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2021年度 公開セミナー報告


テーマ  新しい共生を考える ージェンダーが照らす社会の未来ー

                                  →チラシPDFはこちらopenseminar2021

開催日時 2021年11月9,16,23,30日,12月7日 15時15分-16時45分
(毎週火曜日 全5回)

Zoomウェビナーによるオンライン開催

    

 

 

 

 

 

 

 


 

第1回 11/9 清末 愛砂氏
(室蘭工業大学教授)
ジェンダーの視点から憲法と平和をめぐる問題を考える

第一回は、室蘭工業大学教授の清末愛砂先生をお招きしました。清末先生は、「ジェンダー」、「個人の尊厳」をキーワードとして、憲法、家族法を研究されると共に、アフガニスタンへの現地調査やパレスチナでの人道支援活動なども行っておられます。 まず清末先生は、平和とは抽象的なものでも、誰かから与えられるものでもなく、自ら勝ち取る、または探求する具体的なものであると話されました。アフガニスタンやパレスチナなど現地での体験を通して、温かい食事、描画や音楽を楽しむ、そうした何気ないひとときこそ、私たちが希求する「平和」なのだと考えるようになったと話されました。 続いて清末先生は平和主義の観点から、憲法で唯一「個人の尊厳」を規定する憲法第24条の意義と重要性について話されました。「憲法と平和」の議論ではしばしば、憲法第9条が取り上げられるが、「ジェンダーの視点から」を意識すると、24条には、家制度の廃止後も続くジェンダー差別や「私的自治の原則」に基づいて見えにくくなっていた家族内暴力を根絶する規範としての意義、さらに9条にジェンダー正義を補い、暴力の無い平和の達成へつなげるという意義があると強調しました。清末先生は、個人の尊厳とジェンダー平等なくして平和で民主的な社会をつくることはできない、24条の意義を多角的に学ぶことが問われます、と結びました。

第2回 11/16 李 姸淑氏
(北海道大学法学研究科研究員)
家族とジェンダーをめぐる中国の法と社会

第二回は、北海道大学大学院法学研究科研究員の李姸淑先生をお招きしました。李先生は、2001年に来日して以来、ずっと日本で中国の家族法について研究しておられます。今回は、ジェンダー、家族をキーワードに現在の中国社会についてお話していただきました。 中国は1949年の社会主義国家として建国して以来、憲法と婚姻法における「男女平等」を掲げてきました。しかしそれはトップダウン式の男女平等政策で、社会主義建設の重要な役割として女性が求められていることに過ぎず、女性による主体的な社会進出、真の女性解放とは言い難いと李先生は指摘します。実際、中国社会のこのような現状は、「世界経済フォーラム」(World Economic Forum : WEF)による中国のジェンダーギャップ指数(特に健康と政治)評価の低さにも現れています。 中国のジェンダー論を考える時、伝統的家父長制は現在「国家的家父長制」として表していることを認識することが重要だと李先生は指摘します。このような現代的家父長制の下、政治においては「女性の不在」が顕著で、家庭においては性別役割分業が強く維持され、中国社会において「女性と家庭と子どもを三位一体とする家族観」が生み出されています。女性は弱者として「保護」という名の下で実は性差別を被っています。  近年、国際社会の潮流の影響を受け、中国社会においても性に関する価値観が多様化しています。それに対する政治的統制も厳しくなっているように見受けられます。実際、多くのフェミニズム運動は抑えられ、ジェンダーレス男子は規制対象になり、LGBT関連の法律もまだ制定されていません。中国における真の女性解放・男女平等を実現するための課題が依然多いと、李先生は述べられました。

 

