対談企画:そもそも、「AI・データサイエンス」って?
AI・データサイエンス教育プログラムの責任者である湯沢英彦副学長(文学部教授)と学生3名に、さまざまな視点から語ってもらいました。
どんなプログラムで、どんなことが学べるの?
AI・データサイエンスと聞くと数式をイメージしてハードルの高さを感じるような人がいるかもしれませんが、このプログラムは数式を極力使わなくてもAI・データサイエンスの基礎知識を学べるようになっています。
私はまさに「AI・データサイエンス=数式」のイメージを持っていたので、今のお話を聞いてハードルが下がった気がします。
データを扱う上では数式は避けられないイメージを持っていたので、良い意味でびっくりです。
もちろん数式を使う授業もありますが、受講生の習熟度に応じたレベル別のカリキュラムを用意しています。初歩から応用まで、まんべんなく学べるプログラムを目指しています。
AIとデータサイエンスと聞くと同じもののように捉えてしまいますが、どんな違いがあるのですか?
今、世の中に氾濫するビッグデータをどのように活用すべきかが大きな問題となっています。そういったビッグデータを活用して知見を導き出すことが「データサイエンス」の意味の一つなのですが、そのプロセスを効果的・効率的に担う方法として注目されているのが、「AI」です。
このAI・データサイエンス教育プログラムで皆さんにもっとも学んでほしいことは、AIやデータとの向き合い方、付き合い方です。
人間はデータの集合体?
スコアリングという言葉を聞いたことはありますか?収入や借金の度合い、クレジットカードの使用状況など経済的なことに関わる情報を集めて、人物のスコアリングをする仕組みです。中国のごく一部では、このスコアリングがないと融資をしない銀行もあるようです。
自分をただの点数だけで見られているような気がして、なんとなく嫌な気持ちになります。
嫌な気持ちの正体は、生身の人間であるのに、単なるデータの集合体と見なされてしまうことかもしれません。しかし、そうみなされる事実をどのように受け止めるかが大切です。
私たちがデータとみなされる以上、データの活用を介して起こりうるプライバシーの侵害も気になります。
そうですね。例えばメールの例ですと、メールを打つときに候補の言葉が提示される自動予測機能は、ユーザーがデータを提供しているから成立する機能です。プライバシーの保護と利便性のバランスは悩ましい問題ですね。
AIがこれまでの人間の仕事を代替することにより職が失われる、といった危険性は感じていましたが、人間が「データの集合体とみなされる」ことの危機感を抱いたことはありませんでした。
AIに判断を任せれば楽かもしれませんが、そうなると自分で考える能力がどんどん落ちてしまいそうですね。「ちょっと違うかも」「けどAIから勧められたし…」といったジレンマも起きてしまいそうです。
AIでよく指摘されるのは、導き出された答えのプロセスがわからないということです。統計データであれば変数に基づき調査できますが、AIだとプロセスがブラックボックスになります。そのプロセスをどのように説明するか。この点を研究する人もいるくらいです。このほか、公共政策でAIが提示した政策があった場合、その実行は誰の責任で実行するのか?といった問題もあります。
確かにそうですね…。
身近な例で思い出したのがスマホのマップ機能で示される「最短ルート」です。自転車でその通りに行ってみると自転車では通れない道だったこともあり、「なんでこのルート?」と思った経験があります。
AIがどんどん浸透していくのは間違いありませんが、どんな場所で使われているのか、どのような仕組みで動いているのか、については把握しておく必要があります。
便利・不便だけでは語れないAIの側面
AIをキャリア支援に活用している大学もあります。卒業生の履修授業や成績、課外活動などの膨大な人数の情報をAIが学習し、そのAIに在学生が勉強やキャリアのことを相談すると、類似する卒業生の情報を抽出し、アドバイスをしてくれるサービスです。
便利なサービスですね。キャリアのことで知り合いに相談することがありますが、AIの場合、自分にあったキャリアモデルを提案してくれそうな気がします。
確かにそうなのですが、「AI」と「データサイエンス」にはこのようなプラスの側面がある一方、マイナスの側面もあります。なんでもAI任せにしてしまうことによって、1人ひとりの判断の主体性が失われることです。社会的差別や偏見が助長される例も確認されています。とある国の企業で採用試験にAIを活用したところ、女性やマイノリティに属する人たちの採用が極端に低くなりました。その企業の多くは白人で、経営層に占める性別の割合は男性が多かったのです。原因は、AIがその企業の現状をそのまま反映してしまったことにあります。
AIには良い悪いの判断までできないので、このような結果を招く可能性があるのですね。
AIに「こうです」と提示されることに頼りきってしまうことで、人間が本来持っている自由意志や思考、あるいは感情がなくなる危険性を指摘する意見も出てきています。AIについては楽観的、悲観的双方の立場からの意見がありますが、榎本さんはどうですか?
