2001年5月

5月23日

 ミリャード・シューメーカー『愛と正義の構造』(晃洋書房)。完全義務(必ず守らなきゃいけない、守らないと責任を問われる義務)と不完全義務(奨励されるが強制されない「義務」)の問題についての初めての(倫理学の根本問題のひとつなのに!)成書だそうだ。確かにそういう先行業績がなくて前の本を書くとき苦労した覚えがある。とりあえずそれだけでも買い。著者が謙遜するとおり地味な本だが、とても有用である。
 カルロ・マリア・チポッラ『経済史への招待』(国文社)。去年なくなった、日本でもファンが多いだろうイタリアの碩学による、学徒必携の入門書。通史的入門書を期待すると完全に裏をかかれる。科学としての歴史研究とはいかなる作業であるのか、を史料批判の問題を軸に説いていく。第2部のヨーロッパ経済史史料論は必見。入門書レベルでこういう史料論を展開する類書はなかったぞ。日本史版とかアジア史版もほしい。
 青木昌彦『比較制度分析に向けて』(NTT出版近刊)。ようやく「比較制度分析」についてのまとまった本が出そうだ。

5月8日

 右往左往の日々である。とりあえず研究より教育優先、しかし育児が最優先。
 この間の注目作としては、とある研究会でごいっしょしている酒井隆史氏ご推薦のマイク・デイヴィス『要塞都市LA』(村山敏勝・日比野啓訳、青土社)、これは左翼ラディカル都市研究の代表的な成果だろう。
 大瀧雅之『景気循環の読み方 バブルと不良債権の経済学』(ちくま新書)は前著『景気循環の理論 現代日本経済の構造』(東京大学出版会)以降の著者の研究成果を簡単に(といっても相当歯ごたえあり)紹介している。前著など90年代前半までは実物的景気循環理論や内生的成長理論など、新古典派的な発想のモデルが用いられていたが、ここしばらくはひたすらケインズ的モデルの構築に腐心していたらしい。
 それから早くも出たジェイン・ジェイコブズ『経済の本質 自然から学ぶ』(香西泰・植木直子訳、日本経済新聞社)、いわずと知れたJane Jacobs, The Nature of Economy, Modern Libraryの翻訳である。日頃から了見の狭いアカデミックな経済学者を罵倒し続けているにもかかわらず、当の罵倒対象どもから尊崇を集めている希有な素人、「内生的成長理論の守護聖人(byポール・クルーグマン)」の新著。『市場の倫理 統治の倫理』(香西泰訳、日本経済新聞社)の続編にして、『都市の原理』(鹿島出版会、品切絶版。原著は入手容易。再版が待たれる)以来のジェイコブズ経済理論の総括。80過ぎなのに、すごいなあ。

 好著『現代戦争論』(中公新書)加藤朗氏に会う。明学の法学部に「安全保障論」の非常勤講師として来ておられるのだ。


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