TOP表紙  涌井秀行のHOME PAGE   
 更新日2020年4月17日(金曜日)                                 
          
TOP表紙
研究著作
研究資料
社会評論
大学教育
学会研究会

過去のHeadLineNewsは社会評論に移しました。

 ポスト冷戦30年の帰結
ネット新世界が拓く21世紀社会主義

(1)はじめに―〔21世紀社会主義社会〕への展望
 「木曽路はすべて山の中である」という一文から始まる『夜明け前』は、明治維新前夜を背景に、新しい時代への期待をいき生きと描き出した小説である。青山半蔵を中心に、当時の数多くの庶民たちが、木曽の片田舎で新しい時代の息吹を感じながら生きる様子、またその後の落胆も描かれている。藤村は、小説のタイトルを新時代の始まり、「夜明け前」とした。「江戸の黄昏」「ポスト徳川」とはしなかった。
 第二次世界大戦後の世界、冷戦時代は、社会主義体制と資本主義体制の二つの体制の対抗の時代であった。体制間対抗の力が世界をデフォルメしてきた。しかし1989年の東欧革命と1991年のソ連邦崩壊をもって、その時代は終わった。ある人は、1991年の湾岸戦争以降をアメリカ一国覇権の時代とみ、またある人はその後の展開を見据えて米中新冷戦時代と論じる。しかし冷戦終結後30年が過ぎた2020年の今、新しい時代〔本来の社会主義〕の始まり、「夜明け前」として、この時代30年を位置づけ直すことはできないのだろうか。「20世紀社会主義」ではない、いわば〔21世紀社会主義社会〕の「夜明け前」、ポストではないプレ〔21世紀社会主義〕期と位置づけることはできないのであろうか。
 この30年はどんな時代だったのか。それを闡明する切り口は、情報=通信革命をつうじて生み出されたインターネットにある。企業活動はもちろん、人々の生活にインターネットは欠くことのできない社会インフラとなっている。資本主義社会を旧世界にしてしまう「Net新世界」が始まり広がっている。インターネットの編成原理〔分散=共有=公開〕が、〔集中=私有=独占〕を機能不全にし、本来の〔21世紀社会主義社会〕を切り開きつつある。
   (2)インターネットの歴史と編成原理
 インターネットの編成原理は、〔分散=共有=公開〕である。そもそもインターネットは、ソ連のミサイル核攻撃から北米大陸を防御する防空システムの通信網構築にルーツを持っている。しかしそのインターネットは、大学間のコンピュータ・ネットワーク形成と並行して研究開発が進められ、さらに資本・企業によってではなく、草の根の人々の協同によって作り上げられていった。インターネットは特定の誰かが開発したのではなく、数多くの人々の協力によって作り上げられたのである。
  インターネットの特性である〔分散=共有=公開〕が、生まれた。インターネットに必要なソフトウエアは、例えばUNIXにしてもその後継のLINUXにしても多くの人が関わりフリーソフトになったがゆえに、世界標準となった。21歳のリヌス・卜―ルヴァルド(Linus Torvalds)が1990年にLINUXのソースコードをインターネットに載せ、だれもが自由にダウンロードすることを可能にした。トールヴァルドが利用者に求めたのはコメントだけだった。プログラムとソースコードはすべての人に無料で提供され、自由にプログラムを修正でき利用できたのである。2019年11月現在、世界最速のスーパーコンピュータ500台は、すべてがLinux上 で動いている。この〔分散=共有=公開〕という編成原理は、アルファベットや漢字などの文字の生成過程と機能に似ている。文字は公共性をもち、書き記すことによって個人を社会的に確認させる。誰の発明でもない。
  (3)インターネットへの対応――国家・資本のによる取り込み
 インターネットを制する者は、世界を制する。当然、国家・企業も民衆もこれを取り込もうとしている。、前者は利益の最大化を、後者は運動を地球規模で組織していく。国家・企業VS民衆の対抗の中でネット社会が形成されてゆく。1990年代初頭からそうした動きが盛んになり、ハッキリしてきた。国家・企業の側ではアメリカのクリントン政権の下でのゴア構想がそれだろう。全米を高速なコンピュータ・ネットワークで結び付け、アメリカの復活と成長を促そうとした。これが切っ掛けとなって、ニューエコノミーなどと評された情報産業を牽引車とした1990年代半ばからのアメリカの成長が、そして住宅バブルを牽引車とした金融による2000年代前半の成長が、アメリカにもたらされた。インターネットの企業・国家による取り込みは金融と情報通信へのラッシュとなった。だが前者はITバブルとなって、後者はリーマンショックとなって崩壊した。そして今は、異次元緩和による株価バブルでしのいでいる。だがこれは産業の空洞化をもたらし中間・ホワイトカラー層の没落と若者の貧困を広げている。
