The Japanese summary of an oral report given at a symposium "Japanese Studies in the Post-Bubble Era" held the International Research Center for Japanese Studies (Nichibunken), March 31, 2000. I discuss the reasons why I began the PMJS mailing list and its associated web resources, and make some reflections after six months of operation.

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2000.03.31
第一回 在日外国人研究者による日本研究シンポジウム(国際日本文化研究所)

日本研究者のメーリングリスト「PMJS」についての報告


マイケル・ワトソン
Michael Watson
                      明治学院大学

私マイケル・ワトソンが管理、編集をしている日本古典文学、文化のメーリングリストについて、その紹介を兼ねた、その利点、欠点、問題点などについての簡単な報告。

専門家同士によって運営される、いわゆるAcademic Discussion Lists やElectronic Discussion Listsというのがここ何年かの間に、かなり浸透してきており、私の記憶によれば、日本研究に関して最も早く始まったメーリングリストは、外国人日本考古学研究者の同士によるものであったと思う。実際日本の考古学を研究する外国人の絶対数は少なく、また各国に散らばっているため、メーリングリストによる意見交換の場がとても役にたったのであろう。

その後様々な専門家のメーリングリストが出来たが、中でもH-JAPANと呼ばれる近、現代の歴史研究者、並びに日本に関心のある一般人によって構成されるこのリストは、約1000人以上のメンバーを抱える大規模なリストとして有名である。

私は数年前にJLIT-Lという日本文学専門のリストがあるのを見つけ、早速参加したが、このリストは日本文学全般にわたっているため、そこに展開される議論などの主題が、近代文学や現代文学にかたよる傾向があり、つまり古典専門の私にとって、即座に役にたつというような話題が少なく、物足りなさを感じ、結局私は自分でメーリングリストを起ちあげようと考えるに至った。

まずはじめに問題となったのは日本の大学が教員の為のメーリングリスト用のサーバーや、バックアップの体制を全く提供していないという事実である。それで一つのメールを同報メールとして、CCを利用して、同時に複数の人に送るという方法を考えが、この方法ではせいぜい20人から30人位までの場合まではいいが、それ以上会員が増えると不都合な点が多く出てきてしまうだろうということが容易に想像できた。

そのような試行錯誤の最中に、無料のメーリングリストサービスをするサイトを見つけ、それを使うことにした。最近ではこういうサイトが、それこそ無数に出来ている。

会員の募集と初期の不安

メーリングリストの名称は私の独自の判断で、Premodern Japanese Studies(PMJS)とした。

次に約30人の日本研究者に呼びかけたところ、3日ほどして17人が賛同し、会員となった。その後更に多くの研究者に呼びかけて、一週間で99人の会員が集まった。

ハンドアウトの第3番目のパラグラフに「the worry that it might be difficult, expensive or time-consuming to set up and maintain.」とあるように、リストを起ちあげること、そのこと自体が大変なのではないか、またリストをいざ起ちあげても、その維持にかなりの費用が掛かるのではないか、そしてリストの管理そのものに時間が取られるのではないかという3点についての不安があった。

リストを初めてから6ヶ月が経過したいま、振り返ってみると、リストを起ちあげるのは意外にスムーズに運び、まったく問題はなかった。費用に関しては、自宅でリストの管理をする時間が多い為、電話代がリストを始める以前より増えたが、徐々に電話代のコストを抑えられるようなコツを覚えつつある。しかしリスト管理に掛かる時間はなかなか抑えることが出来ず、今もそれが大きな問題のひとつとなっている。

目的と特徴

本リストの目的は、それは古典日本文学や、日本文化に関する、あらゆる疑問、質問、コメント、学会情報や出版情報などを含むあらゆる情報交換の場をつくることにある。

6ヶ月の間に約500通のメールのやり取りがあり、現在、会員は183人に達した。他のメーリングリスト同様、会員のすべてが積極的というわけではなく、中には大変活発な人もいれば、またあまり議論などには参加しない、静かな会員もいる。しかしこれらの静かな会員も、それぞれの考えがあるときなどには、個人的に、リストを離れてメールによるやり取りなどを繁茂におこなっていることが窺える。

