YUZAWA Hidehiko 湯沢 英彦

プロフィール

生まれたのは1956年9月14日、東京出身です。大学までずっと東京暮らし。 大学院のときにフランスに長期留学してパリに3年半ほどいました。留学中、博士論文をなんとか仕上げたのですが、よくまあ街を歩きカフェに通い、よくまあワインも飲みましたね、まったく。 思い返すと呆れますが、でも仕事も遊びも、絞るときと緩めるときのパターンも、現在とあんまり変わらない気もする。 そう簡単にひとは変わらないみたいですね。 留学中に自分の形ができあがった、というべきなのかもしれない。 パリ暮らしは、それ以後の滞在も含めて合計6年くらいです。 最近はパリにゆくときは、2004年に1年住んですっかり気に入った、バスチーユ近くのマレ地区 (17、8世紀由来の建物が多い古い界隈ですが、現代アートのギャラリーも多い、洒落たブティックも多い、おいしいビストロも多い) のホテルに泊まることにしています。そのうちこの辺で会えればいいですね。きっとフランス文学科にきてよかったと心から納得してもらえるでしょう。

明治学院のフランス文学科には1993年に着任して、もうかれこれ30年近くも経ちました。以前は横浜校舎では全員必修の「フランス文学概論」やフランス人教員とのペアの語学科目など、白金ではゼミのほかに「現代芸術論」や「写真芸術論」をよく担当していたのですが、このところ大学の役職の関係で、ゼミ以外は担当できなくなってしまいました。みなさんとの接触の機会が減ってしまったのは残念ですが、 これだけ長く教えていても、もう飽き飽きという気分には遠く、 フランス語やフランス文化の話をなかだちにした学生とのコミュニケーションが毎年楽しみだし、 そこから専門家との交流とは違う、なにか新鮮でなにか不思議なものが得られる、というのが偽らざる実感です。

3ゼミ4ゼミでは、美術関係の題材を扱いますので、その分野に興味があるかたは是非選択してみてください。教わったことのない教員のゼミを選ぶのは勇気がいるかもしれませんが、後ほど紹介するゼミ生たちの声を参考にしていただければと思います。


専門領域

主たる研究フィールドは、と話は固くなりますが、でもまあそう固くならずに柔らかくいえば、 フランスの19世紀後半から20世紀前半の文学・美術で、それに加えてフランスの現代アート、美術思想です。 作家でいうならば、『失われた時を求めて』という長い長い小説を書いたマルセル・プルーストと、クリスチャン・ボルタンスキーという現代フランスの芸術家です。 どちらも「記憶」が大きなテーマで、ですからひろく「記憶」にかかわる事柄がおおきな関心事といえるでしょう。 主要著作としては、プルーストに関しては『プルースト博物館』(共訳、筑摩書房)、『プルースト的冒険――偶然・倒錯・反復』(水声社)、 現代アート系で『クリスチャン・ボルタンスキー 死者のモニュメント』(水声社、この本は2004年度吉田秀和賞を受賞)を挙げておきます。

専門ではないのですが、大学の仕事の関係で、人工知能関連の勉強をやらなくてはいけない羽目に陥り、にわか勉強のかいあって、今年(22年)3月に「日本ディープラーニング協会」というところの検定試験(一般レベル)に合格しました(自分でも信じられないですが!)興味があれば、ゼミの時間にこのへんの話題も話せます。


趣味

「趣味」なんて書くんでしょうか。書くのかな? 見るのも聞くのも話すのも、飲むのも食べるのも、ふらふら歩くのも旅するのもみんな好きだし、 月のウサギを見ても面白いし木の根を見ても面白いし、星がでても妖怪がでても、お、いいなと思いますが、 なにより真剣に考えることも、すべてないことにして戯れるのも大好きです(笑!)。

もう少しちゃんと書くならば、生け花でしょうか。流派は日本で一番古くからある池坊で、長年やっているうちに、現在、「正教授1級」という免状までもっています。池坊の本部からは弟子をとってもいい、という許可を得てますので、希望の方はお伝えください。無料指導します!最近、白金のフランス文学科共同研で生けた作品を紹介します。やや色づいた枝葉は、ブルーベリーです。


ゼミ紹介

ゼミはいろいろ思い出があります。もう30年くらい教えているのですが、いろんな学生さんのことが、その笑い顔や真剣な顔が思い浮かびます。それは明学仏文における4ゼミが卒論指導も兼ねているからで、 学生ひとり一人との交流の密度も相当に濃いからでしょう。秋深まってくると卒論指導も佳境にはいってきますが、 一番大事にしていることは、とにかくその学生の独特のセンスや関心がうまく生きるように、ということにつきます。 つまり、型にはまった論文を書かせて専門家の卵を養成しようとするのではなくて、誰にもまねのできないような「作品」をつくってもらう、ということです。 これがなかなか大変なのですが、毎年毎年、あの手この手でその気にさせて、なんとか完成までこぎつけてもらっています。 だから、どういう局面でもタイミングでもいいですが、積極的にコミュニケーションをとってもらえると助かります。