私はだいぶ楽観的な立場ですね。普段もあまり考えずに突っ走ってしまうタイプなので、AIに言われたら何でも正しいと思ってしまうかもしれません。怖さを感じます。
私もAIが出した答えなら大丈夫だろう、と思い込んでしまいそうです。
AIの導き出す答えがシャープになればなるほど、人間としてはどうしてよいかわからなくなってしまう、といった危険性もあります。
AIとデータは学生生活でも身近な存在
皆さんの普段の生活でAIやデータに結びつくようなことや意識することはありますか?
私は教育分野の勉強に取り組んでいるのですが、指標や評価方法を検討する場合、データを活用して定量的な仕組みを整えるように注力しています、定性的な評価や指標だけだと当事者の主観が優先される可能性が高く、せっかく良い取り組みであっても他の人が再現可能な仕組みを作ることができなかったことや、他者を説得することが難しいと感じた経験もあるため、データの活用はとても重要です。
私は「ごはん部」で料理のレシピやキャンパス内のキッチンカーの情報をSNSを通じて発信することが多く、その情報が在学生にどの程度届いているか、判断基準のためにデータの知見を学ぶ必要があると考えています。最近ではカロリー計算をするAIも登場していますので、利便性の高さや仕組みに驚いています。
仕組み、と言えば、陸上競技の練習では走行距離、心拍数、記録などのデータを活用したトレーニング方法を取り入れています。コーチからも「この心拍数だからこの記録だった」などのアドバイスをいただくため、理解と納得をもってトレーニングすることができます。
AIやデータが皆さんの学生生活の一部を担っていることがわかるお話ですね。AIの機能は「識別」と「予測」に大別されるのですが、とあるドラッグストアでは、店内のカメラが入店者の性別、年齢、カートを押しているかどうか、などを瞬時に識別し、おすすめの商品を提案する仕組みを導入しています。
AIで自分にあった料理のメニューを提案してくれるサービスもあると聞きました。ひとり暮らしの自分にはありがたいサービスです。
社会福祉の分野では高齢者の健康状態から要介護度の将来予測をする神奈川県の例もありますし、漁業では勘と経験が重視されるマグロの選別をAIで自動化するサービスなども。身近なものからびっくりするようなものまで、たくさんありますね。
AIやデータとの付き合い方、向き合い方とは
今日はマイナスの側面も紹介してきましたが、今述べたようにプラスの側面もたくさんあります。コミュニケーションを取る愛玩ロボットなどもその例ですが、そのような例で思いつくものはありますか?
私はスマートスピーカーに話しかけることが多いです。おすすめの曲などを提示してくれますので、コミュニケーションをとるうちに友達と話しているような気分になります。
私は貧困問題について勉強していますが、私も実習先でスマートスピーカーと楽しそうに話す高齢者の方を見かけることがあります。
まさにAIのプラスの側面だと思います。AIとうまく付き合っていくには、AIにできることとできないことを学ぶことがとても大切です。
AIやデータを学べば学ぶほど人文文系社会学系の領域でできることの選択肢を広げることができると思いますが、自分自身がAIやデータと向き合うためのポリシーのようなものを考えておくことは、使いこなすこと以上に大切なことかもしれません。
確かにそうかもしれないですね。今日のお話では、倫理、人間との共生など、文系出身である自分にとっても身近な言葉を通じて、学ぶべきことにたくさん出会えました。
AIが発展途上である以上、その付き合い方や向き合い方もどんどん変わってくると思います。AIと良い関係を築くためには、このような議論をこれからも続けることが大切だと感じました。
皆さんには、AIとビッグデータの時代を迷わずに生きていくための姿勢を身につけてほしいと考えています。2023年度の春学期から始まる、AI・データサイエンス教育プログラムをぜひ受講してみてください。