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著書
 『東アジア経済論
    -外からの資本主義発展の道』
 
大月書店4200円2005年3月18日

 確かに資本主義は,ひとまず日本の失業率とかアメリカのGDP,企業など国別にくくられる。このように資本主義は民族・国民国家の単位での総括を受けなければならない。だが,1国資本主義経済と世界経済は,コインの裏表の関係にあり,資本主義はその全体性において世界市場を前提としてはじめて存在しうる.

 哲学では,物質界を成立させる基礎形式として,時間と空間を教える。相対性理論では,3次元の空間に第4次元として時間を加えた4次元の時間・空間的連続体を,「時空世界」という。19世紀と20世紀の両世紀末のグローバリゼイションとは,この「時空世界」の激変,空間移動の時間短縮のことではないのか。
 1843年,パリに住むハインリッヒ・ハイネは13年ぶりにハンブルクの母に再会した。祖国の現実をのろい,さまざまな挿話を叙事詩的に織りこんだ長編詩『ドイツ冬物語』はこの時の体験をもとに書かれたが,その1843年にパリとオルレアン,ルアン間に鉄道が開通した。ハイネはこの事をつぎのように語っている。「時間と空間についての根本概
念すら揺るぎ始めている。鉄道のために空間は殺される。そしてなお我々に残るのはただ時間のみにすぎない。・・3時間半で現在はオルレアンに行けるし,同じ時間でルアンにも行ける。ベルギーやドイツへの線路が完成され,そこの線と連結された時には一体どうなるだろう。
私にはあらゆる国々の山や森がパリに押し寄せてくるような感じがする。私はすでにドイツの菩提樹の香を嗅ぐ,そして私の戸口の前には北海が逆巻いている」。このように驚愕し,鉄道の開通がアメリカの発見,火薬と活版印刷の発明に匹敵する運命的事件であると述べた。詩人ハイネの感性は,新時代予兆を「空間の抹殺」として捉えた。「
それは人生の色と姿を変える新しい激変を人類にあたえる」と。グローバリゼイションとはこのこと,「空間の抹殺」ではないのか。それによって惹き起されたさまざまな事象を,各論者がグローバリゼイションと表現しているのである。
 いずれにしてもグローバリゼイションは,19世紀と20世紀のそれぞれ世紀末に,うねりとなって世界を覆い尽くすことになる。まず第1のグローバリゼイションの大波は19世紀の最後の4半世紀におき,第2の大波は同じく20世紀末最後の10年に起き,世界はこれにのみこまれることになる。しかし第1のグロバリゼイションが,国民国家の枠組
みを前提とし,帝国主義としてその枠組みをむしろ強めていったの対して,第2の20世紀末に起きたグローバリゼイーションはその国家の枠組みを溶解させている。グローバリゼーションの端的な表れは,国境をまたいだ生産にみられるように,再生産が1国内で完結しないことである。かつて帝国と植民地をつないでいたもの=紐帯は証券投資であったが,それが直接投資にかわり,生産の世界最適配置という多国籍企業の経営戦略は,国境を消滅さているかのようである。資本は軽々と国境を越えてしまった。

 グローバリゼーションは,国境という厚い壁を前提としている。この壁=国境=ボーダーの存在が国境の非存在=ボーダー・レスを生み出していく。これが21世紀の最大矛盾だ。国民国家は資本主義揺籃の地であり,資本主義を育む土壌だった。「恐慌」という形で矛盾を一時的にではあれ解決しながら,国内独占によって利潤を確保しながら同時に国家の助けで生き残りながら,大資本=大独占資本・企業は成長していった。だが今は資本主義が,資本主義として生きてゆくために,国境に囲まれた国民国家を食い破ってゆく。そうしないと生き残れない。その結果が世界大の格差,持てる者と持たぬ者の途方もない格差の広がりである同時に,これが本国での産業の空洞化を招き,貿易赤字の原因となる。アメリカの膨大な貿易赤字がそれであり,中国がなければアメリカの子供たちはクリスマスのプレゼントをサンタクロースからもらうこともできない。20世紀末の抱え込んだ矛盾はここにある。
資本主義を生み出し,これを育ててきた国民国家の国境が邪魔になるほど生産が広がり,世界化が進行している。生産の社会化である。それにもかかわらず,その恩恵・果実を享受できるのは先進国の人々,しかも利益はそのごく一部人々に集中している。財をつくらない人がそれを使い生活をする。生産的労働こそが財・富の源泉だが,生産なき,労働なき消費である。これをつづけるためにアメリカは金融の力で世界からカネ=ドルを集めている。アメリカの株や社債や国債を世界に売っているのである。金融商品こそ今やアメリカの最大の輸出品である。しかしカネ=ドルはカネを生むが,モノは生まない。昔は生産した以上には消費できなかった。だが金融の力で,しかも軍事力をつかってそれを今実現している。「ISOも民主主義もグローバル・スタンダードだ」と,いいながら。むろん強者=アメリカの作ったそれである。これが冷戦構造崩壊後のアメリカの姿だ。これがアメリカのいうグローバリゼーションである。

