国際学部専任講師
井手上 和代 (Kazuyo Ideue)
スワヒリ語で「鋭い陽射し」の意味を持つ「Jua Kali(ジュア・カリ)」は、赤道直下の突き刺さるような太陽の下で、インフォーマルに生産活動を行う小規模零細職人のことを指します。私は、ケニアの首都ナイロビで金属加工のものづくりに励むジュア・カリの生産形態と資金調達について研究を行っています。
特に、アフリカは人口密度が低く、地理的・物理的な要因から銀行支店網が拡大せず、取引コストも高いため、金融サービスが広範に浸透しにくい地域と言われてきました。こうした信用に制約がある環境はジュア・カリのような低所得者層にとって生産活動の大きな足枷となっていました。しかし、近年のICTの進展により、アフリカでも携帯電話をプラットフォームとするさまざまなサービスが登場するようになりました。中でも、モバイル・マネーの急速な普及は人々の生活を大きく変えつつあり、ケニアでは人口の7割以上がモバイル・マネーを使用していると言われています。銀行口座を持たず、既存の金融サービスから除外されてきた人々が、携帯電話を通じて送金のほか預金や融資などの金融取引を行えるようになったのです。
新しい金融の進展によって、ジュア・カリたちの生産形態やそれを支える資金調達にどのような変化があるのでしょうか? 企業家精神に富んだジュア・カリのものづくりは創意工夫に富んでいて、現地を訪れるたびに驚きと発見があります。その一方で、規定の枠組みで分析しようとすると大事なことを取りこぼしてしまうという難しさもあります。こうした驚きと発見、難しさが研究を続ける原動力となります。
フィールドワークの現場にて
心理学部専任講師
萩野谷 俊平 (Shumpei Haginoya)
以下は、正直に真実を話す被疑者の取調べの一場面です。
取調官「事件があった○月×日のことを教えてください。」
被疑者「たしか出かけていたと思います。」
取調官「その日にあなたが△△図書館へ行ったという情報があるのですが、何か思い出しますか。」
被疑者「図書館に行きました。その後スーパーにも寄りましたよ。」
この被疑者は、事件当日の行動を、自分から話してくれました。今度は、犯罪を隠そうとしている被疑者の取調べを見てみましょう。
取調官「事件があった○月×日のことを教えてください。」
被疑者「家にずっといましたね。」
取調官「その日にあなたが△△図書館へ行ったという情報があるのですが、何か思い出しますか。」
被疑者「いや、行ってない。勘違いじゃないですか。」
取調官「あなたと思われる人が、図書館の中の防犯カメラに映っているんですが。」
被疑者「えーっとそれは…。」
これはあくまで一例ですが、犯罪を隠そうとする被疑者は、自分が経験したことをそのまま話すと犯罪がばれてしまうし、事実とまったく違うことを言えばこの例のように証拠と矛盾する発言をしてしまうかもしれないというジレンマの中で、自分からは新しい情報を話さないようにする傾向が見られます。
こうした両者の違いを利用して、被疑者が嘘をついて何かを隠そうとしているかを調べる取調べ技術が開発されています。そして私の研究では、その技術を訓練する方法を開発しようとしています。
開発中の訓練では、パソコンの画面上に現れるアバターに取調べをしてもらいます。アバターは上記の被疑者の特徴を備えており、実際の取調べに近い環境で、真実を語る者と犯罪を隠そうとする者を識別する手がかりを得る方法を学びます。
こうした科学的な知識に根ざした技術の訓練を提供することで、冤罪を無くし真犯人も見逃さない取り組みの一助になることを目指しています。
アバターによる訓練のイメージ図
経済学部教授
児玉 直美 (Naomi Kodama)
次の場面を想像してください。
近年の日本は経済成長率が低く、開廃業率が低く、経営者も高齢化しています。一方で、1960年代、70年代には経済成長率が高く、開廃業率も高く、経営者は若かった。また、米国は日本に比べると経済成長率が高く、開廃業率も高く、経営者も平均的には若い。これは単なる偶然なのでしょうか。
企業は、企業運営の多くを、経営者の経営能力や意欲に依存しており、経営者の能力や属性は企業の業績や存続に大きな影響を与えます。また、日本は、世界でも類を見ないほどの高齢化に直面しています。経営者は、人口の高齢化以上に高齢化が進んでいます(図参照)。
経営者の質は企業業績に大きな影響を与えます。高齢化は、経験の蓄積によって経営の質を高め、生産性を高める可能性もありますが、若い経営者の方がアイデアや創造性が高ければ生産性を低下させる可能性もあります。本研究では、ミクロデータを使って、経営者の質的な変化が企業ダイナミクスに及ぼす影響について検証し、背後のメカニズムを解明することを目指しています。日本の経験は、日本だけでなく、これから高齢化が進む多くの国にも示唆を与えるでしょう。
2006-2015年
左:日本の人口分布変化(国勢調査)
右:経営者の年齢構成変化(東京商工リサーチデータ)
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
