Sections 1-4 of Ise monogatari, with and without readings of selected characters. Word list with English explanations. This is one of 13 texts for the teaching of classical Japanese prepared by Royall Tyler. [index]

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05 Ise.kakko.doc [selected readings in parentheses, first version below]
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05a Ise.words.doc [vocabulary, third section below]

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D
      伊 勢 物 語(いせものがたり)

 ^
 昔(むかし)、男、初冠(うひかうぶり)して、奈良(なら)の京(きゃう)春日(かすが)の里(さと)に、しるよしして、狩(かり)にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらからすみけり。この男かいまみてけり。思ほえず、ふる里にいとはしたなくてありければ、心地(ここち)まどひにけり。男の着(き)たりける狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)をきりて、歌を書かきてやる。その男、信夫摺(しのぶずり)の狩衣をなむ着たりける。
   春日野(かすがの)の若紫(わかむらさき)   のすり衣(ごろも)
     しのぶの乱(みだ)れかぎりしられず
となむおひつきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけむ。
   みちのくのしのぶもぢずり誰(たれ)ゆゑに
     乱れそめにし我ならなくに
といふ歌の心ばへなり。昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。

 _
 昔、男ありけり。奈良の京は離(はな)れ、この京は人の家(いへ)まだ定(さだ)まらざりける時に、西の京に女ありけり。その女、世人(よひと)にはまされりけり。その人、かたちよりは心なむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。それをかのまめ男、うち物語らひて、かへりきて、いかが思ひけむ、時は三月(やよひ)のついたち、雨そほふるにやりける。
   おきもせず寝(ね)もせで夜(よる)を
 明(あ)かしては
     春(はる)のものとてながめくらしつ

 `
 昔、男ありけり。懸想(けさう)じける女のもとに、ひじき藻(も)といふものをやるとて、
   思ひあらばむぐらの宿(やど)に寝(ね)も   しなむ
     ひじきものには袖(そで)をしつつも
二条(にじょう)の后(きさき)の、まだ帝(みかど)にも仕(つか)うまつりたまはで、ただ人にておはしましける時のことなり。

 a
 昔、東の五条に、大后(おほきさい)の宮(みや)おはしましける西の対(たい)に、すむ人ありけり。それを、本意(ほい)にはあらで、心ざしふかかりける人、ゆきとぶらひけるを、正月(むつき)の十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり。あり所(どころ)は聞けど、人のいき通(かよ)ふべき所にもあらざりければ、なほ憂(う)しと思ひつつなむありける。またの年(とし)の正月に、梅(うめ)の花ざかりに、去年(こぞ)を恋(こ)ひて行(ゆ)きて、立(た)ちて見、ゐて見、見れど、去年に似(に)るべくもあらず。うち泣(な)きて、あばらなる板敷(いたじき)に、月のかたぶくまでふせりて、去年(こぞ)を思ひ出いでてよめる。
   月やあらぬ春やむかしの春ならぬ
     わが身ひとつはもとの身にして
とよみて、夜のほのぼのと明(あ)くるに、泣(な)く泣くかへりにけり。
      


D
      伊 勢 物 語

 ^
 昔、男、初冠して、奈良の京春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらからすみけり。この男かいまみてけり。思ほえず、ふる里にいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。男の着たりける狩衣の裾をきりて、歌を書かきてやる。その男、信夫摺の狩衣をなむ着たりける。
   春日野の若紫のすり衣
     しのぶの乱れかぎりしられず
となむおひつきていひやりける。ついでおもしろきことともや思ひけむ。
   みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに
     乱れそめにし我ならなくに
といふ歌の心ばへなり。昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。

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 昔、男ありけり。奈良の京は離れ、この京は人の家まだ定まらざりける時に、西の京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは心なむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。それをかのまめ男、うち物語らひて、かへりきて、いかが思ひけむ、時は三月のついたち、雨そほふるにやりける。
   おきもせず寝もせで夜を明かしては
     春のものとてながめくらしつ

