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『フーコーの言説 ― 〈自分自身〉であり続けないために』

2019年1月に、拙著『フーコーの言説 ― 〈自分自身〉であり続けないために』(筑摩選書)が刊行されます。その企図および構成は以下のとおりです。

企図

1960年代のフーコーの「考古学的」研究が、50年代に彼自身が専心していた人間学的探究からの離脱のプロセスとして特徴づけられるということ。70年代の彼の権力分析において、「従属化」の権力、すなわち個人をそのアイデンティティに縛りつけることで作動する権力が、闘いの主要な標的として提示されているということ。そして80年代には、別の仕方で考えることへの希求としての「好奇心」にもとづいて、新たな領域に関する新たな探究が開始されるということ。フーコーの研究活動は、このように、同じままであり続けないようにするため、自分自身から身を引き離すための努力によって貫かれている。

しかしその一方で、一つの同じテーマ、すなわち主体性の問題化というテーマが、フーコーの歴史研究全体を貫いて存続しているということ、これは彼自身が度々語っていることである。実際、「考古学」による人間学的思考の告発は、主体に与えられてきた至上権に異議を唱えようとするものであるし、「従属化」の権力に対する抵抗は、自分自身の真理に繋ぎ止められたものとしての主体を問い直そうとするものであるし、古代ギリシア・ローマおよび初期キリスト教に関してなされるのは、自己の技術の変化とともに主体化の様態がどのように変遷したのかを明らかにしようとする研究である。

こうした絶えざる変貌と一貫性、あるいはこうした二重の一貫性が、フーコーによって実際に「語られたこと」のなかに、具体的にどのようなかたちでしるしづけられているのかを明らかにすること。これが、『性の歴史』第4巻の公刊によって今やその全貌を現しつつあるフーコーの「言説」をあらためて読み直すために、本書が提示する試みである。

構成

序章 フーコーのアクチュアリティ

『肉の告白』/フーコーのアクチュアリティ/絶えざる変貌と一貫性/本書の構成/フーコーの「言説」

第1章 フーコー前史

1 人間の学としての心理学
「心理学の歴史」/実存の分析と矛盾の克服/出発点としての主体性
2 夢と解釈
人間学的企図の表明/夢と実存/意味と指標/新たな解釈の方法/現前の特権/終わりのない任務
3 精神の病と脱疎外
病の心理学的要素/病と社会的疎外/人間主義的マルクス主義/喪失と回収の弁証法

第2章 狂気の真理、人間の真理

1 監禁と狂気
『精神疾患と心理学』/狂気と監禁制度/実証的精神医学の誕生
2 人間学的錯覚
狂気の真理から人間の真理へ/人間学的公準/『人間学』への序論/批判哲学と人間学/人間学的錯覚
3 疎外された狂気
削除された序文/狂気それ自体の歴史/沈黙の考古学/疎外された狂気/ネガティヴなものの力

第3章 不可視なる可視

1 狂気の消失
「狂気、作品の不在」/弁証法的人間の死/ネガティヴなものの力の失効/狂気それ自体の消失
2 暴露と隠蔽
死後の開示/ルーセルの手法/可視と不可視の不可分性/垂直性の構造/見えないものの産出
3 表層から深層へ
近代医学の歴史的成立/臨床医学の任務/病理解剖学の登場/不可視なる可視性/ネガティヴなものの歴史的構成/事物の暗い核

第4章 有限性と人間学

1 有限性の地位
有限性をめぐる逆転/根源的有限性と現象学/フーコーにおける有限性
2 深層の発明
表象の分析/表象の自律性/晦冥な垂直性/新たな認識論的布置/客体の形而上学
3 人間学の眠り
あらゆる真理の真理/有限性の分析論/人間学の眠り

第5章 新たなポジティヴィスムへ

1 人間学的隷属からの解放
離脱の帰結および仕上げ/言説の記述による我々の診断/連続性と解釈
2 歴史とアプリオリ
連続的歴史と主体性/特権的な避難所/科学の統一性/歴史的アプリオリ
3 言説と解釈
解釈の拒絶/意識の拡張と再我有化/稀少性の効果/言表/幸福なポジティヴィスト

第6章 「魂」の系譜学

1 言説と権力
言説の力/逆転の原則/権力のポジティヴな効果
2 身体刑から監獄へ
刑罰と権力/君主権的権力から規律権力へ/権力と知
3 身体の監獄としての魂
非行者の産出/監獄の成功/従属化の作用/魂の系譜学/権力と人間諸科学

第7章 セクシュアリティの装置

1 セクシュアリティの歴史
性の歴史という企図/抑圧か煽動か/欲望の告白/セクシュアリティの装置
2 従属化、真理、抵抗
同性愛の誕生/人間の従属化/性の真理と人間の真理/戦術上の逆転/セクシュアリティからの解放
3 生権力
生権力とセクシュアリティ/ミクロ権力からマクロ権力へ/人口と人間

第8章 自己の技術

1 フーコーの哲学
欲望の解釈学/歴史的遡行/好奇心/人間、主体、真理
2 快楽から欲望へ
異教の性、キリスト教の性/生存の美学/自己への専心/欲望と主体
3 主体と真理
自己の技術の一般史/自己への配慮と自己認識/自己の統御と真理の同化/自己の放棄/パレーシア

終章 主体性の問題化と自分自身からの離脱

(2018.11.27掲載)