■ポスト冷戦とトランプ「アメリカ・ファースト」

 ソ連「社会主義」体制崩壊後,アメリカは唯一の超大
国となった。アメリカはその地位をゆらぎない確実なも
のにするために,すなわち世界支配のヘゲモニーを確
立するために中東支配に乗りだした。石油支配を通じ
て軍事力のヘゲモニーを確立しようとしたのである。
それは,1991年の湾岸戦争から始まり,イラク侵略,
アフガニスタン攻撃,イラン「制裁」へと続く。だがそれ
は9・11アメリカ同時多発テロ事件という反撃を生みだし
た。その反撃は今も続き,アメリカは「テロとの戦い」に
足を取られている。
 そしてもう一つの経済プレゼンス,ヘゲモニーの確立
を目論んだ。金融による世界支配である。それはイギ
リス・ポンド危機から始まった欧州通貨危機,アジア通
貨危機,リーマン・ショックとなって世界を駆け巡った。
世界金融反革命である。
 もともと金融の拡大,金融によるヘゲモニーの掌握
は,戦争と同様,世界大の蓄積が一つの体制から次
の体制へと移行する前兆である。15世紀から18世紀
前半のジェノバ,オランダ,18世紀後半のイギリス(パ
ックス・ブリタニカ)から20世紀後半のアメリカ(パックス
・ルッソ・アメリカーナ)へとヘゲモニーは移っていった。
 ポスト冷戦期とは,冷戦的世界秩序の清算過程であ
るとともに,全歴史過程からみれば新しい時代の黎明
期ではいのだかろうか。19世紀末大不況が新しい資本
主義=独占資本主義の時代に移行したことに比肩しう
る時期ではないのだろうか。だが19世紀末大不況のの
ち開かれた新しい時代は,二つの世界大戦という悲劇
の結末になった。今次の20世紀末長期停滞は,世紀を
またぐ時代の転換期であるとともに,全歴史的転換期
ではなかろうか。不幸の結末にならないために,我々
の力量が問われている。だが,オルターナティブは見
えない。

ビット・コインについて考える:コインチェック騒動  
            2018年1月24日
 ビット・コインは,1台のコンビューターが全てのデ
ータを記録・管理する「中央集権型台帳」ではなく,
「分散型台帳技術」(「P2P」)とも呼ばれる技術で結
合されているそうです。そして「それぞれのブロックは
暗号化された技術で鍵がかけられており,書き換えるこ
とができ」ないそうです。そこで「腑に落ちた」事は,
以下のことです。その鍵(カギ)を解いて新しいブロッ
クを作った人は採掘人と呼ばれ,「ビット・コイン」を
ご褒美として入手できるようです。こうしてブロックは
世界中の同意する参加者のコンピュータにつながり,特
定の一人(国・中央銀行)でなく,参加者による分散管
理,いわば「万人(参加意思のある)による管理ができ
るという理屈」がうまれ,信任を得ることができる。
そのカギが,数式(Hash)というわけです。では現行の
ビットコインはどのように使われているのでしょうか。
 ビット・コイン送金では,手数料が安くメリットがあ
るとか,代金決済にも利用されているようです。例えば
音楽配信サービスの決済とアーティストへの料金配分・
送金に利用し,著作権協会の中間マージンを節約できて
いる事例もあるようです。しかし円やドルなどの法定通
貨に交換する時,「交換レート」の変動があります。
 本題に戻りますが,先ほど信頼の鍵が数式だ,と言い
ました。この問題です。 アメリカ特許法(たぶん日本
でも)では,数式,アルゴリズムには特許が発生しませ
ん。インターネット生成史において,驚くべきことは,
インターネット・プロトコル(TCP/IP)の生みの親であ
るV・サーフやR・カーン,インターネットを構成するWWW
の開発者でWebの父と呼ばれたT・B・リー、ハイパーテキ
ストを考案したT・ネルソンなど,インターネットの開発
者たちは,仕様を公開し誰一人として権利(特許)を主
張しなかった,そうです。なぜなら,これらの人々は、
多くの関係者が新しい提案をインターネット上に公開し,
問題点や解決策等を議論し,相互に批判・検討し合うこ
とがインターネットの拡大・発展には必要不可欠である,
と分かっていたからです。多くのネットワーク関係者が
共通認識をもち,一緒に研究開発を進めなければ,自身
の研究も全体の研究も進まない,と認識していたからで
す。編成原理は分散=共有であり,独占はできないとい
うことです。ビットコインも分散=共有原理を体現して
いる,と言えるでしょう。だがそれは部分です。
 問題は運営です。運営は独占=占有で,分散=共有で
はありません。
例えば昨2017年5月10日午前11時46分にシステム障害
発生した際,コインチェックはその障害で発生した不利
な取引(ビットコインの暴騰)を帳消(発生時以前にロー
ルバック=戻した)にしました。とうてい「通貨の番人」
にはなれません。決済機能としての発展はあるかもしれ
ませんが,法定通貨にとってかわることはないでしょう。
運営が共有=分散されていないからです。
  ビットコイン限らず,この共有=分散という編成原
理は,現在進行形で,多方面にわたっています。製造業
の現場でも人間の労働がなくなってきています。今では
AI(Artificial Intelligence)=人工知能=コンピュ
ータによる知的な情報処理が,モノづくりでもコストダ
ウンの要だそうです。直接的な人間労働がどんどんなく
なっています。欧州ではそれによって生ずるワーキング
・プアーの問題に対して,ベーシック・インカムをどう
するかが議論され始めています。日本では,それは個人
責任とされ,更なる労働条件・賃金の劣化が押し付けら
れようとしています。「裁量労働制」として。






20世紀「社会主義」とは何だったのか。
==計画経済==
「計画経済というのは,もっぱらサプライ・サイドのそれであったことは明かである。それで,1960年代のはじめには,誰も消費しない『滞貨』が社会問題化し,『利潤率指標の導入』等が騒然と行われたりしたのでとあったが,根本的な性格は,全く変ることがなかった。
それは,国民経済全体が,冷戦の中で,軍事に宇宙に『動員された』経済であって,軍需産業,という一般の『消費者』とは全く異なる位置にある領域が,特権のうちに,非市場的に維持される,という旧ソ連期の特殊な歴史状況から来たものであった」(鈴木春二『20世紀社会主義の諸問題』八朔社)もっとも,軍事=動員経済だと消費は抑圧されるということ自体は,戦時下の日本での「欲しがりません,勝つまでは」というスローガンによくあらわれている。矛盾が顕在化し「1965年鳴り物入りで始まったコスイギン改革は1970年代中ごろには死んだ」。こうした構造的問題が「減退」となってはっきりとしてきた時,ペレストロイカの中で発言力を強めていた『経済改革派』の論客シュメリョフは,「目下,国は本質において軍隊と軍事生産の屑で生きているようなものである」ゴルバチョフ・ペレストロイカも,症状を改善できぬまま投げ捨てられた。