3ゼミも4ゼミも、このところ美術関係のテーマを扱うことがほとんどです。3ゼミでは、モネやドガといった印象派の画家を中心に取り上げます。印象派、というと日本では当たり前になりすぎて今さら、と思う方もいるかもしれませんが、彼らのもたらした絵画技法の革新が、その後の20世紀アートの展開におおきな影響を与えています。ゼミでは、画家の生涯や時代背景よりも、彼らの絵画技法に焦点を当てて勉強していきます。発表やレポートを通じて、今までとはまったくちがった絵の見方ができるようになるはずです。 4ゼミでは、印象派以後の画家たち、ゴーギャンやゴッホ、ピカソやマチスなどを扱います。でも何をやるにしても、まったく予想外の思考や感覚に触れて、そこから自分がなにを刺激として引き受け、それをどう加工して編集して人に語るか、ということです。ですので、適当にお行儀のいいレポートよりも、考えて考えて、でも途中であえなく難破、というレポートのほうが高評価ということによくなります。ともあれ、何か具体的個別的なテーマでものを考え、それに触発されて自分の頭や心がどう反応するか、そんな時間に興味がわけくようならば、ゼミを選択してみてください。 次のコーナーでは、僕のゼミで勉強した先輩たちの声を紹介します。


ゼミ生たちの感想

4ゼミ生

- 印南亜仁加(21年度卒業)
湯沢先生には3年次、4年次の西洋絵画のゼミを担当していただきました。私は、フランス文学科に入ろうと決めたきっかけが、西洋絵画を学ぶことであり、ゼミを決める際も湯沢先生のゼミが自分が学びたいドンピシャだと思い選択しました。授業では、毎週印象派の独特な世界観を学ぶことができ、自分の知識の範囲を超えた内容だったので発見の日々でした。また、湯沢先生にどんな質問をしてもしっかりとその画家の特徴を捉えて快く教えて下さり、授業終わりに質問をしに行くのが楽しみでした。卒業論文を制作する際は、オリジナリティーについて多くのことを学んだと同時に、私が本当に好きで書きたい主題について気づきました。今思えば、ピサロというあまり主題にされることの少ない画家を選択しようと決めた事も、湯沢先生の広い知識に安心していた部分があったと思います。制作中も、自分では探すことが難しいフランス語の文献を勧めて下さったり、面談の際も、私の意見を尊重して聞いて下さり、その結果、固定的な考えに固執せず、柔軟に考えることで書きたい論文を完成させることができました。約2年間とても有意義な時間を過ごすことができて、本当に感謝しています。

- 青柳沙織(21年度卒業)
フランス美術について学びました。授業では絵に関するフランス語の資料を和訳するのですが、これが非常に難しいです。どのくらい難しいかというと、知り合いのフランス語話者が「ハイレベルフランス語」「意味分からない」というくらい。フランス語を読めるだけでなく、美術的観点を持たないと訳せないような文章にひたすら挑みました。今振り返れば、ここで必死に食らいついたことで文献の読解力、絵画に対する考察力が備わったのだと思います。卒論の指導では、早い時期にほぼ書き終えて、何回か面談で修正してもらいました。意見を確実に伝える事や、より良い表現を探す事は、パソコンと向き合っているだけではできない事だと思います。先生は自ら「厳しいこと言ってる」と仰っていますが、それが卒論を書く上で良い助けになります。言われたことを自分の中に落とし込むことで、美術で卒論を書き上げられるまでに成長できました。ゼミを通して、フランス語を読む力、自分の意見を相手に文章で伝える力が身につきました。この力は大学内だけでなく、むしろ卒業後の人生をより楽しくしてくれる力だと思います。良い成長の場を与えて下さった事に深く感謝します。

3ゼミ生

- 斉藤もも乃(21年度)
ただ日本語のテキストを読むのではなく、フランス語で絵画解説文を読むのが楽しかった。普段の講読のテキストでは物語文や詩が多く、解説文特に美術関連のフランス語の文章に触れることは少ないので良い経験だった。絵画・美術に関連する単語や表現、言い回しなど新たに覚えるものも多かった。フランス語の文法の復習にもなって良かった。講義の内容に関しては、美術関連の授業によくある画家のプロフィールや画家の生涯をとりあげる授業のような形式ではなく、画家の技法や技術、あるいは作品の視覚的なアプローチ等に注目して分析していく形式の授業だったのが、私にとって非常に新しく、おもしろかった。画家の背景(バックグラウンド)等に対する先入観をもたずに作品を見たり、分析したりするという新しい視点を得ることができたと思う。授業ではたくさんの展覧会をとりあげて、紹介していただいたが、コロナ禍や個人的都合でみに行くことができなかったものもあった。見に行くことができた展覧会の中で特に個人的に記憶に残っているのはSOMPO美術館のモンドリアン展です。授業で紹介されなければ個人的には訪ずれてはいなかったであろう展覧会だったので良い経験でした。1年間、ありがとうございます。来年の4ゼミもよろしくお願い致します。

3ゼミ及び4ゼミとも、あと数名紹介しておきます。 → こちらからアクセス