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環境法の10年間

阿部 満 ・ 磯崎博司


 

「先端法学10年間の歩み-環境法の10年間-そのうちはじめの4年+α 」


1.おことわり
 原稿依頼をいただいて是非書かなくてはと責任を感じていた。設立当初のことなど電車で思いついたことをコンピュータに書き留めてきたが、本日(2010年3月31日)現在、本日締め切りの環境訴訟の判例解説が終わっておらず、まとめる時間が見つけられずにいる(いつものことで、今日中に原稿が完成する見込みの方もまだ立っていないのだが)。とりあえず、遅れるのだけはよくないと思い、担当した科目とその簡単な内容を記そうと思う。ネットでの公開ということなので、後日差し替えるということで(笑)。


2.設立当初の環境法カリキュラム
 2000年生の環境法系の設置科目は以下の通りであった。
 1年次配当 環境倫理と法(半期)
 2年次配当 環境法の生成と体系(通年)
 3年次配当 環境政策と法、環境保護法、国際環境法(全て半期)
 2004年度のカリキュラム改正(磯崎先生の着任時に合わせて改正)までは、全学セメスター化(2002年度から)を前倒して、2001年の初回開講時から「環境法の生成と体系」が「同1」「同2」の半期科目に変更されたことを除きこのまま実施された。
 このうち、「環境倫理と法」は、関根先生(非常勤)、「環境政策と法」及び「環境保護法」は柳憲一郎先生(当時明海大学教授、現明治大学教授)、「国際環境法」は、その後着任された国際法の臼杵先生が主に担当された。2年次配当の「環境法の生成と体系1・2」を阿部が担当した。


3.担当した講義の雑感
 2001年度から「環境法の生成と体系」を3年間担当した。
 この当時は昼夜開講制だったので、それぞれの科目が昼間時間帯(1~5時限)、夜間時間帯(1年次から4年次白金6,7限)に開講されていた。従って、今のコマ計算だと4コマ分になる(この他に民法の科目を4コマ担当)。夜間時間帯を受講する学生は多くはなく、また設置規制がかかっていたので他学科への開放もなく、はじめの頃は受講者10名ちょっとで、一番少ない受講者は3名だった記憶がある。昼間は多い年で200人を超え横浜の大教室で一方的な講義をせざるを得なかったが、白金の夜は、学生の昼間のアルバイトの話を聞いたり、他の授業の噂や学科の他の学生ことが話題になったり、学期の半ばにレポートを提出して添削して返して感想を話し合ったりとかなり贅沢な牧歌的な授業で、私は楽しかった。制度的には夜間主を廃止する立場に与していたが、個人的にはユニークで独立自主がたの人が多く、夜間主の学生が好きだった。
 内容は、経験が少なく研究している分野も限られていたので、概観的な話(主に戦後の産業政策と公害の発生、公害規制・公害訴訟、その後の環境規制への展開など)を話したあとは、公害民事訴訟(水俣病、大気汚染訴訟)の不法行為上の争点、公害規制の手法の種類と問題点、廃棄物処理法制及び土壌汚染法制の問題点などをトピック的に扱った。夜間の授業では受講者の関心に合わせて温暖化対策を扱った年もあった。現在、法科大学院ができて司法試験選択科目に環境法が出来て「環境法のカリキュラム」が確立された感があるが、当時、多くの大学では特講や先端科目的に環境法を扱いはじめたばかりで大きな大学でも環境法の授業がないところも存在していた状況で、何をどう取り上げるべきか、手探りだった。当時の受講生の皆さんは、今どう思っているのだろうか。一度聞いてみたい。
 「環境法の生成と体系」以外に、4年次向けのオムニバス形式の授業「リスク管理と制度設計」の環境法の部分を2回分担当した。これは、設立の主導者京藤先生の言葉を借りれば「法学出門」と位置づけられた科目で、JCの担当教員何人かが一応専門科目の受講が終わった段階でこの学科の科目が抱える課題を全般的な目で扱うことで、社会に出て行く学生にもう一度自分の学んだことの意味を考えてもらうという授業だった。豊島の産業廃棄物不法投棄問題をネタにしたと記憶しているが、反応がよく、履修登録していない学生も出てきていていろいろなことを話した。このときに環境法に興味を持ち、環境関連の大学院に進学すると受講者の一人から聞いたときはちょっとした達成感を感じた(もちろん鵜呑みにはしていないが、少しうれしかった)。