■「冷戦体制(論)」ソ連崩壊とインターネット
 
 ARPANET(アーパネット、Advanced Research Projects Agency Network)は、世界で初めて運用されたパケット通信ネットワークで,今日の世界的なインターネットの起源です。それは,アメリカ国防総省の高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency)の所管で,商用に公開されることになったのは,1992年、米連邦議会が S.1146 - Scientific and Advanced-Technology Act of 1992;科学および先端技術法案、合衆国法典第42編1862(g)を可決したからです。
  この法律によってコンピュータ・ネットワークは,商用ネットワーク群と相互接続することが可能となりました。この背景には,ソ連=冷戦体制崩壊があります。1992年11月大統領に選ばれたB・クリントンは,情報ハイウェー構想(ゴア構想)を打ち出しました。NSC(国家安全保障会議)からNEC(国家経済会議)へ,経済重視へと政策の軸足を移すわけです。これはソ連崩壊(冷戦終結)を受け,軍事もさることながら,経済重視へと政策の転換が可能になった,からでしょう。事実,商用に公開されることになり,インターネットの本格的展開が始まりました。インターネットは92年100万台、96年1000万台と急激に広がっていきました。(ノード数によって確認できます。)この爆発的な普及には,1995年に発売されたWindows95も決定的な意味を持っています。
  しかし問題はなぜアメリカが,重要な技術であるインターネットを世界に公開したのか,です。「アメリカが善意で公開した」とか、「予想以上に広がり抑えられなくなった」などと言ったような話がありますが、アメリカにはどんな目論があったのでしょうか。クリントン政権はアメリカ産業界がインターネットを活用して、アメリカ経済の再生を目指した,からです。それはITバブル(2001年エンロン破綻が象徴)となって破裂はしましたが,確かに1995年以降ニューエコノミー(但し雇用なき繁栄)を生み出し,アメリカは好景気に沸きました。冷戦体制の崩壊とともに,こうしたアメリカの戦略が可能となったのです。ですが,ソ連崩壊=インターネット商用利用という消極的ではない,もっと積極的な意図=アメリカの野望がある,と思います。例えば,以下の事例です。
  SNSの代名詞ともいえるフェイスブックですが、顔面認識技術をもつイスラエルの企業「フェイス・ドットコム」を5年前(2012年6月)に買収しました。今の段階でもgoogleで「涌井秀行」をググって,画像をクリックすると,私の証明写真をはじめ,ネット上の画像がズラーと並びます。ここにフェイスブックが現在提供している写真サービスを利用するとどうなるでしょう。フェイスブックのサービスは3つです。
(1) KLIK(クリック)=写真を撮るとフェイスブックは,自分や友達の顔写真を認識して、名前を出してくれる。写真をアップロードすればそのままタグ(索引)になります。
(2) Photo Tagger(フォト・タガー)=写真アルバムの中から友達を見つけ出してタグ付ける。
(3) Photo Finder(フォト・ファインダー)タグが付いていない写真をフェイスブックの中(ネット上)から探し出して、画像を見つけ出してくれる。これは,知らぬうちに取られた見知らぬ人の顔写真もフェイスブックに載っている人との関連が分かる。言ってみれば「人間関係のデータベース」であり,恐るべき全人類監視ツールともいえます。『Facebook』の危険性でしょう。ですから私は,Facebook は利用しない。また,iPadには,なくしたときに「便利」です,とか言って指紋認証も求めています。「コワ・・」
  フェイスブック・ザッカーバーグのような時代の寵児を演出してまで行う目的は何か?ということになるわけです。その典型例が先ほどの写真です。その意図は,顔面認証を使って,シープル(おとなしい羊のような人間)情報を蓄積して,ヒューマンリレーション(人間関係)や人間のネットワークを盗視することだと思うのです。インターネットを公開したアメリカ・ゴアの真の目的は、地球規模の管理社会実現のため,という「うがった見方」(神がかりで偏執凶ならありそうな)もできます。人々がネット,スマホに夢中になる。
  それともう一つ。このインターネットを企業=資本が利用すようとすると,結局株や為替取引などの金融に利用がもっとも適している,ということです。ネットの普及=株式資本主義=格差拡大という等式が成立するのはこのためです。これは別の機会に述べたいと思います
『戦後日本「失われた二十年」からの逆照射』  (八朔社,2017年7月25日)刊行にあたって
 日本が今抱えて問題は何ですか。過労死・派遣労働・限界集落・過労死・過疎化・限界集結そして東日本大震災原発事故と沖縄。社会とのつながりが切れた「無縁社会」。そして、世界でもっとも少子高齢化が進んだ国・日本。日本は今、世界がまだ経験したことのない試練に直面している。これをジャパン・シンドロームと呼ぶようだ。本書はそうした日本を覆い、人々を苦しめている諸事象をバラバラなものとしてではなく、日本経済の構造から来ているととらえ、それを明らかにしようとした書物である
 戦後日本資本主義の構造は「外生循環構造」である。その構造は,国外の再生産構造が国内の構造を代位=補完する構造〔外生循環構造〕である。その構造を生み育てたのは,アメリカ冷戦体制である。 もちろん日本政府も大いに協力してだ。アメリカ冷戦体制に深く組み込まれていくにつれて〔対米従属=沖縄と福島はその象徴・帰結〕,日本独自の経済構造が造形されていく。工業部門への労働力供給の役割をおわされた農業(農民)が基層におかれ,その犠牲の上に工業が成り立つ。その工業も大独占企業と中小零細企業という2層構造をもつ〔三層格差〕(都会と農村の限界集落はその帰結)。土地の零細性ゆえに自立の道を断たれた農業。農民は非工業部門での所得で生計を維持するほかなく,また中小零細企業も下請として大独占にすがるほかない。だがそのいわば食物連鎖の頂点に立つ大独占企業も,原燃料・技術などの生産手段の依存と国内市場の狭さゆえの輸出のために,対米従属は決定的となる。その構造が機能を発揮できた時代,日本は世界に類を見ない高度成長という高速道路を爆走することができた。だがそれは冷戦体制崩壊とともに,機能不全に陥った。それが現在の日本である。
  本書は,さらに資本主義発展の三つの道,「下から」,「上から」そして「外から」の発展の道として,Ⅱ対戦後,20世紀後半に残された最後の道を歩んだ日本やアジアの国・地域をアジア資本主義と規定した。アジアの資本主義的発展には,この道しか残されていなかったわけだが,日本は,その道を歩んだ最初の国である。猛烈な発展は,同時に応当の厳しい矛盾を抱え込むことになる。本書は,あれこれの事象の論説ではなく【構造把握】を目的としている。構造改革ではとても追いつかない。【歪んで高度に発達した資本主義国日本】の解明・闡明,この一語に尽きる。ではその先の展望は,どうすのか。展望は,アジア版経済生活共同体の構築にある。


■人間破壊としてのグローバリゼーションⅡ  2017年6月18日(日)
 
 アメリカ国民は,昨2016年11月,ドナルド・トランプを次期大統領に選んだ。この選択は,アメリカン・ドリームというささやかな夢を打ち砕かれたラストベルト(さびついた工業地帯)の労働者達の託した「希望」だ。この希望は,俺たちの仕事を奪った「不法移民」への深い憎しみと背中合わせになっている。トランプの主張する「メキシコ国境の高い壁」はその憎しみ代弁している。
 同じことが欧州でも起きている。昨年6月23日の国民投票で,イギリス国民はEU離脱を選択した。様々な理由がある中で,移民問題は一つの焦点だろう。移民が,俺たち英国民の職・仕事を奪っている。EU離脱で,移民を排斥すべきだ。これが,EU離脱の選択を後押ししたのに違いない。欧州での極右政党の台頭も,そうした排外主義の表れだろう。その受け皿がポピュリズムだ。
 日本では,移民問題もさることながら,非正規労働や過労死などの労働問題として噴出している。韓国でも若者の自殺が,深刻な社会問題になっている。韓国は経済協力開発機構(OECD)の加盟34カ国の中で,今(2016)年も自殺率1位だった。21世紀初頭の長期停滞という黒雲が世界を覆っている。
  第2次世界大戦後およそ半世紀続いた成長は,20世紀末から停滞へと変わった。それとともに現れた冒頭の諸事象。これらはなぜ起きているのか。1950,60年代のアメリカ黄金期,西ドイツ「ラインの奇跡」,日本の「高度成長」,そして韓国の「漢江の奇跡」,さらに中国の経済成長。これと同調するかのように戦後,縮小していった格差は,1990年代以降再び拡大しはじめた。戦後の「奇跡」が終わり,人々は停滞のなか格差と貧困にもがいている。   。
世界を覆う黒雲の正体が,世界経済の成長を引っ張ってきたアメリカの経済変容にあるのではないか。それが冒頭の諸事象を引き起こしているのではないか。これまで世界経済を支えてきたアメリカは,ソ連・冷戦体制が解体した今となっては,これまでのように世界を支える必要はなくなった。今度は自分の番だ。アメリカ・ファーストとばかりにである。
  具体的にはプラザ合意以降だが,アメリカの苦し紛れの世界金融政策が,結果としてその後のアメリカ一国生残りの世界戦略として定着していった。1995年の逆ブラザとITニュー・エコノミー,2002年の住宅ブームを背景にしたサブプライム金融商品の世界販売・輸出。どちらもバブルなって崩壊したが,その過程でアメリカ金融資本は肥太り,世界は食い物にされた。1997年のアジア通貨金融危機,2008年のリーマン・ショックが世界経済に及ぼした深刻な影響を思い浮かべればわかるだろう。 世界金融反革命だ。これがアメリカ本国の経済構造も変容させていった。それは軍産複合体に象徴される「軍需」資本主義から「株価」資本主義への変容でもある。それはまた冷戦時代からポスト冷戦時代への変容とシンクロナイズしている。第2次世界大戦後,およそ半世紀続いた冷戦時代は特異な時代であって,冷戦終結後のポスト冷戦時代が,むしろ資本主義の「通常の時代」なのではないか。「トランプ現象」に象徴されるような様々な事態は,異常なのではなく,通常な状態なのかもしれない。

グローバリゼーションと人間破壊Ⅰ  2017年4月16日(日曜日)

