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2004年度エッセイ

白金通信「紙上カウンセリングQ&A」より

入学したはいいけれど…

Q. 第一志望ではなかったのですが、浪人するよりはいいかと明治学院大学に来ました。大学生になったら、友達や恋人とたくさん遊び、一人暮らしを楽しんで…といろいろ期待していたのに、なんだかうまくいきません。 他の人はどんどん友達を作るのに、自分はあまり話せません。学食は人がいっぱいでどこへ座っていいのやら。新歓コンパもイマイチで。帰り道は疲れてしまい、アパートでは一人。講義に出てもよくわからず、意味がないような気がします。朝はめんどうで、つい学校を休んでいまい、何やっているんだろう、こんなことなら大学に来ないほうがよかったかなと思うこともあります。

A. 大学は特殊な環境で、慣れるのは大変なことです。講義も各自が決め、会うのが週に数回ずつという人が多く、仲良くなるのに時間がかかります。周りの人はとても楽しそうに見え、自分だけが置いてきぼりになったような孤独な気分がすることもあるかもしれません。特に一人暮らしの人は、家事の負担も大きく、戸惑いもあって当然です。
環境に慣れる早さは個人差があり、無理せずマイペースがいいでしょう。フレッシャーズ・キャンプや学園祭など、友達を増やす機会はまだあります。少しずつでも話してみましょう。内心はそれぞれ悩みがあったり、通じ合える部分があったりもします。
音楽や読書、趣味や軽い運動など、休息や気分転換の時間も持ちましょう。家族と長電話、週末は故郷で一休み、中学・高校の仲間と遊ぶなど、ちょっとしたきっかけで、素(す)の自分をとりもどせることもあります。早く独り立ちしたいというガッツは応援しますが、人生は山も谷もありますし、いろいろと助け合うのもいいでしょう。
正答のある受験勉強と異なり、大学の学問は次第に蓄積され、その奥深さ、人間の営みや歴史とつながっていることが段々と感じられてくるものです。いずれゼミなどで意見を交える機会もあります。
再受験や転学科も選択肢の一つですが、しばらく学びながら、長期的な夢と近未来の目標とを考え、自分らしさを発揮する道を探してみてはどうでしょう。多少欠席があっても、そこそこ学べば単位も取れ、4年で卒業を目指せるケースも多いです。
ただ、やはり人にはいろいろな事情、深い悩みもあります。困った時は、学生相談センターも使ってみてください。相談の秘密は守ります。誰かと話す中で、問題を整理し、別の視点が見えてくることもあります。肩の荷をおろし一息つきにきてもらえたら幸いです。お気軽にご連絡ください。
(白金通信2004年4月号「紙上カウンセリング」より転載)



「学生相談センター」ってどんなところ?

Q. 相談したいことがあるのですが、学生相談センターで相談にのってもらえるようなことなのかわかりません。どんな相談でもいいんですか。

A. 私は白金校舎の学生相談センターで受付をしているのですが、質問にあるようなことをよく聞かれます。そこで今回は紙上カウンセリングと称しつつも、受付でしばしば尋ねられる質問にドドーンと?!お答えしたいと思います。

Q. どんな相談があるのですか?

A. 大きく分けると『こころに関する相談(カウンセリング)』と『具体的なアドバイスや情報提供を求めての相談』の2種類の相談が多く寄せられます。
例えば、前者は「友達とうまくいかない」「大学になじめない」「気持ちが沈んでしまってやる気がでない」といった相談です。「自分についてもっとよく理解したい」というように自分が成長するために利用することも可能です。後者は「○○について聞くにはどの部署に行けばいいのか」「△△するにはどうすればいいのか」といった情報提供やガイダンスと呼ばれる相談です。高校までと違って大学では、自分で主体的に掲示板やHPなどを見て情報を手に入れていかなければなりません。広いキャンパスのなかを自らが進んで行動をしていかないと何も始まらないのです。ですから、自分でも思いもかけない些細なことから、迷路にはまり込んでしまっているときがあるのです。「ん?おかしいなあ」と感じたら、相談センターでもいいですし、学内の各部署や周りの人にまずは尋ねることからしてみましょう。

Q. 自分のことじゃなくても、相談できますか?

A. もちろん友達や家族のことについて相談することもできます。身近な人だからこそ、困っていても誰にも話せずに一人で抱えてしまう場合が多いのではないかと思います。また、本学の学生さんについての相談であれば、保証人の方からの相談にも応じています。 (悩んでいることが他の人に知られたら困る…) ご心配はごもっともです。でもどうぞ安心してください。個人のプライバシーは守ります。

Q. どんな人が相談にのってくれるのですか?

A. 心理学についての専門的な訓練を受けたカウンセラーが、悩みごとを一緒に考え、解決への糸口を見つける手助けをします。

Q.相談したいときはどうすればいいですか?