   (4)インターネットのへの民衆の対応と取り込み
 インターネットの国家・企業による取り込みは、民衆の側にも前段(3)で述べたような強烈な副作用をもたらした。インターネットは、人・モノ・金が楽々と国境を超えるグローバリゼーションを加速化させた。この30年のグローバリゼーションの過程は、同時に格差拡大の30年でもあった。製造業のなどの実体経済の空洞化は、アメリカのラスト・ベルトを生み出し、各国製造業は海外依存を加速させ、国内産業=雇用の空洞化を生み出した。その結果アメリカが典型的だが、金融・情報通信の1%の億万長者と99%の貧困層を生み出した。この強烈な格差は、もっとも強い痛み=主要矛盾となって表れ、90年代以降の民衆の国際的統一行動を組織した。92年リオ・アースサミット・99年シアトルWTO総会反対デモは、世界社会フォーラムを組織し、反グローバリズム運動は今日も続いている。資本対賃労働にまつわる痛みは、副次矛盾となり、労働組合運動は脇に追いやられる格好になった。
  2011年には〈ウォール街を占拠せよ〉〈We are 99%〉を叫びながらオキュパイムーブメントがおこり、全米各都市からロンドン,ローマ,ブリュッセルなど100ヵ国以上に運動は広がった。2019年にはスウェーデンの16歳の高校生が呼びかけた温暖化への抗議は、SNSを通じて100カ国以上に広がった。この一方で、本流のいわばメダルの裏側に、グローバル化への反発や不満などが、既存秩序の外で周辺化された人々の間に、ポピュリスト的エネルギーとなってたまり、噴出している。ブグレジット(英国のEU離脱)や外国人労働者の排斥、自国第一主義を掲げるトランプ大統領の登場などがそれである。
 民衆の国際的統一行動・反グローバリズムの本流は、"Global Justice Movement"、とくにフランスでは「もう一つの世界を志向する人たち」という意味で"Altermondialiste"という新しい社会への運動も生み出している。イエズス会は2015年文書「グローバル経済における正義~持続可能で、誰も排除されない社会をつくるために」[2] を発出した。その中で世界経済の格差を指摘し、「公正な貢献」(contributive justice)と「公正な分配」(distributive justice)を主張している。また「ブランドなんか、いらない」で一躍、反グローバリゼーションの旗手となったナオミ・クラインは、『資本主義 VS. 気候変動、これがすべてを変える』で、「戦う相手は資本主義だ」と主張している。2020年米大統領民主党予備選挙で、若者は民主社会主義者・サンダースを支持し、「約70%が『社会主義者』に投票したい!」と、言っている。20世紀社会主義の「しがらみ」から解放され、「社会主義」の新しい形での「復権」が起こっている。、
 (5)インターネットから見る〔21世紀社会主義〕への展望
  アントニオ・ネグリとマイケル・ハートは著書『帝国~グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』で、グローバル時代の民主主義の在り方を、世に問いかけた。それは、「絶対的民主主義」である、と。今から30年も前の1990年のことである。ネグリとハートは、ネットワーク社会においては、多様な価値観や利益の違いをもつマルチチュード=群衆・大衆が、差異を認めあいながら共に働き、自らが自らを統治する、と。そしてそういう社会の政治形態を「絶対的民主主義」社会としたのである。今、そうした社会編成の原理が、だれの目にもはっきりと映るようになってきたのではないだろうか。
 インターネットの編成原理〔分散=共有=公開〕から見た時、この原理は社会の編成原理でもある。その社会とは「共同の生産手段で労働し自分たちのたくさんの個人的労働力を自分で意識して一つの社会的労働力として支出する自由な人々の結合体」(『資本論・第1巻』105頁、大月書店)社会である。資本主義の〔集中=私有=独占〕のアンチテーゼとしての〔20世紀社会主義:(物動)計画と公有〕に代わりうる〔21世紀社会主義〕の可能性が見えてこないか。
【付記】コロナウイルスの疫学的対処として、Linuxのような〔分散=共有=公開〕もとづく、研究体制が求められてはいないか。国=独占企業による利潤をめざした開発=研究ではなく。
               
