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「“自立”ってなんだろう?」貧困と障害の現場で

ボランティアコーディネーター 田中悠輝

2024年よりボランティアコーディネーターとなりました。約10年前に国際学部を卒業した明治学院大学の卒業生でもあります。大学卒業後は貧困や障害の分野で活動しています。また、主にドキュメンタリーを製作する映像作家でもあります。

在学中には東日本大震災があり、友人たちと学生団体をつくって学内外で活動していました。当時一緒に活動していた友人の紹介で、震災支援にも関わっておられた認定NPO法人抱樸(ほうぼく)の代表である奥田知志さんに出会いました。抱樸は長い間路上生活者の支援をしてきた団体です。抱樸の炊き出しとパトロールに参加し、現場を案内していただいている時に奥田さんから「野宿のおいちゃんたちは、おんなじ人間として街の中にいるのに見てみぬフリをされる。(そんな人たちの支援を)気づいた君がやらんかったら誰がやるんや?」と問われ、自分がやらねば!と貧困/生活困窮の世界に足を踏み入れました。そんな経緯で大学卒業後、北九州を拠点に活動する抱樸で働き始めました。

抱樸という団体はホームレス状態の人と出会って、自立支援をするNPO法人なのですが、「出会いから看取りまで」を謳っているだけあって、路上で出会ってから一緒に地域生活をつくり、本当に最後を看取るところまで、人の人生に関わる仕事でした。この頃から「“自立”ってなんだろう?」とよく考えるようになりました。働き始めてから実際に何人かの看取りもしました。中には居室で亡くなっているところを見つけることもありました。そんな日々の中で、写真や映像の記録をはじめました。きっかけはお花見の記録係をしたことでした。よく撮れたと思って写真を見せていると、ある人から「よく撮れてるやん、ありがとう。遺影にするわ」と言われたことがありました。その時には単純にうれしくて気をよくしていたのですが、よくよく思い出すと見送ってきた人たちのなかにはちゃんとした遺影がない人もおられたことを思い出し、冗談のように話してはいたけれど重要なことなのかもしれないと、意識してカメラを持つようになりました。

東京に戻ってからは、貧困問題をテーマに活動している認定NPO法人、自立生活サポートセンター・もやいという団体で働き始めました。「自立生活」という言葉はあまり聞きなれないかもしれません。「自立生活」とは元々障害者運動で使われ始めた言葉で、「重度の障害があっても、施設や親元ではなく地域で暮らすこと」を意味し、日常的に手助けを必要とする人であってもほかの人たちと同じように地域で暮らすことを目指す運動です。そのコンセプトは、障害の有無にかかわらず、すべての生きづらさを抱える人にとっても重要な意味を持っており、貧困/生活困窮の現場にも援用されてきました。

自分のことが自分でできるという身辺的自立や経済的な自立だけではない“自立”をめぐって、「自立生活」運動により深く関わりたいと思い、障害者の介助をはじめました。ほぼ同時期に映像作家の鎌仲ひとみさんが代表を務める映像制作の会社でも働くようになり、介助者として障害者運動に関わりながら、記録映画を撮影をするというプロジェクトが立ち上がりました。この映像プロジェクトは文化庁や障害当事者団体、クラウドファンディングのサポーターから支援を受け、長編ドキュメンタリー映画『インディペンデント・リビング』(自立生活)が2020年に完成し、渋谷ユーロスペースはじめ全国のミニシアターで公開されました。

映画を公開した2020年はCOVID-19が人々の生活に大きな影響を与えた1年でした。映画を公開して三週間目に緊急事態宣言を受けて劇場は休館となり、興行も大変な状況でしたが、他方で多くの仕事がストップする中で困窮する人も増え、支援現場も慌ただしくなりました。〈もやい〉が毎週土曜日に都庁前で行っている食糧配布・相談会でも、2020年以前には100名弱だった配食数が年々増加して、2024年現在は700名前後で高止まりしている状況になっています。相談会では、もとより不安定な非正規雇用の人たちだけでなく、平時であれば経済的に困ることがなかった人たちまで生活の基盤を失い、食糧配布や相談会に並ぶという事態になりました。感染症の拡大が収束しても、暮らしぶりがよくならないどころか以前よりも悪くなっていることを日々相談の現場に立って感じています。

この社会を変えるべく活動を続けていますが、その意味で映画をつくった後も「自立生活」運動から学ぶことが多く、現在も介助や映像製作を通じて国内外のプロジェクトに関わっています。2022年末にはJICAの事業でパラグアイに、2024年の1月にはボリビアに同行させていただきました。障害当事者が中心になって日本国内の支援制度を整備し、法律をつくって社会の風景を変えてきたのみならず、海外でも法律づくりや事業づくりに関わっている姿を見て、もっと社会を変えていけるはずだとエネルギーをもらっています。

気づけば大学を卒業してから10年が経ち、「ボランティア」に関係する様々な現場を出入りするようになりました。今年からは大学のボランティアセンターで出会う人たちとの活動や対話の中で“自立”についての問いを育て、どんなことができるのか、新たなチャレンジをしていきたいと思っています。貧困や障害の現場でも働きつつ、映像制作もしつつという慌ただしい中ではありますが、ボランティアセンターに集うみなさんと共に学び、活動をつくっていきたいです。

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