A. 直接、相談センターにいらっしゃるか電話で連絡をください。受付で少し相談について伺い、必要に応じてカウンセラーとの予約を取ります。ただしEメールでの相談はしていません。

そっか、じゃあ誰でも相談に行っていいんだ

そうなんです!どうぞ気軽に利用してください。これが冒頭の質問に対するお答えでもあります。まずはどんなことができそうか考えることから始めましょう。皆さんの充実した大学生活を支えるサポーターの一員になれたらナ、と思いながらお待ちしています (白金通信2004年5月号「紙上カウンセリング」より転載)



中学時代の友達の言葉がひっかかっています

Q. 特に今、これといって困っていることがあるわけではないのですが、友達との付き合い方に疑問を感じるときがあります。本当に楽しいとは思えなかったり、どこかで皆に合わせているだけの付き合い方です。中学時代の友達グループで受けた心の傷から立ち直っていないのかもしれません。昔のことは今更どうにもならないことだとは思いますが、こんな相談でもいいのでしょうか。

A. 先日、綿矢りささんの『蹴りたい背中』を読みました。皆さんは読まれましたか?かつて経験した中学・高校時代の教室の空気がふと蘇ってくるような、さらりとした感覚の本でした。日々確かに感じていたほろ苦い友達グループとのやりとり、そして自分の感性と友達への迎合との間でゆれる気持ち、友達に寄りかかり合える居心地の良さ、不器用な友達の中に自分との共通点を見出した時に感じるもどかしさ。それらが夏の校庭の砂埃のようにざらざらと思い起こされました。
中学・高校時代は自分も友達も思春期の真っ盛り。とても荒々しい人間関係を経験する時期です。友達に自分の気持ちを伝えるにしても、とげとげしい言葉を使ってしまったり、またそういう自分に傷ついたり。自分に湧き上がる様々な感情を押さえつけるためには、意味もなく他人をシャットアウトしなければならなかったり。その一方で、分かり合える友達を切望したり。それらの感情の源には、身体の変化や性にまつわる様々な混乱、将来の見えないおぼつかなさ、家族を外側から見る目が育つことから感じ始める新たな葛藤など、多岐にわたる要因があるのです。
そんな中学・高校時代での友達とのやりとりを、大学生の皆さんのほとんどが記憶し、現在の人間関係のベースにしていらっしゃるようです。中には、そのときの自分の言葉への反省から、温かい人になれるように努める人もいます。また中には、大学という新しい環境で新しい自分として友達関係を工夫し、開拓してこられた方もいます。大学生になると、自分も、そして周囲の友達も、以前よりも少し大人になって、マイルドな人間関係がもてるようになっているはずです。ただ、そこで少しがんばりすぎると、この質問の方のように、周囲の友達の意向に合わせすぎて、自分の感情を押し殺してしまうことにもなるのでしょう。大学時代にその微調整ができるといいですね。
今後、社会に出ればなおさら、このような自分の意向をどこまで通すのかというところが問題になってきます。仕事や社会的責任を突きつけられる前の、この大学時代に、こうした点について自分に向き合っておくことは、とても意義深いことと思われます。昔のことは事実としては変えられないのですが、あなたの中で別の物語として捉えられるようになれるといいですね。そのお手伝いが私たちにもできればと思っています。
(白金通信2004年7月号「紙上カウンセリング」より転載)



恋にも達人?