3.ゼミ
 2002年、2003年と環境法のテーマでゼミを募集した。2年とも民法で開講している年よりもゼミ員が多く、10人を超えていた。法律学科のゼミ員もいたが、多くはJCの学生だった。2002年度はゼミ員にテーマを決めてもらい、結局環境アセスメントを主に扱った。学生主体で運営できてよかった。2003年度は、方法を全く変えて、教員がテーマを決めて大気汚染訴訟を取り上げ、前期に大気汚染訴訟の不法行為法上、民事訴訟上の問題点を取り上げ、後期は、東京大気汚染訴訟判決を読んだ。平行して個人研究をやってもらった。感想としてはやはり学生にほとんど任せてやった方が、学生のためにはよかったと思う。ゼミ生の皆さんはどうしているだろうか。


4.おわりに
 2004年法律学科の民法教員に戻った。磯崎先生を本学にお招きできたのがJCに対する数少ない貢献だったと自負している。その後、2006年度に在外研究でカリフォルニア大学バークレーに環境法をテーマに勉強に行き、引き受け教授のファーバー先生には2007年、2008年に明学で講演をしていただいた(磯崎先生と共同で招聘)。2007年にはカリフォルニアの温暖化対策について講義、「法律学特講(世界の環境を考える)」の1回分を担当していただいた。
 この4月磯崎先生は明学を去る。今年度環境法のゼミを持つことにした。気持ちの上では明学の環境法を再び1年預かるつもりでいる。環境法研究の先輩である、臼杵先生、田村先生のご指導を受けながらなんとかこの一年しのげればと思う。


「先端法学10年間の歩み-環境法の10年間-その後半の6年」


1.2004年からの科目配置
 環境関連科目は、当初からの科目構成を基本にしつつ、2004年度からは以下のように再構成された。1年次生向けとして、自然科学の観点から環境問題の背景とメカニズムを学ぶ「環境科学の基礎1・2」、また、環境社会学の観点から環境問題と人間との関係を学ぶ「環境問題の基礎」を配置した。2年次生向けには、国内外において質的・量的に拡大し展開する問題状況を把握した上で、その解決に向けて法的観点からアプローチする「環境問題の展開と法1・2」を配置した。また、3・4年次生向けに、「環境科学の展開」、「国際環境法1・2」、「環境政策と法」、「環境保護と訴訟」を配置した。なお、当初4年間と同様に、「環境問題の基礎」、「環境政策と法」および「環境保護と訴訟」の3科目は学外の非常勤講師に委ねてきている。この科目配置の下で、2005年度以降、2年次環境科目の受講生の急増があり、2009年度には3コマ体制をとるまでに至った。しかし、環境法そのものに対する関心が高いわけでもないので、2年次科目の位置づけには工夫が必要であろう。
 これら環境法関連科目においては、環境問題の実際の展開状況を把握できるように、その時点での事件、行政または裁判の動向、環境条約の交渉や運用の課題などを提供するよう心がけた。たまたま、中央環境審議会や他省庁の各種委員会の委員であったり、多くの環境条約の政府間交渉会合に法律アドバイザーとして派遣されたりしため、制度や政策決定に関する生の最新の情報や動向を伝えることができた。他方で、これらの科目は、そのような進行中の問題を扱うこともあり、多くの情報の中から社会的なバランスの下で法的解決策を自分で考えてもらうことを目的としており、覚えるだけでは対応できないため、一部の受講生にとっては勝手が違い苦労したようである。


