃなくて物理の先生にも情報処理の科目のお手伝いをお願いしております。その提案を法学部の教員の方に納得していただいて、われわれ6人が学科に移ってくるようになりました。
 それで、できるだけ情報処理の科目はたくさん取ってほしいのですが、われわれ教員も少ないので、どうやってやったら、できるだけわれわれの負担を軽くして、なおかつ消費の学生が満足いくようなカリキュラムを組めるかということが、一番の苦労でした。

【福田】 すると、例えば今まで教えていた情報処理と、また違った情報処理教育の展開があるのではないかというような、そういう期待と不安というのはやっぱりあったのですか。

【鶴貝】 それはもちろんありました。河村先生もおっしゃったように、ノートパソコンを持つという、明学にとってはユニークな学科ですので。他の学科はすべてコンピュータ実習室でパソコンを使って、自分のパソコンではないわけですから、自分のパソコンであるという学生の、何て言うかな、自分で情報機器を自由に操り、操作できるような学生を育てるというような教育をできる面白さがありました。

【福田】 私の創設時の思い出としては、当時創設される前年あたりに、法律学科の学科主任の宮本健蔵先生を中心にいわゆるワーキンググループができて、それで結構案を練っていて、そのワーキンググループの一員だったことです。
 それで当時何を一番眼目としていたかというのは、単なる改組では意味がないだろうと。これは京藤先生がおっしゃった通りでして、他のところにない魅力があるから、学生さんが昼夜開講制の昼でも夜でも来てくれるような、または来たいと思うような学科をつくろうというふうに思っていたわけです。
 それで最初は、現代社会の今日的主体としては、企業とそれから消費者と国があって、それぞれの関係の中で企業と消費者の問だったら消費者法、それから企業と国家というところでは企業活動に対する規制だとか、規制緩和というのもかなり言葉は出ていました。企業活動法などというのも1つのまとまりとして作って、3つの主体の全部の基盤になるのが環境だというようなことを話した記憶があります。
 それで学科の名称としては、今のような名称ではなくて、最初のワーキンググループ案では社会環境法学科という名称で、環境というのはいわゆる環境法の環境だけではなくて、社会的な環境すべてなんだということ、家庭環境から学校環境から自然環境から、すべて含んだ意味での環境を対象にするというようなことだったと思います。

 それからいろいろ情報系を、全学科科目を貫くツールと言うのでしょうか、スキルとして重要視するというようなことから、最終的には当時の法学部長の京藤先生がこの名前を付けたような記憶がございますけれども、その辺の学科の命名については、それでよろしいでしょうかね。

【京藤】 この「消費情報環境法学科」というのは、長い名称で、どこで息継ぎをしたらよいのかで、混乱しがちなのですが、文書に即して正確に言いますと、公式文書では、「消費」に関する「情報環境」の「法」という区切り方をしています。人は外界と接触して生きているのですが、この外界を我々を取り巻く情報環境と捉えるなら、人は外界という情報環境とのやりとりを通して、生活し、また、成長して行く。このような形で、われわれの日常の生活をとらえることができますが、今日の日本の社会は、この情報環境のなかでも、消費に関係する情報環境がわれわれの生活に非常に大きな意味を持つような社会です。
この消費に関する情報環境という角度から、今ある多様化した法制度を束ねることはできないだろうか。このようなコンセプトから、現代法を眺めてみると、これが消費情報環境法の、消費と情報と環境とをどこで切るかという問題につながるのですが、消費者というものをベースに置きながら消費に関わる情報環境の法を眺めてみると、まず、消費者の利益を今日どう保護するかという消費者法の問題、そして次に、消費者が対峙する企業に関わる企業活動法の問題、そして最後に、これは消費者が今生活する場合にはグリーン・コンシューマーという視点が欠かせませんが、まさに人たる消費者を取り巻く環境に関わる環境法の問題は欠かせません。この現代の法が急速に発展している三つの法領域を束ねるようなコンセプトとして、消費情報環境法という言葉が適切ではないかと考えたのです。
その後も、非常に目新しい言葉ですので、学内では、社会環境法学科といったような無難な名称にしたらどうかという提案もあったのですが、社会に対して、メッセージ性のある学科として打ち出すには、少し聞き慣れないかもしれないけれども、新しいコンセプトの重要性を伝えるという意味で、この言葉を用いることに多少こだわりました。私自身がこの学科をつくる責任者であったということもありますし、私もこの学科に移籍するということを決めておりましたので、この辺りについては、私のわがままを通させていただいたというところはあります。
それから、全体として、移ってこられる先生が、情報技術にかなり強い先生が多かったこともあるのですが、コンピュータを法学の勉強にどんなふうに活用できるかという問題に非常に関心がありました。そこで、この際、この問題も思い切ってやってみようかと考えたのですね。河村先生がおっしゃったように、ささいな偶然からはじまりましたが、教育にコンピュータを導入すると面白いのではないかと思った次第です。その後、われわれは、コンピュータがあるばっかりに大変な苦労を味わうわけですが、振り返ってみると、最終的には、コンピュータによる教育という視点を入れた学科構想をつくりあげたことは非常に良かったと思っています。今でも、消費情報環境法学科という名称、それから、これに基づいてつくられた非常にユニークなカリキュラムは、これで4年目になりますが、まだ類似の学科が存在してないと言っていいほどユニークさと魅力を保っており、新鮮さが失われていません。この意味では、当時の判断はやはり適切だったのではないかと、私は考えております。

