TAKIMOTO Miwa 瀧本みわ

プロフィール

フランス語との出会いは、中学3年生のときです。東京にあるフランス系のミッションスクールに通っていたため、週2時間のフランス語が必修科目でした。学期末、担当の先生がご褒美として見せてくれた映画が、クロード・シャブロルの『主婦マリーがしたこと』です。いま振り返っても、カトリックの女子校で14歳の少女たちに、この作品をがつんと見せた先生方は、なかなか大胆だったと思います。私自身、ちょうど世界を斜めに見始めていた時期だったこともあり、イザベル・ユペールの冷ややかで知的なまなざしは強烈な印象を残しました。そしてなにより、私たちにフランスへの甘い憧れではなく、理不尽な現実を容赦なく突きつけた先生方の心意気というか、ある種の残酷さに、ああ、これがフランスなんだな、と魅了されました。そのため、高校に上がっても迷うことなくフランス語を選択し、高校3年生のときにはアルプス山間部の町へ一年間留学しました。

大学では一度フランス文学を専攻しましたが、本格的に美術史を学びたいと思い、別の大学へ入り直しました。学部ではヨーロッパの中世美術に関心を抱き、卒業論文ではフランス南西部スイヤック(Souillac)にあるサント・マリー修道院聖堂のロマネスク時代の扉口彫刻を取り上げました。大学院では、ピレネー山脈を超えて、スペイン北部の初期中世美術へと研究対象を広げ、キンタニーリャ・デ・ラス・ビーニャス(Quintanilla de las Viñas)のサンタ・マリア聖堂装飾彫刻を研究しました。この頃から、自分には少し放浪癖があることに気づきます。その後、さらに地中海世界の南へと歩みを進めるとともに、対象の時代も遡り、北アフリカの古代ローマ時代の舗床モザイクの研究へと至りました。

北アフリカでは、フランス統治時代に考古学研究が大きく発展した歴史があり、現在でも大学教育ではフランス語が広く用いられています。そこでまずチュニジアの大学院で2年間修士課程を過ごしました。そして、北アフリカ考古学がフランスの学術的伝統と深く結びついていることから、研究の場をパリ・ソルボンヌ大学へ移し、博士論文を執筆しました。博士論文では、チュニジアの古代ローマ都市アンマエダラ(現在のハイドラHaïdra)で発見された、地中海の島々を絵地図のように表現した舗床モザイクを主軸に、古代ローマ時代の人々が世界をどのように認識していたのかを、地理学や古典文学、美術史学の観点から考察しました。現在も、北アフリカを中心とする古代末期・初期キリスト教美術を専門に研究しています。

チュニジアと行き来しつつ、パリを拠点とした博士課程での研究生活は8年ほどに及びました。ルーヴル美術館でのアルバイトをはじめ、学生という身分を利用してお金のかからない美術館や劇場、歴史的建造物をひたすら巡り、パリという都市そのものを歩いて学びました。こうした経験についても、授業の中で少しずつお話しできればと思っています。

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2026年度のゼミ内容

3年次演習:西洋美術における「眠り」のイメージ
2026年3月まで、パリのマルモッタン・モネ美術館では、« L’Empire du sommeil » 展が開催されました。このゼミでは、この展覧会に寄稿された論考を手がかりに、「眠り」をテーマとして、美術、文学、哲学、医学など多様な視点から作品の考察を行います。春学期は、文献講読を通して、ギリシア神話や聖書から19世紀美術に至るまで、眠り、夢、死、狂気、無意識、エロスといった主題がどのように表現されてきたのかを学びます。秋学期は、より専門的な文献や資料を用いながら、各自の関心に応じてテーマを深め、時代や作家、作品ごとに「眠り」が持つ象徴的意味について考察します。また、各学期に一度、都内の美術館で作品鑑賞を行います。春学期は、アーティゾン美術館で開催されている「瀧口修造 書くことと描くこと」展を鑑賞しました。秋学期は、東京都美術館の「オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」展に行く予定です。

4年次演習:西洋美術史研究:ファン・ゴッホの時代と造形表現
昨秋から今夏にかけて、都内では二つのファン・ゴッホ展が開催されています。これを契機に、本ゼミでは、フィンセント・ファン・ゴッホの作品を多角的に分析し、その造形表現や制作背景、同時代の美術との関係について考察します。春学期は、ファン・ゴッホの作品に関するフランス語文献の講読を通して、作品分析や先行研究の読み方など、美術史研究の方法を身につけます。また、上野の森美術館で「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」を訪れ、作品を実見しながら理解を深めました。夏休み以降は、卒業論文の執筆に取り組みます。テーマ設定、先行研究の整理、作品分析、論文構成を段階的に進め、一年間を通して卒業論文を完成させます。書くことは、考えることです。ゼミでは、作品を深く観察し、自ら問いを立て、その考察を論理的に文章で表現する力を養います。