 グローバリゼーションは,経済は無論,あらゆる社会事象を説明できる便利な用語である。だがこの言葉は,資本主義の「新局面」を表現できたとしても,矛盾を切開する「ターム」になり得るのだろうか。要点は「グローバリゼーション」=グローバル化が,国民経済の劣化をもたらしている,ことだ。それは,アメリカ・EU・日本で,次のような社会問題として表れている。
 アメリカ;アメリカ国民は,トランプを次期大統領に選んだ。この選択は,ラストベルト(さびついた工業地帯)の,ささやかなアメリカンドリームを奪われた製造業労働者が託した「希望」だ。この希望は,俺たちの仕事を奪った「不法移民」への憎しみと背中合わせだ。トランプの主張する「メキシコ国境の高い壁」はその憎しみをすくいあげている。
 同じことが欧州でも起きている。昨年6月23日の国民投票でイギリス国民は,EU離脱を選択した。様々な理由がある中で,移民問題は一つの焦点だろう。ここでも移民が「俺たち英国民の職を,仕事を奪っている」。EU離脱で,移民を排斥すべきだ。欧州での極右政党の台頭も,そうした排外主義の表れだろう。その受け皿がポピュリズムだ。
 日本では,移民問題としては,ないわけではないが,それが派遣社員=非正規の雇用問題として表出している。秋葉原通り魔事件(昨年6月8日)の犯人:加藤智大は,派遣社員で2日後の解雇が予告されていた。韓国でも若者の自殺が,深刻な社会問題になっている。その根もとにある財閥(チェボル)と朴槿恵の癒着への反発が,百万単位のローソク・デモだ。世界を覆う黒い雲はどこから湧いてきたのか。その発生源はなんなのだ。それは労働(者)の問題だ。
 「労働者は、彼がより多く富を生産すればするほど、彼の生産が力と嵩(カサ)を増せば増すほど、それだけいっそう貧しくなる。労働者はより多く商品を創造すればするほど、彼はそれだけいっそう安い一個の商品となる。事物世界の価値増大に,人間世界の価値下落が直接比例してすすむ。」(『経済学批判』大月国民文庫,98頁)20世紀の科学革命は,1970年代後半日本から始まった技術革命・ME=IT革命に乗り移った。コピー生産によって機械制大工業=モダンタイムスをはるかにしのぐ大量生産が可能となった。商品1個当たりの価値低下=価格破壊は,ウイルスのように広がって,人間自身の破壊にもつながっている。
 加藤智弘は事件の2日前ツイッターで次のように呟いていた,という。「6月6日02:55 それでも、人が足りないから来いと電話がくる/俺(おれ)が必要だからじゃなくて、人が足りないから/誰が行くかよ,・・・誰でもできる簡単な仕事だよ」。熟練は生産から排除されて,ごく一部のものになった。労働の価値=価格破壊が,進んでいる。労働の喜び=人間発達の源泉は枯れ果てた。疎外は究極に進んだ。「キリスト者のあらゆる言葉、あらゆるわざ、あらゆる労働が、祈りとなるのである」(ボンヘッファー)。労働は「祈り」とならなくなった。


トランプに「未来」を託したさびた町(ラストベルト)2017年4月1日

  アメリカ国民は,トランプを次期大統領に選択しました。この選択は,ラストベルト(さびついた工業地帯)の白人労働者,グルーバリゼーションによって工場が国外に移動し,ささやかなアメリカンドリームを奪われた製造業労働者が託した「希望」なのです。グローバリゼーションが行きづまり,その打開が「米国第一主義」,トランプの主張するメキシコ国境の高い壁,TPP離脱などなどなのです。一昨日の記者会見(1/13)では,「最も多く雇用創出する」神が選んだ大統領だと,豪語しました。グローバリゼーションからローカライ・ナショナライゼーションへと潮目は移りつつあり,グロバリゼーションの光ではなく,影がくっきりと誰の目にも見えてきたのです。英国のEU離脱も,その流れなのでしょう。
 しかしグローバリゼーションの流れは,だれも止められないでしょう。グローバリゼーションの流れは,日本を水源とした「生産のアジア化・ME化」を源流とし,中流域にアジアNICsの流れを生み出し,今や世界の工場となった中国を河口のもつ大河です。その河口にはメキシコという分流も生み出しました。この流れは,性能千倍=価格千分の一という半導体の特性をもっています。
 1970年代半ば以降の生産性の飛躍的上昇をともなった生産=供給力は,初発から世界市場を目指さざる得ないほど巨大で,大陸的容量・需要力をもつアメリカ国内市場さえ狭すぎました。そのうえ技術革新のスピードは,一定期間の価格独占による利益も,企業・資本に認めてくれません。性能千倍価格千分の一という商品特性は,商品の利幅をますます薄くさせ,人件費というコストの壁に突き当たり,その打開を国外に求めざるを得なくなりました。製造業の空洞化=雇用の空洞化が,アメリカから日本そして韓国へと逆流し中国へベトナムなどへと流れつきました。企業=資本は薄利多売というマーケッティングを余儀なくされています。
 アメリカ企業・資本は,金融世界市場という流れを作りだし,ここに企業・資本の利益を見出そうとしたのです。1990年代初頭のことでしょう。グローバリゼーションとは,ファイナライゼーション=アメリカナイゼーションであり,資本の利益の軸足のデトロイトからウオール街へシフトへのシフトです。現代はまさに「強欲資本主義」,実業より虚業,製造=実体経済より金融=相場経済,モノよりカネの時代なのです。しかも,cash(金)でもmoney(金)でもgold(金)でもないderivative (=派生物)の時代なのです。汗水流して働く人よりも投機に長けた人が大儲けする。ここに理性を求めようとするのは無理です。
詳しくは『ポスト冷戦世界の構造と動態』第7章をお読みください。 また 国際経済論第20・21回 でもご覧戴けます。


ロシア革命・『帝国主義論』刊行100年の年に
(2017年3月1日)
 2017年は,ロシア革命100年・『帝国主義論』発刊100年の年である。また奇しくも『資本論・第1巻』発刊150年の年でもある。ロシア革命とはなんだったのか。20世紀「ソ連社会主義」とはなんだったのか。今年は,レーニン『帝国主義論』そしてマルクス『資本論』の現代の理論的意義を闡明する必要がある年なのだろう。それはまた20世紀とはなんだったのか,の問いかけでもあろう。
 その問いかけの核心が,〔戦争と革命〕である。Ⅰ大戦とロシア革命,Ⅱ大戦と中国革命,その結果生まれてきた二つの「社会主義」国家がソ連と中国である。1991年ソ連邦の崩壊,「社会主義」から資本主義への回帰。1992年南巡講和を契機として,中国も資本主義へと身をひるがえした。20世紀「社会主義」の意義と限度が問われて,その総括がいま求められている。
 ロシア革命を考えるとき,もう一つの変身も忘れてはならない。それは資本主義も変身しなければならなかった事である。Ⅰ大戦の軍需景気の余韻に牽引されていたアメリカ経済は突然崩壊した。この1929年恐慌をきっかけとして,世界は長期停滞に陥った。これへの対応が,アメリカのケインズ革命であり,日独伊の後発資本主義諸国のファシズム化であり,最も遅れた「半封建国家」ロシアの「社会主義」への変身であった。ロシアは,歴史の発展段階・資本主義をスキップしたのである。
 レーニンは,社会主義を次のように構想した。資本主義の基本メカニズム所有と市場のアンチテーゼとして,所有は国公有,生産と消費の調整メカニズムは市場から計画・動員に移す。そのために国内経済を『一つの工場』のようにしよう,と考えた。この考えのルーツはK・マルクスにあり,その後エンゲルスにも引き継がれたが,ここにおける「計画」とは,共産党官僚・命令=物動計画だった。だが,熱戦と冷戦の中で,このメカニズムは,1960年代までは,有効に機能したのである。 ソ連は29年恐慌に巻き込まれなかった。またスプートニク・「ショック」が示すように,世界はソ連の宇宙開発技術の高さに驚くと同時に,そうした高い技術を生みだしたソ連の「社会主義」体制のほうが経済制度として優れているのではないか,とさえ考えたのである。  国民の生活水準を犠牲にして,人間も含めて最良の資源を軍事・宇宙=重化学工業につぎ込む。「計画的」に動員する。資本主義のアンチテーゼであった社会主義思想が,20世紀の歴史的状況と出会っとき,それは「工場」と「国家」を手段とした官僚機構の下で,命令と動員によって稼動する社会の建設となった。だが1960年代以降,途上国は,NICsがその典型だが矛盾をはらみつつも,次々と経済成長を遂げてゆく。国民の消費生活水準,は,豊かさ」を享受できる水準にまで引き上げられたのである。1985年ミハエル・ゴルバチョフ・ソ連は「消費物資生産・サービス部門の発展総合計画を発表した。これは、質のいい家庭用品や生活必需品を豊富に供給し、ソ連の代名詞になっている行列をなくし、サービスの悪さを抜本的に改善しようという」 ペレストロイカ(改革)であった。遅かった。
 だが資本主義も1990年代以降「長期停滞」;世紀末不況に陥った。(つづく)
 
2016年4月4日 韓国失われた10年
 韓国京畿道安山市は,「国境のないまち」町だ。ソウル市南西にあるこの町は,地下鉄で約1時間,人口約70万人の都市だが,市内ウォンゴク洞は住民3万人のうちの約70%が低賃金外国人労働者だ。1980年代に,ソウルなどから3K職場といわれる中小企業の工場が移転(現在の工場の数約4,000)してきた。そこが彼らの職場だ。 一方で,韓国は経済協力開発機構(OECD)の加盟34カ国の中で,今年も自殺率1位を維持した。15~19歳の2010年の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は8.3人。青少年の死亡原因のうち自殺が占める割合は2000年の14%から2009年には28%に増え,死因1位となっている。NECAが昨年実施したインターネット調査によると、自殺を図ろうとした経験を持つ青少年は全体の4.44%,自殺を真剣に考えたことがある青少年は18.97%に上った(2012年9月12日(水)18時22分配信 聯合ニュース)。韓国で何が起きているのか。 この情況を経済学はどうとらえるのか。とらえられるのか。

■ 2015年12月14日 秋葉原通り魔事件
 派遣法は,労働力を労働者から切り離し,他の部品・原材料といったものにしてしまった。フォーディズムは工業製品を互換性部品の集合体ととらえたが,派遣労働は,労働力から人間にまつわる人格をはぎ取り,原材料・部品と同じように部品化してしまった。必要時に必要なだけ供給できる「ジャスト・イン・タイム化」を派遣法は可能にした。 必要ならば派遣元から部品として送ってもらえばいい。不要ならば,資本・企業は派遣元との契約を解除し,送り返せばいい。雇用関係について回る人間関係を無視できる,究極の労働力の商品化が完成した。こうして派遣労働は人材の部品化とジャスト・イン・タイム化に成功したのである。