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杉田 由仁 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | AIを活用した英文ライティング自動評価採点システムの開発 |
中西 公子 | 教授 | 2,700,000 | 基盤研究(C) | 度量句が関わる計量の意味的制約:構成性の原理の解明に向けて |
平岩 健 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 自然言語における不定語システムの統語メカニズムの記述的・理論的研究 |
BEAUVIEUX Marie | 准教授 | 1,800,000 | 若手研究 | 日本のアフォリズム文学の誕生・比較文学の観点から |
本多 まりえ | 准教授 | 2,800,000 | 基盤研究(C) | 初期近代英国演劇における動物表象と社会状況に関する研究 |
板橋 雅則 | 講師 | 1,500,000 | 若手研究 | 学校教育全体を通した道徳教育実践プログラムに関する実践史的研究 |
ク ミナ | 研究員 | 2,400,000 | 若手研究 | 犯罪映画の快楽:大衆娯楽映画としての戦後犯罪映画の製作と鑑賞に関する総合的研究 |
平澤 剛 | 研究員 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 日本実験映画を対象としたアーカイブとフィルム・キュレーションの学術的考察 |
宮本 裕子 | 研究員 | 3,500,000 | 若手研究 | アニメーション産業確立期の「ニューヨーク派」スタイルとその成立過程に関する研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
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大石 尊之 | 教授 | 3,400,000 | 基盤研究(C) | 反双対性による協力ゲーム理論の戦略的基礎付けとマッチング労働市場への応用 |
大野 弘明 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 経済発展における金融システムの移行過程に関する動学的分析 |
北浦 貴士 | 教授 | 2,200,000 | 基盤研究(C) | 企業勃興期における発起人の特徴とその役割 |
神門 善久 | 教授 | 3,100,000 | 基盤研究(C) | 近現代フィリピンの人的・物的資本形成の数量経済史 |
児玉 直美 | 教授 | 13,300,000 | 基盤研究(B) | 経済成長と経営者属性 |
小林 正人 | 教授 | 2,700,000 | 基盤研究(C) | 相関反転可能で非対称なsplit-normalコピュラと金融危機・バブルの分析 |
齋藤 隆志 | 教授 | 3,100,000 | 基盤研究(C) | 労使コミュニケーションが人事制度改革の実施・成果に与える影響 |
佐々木 百合 | 教授 | 2,100,000 | 基盤研究(C) | 国際銀行規制の問題点と邦銀への影響 -自己資本比率規制の理論実証分析- |
中野 聡子 | 教授 | 2,700,000 | 基盤研究(C) | 限界革命期のエッジワースの契約モデルの現代的意義 |
中村 友哉 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 不確実性下の戦略的状況における先行者利益と社会厚生に関する研究 |
犬飼 佳吾 | 准教授 | 11,200,000 | 学術変革領域研究(B) | デジタル身体性経済学の創成 |
犬飼 佳吾 | 准教授 | 36,400,000 | 学術変革領域研究(B) | 大規模行動実験と生態学的ライフログ研究によるデジタル身体性経済学のモデル化 |
岡本 実哲 | 准教授 | 3,200,000 | 若手研究 | 私的情報保護のメカニズムデザイン |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
---|---|---|---|---|
明石 留美子 | 教授 | 3,100,000 | 基盤研究(C) | 母親の就労と子ども:母親の養育役割認識と就労の子どもへの影響 |
石原 俊 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 南方離島からの戦時疎開離散者の戦後生活とその共同性:比較歴史社会学的基礎調査 |
石原 英樹 | 教授 | 2,600,000 | 基盤研究(C) | 性的マイノリティをめぐる寛容性と不可視性―社会意識と居場所の社会学的考察 |
金子 充 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 過疎地域における若年貧困層の生活保障とコミュニティ形成の理論と実践方法の探究 |
