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情報処理技術の10年間

高橋順子


 

1.はじめに


 本学科は、文系の学科でありながら、学生全員がノートパソコンを持参し、先端分野の実践的な法律を、情報処理技術を活用しながら学ぶ、というユニークなコンセプトの学科として10年前に設立されました。以下で、この10年間の情報処理技術の発展と本学科における情報処理教育の歩みについて述べていきます。


2.情報処理技術の発展


 ここでは、1990年代以前のコンピュータとインターネット技術の発展の歴史についてまとめつつ、この10年間(2000年代)の情報処理技術の発展に焦点を当てて解説していきます。
 世界最初のコンピュータが登場した1940年代から数十年間、コンピュータは大型で非常に高価なコンピュータが主流でしたが、1970年代になって個人でも購入可能な小型で低価格なコンピュータが登場しました。それがパソコン(パーソナルコンピュータ)と呼ばれるものです。その他にも、用途別に多種多様なコンピュータが登場しました。大規模科学技術計算に使われる超高性能なスーパーコンピュータ、大企業の基幹業務システム用に使われるメインフレーム(汎用コンピュータまたはホストコンピュータとも呼ばれる)、中小企業などの事務処理システム用に使われるオフコン(オフィスコンピュータ)、ネットワークを通じたデータ管理やサービス提供などを行うのに使われるサーバ(ワークステーション)、自動車や家電の制御に使われるマイコン(マイクロコントローラまたはマイクロコンピュータ)などがあります。
 2000年代になると、メーカー間の競争が激化すると共に、パソコンの急速な性能向上と低価格化が進行しました。そのため、個人レベルでのパソコン所有率も急上昇しました。また、オフコンはパソコンに置き換えられるようになり、パソコンがサーバ代わりに使用されるようにもなってきました。
 世界最初のインターネットは、1960年代に米国国防総省が軍事・研究目的で構築したARPANETと呼ばれるものですが、その後、インターネットは軍事から切り離して民間に開放されるようになりました。1990年代には、個人にインターネットサービスを提供する商用プロバイダが登場し、また、Webページの形でさまざまな情報を公開するシステムであるWWW(World Wide Web)という技術が開発されたことにより、インターネットは全世界に爆発的に広がりました。
 しかしながら、インターネットの利用人口が増えるにつれて、さまざまな問題も発生してきました。利用人口の急激な増大にインフラ面の整備が追いつかなかったことから、通信回線が混雑して接続速度が低下することや、コンピュータに割り当てるIPアドレスがだんだん足りなくなっていくなどの問題が起きました。その他、迷惑メール、スパイウェア、コンピュータウィルス、不正アクセス(ハッキング)、個人情報の流出、フィッシング詐欺、不健全サイト、ネット犯罪、不正コピーなどによる著作権侵害など、多くの問題が起こってきました。
 2000年代になると、それまでのインターネットから、次世代インターネットへの移行が始まりました。次世代インターネットは、上記のような問題を解決するための多くの新技術を含んでいます。まず、光ファイバを用いた高速通信回線を整備し、それを標準の通信回線として用いることでマルチメディア(文字・画像・音声・動画)通信を可能にすると共に、高速の無線通信技術を使ってモバイル通信の普及にも対応しています。また、従来のインターネットのプロトコル(通信規約)を改良し、IPアドレス不足の解消(IPv6)、セキュリティを高めた通信(IPSec)、マルチメディアデータの高速配信(QoS)などを可能にします。
 2010年現在、日本は次世代インターネットへの移行途中にあります。既にインターネットの普及率は、企業でほぼ100%、一般世帯でも90%以上、そのうち光ファイバ回線利用世帯は40%以上に達しています(総務省情報通信統計データベースより)。電子商取引・電子マネーの普及、次世代位置情報サービスなど新ビジネスの開始、インターネット家電の登場、電子政府の設立など、新しいインターネット技術を使った生活の便利化はどんどん進んでいます。
 パソコンとインターネットの普及は、企業の業務処理システムにも大きな変化をもたらしました。1990年代以前は、企業での業務処理は大型コンピュータを多数の端末から共同利用する形態(集中処理システム)が一般的でしたが、2000年代までに、多数の小型コンピュータをネットワークで接続して業務処理を行う形態(分散処理システム)への移行が盛んに行われました(これを「ダウンサイジング」と呼びます)。インターネットは、サーバ(サービスを提供するコンピュータの意味)とクライアント(サービスを受けるコンピュータの意味)で構成されるクライアントサーバシステムと呼ばれる分散処理システムの一種です。企業内のイントラネットにもこのクライアントサーバシステムが応用され、複数のサーバでネットワークを通じたデータ管理やサービス提供などを行いつつ、多数のクライアント(普通はパソコン)を各部署に置いて業務を行います。この方が、コストを節約できるだけでなく、現場のニーズに柔軟に対応できるという利点があります。