【福田】 そうですね。京藤先生は命名だけではなくて、この言葉の概念化まで、岩波の講座もので論文を書かれておりますので、学問的な1つの概念にまでなさいました。
それでは、当時の教員構成、大きくいうと、どうだったのでしょうか。人の名前というか教員構成で、どのような分野の人が学科の教員団を構成していたのかを京藤先生に伺いましょう。

【京藤】 これはやはり法学部の中にある1つの学科であるということから、まず、法学を学ぶ学科として必要なものは備えていなければならないという観点から考えて行きました。法律を学ぶという点では、消費情報環境法学科も法律学科もかわらないのですが、そのアプローチの仕方は大きく違っています。といいますのは、学び方として、従来の法律学科は積み上げ式で、基礎から応用へと積み上げて行くアプローチをしますが、消費情報環境法学科の場合には、むしろ、目に見える法現象、人々の興味を非常に引くような法現象、それはしばしば応用的で複雑な問題で一筋縄では解決の糸口が見つからないことが多いのですが、そこから法律に対する関心を持って、そこを起点として、法の基礎を学ぶ必要性の自覚へと導かれ、そうした視点から勉強しようと見直してみると、そこには、学科に基礎的なものがきっちりと用意されていて学ぶことができる。このようなアプローチの仕方で考えようということでした。そこで、一応法学を勉強するという基本は押さえようということで、まず、憲法、民法、刑法の教員は必ずいなくてはいけないと考えました。個人的には、これは落とせない条件として、非常に重視しました。
幸運だったのは、当時の法律学科には、法律学科と新学科を分けたときに、どちらの学科にも基本的な科目の教員がいる、力のある教員がいるという条件を、そのときには備えていたのです。これらの科目の先生方の了解が得られることで、まず、第1の条件をクリアーしました。
それから、消費者法関係は非常に重要なので、この科目系列のスタッフは何としても欲しいということで、これは外からお呼びするということで考えました。さらに、現在、あらたな教育スタイルをもちこもうというとき、基礎的な準備として、法情報処理を全員が履修するという意味で、情報処理の専任の先生がどうしても必要だと考えました。

 

あとは、3本の柱に合わせて、消費者法、企業活動法、それから環境法ですね。それぞれに柱になる先生を配置する。このうち、環境法についてはかなり苦しんだのですけれども、先ほど鶴貝先生のお話にもありましたが、環境法を学ぶといっても、現在では、環境法だけを学ぶというのでは、あまり面白くないのですね。むしろ、環境倫理や環境政策、環境科学、環境法という科目群を構成して、環境問題に多角的にアプローチすることが大切なのです。そうすると、やはり、環境科学という形で自然科学的な知識が必要になるだろうということで、環境法科目群の中に自然科学的な科目も設置する構成にしようと思いついたわけです。環境法科目群の骨格は、今から考えると、時代にマッチしたものだったと思います。このように、こうしたカリキュラムにふさわしい教員を構成しようということで考えていったわけです。どの先生が現在いるからこういうカリキュラムにしようというよりも、むしろ、学科を構成する要素に分けて、それにふさわしい人を集めようということで構想し、その後で、どういう人にお入りいただくかということを考えていったように記憶しております。もちろん、現実には、構想策定の責任者として、明治学院大学にはどのようなスタッフがいるかということは常に頭の片隅にはあったと思いますし、それだからこそ、新学科の開設につながったのだと思います。

 

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