武川 正吾 | 教授 | 3,000,000 | 基盤研究(C) | Covid-19感染拡大による福祉意識の変容:時系列分析と国際比較 |
柘植 あづみ | 教授 | 4,100,000 | 基盤研究(B) | 生殖医療技術の利用における選択―新しい技術の受容・拒否・躊躇 |
野沢 慎司 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | ステップファミリーの複雑性・多様性と子どもの福祉に関する調査研究 |
元森 絵里子 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 子どもの能動性の社会学的再考:教育・福祉・まちづくりの言説史と事例研究から |
米澤 旦 | 教授 | 2,600,000 | 若手研究 | 労働統合型社会的企業の就労環境に関する新制度派組織論的視点からの基礎的研究 |
榊原 美樹 | 准教授 | 10,800,000 | 基盤研究(B) | 地域福祉計画の策定・実施・改定を促進する複合的評価システムの開発に関する研究 |
仲 修平 | 准教授 | 3,100,000 | 若手研究 | 自営的な就労経験者の職業移動に関する社会学的研究 |
宮﨑 理 | 准教授 | 3,200,000 | 若手研究 | 当事者の経験が反抑圧ソーシャルワークの推進に与える示唆:在日朝鮮人女性を例として |
上杉 妙子 | 研究員 | 2,700,000 | 基盤研究(C) | 多民族国家の民軍関係に関する人類学的研究― インド陸軍ゴルカ兵を事例としてー |
北川 清一 | 研究員 | 5,900,000 | 基盤研究(B) | わが国における制度化未満対応としての家族ソーシャルワーク展開可能性を探る事例研究 |
古波藏 契 | 研究員 | 2,600,000 | 若手研究 | 「沖縄的紐帯」の歴史学的研究:米国統治下沖縄における人のつながりの形成と変容 |
菅野 摂子 | 研究員 | 8,400,000 | 基盤研究(B) | 医療実践としての人工妊娠中絶の新たなフレイム構築―出生前検査とのかかわりから |
保田 幸子 | 研究員 | 2,200,000 | 若手研究 | 医療資源の分配における公正性―通時的観点から |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
---|---|---|---|---|
池本 大輔 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | イギリスと経済通貨同盟: ブレグジットの歴史的起源 |
中谷 美穂 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 自治体レベルの意思決定過程に対する住民選好に関わる実証分析 |
小野木 尚 | 准教授 | 1,900,000 | 若手研究 | 擬似外国会社規制の理論的研究と立法論の展開 |
久保 浩樹 | 准教授 | 3,300,000 | 若手研究 | イデオロギー的分極化と政党内政治の国際比較 |
酒井 一博 | 准教授 | 2,500,000 | 基盤研究(C) | リサージェンスに基づく弦理論の非摂動効果の探究 |
高橋 正明 | 准教授 | 1,600,000 | 若手研究 | 契約の自由に関する憲法学的考察――契約法の現代的展開への対応 |
吉田 豊 | 助手 | 1,900,000 | 基盤研究(C) | 超対称局所化に基づくゲージ理論の幾何学的性質及び可積分構造の研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
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大川 玲子 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 改宗イスラーム教徒の聖典クルアーン解釈-現代西洋におけるその宗教認識- |
久保田 浩 | 教授 | 7,900,000 | 基盤研究(B) | 宗教理論の思想史的再検討を踏まえた現代的宗教思想研究の条件と可能性を巡る研究 |
坂本 隆幸 | 教授 | 2,800,000 | 基盤研究(C) | 先進諸国のシングルマザー、非正規労働者、雇用と所得の格差ー社会投資政策効果の検証 |
中田 瑞穂 | 教授 | 900,000 | 基盤研究(C) | 選挙プロフェッショナル政党概念の発展可能性―東中欧における政党機能の分析から |
浪岡 新太郎 | 教授 | 3,000,000 | 基盤研究(C) | フランスにおけるムスリムの市民権行使の条件:リベラルな市民権による排除と包摂 |
森 あおい | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | トニ・モリスンの他者表象を通して見る不寛容な時代の文学・文化研究 |