    『東アジア経済論』への書評
角田修『経済』(新日本出版社)2005年9月号
平川均『経済理論』(経済理論学会)2006年7月
『東アジア経済論』の平川書評へのリプライ
   『季刊 経済理論』第43巻4号
 
『アジアの工場化と韓国資本主義』
         (文眞堂, 1989年9月)

  アジアは1980年代以降,工業生産力を飛躍的に発展させ,生産量(GDPベース)では1990年代には遂に世界の3分の1を占めにいたった。この飛躍的発展は,アメリカが対社会主義・極東戦略を遂行するために,日本に重化学工業生産力を求め,それを移植・創出したことが基盤にある。これをもとに,日本と産業連関をもつ工業をアジアに日本は移植(直接投資・借款)した。こうしてNICsは立ちあがった。この事態・構造が最も鮮明に現れた国・地域が韓国であるが,本書はその構造分析である。跛行的植民地構造を克服し自立を獲得できなかった韓国が,1970年代後半以降工業生産力を驚異的に発展させた原理の解明の書である。
 
涌井・横山編『ポスト冷戦とアジア』 (中央経済社,1996年)

 冷戦が終わってポスト冷戦という時期に入った。新しい時代の始まりには違いないが,後の時代が命名することになろう。だが,確実に開発と環境破壊の時代から名前のまだ決められない次の世代へと,変化の兆しは見え始めた。
 本書は,現代世界のポスト冷戦構造をアジアから描き出し,変化の本質を見極めて,望ましい社会実現のために何をなすべきかを模索する。

『情報革命と生産のアジア化』中央経済社 (1997年4月)
  
 本書は20世紀末が人類史の転換点ではないかという時代認識のもとで, 20世紀の後半,第2次世界大戦後の世界経済の研究を日本と東アジアに焦点をあてて,お
しすすめたものである。本書はその研究を,戦後世界の基本的枠組みである社会主義対資本主義という政治・軍事・経済システムの対抗が生み出す矛盾=冷戦構造の矛盾のもと,アメリカが社会主義システムに対抗するために強いたシステム=冷戦体制の消長,構築=解体という歴史過程とのかかわりで追求したものである。とくに冷戦体制のもとで必然的となった「生産のアジア化とME化」に焦点を当て解析をしたが,当然その分析はそれが鮮明に現れたアメリカ,アジア,日本地域分析でもある。 
  書  評
佐野孝治 『土地制度史学』第162号・1999年1月・62頁

『戦後日本資本主義の根本問題』
          (大月書店,2010年3月

日本は欧米とは違った独自な「発展」を遂げることになる。その結果生みだされた構造が「外生的循環構造」である。国民国家の一時代を体験した欧米資本主義とは違って,国外の再生産構造が国内の構造を代位=補完する構造をもつ。戦後日本は,「下から」でも,「上から」でもなく,初めて「『外から』の
資本主義発展」の道を歩んだ国規定したのは,冷戦体制と零細土地所有であった。
 アメリカ冷戦体制に深く組み込まれ(対米従属)ていくにつれて,日本独自な経済構造が造形されていく。工業部門への労働力供給の役割をおわされた農業(農民)が基層におかれ,その犠牲の上に工業が成り立つ。その工業も大独占企業と中小零細企業という2層構造をもつ。土地の零細性ゆえに自立の道を断たれた農業。農民は非工業部門での所得で生計を維持するほかなく,また中小零細企業も下請として大独占に依存するほかない。だがそのいわば食物連鎖の頂点に立つ大独占企業も,原燃料・技術などの生産手段の依存と国内市場の狭さゆえの輸出のために,対米従属は決定的となる