 2008(平成20)年6月8日,東京・秋葉原で7人が死亡、10人が負傷する事件で発生した。「秋葉原通り魔事件」の犯人は,日研総業の派遣社員で裾野市にあるトヨタグループの関東自動車工業の工場に勤務する派遣労働者だった。犯人はその月いっぱいで辞めるよう通告を受けていた。

  事件の2日前ツイッターで次のように呟いていた,という。「6月6日02:55 それでも、人が足りないから来いと電話がくる/俺(おれ)が必要だからじゃなくて、人が足りないから/誰が行くかよ,・・・誰でもできる簡単な仕事だよ」  新聞各紙は,センセーショナルに取り上げた。毎日新聞は「加藤智大,誰でもよかった:秋葉原通り魔事件 孤独な心情 サイトに 取り換え可能な“部品”として扱われた派遣社員」という特集連載記事を組んだ。サイトには次のような書き込みがあいついだ。「自分らはボルトかなんかの部品と一緒なんです」「おれも部品になっちゃった」人にあらず。

■2015年07月22日『21世紀の資本論』
 
トマ・ピケティ『21世紀の資本論(Le capital au XXIe siecle)』みすず書房,2014年内刊行予定)が欧米でベストセラーとなっているという。ピケティはいう。この本は,20カ国以上、3世紀にわたる「所得と資産の歴史」の本だ。「資本主義の力はイノベーションや経済成長、生活水準の向上を可能にするもので、それ自体はすばらしいのだが、当然ながら道徳的な規律というものがない。・・・資本主義と民主主義はまったく同じものではない。不平等や私有財産それ自体が悪ではなく、資本主義のポジティブな力は、公共の利益のために利用すべきだ。」そして「資本主義には『心』(道徳心)がない」という(『週刊東洋経済,7月26日号』特集「『21世紀の資本論』が問う中間層への警告」掲載の本人へのインタビュー記事から引用) 一つの物差し(ここでは格差)を当て歴史を構成しなおすというのは,フランス流のやり方だ。だが,はたしてそうなのだろうか。
  今ある格差は世界価値革命(価格破壊)の所産ではないのか。「性能百倍価格百分の一」。こんな商品が資本主義の歴史の中で生まれたことがあっただろうか。この商品は労働力商品(賃金)の価格破壊ももたらしてもいる。これが今ある「格差」の根源ではないのか。資本主義的生産の歴史を持たぬ国・中国が瞬く間に「世界の工場」となった。しかもハイテク分野でもでだ。独占の時代を開いたアメリカ的生産方式(フォーシズム)やトヨティズムを尻目にだ。「熟練の解体」は言われて久しいが,スイッチは半導体タッチパネルに置き換わり,部品はエンジニアリング・プラスティックの射出成型機によってコピーされている。工場のラインは誰にでもできる労働に代わっていく。これが今日の格差を生み出してはいないか。日雇い派遣で可,その日のうちに誰が来ても工場は正常に稼働する。格差社会の必然性(経済的土台)がここにある。究極の搾取は,絶対的貧困=ワーキング・プアー(働いても食えない)層を生み出した。この状況の上に,金融による所得格差が生み出されている

2012年03月08日アラブの春

  アラブの春はなぜイスラム主義に回帰するのか<BR>
1981年10月エジプト・サダト大統領暗殺後,ムバラクは大統領に就任した。これが今日のエジプトにおけるアラブの春「民主化」運動=「ムバラク独裁政権」打倒のはじまりである。
ムバラクはサダトの基本路線を継承し、緊密な対米関係を維持し,1987年大統領に再選。90年8月からのイラクのクエート侵略時(のちの湾岸戦争の発端)エジプト軍をサウジアラビアに派遣し親米ぶりを発揮した。
 2011年エジプト民主化・アラブの春=独裁政権/西欧市民国家樹立・市民的自由獲得という若者の主張はイスラム教ベースの国家体制(ムスリム同胞団)に飲み込まれる。こうした事態はイランではアフマニネジャドをこえて,さらに強いイスラム原理主義に回帰(過日の選挙結果注※)へとなってあらわれている。これはイラク/アフガニスタンの暫定統治=米の侵略=欧米的価値観押しつけの否定=議会制民主主義による統治による市民的自由という価値観の否定=イスラム原理主義への回帰へとつながった。
  「イラン国会選挙、全体の77%225人に当確」とイラン内務省が暫定結果したが,ロイター通信は4日、最高指導者ハメネイ師の支持派が全体の75%の議席を獲得したと報じている(日経新聞電子版2012年3月8日)


■2005年11月04日 戦後60年に―敗戦後60年日本とドイツ

  「ヒロシマ」と「アウシェビッツ」。日本とドイツ。この敗戦国はともにふたつの「負の遺産」を基軸に据えて,戦後の半世紀を生きてきた。だがヒロシマは被害,アウシュビッツは加害の象徴となった。「加害」の追及を新生国家のあかしとせざるを得なかったドイツとは対照的に,日本は「被害」意識に閉じこもり,加害の欄は記入されず空白のままのこされた。
  なぜこうしたことが生じたのだろうか。ドイツは2度の大戦で欧州諸国を敵にまわし,甚大な損害を与えてきた。とりわけナチス・ドイツの周辺欧州諸国の人々に与えてきた苦しみは筆舌に尽くしがたい。ドイツは敗戦後そうした国々と再び向き合い,ヨーロッパの中で経済を立て直し生きていくことを余儀なくされた。ドイツはその和解のための努力を払ってきた。相手の理解が得られるまで,辛抱強くナチスの戦犯の追及をおこなってきた。それが今日ヨーロッパの中心にドイツがいることをヨーロッパの人々が認める基礎にある。ところが日本は,これとはまったく正反対の道を歩んだ。日本は敗戦後アジアと向き合うことなく,「戦後復興」を遂げていったのである。
  評論は「戦後敗戦論-憲法1条「天皇」と第9条「戦争放棄」(『国際学部付属研究所年報』2005年12月)をご覧ください。


■2004年12月04日 アメリカの金融植民地日本
  2004年,日本の対中国貿易はアメリカをぬいた。戦後初めての出来事である。こうした貿易関係が端的に示しているように,日本経済はアジアとの関係をぬきしては考えられなくなっている。「産業の空洞化」と背中合わせのことだが,アジアにある日本企業の売り上げは,日本のアジアへの輸出より大きくなっている。これは,日系企業の海外・アジアでの生産が国内より活発だということである。日本はアジアと共に生きてゆかざるを得なくなっているのである。こうしてアジアとの結びつきが強まる一方で,日本とアメリカの関係には変調が生じてきている。    
  1985年のプラザ合意以降の20年間,アメリカとの経済関係は日本側の享受から貢納へと変わった。日本はアメリカに従って行けば何とかなったものが,そうはならなくなってきている。それどころか逆に日本が搾り取られ,むしりとられる関係になっている。たとえば,日本政府は円高阻止のための為替介入によって大量のアメリカ国債を購入している。また日本の生命保険会社も資金運用のためにアメリカ国債を大量に買っている。日本の庶民からかき集められた「まさかの時のための掛金」が生命保険会社の資金運用によってアメリカ国債購入に向けられいる。ということは,そのカネがアメリカ財政に組み込まれ,アメリカ人の社会保障を日本がささえていることになる。  
  しかし日本はこのアメリカ国債(ドル)を売るわけには行かない。特に為替介入によって得た国債(ドル)は売却すれば,猛烈なドル安・円高になり,日本の輸出企業は立ち行かなくなる。第一アメリカは,ドル暴落につながる売却など認めるはずがない。橋本首相が口走ったとたんゴツンとアメリカにやられた。また,ヘッジ=ファンド・ハゲタカ=ファンドなどが日本の金融界で策略をめぐらし大いに儲けている。たとえば昨2004年2月にスタートしたした新生銀行の前身は旧長期信用銀行である。旧長銀は1998年に破綻したあと国有化され,国税約4兆円がつぎ込まれた。この銀行を10億円で買い取ったリップル=ウッドは,これを2900億円で売却した。こうして1990年代以降,日本はアメリカに金融的に搾り取られている。当たり前かもしれない。「第二の敗戦」のあとは「第二の占領」となるからである。今はすでにアメリカの金融植民地に日本はなっている。アメリカとの関係を考え直しアジアとしっかりと向き合うことが,いまどうしても必要だ。敗戦後ドイツは,かつての侵略国に否が応でも初めから向き合って生きてゆかねばならなかった。これと対照的に向き合う必要がなかった日本とアジアとの間にある溝は,深くて埋めがたいほどの大きさとなっている。もう一度その戦後の最初に立ち戻って,アジアとの関係を構築しなおす勇気が,求められているのである。
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=米国の映画監督オリバー・ストーンは,次のように述べた。====
2023年 7月 29日 21:00
https://note.com/spiderman886/n/nbfa6c0f34531
 ジョー・バイデン米大統領はウクライナで「自殺行為」のような
道を歩んでおり、米国をロシアとの「愚かな対立」に引きずり込む
かもしれないと、高名なオリバー・ストーン監督が最近のポッドキ
ャスト出演で語った。
 金曜日にリリースされた英国のコメンテーター、ラッセル・ブラ
ンドのポッドキャスト『Stay Free』のエピソードで、ストーンは
ウクライナの紛争を「イラク戦争を始めたネオコンサバティブの動
き」のせいだと非難し、彼らはバイデン政権でいまだに重要な地位
を占めている。
 「バイデンは古い冷戦の戦士であり、旧ソ連を本当に憎んでい
て、共産主義ではないロシア連邦とまた混同している。「彼は我々
を愚かにも、譲るつもりのない国との対決に引きずり込もうとして
いるようだ。これは(ロシアの)国境だ。これが彼らの世界だ。
NATOがウクライナに進出している。これはまったく別の話だ」。
 この著名な監督は、ウクライナの紛争を「イラク戦争を始めたネ
オコンの動き」のせいだと非難した。彼が名指しした人物の中には、
ビクトリア・ヌーランド国務副長官、ジェイク・サリバン国家安全
保障顧問、アントニー・ブリンケン国務長官など、バイデン政権の
主要人物が含まれている。