Q. 新しい彼ができました。優しい人なので一緒にいて落ち着きます。ただ、今までの経験で、少し親密になると何故か妙に冷たくしたり誤解されるようなことをして振られてしまうことがあったので、今回もそうなるのではと心配です。

A. 恋は楽しくもあり切なくもあり。人を優しい気持ちにもしてくれます。もちろんアバタもエクボに恋は盲目ですから、ひとたび好きになるとダメな面が見えなくなるなんていうこともあるでしょう。それだけなら可愛いものだし、それで幸せならそれもよし。けれど、中には関係が深まると返って不安になる人がいます。
常に一緒にいないと安心できないとか、会えば愛してると囁いてくれる、誕生日プレゼントは忘れないといった言葉や形など目に見えるもので相手の気持ちを測りたくなる。他の人と楽しそうにしているのを見て心がうずく。同棲でもしていようものなら帰ってこないだけで浮気を疑いたくなる…。こうなると不安が新たな不安を呼び、辛く苦しいだけになりかねません。
恋は、人を幸せにもするけれど奈落の底へも突き落とします。そんな恋を誰が望むでしょうか。望まなくても人を変えてしまうのが恋愛でもあるのです。
その心の内側を探ってみると、例えば愛するより愛される関係にしか安住できず、彼女が愛しているのは男性としての彼ではなく、彼の優しさに母性を求めているにすぎなかったり、彼は彼女に母親のような存在しか期待していないということもあります。自分だけに関心を向けてほしがる幼児期の母子関係と同じ心性に戻ってしまうのです。
あるいは、嫌われるのが怖くて相手に合わせすぎ、自分をなくしてしまうことがあるかもしれません。嫌われる前に相手を捨ててしまいたくなる人もいます。
感情が昂ぶり思いがけない言動に出るなど、それまで気づかなかった自分に出くわして不安になることもあるでしょう。
恋は人の心をハダカにします。でもそれは、自分の本当の姿を知るチャンスでもあります。だからこそ人は恋をするたびに成長していけるものなのでしょう。
恋愛の極意があるとしたら?それは自分を「知る」ことではないでしょうか。自分が分かると恋愛に何を求めているのか、どんな関係でありたいかが見えてきます。そして、精神的自立のできた者同士の恋愛であること。離れていても安心して独りでいられるし、互いの世界や価値観を共有しあえるはずです。
長い夏休みがやってきます。一夏のアバンチュールというけれど、傷つけ合うだけの恋では若気の至りですみません。身を焦がすような恋もよし、明るい恋も尽くす恋もよし。どんな恋がいいかなんて簡単に言えることではないけれど、どうせなら上質の恋をしませんか。自分を高め相手をも高められるような。感謝しあい共にいられることを喜びと感じられるような。
(白金通信2004年8月号「紙上カウンセリング」より転載)



学生は社会人?

Q. 大学3年になり、いよいよ就職活動もスタートしました。2年後には社会人として働いているのかと思うと、今まで自由に過ごしていた分、うまくやっていけるのか心配です。社会人になるってどういうことでしょう?

A. 大学生としての生活を送る中で、常に頭のどこかにあるのが、「いつかは社会人にならなくてはいけない」ということではないでしょうか。そのことで不安になったり、憂鬱になったりすることはないでしょうか。
ところで「社会人になる」とは、どのようなことなのでしょう。社会の構成メンバーに、学生は当然含まれます。つまり、学生の社会の構成員としては、社会人といえるのではないでしょうか。
実は、私たちが使っている「社会人」とは、「企業人」「自営業」など、毎日の生活の大半を働いて収入を得ることに費やしている人のことをさしているのです。アルバイトが生活の中心となっている学生がいたとしても、社会的身分としては学生であるために、その人は「社会人」とは分類されません。
さらにフリーターといわれている人は、社会人としては認められがたい側面があることを考えると、社会人には「常勤」という立場が必要になってくるのかもしれません。
しかし学生も社会の構成員の一部であるなら、就職をすることによって突然「社会人」に変身することは可能なのでしょうか。また変身することができるのでしょうか?答えは、変身できない側面と変身しなければならない側面とがある、ということです。
例えば企業に就職すると、その企業や業界に特徴的な働き方の傾向があります。それは学生として生活を送っていた時とは、大きく異なる場合があり、就職したことによってひとまずは職場に合わせることを要求されます。これが自分のこれまでの価値観などと異なると辛くなります。でも人間としての生き方は、学生であっても「社会人」であっても同じなのです。
もし「社会人」になることが不安になったり、憂鬱になったら、学生相談センターを利用してみてください。また就職してから働き方に疑問を感じたり、それが原因で不安感が強くなったり心身の不調を感じたら、カウンセリングや精神科クリニックに通うことも必要です。環境の変化は私たちの心身にいろいろな影響を与えるからです。誰でも、環境が変われば不安になるのです。
学生相談センターでは、10月20日(水)14時45分から『「社会人になる」ってどういうこと?』と題して講演会を白金校舎1101番教室で開催します。社会人になることが何となく気になっている方、是非参加してみてください。何かが変わるかもしれません。
(白金通信2004年10月号「紙上カウンセリング」より転載)



留年と就職

Q. 現在3年生の男子学生です。秋になり、周りの友人たちは就職活動を始めているようです。でも自分はあまりやる気が起きません。 実は大学の授業にもあまり出席できていなくて、1年留年しています。そうなると、留年のことを面接でどのように話せばよいのかと考えてしまって、ますます就職活動から足が遠のいてしまいます。留年は就職に絶対に不利ですよね。どうすればもう少し積極的になれるのでしょうか。(架空の相談)