2.国連大学連携科目
 さて、後半6年間について特筆すべきことは、科目新設を中心とする環境法分野の拡充である。その中には、他大学には見られない特色ある科目もある。それは、2005年度から試行的に始められた英語で行われる「法律学・政治学特講(世界の環境を考える)(持続可能な社会に向けて)」である。それは、私が国連大学客員教授であったことから、また、環境関連の行政・研究機関やNGOとの人的ネットワークを活かして、現実の最先端の話を英語で聞く機会を提供できないかと、本学に着任してすぐに考えたことに発する。たまたま、同時期に前後して、国連大学や関連研究者からも、フレッシュな学生との意見交換の場があればよいのにという考えが出されていた。
 2004年の夏以降関係者との企画調整を経て少しずつ形ができはじめ、当時の川上学部長に賛同していただき学内の資金確保やカリキュラム体制作りに尽力していただいた。最終的には、本学法学部と、国連大学高等研究所、地球人間環境フォーラムとの3者の共同で2005年から開講することとなった。本学部は春・秋2単位ずつの科目を正式カリキュラムとして位置づけるとともに必要経費を提供すること、国連大学は世界各国から赴任している国際レベルの研究員の中から半期につき4人を(1人2週受け持ち)講師として派遣すること、地球人間環境フォーラムはNGOを含む国内環境関連団体から現場の体験を話せる講師を確保するとともに受講生の理解促進のための全体コーディネーターを派遣することが合意された。この科目の運営経費は、当初は学長による特別予算として措置されたが、その後は、これも川上学部長の努力により法学部の年次予算として恒常的に確保されるようになった。
 2006年度には、1年間の試行を前提に微修正をしながら年間の科目運営計画を立てるとともに、文科省による現代GPに備え、環境分野の充実を目的として学内GPに応募した。幸い、選定されることができ、2007年度に始められたGP企画の中心の第一は、この科目を特講ではなく科目名を明示した通常科目に変えることであった。2007年度の学内GPの実施と並行して、上記科目を運営する3者間の将来構想の調整を行い、枠組み継続を再確認できたので、「世界の環境を考える」および「持続可能な社会に向けて」という通常科目を設置するための学則改正を行った。国連大学には学生はおらず研究者のみで構成されていて、世界各地で大学院レベルの協力や共同研究は行っているが、学部レベルの正規科目に協力しているのは本学部との間だけである。2010年度以降は私は関われないが、今後も、この特色ある科目が関係3者の連携により発展していくことを望む。


3.そのほか
 最後に、外国人招聘セミナーとゼミについて振り返ってみたい。
 本学部の特色として、教員向けおよび学生向けの講演のため第一線の研究者を国外から招聘するというプログラムがある。環境法分野ではこのプログラムを活用して、2005年度にフランスからヨーロッパ人権裁判所法律専門官(その後、フィレンツェ大学教授)のブルトリーニ氏、2006年度にはフランスからヨーロッパ景観条約法務部長のデジャンポン氏、2007年度にはニュージーランドから先住民人権保障専門のワイカト弁護士、同じ2007年度にアメリカからカリフォルニア大学教授のファーバー氏、2008年度にはデンマークからEU環境庁のシュティザー氏、2009年度にはスペインからEUの生物多様性条約交渉代表のラゴカンデイラ氏をそれぞれ招待した。これら招聘者は、いずれも、国際的に環境法分野で論議されているホットイシューについて、具体的な問題の解決や政府間会議の最前線で交渉にあたっているか、または、それらに密接な関連を有する国際機関の担当者や政策決定に関わる研究者である。
 これら招聘者には、教員向け研究会のほか、上記の国連大学連携科目または国際環境法科目において法的論点を中心に最新動向を紹介してもらった。また、これらの招聘者が来日することには、他大学研究者や日本の行政機関も大きな関心を示したため、国連大学をはじめとして、世界人権問題研究センター(京都)、大阪大学、金沢大学、北海道大学、早稲田大学、関連省庁、学術団体、民間団体・企業などによる招待講演会または本学部との共催講演会も数多く開催された。
 次に、ゼミにおいても、上記の招聘者との意見交換は恒例化していた。毎年、空いた時間に招聘者を関東や関西などの名所に案内したゼミ生も多くいたし、その縁で、後日その国に旅行し自宅に泊めてもらうゼミ生もいた。そのほかにも、学外の専門家をゼミに招待したり、逆に、ゼミ全体もしくは一部メンバーによって学外機関を訪問したりした。それに協力していただいたのは、国連大学、国際熱帯木材機関、JICA、農水省ジーンバンク、NITE生物遺伝資源センター、横浜植物防疫所、自然環境研究センター、横浜市国際交流協会、地球人間環境フォーラム、WWF、野鳥の会、地球の友、グリーンピース、ラムサールセンター、メコンウォッチ、公害研究会、トラフィックジャパン、フィールドアシスタントネットワーク、バイオインダストリー協会など多岐にわたる。6年間で40名が国際環境法ゼミに所属したが、以上のような国際性と現場主義が役に立っていれば幸いである。