==インターネットの編成原理と21世紀社会主義

    (2021年12月22日)====

  
イギリスのジョンソン首相は,コロナウイルスに感
染し,死
の淵から救出された。その時,イギリス国民に
次のような感
メッセージ送った。治療にかかわった医療
スタッフ一人一人に名
前で呼びかけ「まぎれもなくNHS
(国民保健サービス)のおかげ
で命拾いをしました。・
・・みんなのNHSはこの国の脈打つ心臓
で,この国の最
も良い部分で不屈です。」と。
 そして自己隔離中に「
社会というものが存在する」とツイッ
ターに投稿した。
  医療費無料のNHSは,イギリスでは単なる医療シ
ステム以
上の意味がある。社会の在り方として,国民は
NHSを誇りとし
信奉してきた。すなわち,市場経済=
資本主義では解決できない
「欠乏,病気,無知,不潔,
怠惰」という「五つの巨悪」から,
すべてのイギリス人
を解放するという社会の理念をNHSが象徴して
いる。だ
からコロナとの闘いで,最前線のNHS医療従事者・職員へ

感謝を伝えることが,国民の「正義」となっているので
ある。
「鉄の女」サッチャー首相の後継者,「市場原理
主義者」「新自
由主義の申し子」のジョンソン首相をし
て,「NHSはこの国の脈打
つ心臓で,この国の最も良い
部分で不屈です。」そして「社会と
いうものが存在する」
と,言わしめたのである。市場は万能では
ない。市場に
任せれば,すべてうまく行くなどということは幻想
でし
かない。

 フレドリック・ジェイムソンは,「資本主義の終わり
を想像す
るよりも,世界の終わりを想像することのほう
が容易だ」と。そ
うだろう。地球環境破壊や自然災害,
そして疫病。農業は,常に
この危機にさらされている。
資源と環境の有限性を自覚し,これ
を制約条件としつつ
需要の増大への対応を考えざるを得ない。だ
から地球温
暖化・格差社会・1992年リオ・アースサミットから99

シアトルへと高まる反グローバリズム運動が地球規模で
広がっ
ていくのである。無秩序な自然環境・生態系への
介入した結果生
まれるウイルスによる人間破壊が,パラ
ダイム転換を迫っている
。これが,資本主義社会の限界
と未来社会への展望を見出そうと
する運動を,組織して
いる。そして今年(2020年)発生したコロ
ナ・パンデミ
ックで,我々はこのことを改めて思い知らされた。

「資本主義が唯一の存続可能な政治・経済制度であるの
みならず
,今やそれにたいする論理一貫した代替物を想
像することすら不
可能だ,という意識が蔓延した状態
(=資本主義リアリズム)」
は,打ち破られたのではな
いか。資本主義の〔集中=私有=独占
〕の「集中を計画
」に,「私有=独占を国有(国家独占)」に代
えただけ
のソ連・東欧型の,資本主義のアンチテーゼとして「20

世紀社会主義」のトラウマから人々は解放されつつある。
インタ
ーネットの編成原理〔分散=共有=公開〕は,
〔21世紀社会主義
〕社会の編成原理と言えないか。

==拝復 O様 「自粛」 2020年9月4日==
 確かにそうですね。「『菊と星条旗』というキャッチ
・コピーのアイデアに自己陶酔」に文字どおり酔いしれ
たのでしょう。白井は,ベネディクトの『菊と刀』をも
じったのかもしれません。小生は「炎上」のことは知り
ませんでしたが「みっともない」の一言でしょう。
 愚生も,お送りした論評・エッセイ「昭和・平成・令
和の天皇代替わりと戦後日本――ドームのごとく日本を
覆うアメリカと象徴天皇制」で,山田盛太郎『分析』の
「ドームのごとき威容を誇る天皇制=軍義的官府」に倣
って,戦後のそれを「アメリカ=象徴天皇制政府」とし
ました。
 ここで問題は,そして悩んでいる所は,それを支える
「イデオロギー」は何か,です。山田流に言うと戦前の
官府を支える二本の柱(二層穹窿)である「家父長的家
族制度」と「ナポレオン的観念」は,「戦後では何か」
という問題です。戦前のそれを「天皇制ファシズム」と
いう理解・論は,32テーゼ以来のもので,講座派理論を
継承する歴史学界の主流的見解でした。やはりここで元
に戻ってしまいます。では戦後のそれは「何か」にです。
 これを考えるとき山田が,権威=権力機構を支えるも
の=柱を,「家父長的家族制度」と「ナポレオン的観念
」といったことに思い当たるのです。「ファシズム」と
いうと,「・・・イズム」から「マルキシズム」のよう
な思想体系を連想してしまいますが,思想体系でないも
のが戦前日本を真綿のように覆い,国民はそれに絡めと
られていた,と思えてならないのです。くだんの「エッ
セー」にも書きましたが,天皇の白馬をみると,あの瀬
永亀次郎さえ「ゾク」とした感情や「天皇=天子様をみ
ると目がつぶれる(そっと見たが目はつぶれなかった)
」といった少女時代の感想が示す,「(ナポレオン的)
観念」=思い込み,ではないかと。
 そこで,コロナの今日に思い当たるのです。「自粛」
です。この現象は,「世間への同調圧力」「皆さんそう
してらっしゃる」という風潮です。小生が,マスクを着
けずに散歩をしていると,自転車に乗ったおじさんが,
すれ違いざまに「マスクぐらいしろよ」と。自粛警察」
現象などという人もいますが,この風潮が民衆の中にあ
り,これに「日の丸・君が代」「美しい国」「神の国」
と「反韓国・反中」が,のせられ,セットになってい
る。
 言うまでもなく自粛による行動制限・規制は,法的拘
束力がなく,国民に自己決定を強いる,いや自己決定ど
ころか「皆さんに,そうしていただいている」という同
調圧力なって,社会が動く仕掛けとなっています。
 これが,戦後の「アメリカ=象徴天皇制政府」を支え
る太い柱の1本で,もう1本は,そう,土地所有(投機・
零細農地・宅地)なのでしょうか。


ポスト冷戦30年の帰結(2020/7/20)

ネット新世界が拓く21世紀社会主義

インターネットから見る〔21世紀社会主義〕への展望
  アントニオ・ネグリとマイケル・ハートは著書『帝国
~グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』で、
グローバル時代の民主主義の在り方を、世に問いかけた。
それは、「絶対的民主主義」である、と。今から30年も前
の1990年のことである。ネグリとハートは、ネットワーク
社会においては、多様な価値観や利益の違いをもつマルチ
チュード=群衆・大衆が、差異を認めあいながら共に働き、
自らが自らを統治する、と。そしてそういう社会の政治形
態を「絶対的民主主義」社会としたのである。今、そうし
た社会編成の原理が、だれの目にもはっきりと映るように
なってきたのではないだろうか。
 イギリスのジョンソン首相は,コロナウイルスに感染し,
死の淵から救出された。その時,イギリス国民に次のよう
な感謝のメッセー送った。 治療にかかわった医療スタッ
フに名前を一人一人呼びかけ 「まぎれもなくNHS(国民
保健サービス)のおかげで命拾いをしました。・・・
みんなのNHSはこの国の脈打つ心臓で,この国の最も良い
部分で不屈です。」
https://www.bbc.com/japanese/52266017
そして自己隔離中に「社会というものが存在する」とツ
イッターに投稿した。
https://www.youtube.com/watch?v=KkUwuYxVmJY

