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コラム

現代を斬る | アジアの高齢化をどうみるか

高齢化のスピードとタイミング

現在、アジアの高齢化率(2015年中国9.6%、韓国13.1%、シンガポールが11.7%、タイ10.5%)は、日本(26.7%)や西欧諸国(イギリス17.8%、フランス19.1%、スウェーデン19.9%)に比べて低い。しかしそのスピードは非常に速く、2020年代以降になると、アジアの多くの国が先進諸国をはるかに上回って高齢化していくと予測されている。

このような状況からすると、先進諸国に比べて、年金や医療および介護など、高齢化に対応するための社会保障制度が十分に整備されていないアジアの国々で今後、その制度整備が非常に重要な政策課題になると誰もが想像するであろう。ところが、アジア諸国において先進諸国のような社会保障制度の整備が十分に進められるかというと、そうではない。この問題を考えるためには、上記の高齢化のスピードに加え、高齢化のタイミングに注目しなければならない。

先進諸国で社会保障制度の整備が積極的に進められたのは、1950~70年代であった。その時期、戦後の高度経済成長の成果が、その制度整備とそれに伴う財政支出を可能にしたことは周知の通りである。

しかしながら、アジア諸国が急速な高齢化のなかで社会保障制度の整備を進めなければならない2000年代以降は、それとはまったく異なる状況である。すなわち、1990年代後半のアジア金融危機や2000年代後半のリーマンショックなどによって世界的に低成長時代が到来し、各国政府は、社会保障制度の整備とそれに伴う財政負担増をできる限り避けなければならない状況になっているのである。このような時代において、アジア諸国では、かつて社会保障制度の整備を図り高齢化に対応してきた先進諸国の経験をキャッチアップすることができなくなっているのが現状である。

新しい道を探って

高齢期における新しい社会経済活動への参加を促したり、そのための各種教育・支援サービスを提供したり、また社会保障制度における現金給付より現物給付を強調したり、その現物給付において国より地域や近隣などのコミュニティの役割を重視したりするなど、アジアの国々では現在、先進国へのキャッチアップではなく、むしろ自らの状況に合わせた新しい道を探ろうとしている。その新しい試みは、それぞれの国で試行錯誤中であり、それがいかなるものなのかを明らかにするにはもうしばらくの時間が必要である。

ただし、その試みが、先進諸国に対して与える示唆が大きいことを見逃してはならない。先進諸国でも近年、従来の社会保障制度の改革に向けて新しい試みがみられている。そこで、これまで長期にわたって徹底して社会保障制度を整備してきた先進諸国に比べると、アジアの国々の場合、そのようには行われてこなかっただけに、新しい試みの場面では、先進諸国より柔軟で迅速に対応することができ先を行く可能性が高い。日本を含む先進諸国からして、その柔軟で迅速な対応に注目することは、学問的にも実践的にも重要であろう。

白金通信2017年7月号(No.490) 掲載

金 成恒 Kim Sung-won

明治学院大学社会学部准教授。専門は福祉社会学、社会政策、福祉国家、社会保障。
特に「雇用不安定化社会/少子高齢化社会/多文化社会における社会政策および福祉国家の変容について」「アジアの都市インフォーマルセクターとそこにおける人々の生活実態について」を主要研究テーマとしている。
社会福祉学科では社会政策論、福祉開発フィールドワークなどを担当。