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護らなければ消えてしまう?-物質社会に生きる無形文化

開催日 2015年12月22日(火)
時間 18時30分~
会場 白金校舎2号館2102番教室
主催 言語文化研究所
講師 シュテファン・メンツェル(ワイマール・フランツ・リスト音楽大学)
Intangible cultural heritage(無形文化遺産、以下ICH)とは今日世界各国の文化政策に通じるスタンダードな概念である。中国の「万里の長城」や日本の「古都京都」のようにユネスコに認定された「世界遺産」と違い、それは「intangible」、つまり触れることのできないものであり、そしてその保存・保護を提唱するものである。日本では例えば「和食」がICHとして文化庁並びにユネスコに認められている。しかしここでのICHとは具体的な料理ではなく、それを作る「技」である。日本伝統芸能においても同様に、様々な知識、能力がネスコのICH目録に登録されており、現在30項目を超える。  日本伝統芸能にとっては無論望ましいことだが、こうした無形文化をどのように保存・保護できるかについては議論が続いている。時間の経過に伴う変化は当然のことで、それを「保存」の目的で妨げるのは如何なものか、という反発する意見すらある。こうした反対の動きは、昭和初期にすでに起きている。当時雅楽・民謡研究に大きく貢献した兼常清佐は、保守的な文化政策を鋭く批判した。最近ではアメリカ民族音楽学の第一人者であるアントニー・シーガーAnthony Seegerが「ICH」のアンビバレンツについて発言している。しかしながら、日本では1955年以来「ICH」が「無形重要文化財」あるいは「人間国宝」という名称の元で、伝統芸能保護の中軸となり、それによって戦後の伝統芸能界が形作られてきたという背景がある。「ICH」の認定を通してこうした文化保護を行う国家は多くみられる。  従来の「ICH」をめぐる議論は、主に文化界、政治界の利害関係が絡み合い、(さらに世論も加わり)「ICH」へのアプローチはそれが「不要・必要」という評価的なものに過ぎず、そもそも「ICH」という概念自体がなぜ20世紀後半に出てきたのか、それそのものについてを根本的に考察されることがなかった。「ICH」はグローバル化による世界文化との相互影響、現代社会における伝統芸能の有り様、文化の価値評価など、一言で片付けられない問題と深く関わっているこうした複雑な背景を考慮した上で、保護の要・必要についての議論がなされるべきである。本講演では「ICH」の生成をなぞり、その存在理由についての考察を深め、それをめぐる議論に新たな方向性を示そうとするものである。

※講演は日本語で行います。

入場無料、事前申込は必要ありません。直接会場にお越し下さい。

お問い合わせ先

言語文化研究所  Tel 03-5421-5213

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