 コロナと世界 山中 伸弥 (日本経済新聞2020年4月20日) 
 
――国際研究の重要性も高まっています。
「生命科学の分野は非常に競争が激しく、特許戦争がありデータを隠す場合も多い。・・・しかしお金もうけを目的とせず気持ちを一つにすることが大切だ。国の研究費も競争に勝つよりもデータを早く公開し、他と協力した研究者を評価する仕組みがほしい。そうでなければパンデミック(世界的な大流行)に立ち向かえない」

最新の研究
「昭和・平成・令和の天皇代替わりと戦後日本
―戦後日本を覆うドームのごときアメリカ=象徴天皇制―」
『プライム』43号 明治学院大学平和研究所

「アメリカ株価資本主義と世界金融反革命」

神奈川総合政策研究センター『研究と資料』No.209,2018年8月1日号(上),同誌No.210,2018年10月1日号(下)。本論文は『経済理論』54巻4号論文のフルペーパーです。同誌の投稿論文には字数制限があるため,削除した部分を復活しました。
 「世界金融反革命としてのアメリカ株価資本主義」
経済理論学会,季刊『経済理論』54巻4号(2018年1月15日)
 「戦後日本資本主義の構造としての非正規労働と過労死 

福島大学『商学論集』84巻4号,2016年3月
 「戦後日本資本主義の基盤,その生成と衰微 ―都市と農村,二つの限界集落」掲載版
経済理論学会季刊『経済理論』52巻4(2016年1月15日)
  同上論文 全文版


このHPではブラウザの戻る
ボタンで前のページにお戻りください。


===批判的思考の再構築を求めて===
 


 


 このバーツラフ広場は,ハラフの死からおよそ20年の後に,再び歴史の舞台となった。世界で初めて議会選挙によって社会主義政権を打ち立てたチェコ人民は,その社会主義政権を平和的に退陣させたのである。チェコ・ビロード革命である。今ほとんどの人が,体制全体を揺り動かすような反体制の思想など抱くものではないと考えている。だからこそ,自立した精神世界をもち,現在の体制に批判的に向き合い,それを総体的に点検し,別のあり様を探し,提示することが求められている。


1968年旧ソ連軍のプラハ侵略に抗議して焼身自殺したヤン・パラフのモニュメントの前で(2003年5月)

どうぞお読みください=============================
「失われた二〇年」からの逆照射 戦後日本経済分析』 
            (八朔社,2017年8月21日)2,400円+税
ISBN 978-4-86014-085-4 C3033 四六版 232頁
 ■日本が今抱えて問題は何ですか。過労死・派遣労働・限界集落といった問題です。これらはそれぞれ独立した個別の問題だと思いますか。違います。根は一つなのです。高度成長を実現してきた日本の経済システムが崩れた結果,社会の底に沈みに隠されてきた矛盾が表面に浮き出てきたのです。世の中に漂う漠然とした不安は,「失われた20年」などと言われています。この不安を何とかしてくれるなら,誰でもいい。この不安が託した「希望」が安倍政権の高い支持率を支えています。もちろん安保法制反対の国民的運動,とくにSEALDsのような若者の新しい運動もあるにしても,です。不安の根元を明らかにし,変革すべきモノ=コトを述べたつもりです。

 本書は,読みやすさを優先した為,引用文献やデータ等のページ数がありません。それらを以下に電子データで掲載しました。
引用ページ数 参考文献詳細  gyakushoushasanbun.pdf 
引用した文章は,★で示しました。それ以外は本文にパラフレーズした参考文献です。
データ ファイル名: hassakuExcel.xlsx
引用される場合は原データ・加工データの出所を明示してください。

