新刊案内:卒業生の著書の紹介

山本直樹著 "Dialectics without Synthesis:Japanese Film Theory and Realism in a Global Frame University of California Press"

2020年8月25日発売
水声社
$85.00(ハードカバー版)/$34.95(ペーパーバック版)
ISBN: 9780520351806

本書が目指すのは、映画・メディア研究においてこれまで蔑ろにされてきた日本の映画理論の系譜を、リアリズムという概念を中心に辿ってゆくことである。ここでは文学、演劇、前衛芸術、プロレタリア運動、マルクス主義批評、美学、哲学などの諸分野と映画批評との活発な交流に焦点を当てながら、いかに日本の映画言説が、20世紀の前半において発展を見せた「古典的映画理論」の国際化に寄与したかを明らかにする。だが本書の目的は、単に日本にも優れた映画理論が存在したことを強調することには留まらない。

もし日本あるいは非西洋の批評言説が、これまで映画理論として評価されてこなかったのとすれば、そこで参照されてきた「理論」という概念の枠組み自体を再考する必要があるからだ。ゆえに本書では、いわゆる学問的な体裁を持つ論文だけでなく、映画批評、座談会、マニフェスト、政策提言など様々な言説のタイプに見られる「理論的なもの」の萌芽を主題に据えることで、いかに映画という新しいメディウムが、アカデミーに囚われた既存の「知の形成」のあり方それ自体を変化させていったかを確認する。同様に本書では「リアリズム」という用語が、ロング・テイク同時録音のように、既存の研究言説において既に登記されたスタイルの集積としてではなく、映画によって媒介される「20世紀近代」という歴史的現実の経験を分節することを目指した、多種多様で錯綜した議論を指し示すものとして扱われる。つまり本書が目指すのは、単一の中心を持つジンテーゼを成立させようとする従来の方法論に抗いながら、「西洋」と「東洋」、「近代」と「前近代」、「主体」と「客体」、「リアリズム」と「モダニズム」、「観念論」と「唯物論」のように違いに反発しあう異質の立場が、文字通りの自己矛盾として共存せざるをえない状況として、日本の映画理論史を描き出してゆく作業である。

山本直樹:芸術学科映像芸術学系列卒。大学院文学研究科博士前期課程修了。イエール大学博士後期課程修了。博士(映画学)。
現在、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、Film and Media Studiesの准教授。