 
2016年10月26日 経済理論学会64回大会
(福島大学)報告
涌井秀行 明治学院大学平和研究所
 「韓国『失われた10年』へのたじろぎ
 -グローバリゼーションと『国民』経済の相克」
       報告PPファイル
       報告データ・資料   EXcel
コメンテーター:内橋賢吾[横浜国立大学(非常勤)]


2014年10月26日 経済理論学会62回大会
(阪南大学)報告
山田盛太郎『日本資本主義分析』刊行80年の射程 1967年土地制度
史学会(法政大学)で山田盛太郎は「土地国有論」を提起した。日本が
ベトナム戦争に加担し,高度経済成長の道を驀進しているさなかであ
った。この中で山田は,日本が国民国家として自律的な経済構造を確
立する必要性を説いた。それは,農業の産業としての自立を,その核
心に土地所有の絶対性にもとづく地代を廃止し,集団・共同所有で効
率的農業経営を,農民が主人公となって志向・追求しようという提起で
あった。しかしそれは未完のまま今日に残された。その結末が都会と
農村の限界集落となって,いまわれわれの目の前に広がっている。 
この課題の再考こそ日本変革の要の問題である。この課題を2014年
度経済理論学会阪南大学大会で報告しました。

経済理論学会第62回大会プログラム
第2日(26日)午前の部 9時30分~12時10分


報告用PPファイル     

■2014年3月25日ポスト冷戦研究会
              3月シンポジューム

山田盛太郎,戦後『日本資本主義分析』の射程―グローバリゼーショ
ン下での理論の継承と発展―」 レジメ


 (時系列)
明治学院大学国際学部紀要『国際学研究』掲載論文は,機関リポジト
に収用されています。

(1)論文 単著「韓国資本主義の外生的循環構造とNICs型従属,資
本主義的発展の『外からの道』における内的要因の検討を中心に」
地制度史学会『土地制度史学』113号
,1986年10月。
著書 単著『アジアの工場化と韓国資本主義』 文眞堂,1989年9月。

(2)論文 単著「冷戦体制と韓国資本主義の構造」土地制度史学会
『土地制度史学』152号
,1996年7月。

(3)共編著「ME情報革命と産業・科学的労働」涌井・横山編『ポスト冷
戦とアジア』中央経済社,1996年12月

(4)単著『情報革命と生産のアジア化』中央経済社,1997年4月

(5)論文 単著「世界経済と国際貿易・貿易政策」増田・沢田編『現代
経済と経済学』有斐閣,1997年4月。

(6)論文 単著「冷戦体制解体とアジアの『奇跡』の終焉」明治学院大
学国際学研究会『国際学研究』18号,1999年3月


(7)論文 単著「戦後重化学工業段階の再編と展開」産業構造研究
会『現代日本産業の構造と動態』新日本出版社,2000年3月。

(8)研究ノート(翻訳と分析)曹杰「可比価投入産出序列的編成方法」
(李強・天棟編『中国経済発展部門分析,兼新編可比価産業連関表』
,北京,中国統計出版社,1998年127-133頁) 明治学院大学国際学
部付属研究所『中国における発展の持続可能性』2000年3月。

(9)論文 単著「『冷戦』体制と日本資本主義の戦後構造の確立」『
治学院大学国際学部付属研究所年報,第3号
』2000年12月。

(10)論文 「ポスト冷戦と中国の『改革・開放』」堀中浩編『グローバリ
ゼーションと東アジア経済』大月書店,2001年11月

(11)論文 単著「2つのグローバリゼーションと2つの資本主義」
明治学院大学国際学研究会『国際学研究』22号,2002年9月


(12)論文 単著「冷戦体制と日本資本主義の戦後構造の確立」明治
学院大学国際学部付属研究所『研究所年報』第3号,2002年12月。

(13)論文 単著「冷戦体制解体・再編と日本」明治学院大学国際学研
究会『国際学研究』25号,2004年3月

(14)著書 単著『東アジア経済論,外からの資本主義発展』大月書店
,2005年3月

(15)シンポジューム「中国社会変動における村落と家族」明治学院大
国際学部付属研究所『研究所年報』第9号 2006年12月
   「中国大躍進から文革期の人口激動」2008年3月)