森本 泉 | 教授 | 13,100,000 | 基盤研究(B) | 移動・移民による地域像の再構築:ネパールを越えるネパール地域研究の試み |
井手上 和代 | 講師 | 1,900,000 | 若手研究 | アフリカにおける中小零細企業の資金調達と在来金融の変容 |
紺屋 あかり | 講師 | 3,300,000 | 若手研究 | 少数言語パラオ語のデジタルアーカイブをめぐるオーラリティ研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
---|---|---|---|---|
金沢 吉展 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | カウンセリング・心理療法の中断に関する研究 |
金城 光 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 高齢者における否定文の理解力と関連要因の解明:質問紙を活用した眼球運動測定実験 |
松嵜 洋子 | 教授 | 3,400,000 | 基盤研究(C) | 幼児初期の子どもの「身体活動に関わる保育環境尺度」の開発 |
足立 匡基 | 准教授 | 13,300,000 | 基盤研究(B) | 大規模前向きコホートデータを活用した科学的根拠に基づく子どもの自殺予防体制の構築 |
鞍馬 裕美 | 准教授 | 2,300,000 | 基盤研究(C) | 教員の復職支援に関する研究-精神疾患による病気休職者に焦点化して- |
佐藤 公 | 准教授 | 2,200,000 | 基盤研究(C) | 歴史教育における対外認識と自国認識の一体的な育成に関する日独比較研究 |
根本 淳子 | 准教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 学習設計のスキルを深めるための「学びほぐし」を取り入れた活動の提案 |
森本 浩志 | 准教授 | 3,100,000 | 基盤研究(C) | 認知症の人の家族介護者を対象とした集団CBT・ACTプログラムの効果 |
滑川 瑞穂 | 講師 | 2,200,000 | 若手研究 | うつのアセスメントツールとしてのワルテッグ描画テストの利用可能性 |
萩野谷 俊平 | 講師 | 2,400,000 | 研究活動スタート支援 | 取調べにおける欺瞞検出のアバターによる訓練法の確立 |
木村 優里 | 助教 | 3,600,000 | 若手研究 | 一般市民が科学実践に参入し継続できるための支援方法に関する基礎的研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
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猪瀬 浩平 | 教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | 雁皮/雁皮紙の人類学:人間と自然、市場、国家の多面的関係の探究 |
田中 祐介 | 講師 | 3,400,000 | 基盤研究(C) | 肉筆および活字資料の包括データベースに基づく近代日本の「日記文化」の発展的研究 |
西 香織 | 教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 多文化共生社会NIPPONを目指した「やさしい中国語」構築の試み |
杉崎 範英 | 准教授 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 負荷可変牽引装置を用いたスプリント走の力-速度関係の定量的評価に関する研究 |
鈴木 陽子 | 准教授 | 2,100,000 | 若手研究 | 使用基盤モデルによる子どもの語彙と構文知識の習得についての研究 |
野副 朋子 | 准教授 | 3,300,000 | 基盤研究(C) | ムギネ酸類及びニコチアナミンを介した植物の鉄欠乏シグナル感知機構の解明 |
吉岡 拓 | 准教授 | 3,400,000 | 基盤研究(C) | 明治~大正期民衆の天皇受容に関する研究 -御猟場を事例に- |
小泉 ユサ | 講師 | 1,100,000 | 若手研究 | 英語習得のためのコミュニケーション活動における日本語の使用についての研究 |
土屋 陽祐 | 助教 | 3,200,000 | 基盤研究(C) | 低負荷スロートレーニングによる血管内皮機能および骨格筋の適応メカニズムの解明 |
日高 知恵実 | 助教 | 3,300,000 | 若手研究 | 中国における官話方言の新たな受容・活用の実態解明に向けた包括的研究 |
氏名 | 職 | 決定金額(総額) | 研究種目 | 研究課題名 |
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村上 志保 | 研究員 | 2,900,000 | 若手研究 | 現代中国プロテスタント教会をめぐるグローバル化と政教関係の変化に関する研究 |