執筆者:田原 いずみ

スイスで気づいたこと

2023.12.01

スイスで気づいたこと

 2023年の8月に1年ぶりに2週間ほどスイスのジュネーヴに滞在しました。

 まず、私とジュネーヴの関係について。フランス言語学を学ぶ大学院生だった時に、フランスに留学するのが順当だったと思うのですが、私の指導教官の先生が学会でジュネーヴ大学の言語学の先生と出会い、私にその先生のところに留学することを勧めてくださったのがスイスに行くきっかけになりました。私は学部生の時からフランスが大好きでしたが、先生が推薦してくれたし、当時から主な研究テーマにしていたフランス語の時制についての研究グループもあるし、というくらいのそんなに積極的とは言えない理由でスイスの国費留学生の試験を受け、運良く合格し、博士課程1年目にジュネーヴに留学することになりました。2学年間、奨学金をもらい、その後言語学科の研究助手になり、同時に日本学科で非常勤講師にもなりました。そして、博士号取得後は日本学科の専任講師として6年ほど働き、結局13年ほどジュネーヴに暮らしました。当初は未知の国だったスイスのジュネーヴは今や私の第二の故郷のような感じです。

 留学一年目は当然言語学で新しく学ぶことが山のようにあり、怒涛のように過ぎていきました。周りを見る余裕もほとんどありませんでしたが、それでも生活のなかですぐに気づいたことの一つにスイスのエコへの意識の高さ、環境への配慮の大きさがありました。今では日本でも環境に配慮した考え方が広まりましたが、当時の日本とスイスの環境への配慮には大きな差がありました。私にとってはスイスで学べることは言語学だけではなく、他にもたくさんあると気付かされたきっかけにもなりました。
 この夏にジュネーヴに行って、私が日常のエコとして良いと思っていたことを再確認してきました。
 まず、夜間以外の好きな時に資源ゴミを捨てに行けるゴミステーション(写真参照)が各地区にいくつもあります。毎週決まった日に家のそばで収集もありますが、自分の都合が合わない時もあります。このような場合には家の近くに資源ゴミステーションがあれば、不法投棄を防ぐこともあると思います。このゴミステーションの中には着なくなった洋服の回収場所もあります。服のリサイクルをしてくれる店はありますが、その店の商品しか回収しないことも多いですし、わざわざ行くのが大変と思う人は多いと思うので、行政がこのようなリサイクルボックスを各地区にいくつも設置するのはとても良いことだと思います。行政の回収以外でも、服だけでなく家具や食器など、日常生活に必要なありとあらゆるものを回収し、さらにリサイクル品としてとても安価で売ってくれる団体がジュネーヴにはいくつもあって、ゴミを減らすことが大きな努力なしにできます。

 次は、ジュネーヴ大学にたくさんある紙資源の回収ボックスです(写真参照)。小中高校、病院などでも見かけました。大学では比較的多くの紙資源が必要となりますから、紙ゴミも多いです。大学の至るところでそれを集めてリサイクルに回すということは素晴らしいと感動した記憶があります。

 その他には、スイスに行く前から、日本の食品は過剰包装が多いと聞いていましたが、実際にスイスで生活を始めて、それを実感しました。さらに、スイスから日本に帰国した時に、同じくらいの食品を買っていても、日本の方が包装が多い分、ゴミが多くなることにもすぐ気づきました。スイスでは特にクッキーやクラッカーなどは個包装のものはとても珍しいですし(写真参照)、野菜の個包装も見かけません。コロナ禍で日本ではさらに野菜やパンなどが個包装されることが多くなりましたが、今後よりエコに配慮したシステムができると良いと思っています。衛生観念の強い日本で全て同じようにするのは難しいと思いますが、過剰包装を減らすことはまだまだできると思います。 

 また、夏の間レマン湖のほとりにたくさんできるドリンクスタンドや野外音楽フェスの機会にお店で買えるドリンクも、使い捨てのプラスチックカップで提供されることはほぼなくなりました。何度も洗って使えるカップ(写真参照)を2フランのデポジットを払って使い、それをお店に返せば2フラン戻ってくるというシステムを取る店がほとんどです。カップを返却せずに、別の店で渡せば、ドリンクを入れてくれますし、家に帰ってから使うこともできます。ストローは、日本でも従来のプラスチックのものを使わず紙製のものを使う店が出てきましたが、ジュネーヴではプラスチックのものは数年前から禁止されており、紙製、ガラス製、パスタで出来たものなどが使われています。パーティー用の使い捨てのコップや皿も生分解性のものがどこのスーパーでも売られています。最近は日本でも生分解性プラスチックの食器なども見かけるようになったので、よりどこでも売っているようになればいいなと思っています。

 博士論文を書くために新しい言語学の知識を得るということしか頭になかった留学当初ですが、エコ以外にも毎日の生活で、大学の内外で、私の視野を広げることがたくさんありました。海外に限らず、自分のいつもの環境から外に出てみると、想像以上に多くの良い影響や刺激を受けたり、考えさせられることがあったりします。

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