==============================================



戦後日本資本主義の根本問題』(大月書店)
    シリーズ「戦後世界と日本資本主義」全7巻
     
第1回配本―戦後日本資本主義の特質を,
      土地所有と冷戦体制から読み解く

  The Fundamental Problem of Japanese Capitalism
   after the Second World War

 
書評
黒瀧秀久 『経済』No182 2010年11月号 新日本出版社

山田鋭夫 『経済理論』48巻第1号2011年4月 桜井書店

山田鋭夫氏書評への涌井のリプライ 
経済理論学会編『季刊・経済理論』第48巻3号(2011年10月)

 新幹線(1964年東京大阪間開通),超高層ビル(1968年霞が関ビル),高速道路(1969年東名高速道路開通)。1970年代以降,日本人,とりわけ都会の「中間層」は,「エコノミックアニマル」などと揶揄されながらも,自分たちがニューヨークやパリやロンドンの人たちとそうは変わらない,と思っていたに違いない。しかしその暮らしの基盤となる経済構造は,欧米とはかなり違っている。アメリカ冷戦体制に深く組み込まれていくにつれて,日本は欧米とは違った独自な「発展」を遂げることになる。その結果生みだされた構造が「外生的循環構造」である。国民国家の一時代を体験した欧米資本主義とは違って,国外の再生産構造が国内の構造を代位=補完する構造をもつ。戦後日本は,「下から」でも,「上から」でもなく,初めて「『外から』の資本主義発展」の道を歩んだ国なのである。 こうした構造を規定したのは,冷戦体制と零細土地所有であった。
 アメリカ冷戦体制に深く組み込まれ(対米従属)ていくにつれて,日本独自な経済構造が造形されていく。工業部門への労働力供給の役割をおわされた農業(農民)が基層におかれ,その犠牲の上に工業が成り立つ。その工業も大独占企業と中小零細企業という2層構造をもつ。土地の零細性ゆえに自立の道を断たれた農業。農民は非工業部門での所得で生計を維持するほかなく,また中小零細企業も下請として大独占に依存するほかない。だがそのいわば食物連鎖の頂点に立つ大独占企業も,原燃料・技術などの生産手段の依存と国内市場の狭さゆえの輸出のために,対米従属は決定的となる。
 この「構成」成立に際して大きな役割を果たしたのが外資であるが,同時にそれを代位=補完したものが「土地所有」であった。戦後日本の蓄積「成長」はこの前近代の遺物=土地を資本(擬制資本)に見立てたのである。以後強蓄積の原資として土地は決定的な役割を演ずることになる。


既刊  『ポスト冷戦世界の構造と動態』

 八朔社 2013年5月) 3200円+税  

 誰にでもわかってほしい。本書はそういう思いで,この10年ほどの間に書きためたものを,全体をできるだけ統一し,欠落しているところを補い,わかり易く書きなおして,全体を再構成した本である。こうした意図から研究書と一般書との中間を目指した。それが成功したか否かについては,読者の判断にゆだねざるを得ないが,非常に難しく目的を果たせなかった,のではないか。これが正直な気持ちである。

書評:宮本幹夫『明治学院大学国際学研究,』45号,127-131頁。
増田壽男「書評」(『(季刊)経済理論』51巻4号,2015年1月,99-101頁)。

 
第1巻 21世紀型危機と日本経済―増田壽男
    未刊
第2巻 戦後日本資本主義分析史と展望―鈴木春二(第5回配本)
第3巻 戦後日本資本主義と平成金融恐慌―相沢幸悦(第2回配本)
第4巻 現代グローバリゼーションとアメリカ資本主義―柿崎繁(第4回配本)
第5巻 戦後日本資本主義の根本問題―涌井秀行(第1回配本)
第6巻 戦後日本重化学工業の構造分析―吉田三千雄(第3回配本)
第7巻 戦後日本資本主義における労使関係―藤田実(第6回配本)

kisoen.htmlへのリンク