A. 先日学生相談センター主催の講演会に企業の採用コンサルティングをしておられる辻太一朗氏(株式会社アイジャスト会長)をお招しました。そのときのお話の中で印象に残ったものがあります。
エントリーシートの記入や実際の面接の際に、学生の皆さんがよく頭を抱えて悩むのが「自己アピール」というやつです。その中でも特に「大学時代をどのように過ごしましたか」という例の質問を前にして、何かアピールできるイベントはなかっただろうかと考えるものの、平凡な学生生活だったなとあらためて思い至るといういことがあるわけです。
体育会に所属していて全国大会で優勝したとか、どこそこの部長をしていたとか、そういった何か特別な出来事がないとなかなか自己アピールなどできない、そんなふうに皆さんは考えていませんか。
しかし企業の方ではそうした自慢話を聞きたいわけではないのです。その人がどういう人間で、どういうときにどういうことを考え、どのように行動するのか、それが会社にとってどのように利するところがあるのか、そういうことを企業は知りたいわけです。
ですからコンビニのアルバイトをしていて、こんな問題が起きて、こんなふうに考え、こうしたら、抗解決した・・・といった話でもその人となりが伝われば十分自己アピールになるのだ、と辻氏はおっしゃっていました。
あなたの場合も留年について問われたなら、ただ留年という事実だけに囚われるのではなく、どうして留年したのか、その間どんなことを考え、どのように過ごしていたのかといったことについて相手を納得させるように説明できるとよいのではないでしょうか。そのためには自分自身でも実感をもって納得できるように説明できる必要があるでしょう。
要は事実、結果よりも、「自分についての説明力」が就職活動ではとても重要であるようです。
(白金通信2004年12月号「紙上カウンセリング」より転載)



親の問題に悩む私

学生相談で時々持ち込まれる相談に親の問題があります。親の無理解を嘆いたり、精神的に不安定になっている親から逃れたいと助けを求めて来ることもあれば、逆に力になりたいのだけれどどのように援助すればよいのかとアドバイスを求めて来ることもあります。過保護で未熟な親離れの出来ていない学生がいる一方で、早くから自立を余儀なくされ子離れのできていない親を嘆き、けなげに家族のバランスを取ろうとする学生もいます。今回はそのような女子学生の訴えを聞いて、ご両親がわが身を振り返り、親子のあり方を再検討していただければと思います。尚、相談は架空のものです。

Q. 私は小さい頃から母親の時には体罰をも辞さない支配的なしつけを受けてきました。それでも、私にとっては掛替えのない母親、黙って従ってきました。幸い、学校の成績が良くて先生方に可愛がってもらいましたので、それを支えに特に問題なく過ごしてきました。ところが、大きくなるにつれて母親から一方的に愚痴を聞かされるようになり、依存されて気が重くなってきました。多くは父親との関係悪化の話しですが、両親の不和の話はこたえます。まだ甘えたい気持ちをぐっと抑えて一人で耐えました。そのうち私が両親の間を取り持つ羽目になり、両親の板ばさみに苦しんでいるうちに、つい最近、父親が家を出て行ってしまいました。後に取り残された母親はますます私に依存し、母親の情緒不安定に付き合わされています。もう、私の方が切れそうで悲しく、誰かの支えが欲しいのです。

A. 大変な精神的な苦労をなさって来たのですね。よくここまで持ちこたえて来られたと思います。結婚当初は愛情に満ちたご夫婦でも何らかの原因で亀裂が入り、そのイライラを子どもに向ける親は世間に沢山います。あるいはあなたのお母様自身がご自分の親の問題を引きずって結婚なさったのか、不安定なところがあるのですね。お母様はお父様に頼れる間は問題なかったけれど、不仲になるとその怒りと悲しみをちょっとした弾みで一気にあなたにぶつけてくるのですね。子どもにとって両親の不和の話を身近に聞くことほど辛いことはありません。こんな状況ではあなた自身のアイデンティティの確立が困難になります。どうぞ誰か信頼できる人に思いの丈を聞いてもらってください。相談センターでも構いません。鬱積した気持ちを晴らしてすっきりしたところで、自分自身のことを考えていきましょう。母親との距離の取り辛さは、何とかご両親が危機を乗り越えて夫婦の結びつきや信頼関係を取り戻してくれれば解決できるのですけれど、難しいでしょうか。どちらにしてもご自分の自立に向けて歩めるよう、母親にあなたの気持ちを伝えて母親から上手に離れられるといいですね。
(白金通信2005年02月号「紙上カウンセリング」より転載)

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