 医療費無料のNHSは、イギリスでは単なる医療シス
テム以上の意味がある。社会の在り方として,国民はN
HSを誇りとし、信奉してきた。 すなわち,市場経済
=資本主義では解決できない「欠乏、病気、無知、不潔、
怠惰」という「五つの巨悪」から、すべてのイギリス人
を解放するという社会の理念をNHSは象徴している。だか
らコロナとの闘いで、最前線のNHS医療従事者・職員
へ感謝を伝えることが、国民の「正義」となっているの
である。
 「鉄の女」サッチャー首相の後継者,市場原理主義者
のジョンソン首相をして「NHSはこの国の脈打つ心臓で,
この国の最も良い部分で不屈です。」と,言わしめた。
市場は万能ではない。市場に任せれば,すべてうまく行
くなどというのは,幻想だ。このことが今度のコロナ・
パンデミックがあぶりだした。こうした考え方は,イギ
リスにとどまらない。世界の市民運動家(C20)は,G20
首脳に,真の対立軸は「新自由主義対人間と地球の持続
可能性」だとし,「新自由主義」からの脱却を主張して
いる。
 インターネットの編成原理〔分散=共有=公開〕は,
社会の編成原理でもある。その社会とは「共同の生産
手段で労働し自分たちのたくさんの個人的労働力を自
分で意識して一つの社会的労働力として支出する自
由な人々の結合体」(『資本論・第1巻』105頁、大月
書店)社会である。資本主義の〔集中=私有=独占〕
のアンチテーゼとしての〔20世紀社会主義:(物動)
計画と公有〕,それに代わりうる〔21世紀社会主義〕
の可能性が見えてこないか。
 
【付記】コロナウイルスの疫学的対処として,インター
ネットの編成原理のような〔分散=共有=公開〕もとづ
く、研究体制が求められてはいないか。国=製薬独占企
業による利潤をめざした開発=研究ではな
く。
               
 
コロナと世界 山中 伸弥 (日本経済新聞2020年4月20日) 
 
――国際研究の重要性も高まっています。
「生命科学の分野は非常に競争が激しく、特許戦争があ
りデータを隠す場合も多い。・・・しかしお金もうけを
目的とせず気持ちを一つにすることが大切だ。国の研究
費も競争に勝つよりもデータを早く公開し、他と協力し
た研究者を評価する仕組みがほしい
。そうでなければパンデ
ミック(世界的な大流行)に立ち向かえない」


 21 世紀社会主義を切り開くネット新世界
               (1)~(5)

               2020年4月17日
 はじめに―〔21 世紀社会主義社会〕への展望
木曽路はすべて山の中である」という一文から始まる『夜明け前』
は、明治維新前夜を背景に、新しい時代への期待をいき生きと描
き出した小説である。青山半蔵を中心に、当時の数多くの庶民たち
の、木曽の片田舎で新しい時代の息吹を感じながら生きる様子、ま
たその後の落胆も描かれている。藤村は、小説のタイトルを新時代
の始まり、「夜明け前」とし,「江戸の黄昏」「ポスト徳川」とは
しなかった。
 第二次世界大戦後の世界、冷戦時代は、社会主義体制と資本主
義体制の二つの体制の対抗の時代であった。体制間対抗の力が世界
をデフォルメしてきた。しかし 1989 年の東欧革命と 1991 年のソ
連邦崩壊をもって、その時代は終わった。ある人は、1991 年の湾
岸戦争以降をアメリカ一国覇権の時代とみ、またある人はその後の
展開を見据えて米中新冷戦時代と論じる。しかし冷戦終結後 30 年
が過ぎた。 2020年の今、新しい時代〔本来の21世紀社会主義〕の
始まり、「夜明け前」として、この時代30年を位置づけ直すこと
はできないのだろうか。
「20 世紀社会主義」ではない、いわば〔21 世紀社会主義社会〕の
「夜明け前」、ポストではないプレ〔21 世紀社会主義〕期と位置
づけることはできないのであろうか。
 この 30 年はどんな時代だったのか。それを一言でいえば「ヒ
ト・モノ・カネ」が,国境を軽々と越えて往来するグローバリゼ
ーションの時代だ,と言えよう。19 世紀末,太平洋をまたいで旧
世界=欧州と新世界アメリカをつないだものは,汽船と電信であ
った。これになぞらえれば,現代のそれは,さしずめ航空機とイ
ンターネットであろう。
 情報=通信革命をつうじて生み出されたインターネットは,企
業活動はもちろん人々の生活に欠くことのできない社会インフラ
となり,「ヒト・モノ・カネ」が国境を軽々と越えて行き来する
グローバリゼーションの基盤となった。資本主義社会を旧世界に
してしまう「Net新世界」が始まり広がっている。インターネッ
トの編成原理〔分散=共有=公開〕が、20 世紀の〔集中=私有
=独占〕を機能不全にし〔21 世紀社会主義社会〕を切り開き
つつある。

(2)インターネットの歴史と編成原理インターネットの編成原理
は、〔分散=共有=公開〕である。そもそもインターネットは、
ソ連のミサイル核攻撃から北米大陸を防御する防空システムの通
信網構築にルーツを持っている。しかしそのインターネットは、
大学間のコンピュータ・ネットワーク形成と並行して研究開発が
進められ、さらに資本・企業によってではなく、草の根の人々の
協同によって作り上げられていった。
 インターネットは特定の誰かが開発したのではなく、数多くの
人々の協力によって作り上げられたのである。インターネットの
特性である〔分散=共有=公開〕が、生まれた。インターネット
に必要なソフト・ウェアは、例えば UNIX にしてもその後継の
LINUX にしても多くの人が関わりフリーソフトになったがゆえに
、世界標準となった。21 歳のリヌス・卜―ルヴァルド(Linus
Torvalds)が 1990 年に LINUX のソースコードをインターネッ
トに載せ、だれもが自由にダウンロードすることを可能にした。
トールヴァルドが利用者に求めたのはコ メントだけだった。プ
ログラムとソースコードはすべての人に無料で提供され、自由
にプログラムを修正でき利用できたのである。2019 年 11 月
現在、世界最速のスーパーコンピュータ 500 台  は、すべて
が Linux 上で動いている。この〔分散=共有=公開〕という編
成原理は、アルファベットや漢字などの文字の生成過程と機能に
似ている。文字は公しる共性をもち、書き記すことによって個人
を社会的に確認させる。誰の発明でもない。

(3)インターネットへの対応――国家・資本による取り込み

(3-1)対応その1:アメリカ
インターネットを制する者は、世界を制する。当然、国家・企業も
民衆もこれを取り込もうとしている。前者は利益の最大化を、後者
は運動を地球規模で組織していく。国家・企業 VS 民衆の対抗の中
でネット社会が形成されてゆく。1990 年代初頭からそうした動き
が盛んになり、ハッキリしてきた。国家・企業の側ではアメリカの
クリントン政権の下でのゴア構想がそれだが、全米を高速なコンピ
ュータ・ネットワークで結び付け、アメリカの復活と成長を促そう
とした。
 アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)を中心として軍民両用技
術によって軍産学複合体の際限なき増強循環を軌道に乗せようとし
ている。インターネットの企業・国家による取り込みは金融と情
報通信へのラッシュとなり,ニューエコノミーなどと評された情
報産業を牽引車とし1990 年代半ばからのアメリカの成長がもたら
された。
 さらに住宅バブルを牽引車とした金融による 2000 年代前半の成
長があった。だが前者は IT バブル、後者はリーマン・ショックと
なって崩壊した。そして今は、異次元緩和による株価バブルでしの
いでいる。産業の空洞化は止まらず中間・ホワイトカラー層の没
落と若者の貧困が,格差を広げている。

(3-2)対応その2:ドイツ製造業
だが,資本・国家のインターネットへの対応・取り込みは「カネ」
の面だけではない。あらゆる「モノ」がネットにつながるインター
ネット(Internet of Things:IoT)は、情報交換することにより
「モノ」づくりを相互に制御する仕組みである。ドイツ政府が 20
11 年に「インダストリー4.0」構想として打ち出した。消費者のニ
ーズ細かく吸い上げ,機械制大工業の「多品種大量生産」=「大
量消費」ではなく,多品種少量生産を効率よく目指そうというもの
である。その構想のコンセプトは「工場のつながる化」だという。
フォルクスワーゲン社では,製造工程に RFID(Radio Frequency Identifier:無線タグ)を取り付け,組み立て工程の完全自動化
=「省力化」めざし,人手に頼ることない製造ラインの構築をめ
ざしている。また RFID の「通し番号」により生産に関する情報
をインターネット上で一元管理し,タグを検索すればどのような
製造工程を経て、サプライヤーや輸送、販売などが,すぐにわか
るようなシステムを構築した,という。2015 年には中国政府も
「中国製造 2025」を打ち出した。