第3回 11/23 野口 敏彦氏
(弁護士・第二次夫婦別姓訴訟弁護団事務局長)
別姓婚の選択肢を求める意味
   ~たかが名前,されど名前~

第三回は、弁護士の野口敏彦先生をゲストにお招きしました。野口先生は、別姓婚の選択肢を求める運動以外にも、高齢者、障がい者、ひきこもりに関する弁護、支援にも携わり、「多様な生き方」が認められる社会の実現に尽力しておられます。 今回のお話はまず夫婦同氏制の成り立ちから始まりました。そもそも夫婦同氏制は、1898年に導入され、1947年に全体主義・国家主義を助長するものとして廃止された「家制度」の名残りです。しかし「家制度」は、男尊女卑や性的役割、「タテ社会」や「わきまえ社会」として現在の日本社会にいまだ大きく影響しています。従って、夫婦別姓の問題は名前だけの問題ではなく、別姓婚の選択肢を求めるというのは、この「家制度の亡霊」と闘い、その諸問題を脱却できるかということともつながるものなのです。 別姓婚は「公共の福祉」に反せず、自由に、自分のことを自分で決めるという意思と行動の現れであると野口先生は強調します。実際、多くの政治家が別姓婚に賛成していますが、一部の反対派の存在によって展開が滞っています。古い家制度を「日本の醇風美俗」だと賛美するこれら保守政治家の言動は、個人の尊重を定める最高法規である日本国憲法をないがしろにしていると野口先生は指摘します。 一方で近年は、女性と男性が対等に表舞台に出る機会が増え、SNSやマスコミによる連携も強化されています。こうしたチャンスだからこそ、お互いが変化するための対等な「対話」が、別姓婚の議論を含め、あらゆる場面で私たちには必要なのですと野口先生は強調されました。

第4回 11/30 新村 響子氏
(弁護士・旬報法律事務所パートナー)
労働現場におけるセクシュアルハラスメント

第四回は、弁護士の新村響子さんをゲストにお招きしました。新村さんは、労働者側に立った労働問題、特に最近はハラスメントの相談を多く受けていることから、裁判だけではなく、講演会や著作を通してハラスメント問題の改善に尽力しておられます。今回の講演では、主にセクハラに焦点を当て、日本のセクハラ法制度の流れから、なぜセクハラがなくならないのか、その実態をお話ししていただきました。 日本初のセクハラ裁判は1989年にはじまりました。当時「セクハラ」に適用される法律はなく、この時の判決がきっかけとなって、男女雇用機会均等法の改正が進みました。1997年の改正で女性に対するセクハラへの事業主の配慮義務が設けられ、2006年の改正では、男女に対するセクハラへの事業主の防止措置義務が設けられました。こうした流れがさらにマタハラ、パワハラに対する規制の制定に繋がっています。 しかし、なぜセクハラはなくならないのか。新村先生は、その原因を大きく三つに分けて説明されました。一つ目はセクハラを規制する日本の法律が不十分、あくまで事業主の措置義務にとどまり刑事罰・民事救済の規定のないこと、二つ目は現状の法律の運用の不備、ハラスメントに関する規則がタテ割りでわかりにくいこと、三つ目は、セクハラ被害者の心理状態に対して加害者または事業主が無理解であること、です。 新村先生は、セクハラの被害をなくし、その被害に対する十分な救済制度を整えるためにも、真に実効性のあるハラスメント防止法の制定を目指してジェンダー平等に向けた政策をすすめることが必要であると強調されました。

第5回 12/7 谷口 洋幸氏
(青山学院大学教授)
人権の視点から考える多様な性のあり方

第五回は、青山学院大学教授の谷口洋幸先生をゲストにお招きしました。谷口先生は、国際人権法、ジェンダー法に関する研究に務めながら、日本学術会議連携会員としてもLGBTに関する提言書や法案の作成に携わっておられます。 谷口先生は、マジョリティの意見を大前提にしてマイノリティの意見を認めるかどうか、という見方は「人権の視点」を欠いていると指摘します。好きな人と結婚することやありのままの自分として生活するというマジョリティが当たり前すぎて認識していない「人権」が、SOGI(ESC)やLGBTQ+のマイノリティにはまだ認められていません。同性間に結婚を認めないことに合理的理由はあるのかと先生は問います。「人権の視点」からもっと「当たり前を問う」と、当たり前と思っているものが実は特権である、マイノリティがマジョリティの意見を認めて「あげる」のはおかしいと気づきます。すべての人の自由・平等という人権の基本に立ち返って認識を高め、制度を整備していかなければ多様な性のあり方は実現しえないと谷口先生は強調します。 人権の大切さを考えるとき、同じ人間だからみんなに人権が認められるべきだ、とよく言われます。しかし先生は、そこにとどまるのではなく、同じでも違う、違っても同じ人間だからこそ、違いを無いものとするのではなく違いを認め尊重していけるように人権が大切なのです、と結びました。