The Willem C. Vis
International Commercial Arbitration Moot


ウイーン国際商事模擬仲裁とは
本大会は、ウイーン国際商事模擬仲裁といいます。1大学1チームのみの参加が認められます。大会はコンペです。各試合毎に点数がつけられ、大学で競いあいます。まず、大会ホームページでスケジュールが掲載されます。そして、スケジュールに従って事例(Problem)が掲載されます。さらに、各々の大学チームが各々の国で、メモランダム(Memorandum)を作成し、大会本部に提出します。最後に、ウイーンで行われる、口頭弁論(Oral Argument)に出場します。事例では、異なる2カ国の商事取引における紛争を扱います。口頭弁論では、争いの当事者となる会社の弁護人(Cliant)として出場します。メモランダには争いとなるポイント(Issue)に主張を記していくのですが、主張に裏付けが必要なのはいうまでもありません。そこで、法律を用いたり、参考文献を用いたりします。さらに言うならば、仲裁機関(裁判所)はどこを使うかといった手続的な法律の解釈から、取引に問題が生じた場合、取引に関する法律の解釈をしていきます。

仲裁制度とは
仲裁は裁判とは異なります。まず原告、被告といった言い方はしません。クレームをつけて申し立てる側を申立人(Claimant)と言います。それに対して、反論する側は被申立人(Respondent)と言います。また論争を仲裁する側に立つ者は、仲裁人(Arbitrator)と言って、申立人、被申立人の主張を聞いたり、それに対し質問をして仲裁を主導します。仲裁人や、仲裁を行う地域、用いられる法律はそれにより一方の側の有利、不利に影響する場合があるので、仲裁機関(Arbitration Tribunal)を用いてそれを決定します。なぜこのような制度が取り入れられるのかを説明しますと、国境を越えた取引は、この世に山ほどあります。取引が多く行われれば、争いも多いわけです。それを限られた裁判所で手続から何から扱ってしまいますと、大きな手間を要します。ですので、仲裁機関を一定の地域に設け、そこで解決したものに判決と同じ効力を与えるようにします。これが仲裁制度の内容ですが、実際には条約に批准していない国もあり(日本を含む)、制度的に確立していないのが現状です。ですので、学生に議論の場を与えているのではないかと思われます。

ウイーン国際商事模擬仲裁参加資格
基本的に法に携わる学問をしている大学であれば、どの大学でも参加できます。特に模擬裁判を経験したい学生、国際的感覚を身につけたい学生、語学能力を向上させたい学生、論理思考力、口述力を磨きたい学生は本大会に歓迎されるはずです。そうでなくても大会に興味がある方なら誰でも思い切って参加してみてはいかがでしょうか。日本から積極的に参加している大学は、九州大学と明治学院のみです。近い将来、裁判員制度が始まります。法的根拠を探って文書を作ったり、裁判を擬似体験することは、決して無駄な経験にはなりません。また、経済的にグローバル化が進む社会の中で、海外で仕事する際、英語力は必須のものとなります。商事取引の英文事例を整理したり、争われるべき点を探し出し、主張を英文でなぞる作業は、語学能力をアップさせる格好の材料となります。法を扱う機関が大学にあれば、誰にでも門戸は開かれています。ただし最低2人でメンバーを組んで参加することが条件です。口頭弁論は2人対2人で行われます。

メモランダムについて
メモランダムとはいわゆるメモです。それでは何のためのメモなのか?口頭弁論の際、参考にするメモ書きです。しかしこれはただ自分の手元に残すメモではなく、仲裁人の手にも渡ります。ですので、仲裁人は原則このメモを基準に質問してきます。仲裁人の質問に対してメモに書いていない返答をした場合、印象を悪くするかもしれない。メモ作成で挫折してしまうと、口頭弁論にも尾を引いてしまうので慎重に作らねばならない。過去のメモを参考にすると、様々な形式のものがあるが、それにこだわらなくて良い。採点者は形式よりロジックを評価の対象としているので、メモは必要に応じて構成していけばよい。メモは各大学、申立人と被申立人の両方作らねばならない。できることなら、両方製作に参加することが望ましい。双方の立場で作れば、双方の見方で論理構成、主張ができる。つまり一方の側に立った場合、相手方の主張に応対しやすくなるからである。

ウイーンで行われる口頭弁論について
はじめに、どの大学も申立人2試合、被申立人2試合の計4試合する。クオーターラウンドやファイナルまで勝ち進んだ場合はそれ以上の試合をする。口頭弁論は対戦相手を見つけて練習したり、過去の映像を入手して流れをつかむ方が良い。注意すべき点はいろいろあるが、やはりいかに仲裁人の質問を正確に聞き取り、正確に答えられるかに尽きる。もっとも、弁論トレーニングの段階で、仲裁人の質問を予測しておくことも大切なことである。論理は単純で明確であるのが良い。自分で理解しているつもりでも、複雑で、核心が見えにくい主張は、評価が得られない。弁論の最後で、フリーに主張させてくれる時間を設けてくれることもある。その時に主張しそこなった、間違えた、あるいは一歩踏み込んだ内容を主張をすればいい。積極的に点数を取りにいく姿勢も大切なところではあるが、謙虚で素直な姿勢が仲裁人の印象を良くすることを忘れてはならない。

ウイーンでの過ごし方
経験に基づいて述べると、まず全員で事例をさらい直すこと、主張するメモ(メモランダとは別に口頭用のメモを用意していくと良い)を見直し修正を加えていくことである。試合が終わったら、ウイーン散策や鉄道にのって他国の都市に足を伸ばしてみる。プラハやブダペストそしてザルツブルグに行くのなら、一泊する必要がある。近くのプラチスラバ(スロベニア)なら日帰りでも行ける。せっかくウイーンに行くのだからより楽しめるスケジュールを組むべきである。ファイナルは印象に残るので見ておいたほうがよい。それを撮影できれば、後に参加する学生のために有意義である。