3.本学科における情報処理教育の歩み


 ここでは、本学科のカリキュラムの特徴と、この10年間の本学科における情報処理教育の歩みについて解説していきます。
 本学科は、文系の学科でありながら、学生全員がノートパソコンを持参し、情報処理技術を活用しながら先端分野の法律を学んでいくという、ユニークな特徴を持っています。先端分野の法律は、その内容が急速に変化、発展していきます。本や参考書の内容は、既に古い内容になっているかもしれず、それゆえ、インターネットを利用した情報収集が必要になってきます。それだけでなく、ネット上に氾濫した大量の情報の中から正しく有益な情報を選り分け、情報を分析・加工することも必要です。さらには、自分の考えを適切に伝えるためのプレゼンテーション能力や情報発信能力も必要になってくるでしょう。
 本学科では、法律基礎科目群、消費者法科目群、企業活動法科目群、環境法科目群に加えて、学科基礎科目として情報処理の基礎技術を学ぶための「情報処理1~4」、特殊演習として情報処理技術を法律の学習へ応用する具体的方法を学ぶための「法情報処理演習1~2」という科目が開講されています。それらを履修することを通じて、急速に変化していく現代社会に対応できる情報活用能力を養いつつ、社会の様々な分野で実際に直面する法律問題に対応できる実践的な問題解決能力を養うことを目標としています。
 「情報処理1~4」の授業内容は、この10年間の情報技術の進歩に合わせて、最新の知識や技能を身につけられるように工夫されています。「情報処理1」では、ノートパソコンの基本操作方法、インターネットへの接続方法、電子メールの使い方、ワープロソフトを使った文書作成方法、ホームページの作り方などを学びます。「情報処理2」では、汎用ビジネスソフトとしていろいろな用途に使われる表計算ソフトを使って、データの分析・加工・表現方法について学びます。「情報処理3」では、簡単なプログラミング言語であるPerl言語を学んで、計算や文書処理を行うためのアプリケーションソフトを自分自身で作成できるようになることを目指します。「情報処理4」では、より高度で実践的な情報処理技術の習得を目指して、オペレーティングシステム、ネットーワークアプリケーション、サーバ技術などについて学びます。
 一方、「法情報処理演習1~2」の授業内容は、情報処理技術を応用して、この10年間変化、発展し続けてきた現代法を学習するための具体的手法を身につけられるように工夫されています。「法情報処理演習1」では、電子メディアによる法律関連情報の探索方法、情報の信頼性の判定方法、情報の分析や整理方法、プレゼンテーション方法などについて学びます。「法情報処理演習2」では、日本法だけでなく外国法も含めた法律関連テーマについて、より高度な情報検索、レポート作成、プレゼンテーションを行えるようになることを目指します。
 また、本学科では、学科特製のCD-ROMを配布しています。このCD-ROMには、本学科で開講されている全科目の教材に加えて、判例、法令、法律学小辞典などが収録されています。このCD-ROMは、「法情報処理演習1~2」で利用されるだけでなく、法律基礎科目群、消費者法科目群、企業活動法科目群、環境法科目群の学習においてもたいへん役立つツールになっています。
 前章で述べたように、最近の企業では、クライアントサーバシステムの普及に伴い、各部署のエンドユーザ(末端利用者)自身が主体となって業務を推進するという「エンドユーザコンピューティング」の重要性が増してきました。それゆえ、企業では、新入社員の採用や社員の昇進に際して情報技術活用能力を重視する傾向が増えてきています。本学科における情報処理教育は、このようなニーズにも充分対応できるカリキュラムとなっています。
 本学科生の卒業後の進路としては、この10年間、特に通信、ソフトウェア、化学、薬品、電子機器など理系の企業への就職率が次第に高まっています。文系でありながら、情報処理技術をしっかり身につけていること、環境学などの科学的知識も学んでいることなど、本学科の強みが発揮されているといえます。


4.終わりに


 情報処理技術と現代法は、これからもますます変化し、発展し続けていくでしょう。この学科へ入学される皆さんには、それらについての基礎力と、さらには今後の変化に対応していくための応用力とをしっかりと身につけていただきたいと思います。また、それを21世紀の社会を切り開いていく原動力にしてほしいと、心より願っています。

 

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