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消費者法の10年間

角田真理子


 

1.はじめに
 消費情報環境法学科が10周年を迎えるにあたり、消費者法関連の10年を振り返ることとなったが、私が着任したのが2004年度からなので、その前のカリキュラム等については資料によるものであることをあらかじめお断りしておきたい。


2.消費者法の動き
 まず、学科が創設された2000年からの10年間についての消費者関連法の主な出来事を年表的に振り返っておくこととする。
 学科が設立された2000年は、消費者契約法が制定されたという消費者法にとって大きな転換点であったということができる。その他では、金融商品販売法(金融商品の販売等に関する法律)やマンション管理適正化法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)の制定などの他、訪問販売法(訪問販売等に関する法律)が特定商取引法(特定商取引に関する法律)に名称を変更して改正されるなどした。主な消費者問題には、三菱自動車工業のリコール隠し事件やエステティックサロンのエステdeミロードの倒産などがあった。
 2001年には、消費者契約法、金融商品販売法が施行され、電子消費者契約法(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)などが制定された。事件では、BSE(狂牛病)牛が見つかったほか、大和都市管財の破綻やヤミ金問題の社会問題化などがあった。また、ダイヤルQ2訴訟の最高裁判決が出された。
 2002年の主な立法としては、迷惑メール対策としての特定電子メール適正化法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)の制定、特定商取引法の改正(迷惑メール広告規制)などの電子商取引関連法の立法や食品衛生法、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の改正と牛海綿状脳症対策特別措置法といった食品関連法の立法などの他、区分所有法(建物の区分所有に関する法律)の改正やマンション建替円滑化法(マンションの建替えの円滑化等に関する法律)の制定やシックハウス対策としての建築基準法の改正などがあった。事件では、食の安全をめぐる問題の社会問題化が目立った。
 2003年は、食の安全に関して、食品安全法が制定され、内閣府に食品安全委員会が設置され、食品リスクという観点から食の安全をめぐる関連法が整備された年であった。また、ヤミ金問題対策として貸金業法(「貸金業法」は、現在の名称。当時は、貸金業の規制等に関する法律。以下、「貸金業法」)・出資法(出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)が改正された。主な事件としては、BSE牛が7頭になったことや架空請求・不当請求の苦情の増加などがあった。また、国民生活審議会で、「21世紀型の消費者政策の在り方について」の最終報告書がまとめられた。
 2004年は、消費者保護基本法が、消費者基本法に改称され大きく改正された年である。この他の主な立法としては、公益通報者保護法、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)の制定の他、訪問販売等に取消権を認めるなどの特定商取引法の改正や外国為替証拠金取引の不招請勧誘を禁止する金融先物取引法の改正などが行われた。事件では、鳥インフルエンザの拡大や振込め詐欺の多発や偽造キャッシュカード問題などがあった。
 2005年には、食育基本法、偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機会式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律の制定の他、無認可共済を規制する保険業法の改正などが行われた。主な事件としては、マンションやホテルの耐震偽装問題や悪質リフォーム詐欺の顕在化や松下電器(現:パナソニック)の石油ファンヒーターに関しての緊急回収命令等があった。
 2006年には、消費者契約法が改正され、消費者団体訴訟制度が導入された。この年には、利息制限法を超える金利に厳しい最高裁判決が出され、貸金業法、利息制限法、出資法が大幅に改正(貸金業法の名称変更、出資法の刑罰金利の年利20%への引き下げ、貸金業法のみなし弁済規定の削除等)された。また、証券取引法が金融商品取引法に改称されて大改正された他、消費生活用製品安全法や薬事法の改正などが行われ、大学への入学辞退者への授業料返還を認める最高裁判決が出された。
 2007年には、金融機関本人確認法の犯罪による収益の移転防止に関する法律への改正、振込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)、住宅瑕疵担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)の制定の他、消費生活用製品安全法の改正などが行われた。また、英会話学校NOVAの中途解約清算条項が特定商取引法に反して無効とする最高裁判決が出され、経済産業省が同社への業務停止命令を出し、同社は倒産。その他の事件としては、食肉加工会社ミートホープの食肉偽装事件や生命保険、損害保険の不払い問題の社会問題化などがあった。
 2008年には、特定商取引法と割賦販売法が大改正された他、独立行政法人国民生活センター法が改正されてADRが創設された。また、前述の特定商取引の改正と景表法(不当景品類及び不当表示防止法)の改正で、両法に消費者団体訴訟制度が導入された他、商法の保険の章が独立して保険法が制定された。11月には、消費者法学会が設立された。事件では、中国産冷凍ギョーザ事件や事故米の食用転売事件などが起こった。
 2009年には、消費者庁及び消費者委員会関連3法(消費者庁及び消費者委員会設置法、関係法律の整備に関する法律、消費者安全法)が制定され、9月に消費者庁と消費者委員会が創設された。この他の主な立法としては、米トレーサビリティ法(米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律)、資金決済法(資金決済に関する法律)の制定などがあった。
 以上、この10年を見てきたが、消費者法はその動きが激しい最先端の法分野であることがわかる。