 `
 昔、男ありけり。懸想じける女のもとに、ひじき藻といふものをやるとて、
   思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむ
     ひじきものには袖そでをしつつも
二条の后きさきの、まだ帝にも仕うまつりたまはで、ただ人にておはしましける時のことなり。

 a
 昔、東の五条に、大后の宮おはしましける西の対に、すむ人ありけり。それを、本意にはあらで、心ざしふかかりける人、ゆきとぶらひけるを、正月の十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり。あり所は聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりければ、なほ憂しと思ひつつなむありける。またの年の正月に、梅の花ざかりに、去年を恋ひて行きて、立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず。うち泣きて、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせりて、去年を思ひ出でてよめる。
   月やあらぬ春やむかしの春ならぬ
     わが身ひとつはもとの身にして
とよみて、夜のほのぼのと明あくるに、泣く泣くかへりにけり


伊 勢 物 語

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初冠して first put on a man's headdress, come of age
奈良の京 Nara, the capital
春日の里 the village, locality of Kasuga
しるよし something/someone one knows/governs have property
狩 hunting
いにけり 往にけり went
いと very
なまめく be beautiful, graceful, elegant
女はらから sisters
かいまみる see (someone) through a crack
思ほえず
ふる里にいとはしたなくてありければ
心地 feeling, mood
まどふ be confused, troubled
狩衣 "hunting cloak", informal wear for a courtier; something like "sport jacket"
裾 skirts
きる cut
信夫摺 a method of patterned dyeing
なむ an emphatic particle
春日野 the Kasuga meadows
若紫 Murasaki is a dye plant, the roots of which yield a purple dye; and the murasaki colour has a particular significance in the language of love.
すり衣 a stencil-dyed robe
しのぶの乱れ (word play to be explained in class)
かぎり limit, end
おひつく think of, have occur to one
ついで occasion, moment
や interrogative particle
けむ expresses conjecture about the past
みちのく a large region in the far north of Honshu
しのぶもぢずり a kind of patterned dying
誰ゆゑに because of whom? for whose sake?
乱れそむ begin to be troubled
心ばへ intention, meaning
かく thus
いちはやし quick, precocious
みやび elegance

 _
離れ leave, go away
この京 Kyoto
西の京 the western part of the city
世人 people of the world, people in general
まさる be better than, surpass
かたち looks
あらざりけらし あらざり+ける+らし
まめ男 stalwart man, true hearted man
うち物語らふ  talk up, talk to (euphemism for make love to)
ついたち first day of the month
雨そほふる(or そぼふる)  rain hard
ながむ   stare vacantly and sadly into space

 `
懸想ず   be in love with, desire
ひじき藻 a kind of seaweed
むぐらの宿 a house surrounded by weeds (mugura=Humulus japonicus)
ひじきもの 引敷物 しきもの something you spread out to sit or lie on
袖 sleeve(s)
二条の后 the Nijoo empress
仕うまつる   serve
ただ人 commoner, ordinary person (not imperial)
おはします  be (polite)

 a
東の五条 Gojoo avenue (east-west) on the east side of the city
大后の宮 the Empress Mother, the mother of the emperor
西の対 the west wing of the residence
本意 what one really wants, one's real wish
心ざし devotion to, feeling for (someone)
ゆきとぶらふ  go and visit
ほど (refers to time)
ほかに elsewhere
憂し awful (something you is awful, painful)
梅の花ざかり the height of the plum blossoms
去年 last year
ゐる sit
似る resemble
うち泣く  burst into tears
あばらなる ruinous, desolate
板敷 board floor
かたぶく lean, sink (the moon)
ふせる lie
よむ compose a poem
ほのぼのと faintly
明く (daybreak)
泣く泣く in tears


Comments/corrections to Michael Watson <watson@k.meijigakuin.ac.jp>
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