(16)論文 「人類史の通過点としてのアジア資本主義と日本」
明治学院大学国際学部『国際学研究』30号,2007年1月


この論文について
 アメリカの科学史家クーンはThe Structure of ScientificRevolutions
(1962)『科学革命の構造』(中山茂訳,みすず書房1971年)でパラダイ
ム転換について述べた。クーンによれば「パラダイム」とは「広く人々に
受け入れられている業績で、一定の期間、科学者に、自然に対する問
い方と答え方のモデルを与えるもの」とされる。例としてはコペルニクス
の『天球の回転について』,ニュートンの『プリンキピア』,アインシュタイ
ンの「相対性理論」などがあげられる。あるパラダイム(天動説)を不変
の原理とした世界観=宇宙観が行き詰まると変則性が現れて危機が生
じ,科学者は他のパラダイム(天動説―コペルニクス・ニュートン)に転換
する。このパラダイム(天動説)から20世紀の4分の3をかけて,また別
のパラダイム(ビッグバン宇宙論/インフレーション宇宙論)へ世界観・宇
宙観は転換した。ニュートン力学から量子力学へのパラダイム転換で
ある。20世紀末から21世紀初頭にかけての時代を,こうした世界・人
類史的転換期とみて,日本とアジアを考え,見直すとどうなるのか。こう
した問題意識で書いた「小論」です。

(17)戦後日本資本主義の「基本構成」分析試論
―欧米類型からアジア類型(日本
・アジアNICs・中国)としての再定義―
『国際学研究』第32号2007年12月
この論文は経済理論学会第55回大会
(横浜国立大学大会)報告をまとめた論文です。
2007年10月20日午前の部第8分科会報告
コメンテータ:福島大学佐野孝治

(18)研究ノートTwo Globalizations and Two End-of-Century Capitalist
System 明治学院大学国際学研究会『国際学研究』第34号2008年9


(19)書評「内橋健吾『50―60年代の韓国金融の制度改革と財閥形成,
「制度移植」の思わざる結果』(新評論,2008年) 経済理論学会『季刊・
経済理論』第45巻第4号,2009年1月。

(20)研究ノート「『土着思想』『執拗低音』としての日本資本主義における
土地所有,戦後日本資本主義分析の方法耕運のために
『国際学研究』第35号2009年3月

(21)論文戦後日本資本主義の格差系列=編成支配と労働者搾取・農民
収奪メカニズム
『国際学研究』第37(2010年3月)
付属資料図

(22)著書『戦後日本資本主義の根本問題』(大月書店,2010年3月)

(23)The Light and Shadow of Japanese Capitalism after the Second
World Wa
r 『国際学研究』第39号(2011年3月)

LandSSound.mp3 へのリンク (ネテイブのリーディング)
動画Ⅰ(Rice Farim Work)JapneseWoker&Farmer
https://youtu.be/QhB-ANWvjl0
動画Ⅱ Rice farming in Cal
https://youtu.be/4mL-3B-27P4

参考動画:California Rice Harvest
BIG Harvest 2016 in FRANCE | MacDon FD75 45ft 13.70m & 780 TT

(24)「サブプライム金融恐慌の根本問題」(『経済志林』79巻1号〔増田壽
男退職記念号〕,2011年3月)【この論文の要旨】
 2009年世界恐慌は,軍事的(ドル)インフレ的蓄積(成長)の行き詰まり
を,金融策略によって打開しようとした結果起きた恐慌である。先進諸国
は,途上国の苦汗・稠密労働に物的生産をゆだねざるを得なくなった。そ
の労働の果実を,アメリカとそれに追随した先進諸国(資本)は,金融詐欺
によってやりくりしようとして,失敗したのである。根本問題は,金融ではな
く実体経済にある。

(25) 「戦後日本資本主義の基盤としての土地所有-歪んで『高度に発達し
た資本主義』国・日本の変革と『土地国有論』再考-
 『国際学研究』40号(2011年10月)
 (経済理論学会2011年立教第59回大会

(26)論文「20世紀社会主義・ソ連崩壊の歴史的意味
―冷戦構造の溶解と市場原理主義の全面展開―」
『国際学研究』第42号(2012年10月)

(27)研究メモ「冷戦体制のゆらぎと新保守主義の登場」
『国際学研究』第42号(2012年10月)

(28)著書『ポスト冷戦世界の構造と動態』(八朔社,2013年5月)

(29)論文「転換期の日本,山田盛太郎・戦後日本資本主義分析の射程
『経済志林』82巻3号2015年3月
(経済理論学会2014年阪南大学第62回大会報告)

小沢光利先生退職記念号

(30)「戦後日本資本主義の基盤,その生成と衰微―都市と農村,二つ
の限界集落」(経済理論学会季刊『経済理論』52巻4(2016/1/15
ポスト冷戦研究会 2015年3月シンポジューム 報告


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