このリストの特徴のひとつとして、ある一つのテーマが、かなり長期にわたって議論される傾向があるということが指摘できる。
議論にのぼった主なテーマには、掛詞、『源氏物語』「夕顔」の巻における「物の怪」の問題、木簡などに関して、そして最近では日本文学におけるシャーマニズムの問題などである。例えば、掛詞の問題に関しては、約30通のメールのやり取りがあり、およそ12人ぐらいの会員がこの議論に加わった。

このような議論をその場限りのものとして消滅させてしまわないために、私は収束した議論のやり取りの全容をウェッブページに載せて、だれでも(会員以外の人も)アクセス出来るようした。

ウェッブページとリンク

このウェッブページは「アーカイブ」と名付けられて、私の個人の大学のサイト上に設けられている。

つまり私は大学の自分のサイト上に、このPMJSのホームページを作成し、さらにこのホームページから「アーカイブ」のページへとリンクできるようにした。このPMJSのホームページには「アーカイブ」の他にも多くのリンクを設けた。例えば、参考文献に関するページへのリンク、会員自己紹介ページへのリンク、そして様々な外部リンクなど、またこの日文研のような日本国内の研究施設、それから内外の図書館へのリンク、海外大学の日本研究の機関へのリンクなどである。

PMJSというリストが生んだ副産物であるはずのこのホームページはある意味、実際のリストそのものよりも活用されているとも言える。現在海外の研究者の多くが、大学のサイトに自分のページを持つようになってきているが、そういう個々のページの検索は意外に難しいという事実がある。そのようなサイトへのリンクがこのPMJSのホームページに設けられることによって、迅速にそれら個々人のサイトに辿り着けるという利点が生まれた。

このPMJSホームページのアドレス(http://www.meijigakuin.ac.jp/~pmjs/pmjs.html)はリストの会員に送られるメールの冒頭に自動的に挿入され、会員はそこをクリックするだけで簡単にアクセスできる。

更にこのPMJSのホームページからリンクされるページについて、会員から多くの提案がなされ、特に熱心な若い大学院生からのアイディアなどに面白いものが多い。例えば、プリンストン大学のある院生は数年前から、どこの院生がどのようなテーマの研究を行っているのかという一覧を作成しており、私にも同じようなページを作成してみてはどうか、と提案してきた。彼のすすめによって、先述の会員自己紹介のページを作成した。自己紹介には会員が現在行っている研究課題やプロジェクトまた著書に関する情報などを記入するようにしてもらっている。更に会員の著書に関しては、それぞれの著書をAmazon.comのページへとリンクさせ、注文などが簡単にできるようにしてあり、Amazon.comのページの書評などにもすぐに目を通すことができる。

他には、英語やその他の言語に翻訳された日本文学の作品の一覧を載せているページを作成した。これは会員からのきめ細かな情報をもとに作っているので、必ずしも本として出版された翻訳ばかりでなく、普通は入手が困難な雑誌などに発表された翻訳や、修士論文や博士論文として発表された翻訳などまでを網羅している。もちろんまだまだ取りこぼされているものも多々あり、情報が常に寄せられているので、日々膨張している。このページは、私には最初は想像もできなかったような発展を示し、充実したものとなってきている。

おわりに

このメーリングリストを起ちあげた時、リストの名称であるPremodern Japanese Studiesに対して会員同士の間で大きな議論がおこり、意見がわかれた。現在、結局略称のPMJSを正式な呼び名にするということで、一応収束しているが、Premodern(前近代) という言葉が多くの会員の異論を呼び、 Classical,Traditional, Pre-Meiji というような様々な提案が出た。どの言葉にもそれぞれ難点があり、結局は未だに会員の意見の一致をみていない。

名称はともあれ、今のところこのリストは管理者の私が期待した以上の発展をみている。このようなリストの存在が各国へ散らばっている研究者同士をネット上において連帯に役立ち、情報伝達の均一化が各々の研究効率に貢献するであろうと信ずる。

2000.03.31
watson@k.meijigakuin.ac.jp