(4)インターネットへの対応――民衆の対応と取り込み
インターネットの国家・企業による取り込みは、民衆の側にも前段
(3)で述べたような強烈な副作用をもたらした。インターネット
は、人・モノ・金が楽々と国境を超えるグローバリゼーションを
加速化させた。この 30 年のグローバリゼーションの過程は、同時
に格差拡大の 30 年でもあった。製造業のなどの実体経済の空洞化
は、アメリカのラストベルトを生み出し、各国製造業は海外依存を
加速させ、国内産業=雇用の空洞化を生み出した。その結果、アメ
リカが典型だが、金融・情報通信の 1%の億万長者と 99%の貧困
層を生み出した。この強烈な格差は、もっとも強い痛み=主要矛盾
となって表れ、90 年代以降の民衆の国際的統一行動を組織した
。92 年リオ・アースサミット・99 年シアトルWTO総会反対デモは、
世界社会フォーラムを組織し、反グローバリズム運動は今日も続い
ている。資本対賃労働にまつわる痛みは、副次矛盾となり、労働運
動は脇に追いやられる格好になった。
 グローバリゼーションは、労働運動自体に深刻な打撃を与えた。
国民経済という揺(ゆり)籠(かご)の中で,資本・企業は労働組合の
賃金や労働条件改善の要求に応えることは、労働生産性向上と消費
需要拡大を実現し,労働者を資本・企業に取り込む一石二鳥の策と
もいえた。しかし「ヒト・モノ・カネ」が自由に国境を超えるグロ
ーバリゼーションは,このような努力を無用なものにした。労賃コ
ストの上昇は,生産の海外移転を招き,国内の産業空洞化を招いた
。このように資本・企業の側の経営戦略選択の幅が広がり,労働者
側,とくに労働組合の戦略的立場を危ういものにした。労働組合は、
既得権 にしがみつく利己的な集団とみなされことも少なくない。
とりわけ非正規労働者を初めとした雇用の多様化は,社会の底辺の
者たちとの距離を広げ,労働組合への不信が蔓延した。1979 年サ
ッチャー政権の誕生は,この労働組合への不満と批判にあったこと
は、よく知られている。「リフ・ラフ――最下層の人々」(1991
年)や石が降るほどの貧困を描いた「レイニング・ストーンズ」
(1994 年)と敗北に終わる炭鉱労働組合の闘争を描いた「ブラス
」(1996 年)は,そうした状況を反映したイギリスを描いている。
 2011 年には〈ウォール街を占拠せよ〉〈We are 99%〉を叫びな
がらオキュパイ・ムーブメントがおこり、全米各都市からロンドン
,ローマ,ブリュッセルなど 100 ヵ国以上に運動は広がった。20
19 年にはスウェーデンの 16 歳の高校生が呼びかけた温暖化への
抗議は、SNS を通じて100 カ国以上に広がった。この一方で、本
流のいわばメダルの裏側に、グローバル化への反発や不満などが、
既存秩序の外で周辺化された人々の間に、ポピュリスト的エネル
ギーとなってたまり、噴出している。ブグレジット(英国の EU
離脱)や外国人労働者の排斥、自国第一主義を掲げるトランプ大統
領の登場などがそれである。
 民衆の国際的統一行動・反グローバリズムの本流は、"Global
Justice Movement"、とくにフランスでは「もう一つの世界を志向
する人たち」という意味で"Altermondialiste"という新しい社会へ
の運動も生み出している。イエズス会は 2015 年文書「グローバル
経済における正義~持続可能で、誰も排除されない社会をつくるた
めに」  を発出した。その中で世界経済の格差を指摘し、「公正
な貢献」(contributivejustice)と「公正な分配」
(distributive justice)を主張している。
 また「ブランドなんか、いらない」で一躍、反グローバリゼーシ
ョンの旗手となったナオミ・クラインは、『資本主義 VS. 気候変動
、これがすべてを変える』で、「戦う相手は資本主義だ」と主張し
ている。2020 年米大統領民主党予備選挙で、若者は民主社会
主義者・サンダースを支持し、「約 70%が『社会主義者』に投票
したい!」と、言っている。20 世紀社会主義の「しがらみ」から
解放され、「社会主義」の新しい形での「復権」が起こっている。

(5)インターネットから見る〔21 世紀社会主義〕への展望アント
ニオ・ネグリとマイケル・ハートは著書『帝国~グローバル化の
世界秩序とマルチチュードの可能性』で、グローバル時代の民主
主義の在り方を、世に問いかけた。それは、「絶対的民主主義」
である、と。今から 30年も前の 1990 年のことである。ネグリ
とハートは、ネットワーク社会においては、多様な価値観や利
益の違いをもつマルチチュード=群衆・大衆が、差異を認めあい
ながら共に働き、自らが自らを統治する、と。そしてそういう社
会の政治形態を「絶対的民主主義」社会としたのである。今、そ
うした社会編成の原理が、だれの目にもはっきりと見えるように
なってきてはいないか。インターネットの編成原理〔分散=共有
=公開〕は、社会の編成原理の本質的要素、真髄である。その社
会とは「共同の生産手段で労働し、自分たちのたくさんの個人的
労働力を自分で意識して、一つの社会的労働力として支出する自
由な人々の結合体」(『資本論・第 1 巻』105 頁、大月書店)
社会である。資本主義の〔集中=私有=独占〕のアンチテーゼと
しての〔20 世紀社会主義(物動)計画と公有〕を止揚する〔分
散=共有=公開〕を編成原理とした〔21世紀社会主義〕、その
可能性が見えてこないか。

■天皇代替わりと戦後日本(2020年2月7日)
  人気アイドル・グループ「嵐」が、令和元(2019)年11月9
日、皇居前広場で行われる「天皇陛下の御即位をお祝いする国
民祭典」で、パフォーマンスを披露する,という。メンバーの一
人は「おれたちでいいの、活動休止することはご存じだよね」
と驚いた、「嵐」といえばジャニーズ事務所所属のアイドル・
グループであるが、そのジャニーズ事務所オーナーで芸能プロ
モーター、音楽プロデューサーのジャニー喜多川が、今(2019
)年7月に亡くなった。
 ジャニー喜多川は、1931年ロサンゼルス生まれ、太平洋戦争
中は、日本に送還され家族と共に日本に在住した。敗戦後の19
47年に再渡米し、高校・大学生活を送りながら、ステージ・マ
ネージメントなどの仕事をし、アメリカのエンターテインメン
トを体験し身に着けていった。1952(昭和27)年に再来日し、
アメリカ合衆国大使館に勤務していたので、その間「ワシント
ンハイツ」に住んでいた。その時に中学生らに、ワシントンハ
イツ内の野球場で、少年たちに野球を教えていた。ある日ミュ
ージカル映画「ウエスト・サイドストーリー」を見てすっかり
魅せられた4人は、「俺たちもやってみたい」 と言い出したと
いう。少年野球団の名前をそのまま残した「ジヤニーズ」で、
ジャニー喜多川は、4人を「歌って踊れるアイドル」として、
芸能界にデビューさせたのである
。デビューは、1962年NHKの『夢であいましょう』のバックダ
ンサーだった。その時、あおい輝彦は代々木中学の1年生であっ
た。ジャニー喜多川は、1980年代以降、「たのきんトリオ」・
「フォーリーブス」・「光GENJI」・「SMAP」・「嵐」・「ジ
ャニーズWEST」と、次々に男性アイドル・グループを芸能界
に送り出し、ヒットさせていった。
  戦後、音楽・芸能界の草分けたちは、米軍キャンプでジ
ャズやブルースなどを演奏したり歌ったりした人たちが多かっ
た。ジャニー喜多川は、日系二世として再渡米中の4年間に、
アメリカンスタイルの音楽のエンターテインメントを体験し、
早くから日本に移入・移植できた人であった。先ほどジャニ
ーズのメンバーが「ウエスト・サイドストーリー」にすっか
り魅せられた、と述べたが、ジャニー喜多川は、このミュー
ジカルにヒントを得て、「歌って踊れる少年たち」育て、芸
能界に送り出し続けたのである。ジャニーズに限らず、それ
以降歴代のグループもそのスタイルを踏襲している。音楽評
論家の湯浅学は「ジャニーさんは黒人音楽をかなり早くから
取り入れていた。ジャニーズの歌い手であるためには、リズ
ム&ブルースの素養と、歌って踊れることが最低限の条件だ
った」と話す。
 ジャニーズがデビューする4年前の1958年、マイケル・ジャ
クソンがデビューしていた。モータウン・レコードの黒人ボ
ーカル・グループ、ジャクソン家の兄弟で構成された5人組、
ジャクソン・ファイブは、末弟マイケルの天才的な歌唱力と
ダンス・パフォーマンスによって一躍人気を得ていった。そ
の時マイケル・ジャクソンは、11歳だった、という。それは、
コンサートでもオペラでもミュージカルでもない、これまで
とは違うジャンルの「エンターテインメント」だったのであ
る。エンターテインメントとは、人々を楽しませる娯楽を指
し、類語は、楽しみ・気分転換・気晴らし・遊び・息抜き、
などである。それは、サラダボウル・アメリカのアメリカ
文化であり、「エンターテインメント」こそ、日本人に教え
るべきアメリカ文化だったのである。アメリカの濃い影を
感ずる。戦後日本社会をドームのようにすっぽりと覆い,
「戦後日本の復興と繁栄はアメリカのおかげ」は、信仰・
権威となった。ジャニーズは、皇居前広場で行われる「天
皇陛下の御即位をお祝いする国民祭典」で、パフォーマン
スは、戦後日本を覆っている権威=権力であるアメリ
カ=象徴天皇制のそれであろう。令和の時代が始まる。  



ポスト冷戦時代と世紀末大不況(2018/07/04)
  