3.消費者法関連カリキュラムの変遷
 次に、消費者法関連の学科カリキュラムを紹介する。
消費情報環境法学科は、2005年に夜間主の白金インテンシブコースが廃止になるまでは、昼間主のスタンダードコースとが併設されていた。
 学科創設当時の消費者法関連カリキュラムは、以下の通りであった。内容を見ると、その枠組みに迷いを感じるものとなっている。
 〔消費情報環境法の基礎科目群〕(必修)
 1年次配当 消費情報環境法(半期)
 2年次配当 不動産特別法、経済刑法、消費者行政法、消費者取引特別法(全て半期)
 〔消費者法科目群〕(選択必修)
 1年次配当 親族法(半期)
 2年次配当 高齢者と法、国際消費者法(全て半期)
 3年次配当 製造物責任法、社会保障法、相続法、保険法、信託法、マンション法、情報と法(全て半期)
 これに特殊演習科目として、国民生活センター職員等による消費者法演習が3年次配当の必修科目(通年)として設けられていた。
 その後、消費情報環境法は、消費者関連科目としては、消費者問題と法となり、また、製造物責任法は消費者取引特別法2に、マンション法は消費者取引特別法3となり、以下の現在のカリキュラムとなっている。3年次配当の必修科目(通年)である消費者法演習と選択科目であるインターンシップ(A,B)以外は、全て半期の選択必修である。
 〔消費者法科目群〕
 1年次配当 消費者問題と法
 2年次配当 消費者行政法、消費者取引特別法1、高齢社会と法、
 3年次配当 消費者取引特別法2、消費者取引特別法3、国際消費者法、不動産特別法、消費者法の実務、経済刑法、情報と法、情報と職業、成年後見法制1、成年後見法制2


4.学科における消費者法関連での取組み
 さらに、学科における特徴的な取組みを紹介する。
(1)消費者法演習
 消費者法は、消費者問題の発生に対応して生成されてきたものと言え、消費生活センター等の消費生活相談窓口等においてどのように活用されているかといった実務が重要である。そこで、学科の設立当初から、その特徴的なカリキュラムとして、独立行政法人(当初は、特殊法人)国民生活センターの相談担当または経験者による演習、消費者法演習を通年の3年次配当の必修としてきている。実際の相談事例等を踏まえたアップトゥーデートな演習である。


(2)消費者法の実務
 2007年の4月から、主な消費者関連法の執行または立法担当者や経験者による消費者法の実務という授業を土曜の2限の春・秋で開講している。
 消費者契約法、製造物責任法、消費者基本法等主な消費者関連法の旧内閣府国民生活局、現在は消費者庁を中心とした実務経験者による講義である。
 2010年度からは、法科大学院のカリキュラムともなり、2009年度からは、(4)の社会人も対象としている。
 参考までに2010年度春学期の授業内容を以下にあげておく。

 〔2010年度春学期「消費者法の実務」〕
  授業の内容
第1回 イントロダクション
第2回 消費者安全法の内容と運用
第3回 消費者基本法の内容と運用
第4回 消費者団体訴訟制度の実態と集団的消費者被害救済制度の検討
第5回 消費者契約法の内容と運用
第6回 消費者団体訴訟制度の内容と運用
第7回 製造物責任法の内容と運用
第8回 公益通報者保護法の内容と運用
第9回 景品表示法の内容と運用
第10回 個人情報保護法の内容と運用
第11回 電気通信事業法の内容と運用
第12回 消費者法の経済分析
第13回 貸金業法の変遷と改正法の完全施行について
第14回 消費者庁と消費者委員会

 

(3)インターンシップ(別原稿に詳細)
 2008年度より、環境法とともに消費者法関連の学科独自のインターンシップを実施している。地方自治体の消費生活センター等消費者行政の現場や消費者団体等でのオリジナルのインターンシップを経験することで消費者法のより深い理解と社会経験を行うというものであり、参加した学生は大きな刺激を受け、その経験を動機として消費者関連の仕事につきたいと希望すし、実現する学生も出てきている。


(4)消費者関連資格取得講座(別原稿に詳細)
 消費者関連の主な資格として、消費生活専門相談員と消費生活アドバイザーがある。これら資格取得を希望する学生もいるため、国家試験対策委員会の課外講座として消費者関連資格取得講座を開講し、2008年度からは社会人にも開いている。


4.その他ゼミ等と今後の課題
 以上見てきたように、動きの激しい消費者法分野では、カリキュラムを中心にその他の取組み等を合わせて、特徴的な運営が行われている。
 私は、消費者法のゼミも担当しているが、消費情報環境法学科の学生だけでなく、法律学科や政治学科の学生にも、消費者法に高い関心を持ってゼミに入って来る学生もいる。最近では、消費生活アドバイザーや消費生活専門相談員資格の取得への関心が高まり、両資格を取得する学生も出てきたり、国民生活センターや日本生活協同組合連合会といった消費者関連の組織に就職を希望してかなえる学生も複数出て来るなどさまざまな広がりを見せている。


 これからの経済社会は、消費者が主役になるとも言われており、この消費者法を主な柱のひとつとする学科へのニーズと期待はますます高まるものと思われる。
 10年経って、カリキュラムの見直し等も必要な時期に来ていると思われるので、時代に合った検討を行いつつ、新しい10年を迎えて行くことが必要である。

 学科創設に尽力された法科大学院の京藤教授が『白金法学会会報』の学科の第1期生卒業の特集の座談会で、「問題を通して、いろいろな法学の基礎的な道具を組み合わせて、どう解決するかというアプローチで、実践的に問題を解決する思考の仕方を養うような学科として今後も展開していくと良いなと思います」(会報42頁)と発言されていたが、その実現に向けて更に進んで行ければと思う。