 
20世紀末から今に至る長期不況・停滞は,ちょうど19世紀
末不況に重なってくる。詩人ハイネは,大陸欧州の鉄道網を
時間と空間の抹殺と評した。19世紀の後半になると,運輸・
交通革命の進展によって,アメリカやロシア,インドから大
量の農産物が,ヨーロッパ農産物市場へ入って来るように
なった。とくに新大陸アメリカでは,19世紀後半から様々
な農業機械が農作業に投入され,農業の生産性が高まった。
地代がないかあるいは非常に低いために,アメリカからの
安価な大量の農産物流入は,ヨーロッパ市場の農産物過剰
を生じさせ農産物価格を低落させた。19世紀末ヨーロッパ
を中心とした長期農業恐慌である。農産物の「価格破壊」
「価値革命」である。
 これと同時にアメリカではヨーロッパと全く違った工業製
品の生産システム(フォーディズムとテーラーシステム)が
生まれ,工業製品の価格破壊も同時に起きた。これに類似し
た現象が20世紀末から21世紀初頭にかけて起きている。半導
体部品の性能1万倍,価格1万分の1に象徴される価格性能比
の「革命」である。今や,それは商品生産の機械化,省力化
,自動化を超えて,デジタル化,ソフト化,IoT(Internet
of Things)化、AI(artificial intelligence)化と進化し
てきている。そのスピードゆえに独占がきかない。いや,
スピードだけはない。デジタル化,ソフト化,IoTやAIとい
った技術が,いまや生産を決定する。その編成原理が独占を
許さない。
 このことはインターネットの生成史が教えてくれる。その
歴史において驚くべきことは,インターネット・プロトコル
(TCP/IP)の生みの親であるV・サーフやR・カーン,WWWの
開発者でWebの父と呼ばれたT・B・リー、ハイパーテキスト
を考案したT・ネルソンなど,インターネットの開発者たち
は,仕様を公開し誰一人として権利(特許)を主張しなか
った。多くのネットワーク関係者が共通認識をもち,一緒
に研究開発を進めなければ,自身の研究も全体の研究も進ま
ない,と認識していたからでる。編成原理は分散=共有であ
り,独占はできないし無意味である。
 この編成原理が,編成原理が日本から始まりNICsを巻き込
み,今や「世界の工場」となった中国の工業製品の「価格破
壊」「価値革命」が,アメリカをはじめとした先進国地域の
長期停滞・不況を引き起こしている。世界は,20世紀末長期
不況の真っただ中にいる。19世紀末から20世紀初頭にかけて
資本主義は自由競争段階から独占段階に遷移した。しかし,
その時代は平和には程遠い,帝国主義・冷戦帝国主義=社
会主義による熱戦と冷戦の時代だった。21世紀初頭の今,
資本主義は,自己変革し新しいステージに立てるのだろうか。


■コインについてもっと考える 
その2:コインチェック騒動始末記  2018年3月17日

 ビットコインは,結局カジノのチップみたいなものです。
カジノの客は,現金でチップを買ってカジノでバクチをしま
す。チップ自体はカジノの中で掛け金として使えるだけで,
それ以外で使えるわけでもなく,何の価値も持ちません。そ
こでの賭けによって大儲けができる人もいれば大損する人
も出ます。損=得イコールです。損得がかけによって「合
理的に清算される」ので胴元を信用しているのです。胴元は
チップを客が買う時に,運営費や利益を指しい引いて交換し
ています。競馬の場合は25%程度が運営費や利益として差し
引かれています。競馬や競輪などは国や市が胴元ですよね。
個人がカジノを開設・運営すると罰せられます。
  ではビットコインをなぜ信用されるのでしょうか。ビ
ットコインがアルゴリズム,数式で運営されているので,
ビットコインの購入者は信用しているのです。 ビット・
コインは,1台のコンビューターが全てのデータを記録・
管理する「中央集権型台帳」ではなく,「分散型台帳技
術」(「P2P」)とも呼ばれる技術で結合されているそう
です。そして「それぞれのブロックは暗号化された技術
で鍵がかけられており,書き換えることができ」ないそ
うです。その鍵(カギ)を解いて新しいブロックを作った
人は採掘人と呼ばれ,「ビット・コイン」をご褒美として
入手できるようです。こうしてブロックは世界中の同意す
る参加者のコンピュータにつながり,特定の一人(国・
中央銀行)でなく,参加者による分散管理,いわば「万人
(参加意思のある)による管理ができる。こうして信頼
の理屈がうまれ,信任を得ることができる,,というわ
けです。そのカギが,数式(Hash),アルゴリズムです。
 信頼の鍵が数式だという問題です。 アメリカ特許法
たぶん日本でも)では,数式,アルゴリズムには特許が
発生しません。独占できない。たしかに,インターネッ
ト生成史において,驚くべきことは,インターネット・
プロトコル(TCP/IP)の生みの親であるV・サーフやR・カ
ーン,WWWの開発者でWebの父と呼ばれたT・B・リー、ハイ
パーテキストを考案したT・ネルソンなど,インターネット
の開発者たちは,仕様を公開し誰一人として権利(特許)
を主張しなかった,そうです。多くのネットワーク関係者
が共通認識をもち,一緒に研究開発を進めなければ,自身
の研究も全体の研究も進まない,と認識していたからです
。編成原理は分散=共有であり,独占はできないというこ
とです。ビットコインも分散=共有原理を体現している,
かのようです。ビットコイン参加者は,数式アルゴリズム
の美しさを信用しているのです。だがそれは部分です。
 問題は運営です。運営は独占=占有で,分散=共有では
ありません。
例えば昨2017年5月10日午前11時46分にシステム障害が発
生した際,コインチェックはその障害で発生した不利な取
引(ビットコインの暴騰)を帳消(発生時以前にロールバ
ック=戻した)にしました。法定通貨にとってかわること
はないでしょう。運営が共有=分散されていないから
です。 数式・アルゴリズムは,現代の「釈迦如来像」
か「聖体顕示台」かも知れません。数式・アルゴリズム
信仰はビット世界の信仰の対象かもしれません。ですが,
私たちは,アトムの世界・物質の世界で生きています。


ビット・コインについて考える:コインチェック騒動  
            2018年1月24日
 ビット・コインは,1台のコンビューターが全てのデ
ータを記録・管理する「中央集権型台帳」ではなく,
「分散型台帳技術」(「P2P」)とも呼ばれる技術で結
合されているそうです。そして「それぞれのブロックは
暗号化された技術で鍵がかけられており,書き換えるこ
とができ」ないそうです。そこで「腑に落ちた」事は,
以下のことです。その鍵(カギ)を解いて新しいブロッ
クを作った人は採掘人と呼ばれ,「ビット・コイン」を
ご褒美として入手できるようです。こうしてブロックは
世界中の同意する参加者のコンピュータにつながり,特
定の一人(国・中央銀行)でなく,参加者による分散管
理,いわば「万人(参加意思のある)による管理ができ
るという理屈」がうまれ,信任を得ることができる。
そのカギが,数式(Hash)というわけです。では現行の
ビットコインはどのように使われているのでしょうか。
 ビット・コイン送金では,手数料が安くメリットがあ
るとか,代金決済にも利用されているようです。例えば
音楽配信サービスの決済とアーティストへの料金配分・
送金に利用し,著作権協会の中間マージンを節約できて
いる事例もあるようです。しかし円やドルなどの法定通
貨に交換する時,「交換レート」の変動があります。
 本題に戻りますが,先ほど信頼の鍵が数式だ,と言い
ました。この問題です。 アメリカ特許法(たぶん日本
でも)では,数式,アルゴリズムには特許が発生しませ
ん。インターネット生成史において,驚くべきことは,
インターネット・プロトコル(TCP/IP)の生みの親であ
るV・サーフやR・カーン,インターネットを構成するWWW
の開発者でWebの父と呼ばれたT・B・リー、ハイパーテキ
ストを考案したT・ネルソンなど,インターネットの開発
者たちは,仕様を公開し誰一人として権利(特許)を主
張しなかった,そうです。なぜなら,これらの人々は、
多くの関係者が新しい提案をインターネット上に公開し,
問題点や解決策等を議論し,相互に批判・検討し合うこ
とがインターネットの拡大・発展には必要不可欠である,
と分かっていたからです。多くのネットワーク関係者が
共通認識をもち,一緒に研究開発を進めなければ,自身
の研究も全体の研究も進まない,と認識していたからで
す。編成原理は分散=共有であり,独占はできないとい
うことです。ビットコインも分散=共有原理を体現して
いる,と言えるでしょう。だがそれは部分です。
 問題は運営です。運営は独占=占有で,分散=共有で
はありません。
例えば昨2017年5月10日午前11時46分にシステム障害
発生した際,コインチェックはその障害で発生した不利
な取引(ビットコインの暴騰)を帳消(発生時以前にロー
ルバック=戻した)にしました。とうてい「通貨の番人」
にはなれません。決済機能としての発展はあるかもしれ
ませんが,法定通貨にとってかわることはないでしょう。
運営が共有=分散されていないからです。
  ビットコイン限らず,この共有=分散という編成原
理は,現在進行形で,多方面にわたっています。製造業
の現場でも人間の労働がなくなってきています。今では
AI(Artificial Intelligence)=人工知能=コンピュ
ータによる知的な情報処理が,モノづくりでもコストダ
ウンの要だそうです。直接的な人間労働がどんどんなく
なっています。欧州ではそれによって生ずるワーキング
・プアーの問題に対して,ベーシック・インカムをどう
するかが議論され始めています。日本では,それは個人
責任とされ,更なる労働条件・賃金の劣化が押し付けら
れようとしています。「裁量労働制」として。










 




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